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甲姫の即興小説集  作者: 甲姫
即興小説トレーニング編
12/21

欲する

 どれほど切羽詰まっていても、私はあの一線を越えたりしない。

 それでは有象無象と一緒になってしまう。

 違うのだ。私と同じ空気を吸っていても、同じ水たまりから水を飲んでいても、他の者らは別世界に生きている。私は、誰とも知れぬ野良猫の腹から産まれ出でたあの者らとは違う。

 血統書付きの高級個体なのだ。

 かつては人間のそれと匹敵する広さの個室を与えられ、専属のコックまでつけられていた。そうさ、私は「石油王」と呼ばれる種の人間の屋敷で飼われていた、ふさふさの毛並みが特徴的な猫であった。


 ――素晴らしく華々しい暮らしが失われたのは突然のことだった。


 王の愛娘が猫アレルギーを発生し、私は瞬く間に家から放り出されることとなった。

 ああ、だが私の魂は気高いままだ。

 真っすぐに歩けないほどに餓えていようと、あのどぶの向こうにある、ゴミ捨て場の領域へは決して踏み入らない。

 私は狩りをして命を繋いでいた。

 いつしか、獲物が底をついてしまったのである。


 ――香ばしいぞ、あの醜い塊は香ばしい。


 この距離からもわかる。猫缶と呼ばれるものなのか、半ばまで食べられてはいるが、何故かそこで捨てられてしまった。

 原材料は魚か。

 魚なんて、久しく喰らっていない。ドブネズミの味に飽きてしまった私には、とても魅力的に思えた。

 否、味なんて知ったことではない。


 ――餓えている!


 飛び越えるだけだ。

 越えたくなどないのに!

 他者の、野良猫の影が視界を横切った。

 抜け駆けなど許すものか――! 

 私はとんだ。

お題:気高い境界

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