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甲姫の即興小説集  作者: 甲姫
即興小説トレーニング編
11/21

趣味だからしょうがない

 はずかしい話、顔も知らない相手に助けを求められたのは初めてだった。

 もしかしたら世間のSNS利用者たちはこういった経験をよくしているのかもしれないが、ツイターを初めてまだ一年と経たない私には、その辺りを推し量ることができない。

 共通の趣味を持っている、話が合う、ただそれだけの縁だった。そのフォロワーさんは、別居をしている夫から悪質な嫌がらせを受けているらしい。警察に提示する証拠集めをしたいそうだが、ひとりでは心もとないからと、助けを求められた。

 なぜリアルの友達や家族を頼らないのかと問うたら、みな遠くに住んでいて都合がつかないからだという。

 彼女が控えめな性格らしいのは日ごろからのやり取りで気付いていた。私は何度か相談を受ける内に、彼女の力になることを決めた。

 しかし、いざ待ち合わせの日を迎えて。

 約束の時刻はとうにすぎたというのに、彼女は一向に広場に姿を現さない。手持ち無沙汰となった私は、広場を視界に入れたまま、公園を散策する。

 スマホを取り出し、ツイターの通知と受信箱を確認する。彼女の顔写真、今日着ているはずの服を今一度見返した。何でも、胸元のピンは一点ものだから間違えようがないと言っていた。私はピンの形がよく見えるように画像を拡大する。

 カシャ、とふいに背後から写真を撮られたような音がした。

 驚いて振り返ると、そこに居たのはなんと、写真の女性だった。


「私を探してふらついている不審な様相、ついに『証拠』をつかんだわ、『旦那さま』。これで警察に行ける!」

「どういうことだ。君は何を言っているんだ」


 彼女はスマホの中の写真を得意げに見せて来た。どれも、私が散策していた様子だが、どことなく不審者に見えるようなアングルになっている。


「男を破滅に追いやる『ストーリー』が好きなのよ。私の趣味だって、あなたもわかってたでしょ?」

「それは……フィクションの中でのことだろう! そういう小説やドラマが好きなんだって!」


 ツイターを通して私たちは、好みの作品について延々と語ったのだ。

 だがどういうことか、今思い返してみると――


「だから、こういう筋書きの作品があったでしょ? 好きなのよ。男を破滅に追いやるのが。大きく言えば、作品を模倣するのが、ね。好きなものはしょうがないでしょ!」


 人込みの中へ走り去りながら、彼女はそう言い捨てていった。

お題:フォロワーの別居

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