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甲姫の即興小説集  作者: 甲姫
即興小説トレーニング編
1/21

捨てられたネット

「にいちゃん、ねえこのゴミみて」

 学校からの帰り道、八歳の弟がふと俺にそう言った。俺はすぐには振り返らなかった。

 ゴミが落ちているなど、なんら特別なことでもないからだ。俺たちの村は西アフリカを覆う熱帯雨林の端にあり、習慣的に、村中の燃えないゴミは家が並んでいる裏の山に放り捨てられる。

 ちょっと風が吹けば、どこぞから誰かが捨てたカツラが飛んでくるような場所だ。

「ネットだ」

「だからそれがどうしたんだよ」

 俺もふと思い立って、道端から何かを拾ってみた。輪ゴムだ。今日学校から持って帰ったペーパークリップを曲げて、掌サイズの弓矢でも作ろうかなと考える。

「なんか絡まってるよ」

「ん?」

 俺はそこでようやく足を止めた。自分より三つ年下の弟を見ると、ヤツはにかっと黄ばんだ歯を見せて笑った。

「これ、コウモリだよね」

「……ほんとだ。死んでるのかな」

 弟が引きずる網には茶色いものが引っかかっている。黒い羽や鼻の形といい、それはどう見てもコウモリだった。ぐったりとしていて動かない。

「たべられないかな」

「持って帰ったらおばさんきっと褒めてくれるぜ。スープにしようってな」

「わーい!」

 俺はしゃがんで、運ぶのを手伝うつもりで網を引っ掴んだ。

 ――キィアアアアア!

 突然、コウモリがカッと目を見開いて暴れ出した。

「わ、わっ!」

 弟が手を放す。小さな身体はひたすら暴れに暴れた。

「この! 大人しくしろ!」

 その拍子に、俺は耳たぶを噛まれた。

 それでもなんとかコウモリを殴って大人しくさせてから、家に持ち帰ることにした。


 これはエボラが村にやってくる、ちょっと前の話。


お題:捨てられたネット 必須:輪ゴム

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