捨てられたネット
「にいちゃん、ねえこのゴミみて」
学校からの帰り道、八歳の弟がふと俺にそう言った。俺はすぐには振り返らなかった。
ゴミが落ちているなど、なんら特別なことでもないからだ。俺たちの村は西アフリカを覆う熱帯雨林の端にあり、習慣的に、村中の燃えないゴミは家が並んでいる裏の山に放り捨てられる。
ちょっと風が吹けば、どこぞから誰かが捨てたカツラが飛んでくるような場所だ。
「ネットだ」
「だからそれがどうしたんだよ」
俺もふと思い立って、道端から何かを拾ってみた。輪ゴムだ。今日学校から持って帰ったペーパークリップを曲げて、掌サイズの弓矢でも作ろうかなと考える。
「なんか絡まってるよ」
「ん?」
俺はそこでようやく足を止めた。自分より三つ年下の弟を見ると、ヤツはにかっと黄ばんだ歯を見せて笑った。
「これ、コウモリだよね」
「……ほんとだ。死んでるのかな」
弟が引きずる網には茶色いものが引っかかっている。黒い羽や鼻の形といい、それはどう見てもコウモリだった。ぐったりとしていて動かない。
「たべられないかな」
「持って帰ったらおばさんきっと褒めてくれるぜ。スープにしようってな」
「わーい!」
俺はしゃがんで、運ぶのを手伝うつもりで網を引っ掴んだ。
――キィアアアアア!
突然、コウモリがカッと目を見開いて暴れ出した。
「わ、わっ!」
弟が手を放す。小さな身体はひたすら暴れに暴れた。
「この! 大人しくしろ!」
その拍子に、俺は耳たぶを噛まれた。
それでもなんとかコウモリを殴って大人しくさせてから、家に持ち帰ることにした。
これはエボラが村にやってくる、ちょっと前の話。
お題:捨てられたネット 必須:輪ゴム