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第6話:大漁

「あー、やる気があんのはいいんだけどよ、私の考えてた予定がもうとっくに終わっちまってんだよ」

「へ?」


 思わず呆けた声が出てしまいました。


「いやぁ薬草は集めて精々6束くらいかなって考えてたんだけどよぉ、お前がサクサク見つけまくって倍以上集まっちまってる。その上【観察】もレベル3になっちまってる、こっちは早くても1週間くれぇかかると思ってたんだけどな。ハハハ」


 …つまり僕が頑張りすぎて予定が完了してしまっているということですね。でも時間も街へ帰る時間を考えてもまだもう少しありそうですし、このまま帰るというのも少しもったいないです。


「うーん…時間もまだありますしどうしま…ん?」


 視界の端で何か小さな茶色い物体が茂みに入っていくのが見えました。いったい何でしょう。

 と、少し気になった僕は茂みに向けて【観察】を発動させる。レベルが3に上がった影響で茂みのようなスカスカしている障害物ならギリギリ透過できるようになったので、奥にいる動物も観察することが出来るのです。まぁその代わり直で観察するより詳細度が落ちてしまいますがね。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 窟兎の群れ…窟兎の成体の雄が一匹、成体の雌が二匹、幼体が四匹からなる家族単位の群れ。

  上記の順でLⅤは成体の雄が3、成体の雌が1、幼体が1である。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おぉい、どうしたー?ソージ」


 ユーラシが急に茂みの方を向いて固まった僕に声をかける。


「ユーラシ、窟兎という兎の群れを見つけました。窟兎とはどんな兎なのですか?」


 僕は茂みの方を眺めたまま尋ねる。危険な動物でなければアレがしたいのですが。


「窟兎か…地表に出てくるなんて珍しいな。あいつらは自分たちで掘った小さな洞窟みてぇな穴の中で暮らしてる兎なんだ。んで……ハハ、わりぃな、窟兎はあんま人の前に姿を見せないから詳しいことは分かってねぇんだ。ただ、肉は貴族の晩餐会にも出されるくらい美味いらしいぜ?いっちょ捕まえるか?」

「いえ、少し待っててください、やりたいことがあるのです」

「あ、おい!」


 僕はそう言い残し茂みをかき分けながら入っていく。ユーラシはその行動に少し驚きつつも、僕の言葉に従い後を追いかける様なことはせずに背中を眺め続けている。


 そこで僕は思考を張り巡らします。

 窟兎…聞くからに考えると、モグラに近い生物でしょうか?貴族の晩餐にも出品されるということは地球のモグラの様な大きさではなく普通の野兎か、それ以上の体長だと考えられますね。そして穴を掘って暮らしていて、且つあんまり人前に姿を現さないのにもかかわらず晩餐に出せるほどの量が確保できる、このことから窟兎は好奇心が旺盛な性格の種族だと推測されます。臆病な種族なら人に遭遇する前に穴に逃げるはずですから。


 あと地面を掘るために爪が発達していて嗅覚や聴覚が発達してそうですね。あ、視力はどうでしょうか、時たま群れ単位でも外に出てくるなら視力の退化はモグラほどじゃないはずです。何か理由があって出てくるわけですし、その生態で明暗が分かる程度の視力まで退化するとも考えられません。

 因みにモグラが外に出てくるのは縄張りを追い出されたからというのが理由だそうです。


 茂みを抜けると拳より一回りほど大きなモグラ塚(窟兎塚?)があり、その入り口の近くには小型犬ほどの茶色い兎とそれよりも少し小さい兎が二匹、そしてそれよりもさらに一回りほど小さい兎が一斉に振り向き、逃げ出すことなくじっとこちらをじっと見つめてきました。どうやら僕の推測は概ね正しかったようですね。


 よく見ると兎たちは一様に平べったく鋭い大きな爪をもっており、成体の口には草のようなものをいっぱい咥えられていました。

 なるほど、定期的に外に繰り出す理由は”ソレ”ですか。【観察】してみたところあの草の正体は薬草。土中虫類などでは補えない栄養を薬草から摂るのでしょうね。そして不思議なことにその草の中に雑草は混じっていませんでした。


 つまり、窟兎たちにはただの草と薬草を見分ける、もしくは嗅ぎ分ける能力が備わっているとみて間違いありません。そして好都合なことにあの群れの兎のLⅤを合計しても9と僕の【生物操作】の範囲内です。少しいいことを思いつきました。


「口に咥えている薬草を巣に置いて、僕の元へ集まってください」


『ピコン♪対象を確認しました。窟兎(成体)雄一体、窟兎(成体)雌二体、窟兎(幼体)四体の操作が可能です。現在9/10』


 僕はすっと掌を窟兎たちに翳し、【観察】を使う時と同じように【生物操作】を使用すると意識しながら言葉を放った。すると操作が出来たことを知らせる様なシステム音声が流れてきました。

 鱗蛇の時は聞こえなかったのですが、単に僕が無我夢中だったから聞こえなかったんでしょうかねぇ。


 そんなことを考えつつも、ちゃんと言葉通り動くのでしょうかと思いながら兎を眺めると、システム音声が鳴り終わったと同時に薬草を咥えていた三匹の成体の窟兎はぴょこんと穴に潜っていき姿を消した。

 そしてその場に残された子兎たちは僕の元へ集まってきました。


「か、可愛いですねぇ…」


 ふわふわもこもこしてそうな薄茶色の毛玉たち。子猫ほどの大きさですので余計に可愛く感じますねぇ。

 と、子兎たちを目で愛でてると、大人の窟兎も帰ってきました。


 窟兎たちは僕の元へ集まるとじっと僕を見据えて命令を待っています。うん、中々に可愛い光景ですねぇって、そうじゃなくて…。


「各々、ここへ薬草を集めてきてください。制限時間は空が少し赤くなるまでです」


 そう言うやいなや、七匹の窟兎はパッと駆け出し森の中へ入っていきました。あ、そういえば時間の感覚というのはちゃんと伝わったのでしょうか?まぁその辺は要検証ですね。

 あ、そろそろユーラシを呼びましょうか、あんまり待たせてもあれなので。


「ユーラシー!こっちに来てくださぁい!」


 少し声を張り上げて呼ぶと、茂みの向こうからおーうと返答があり、ユーラシが茂みをかき分け現れました。


「ソージ、一体何してたんだ?」


 と、純粋な疑問をぶつけられます。まぁただ待っててくださいと言ってどこかに行けばそう思うのも当然ですね。っと、そんなことより一つ聞きたいことがあったんですよね。


「【観察】のスキルレベルも今日だけで結構上げれたので、こんどは【生物操作】を鍛えようと思いまして、窟兎で試していたんですよ。あ、ユーラシ、窟兎が薬草を定期的に摂取してるの知ってました?」

「いや、窟兎が薬草を餌にしてるってことも聞いたことないな。おいソージ、もしかして新発見なんじゃねぇか?って、おい、なんでそんなニヤけた顔してんだ?」


 新発見…この世界においての生物学的新発見…!ダメです、ニヤケが収まりません!咄嗟に口元を手で覆いましたがユーラシにはバッチリ見られたようです。ちょっと恥ずかしいです。冷静さを取り戻さないと。


「コホン、まぁそれはさておき、これで窟兎にただの雑草と薬草を嗅ぎ分ける能力があるのはわかりました。そこで考えたのですが、窟兎を利用して薬草を確実かつ大量に集めれると思うのですよ…っと、子兎が帰ってきましたね」


 口に薬草を3本咥えて帰ってきた子兎。どうやら咥えれる限界は3本の様で、一度置きに帰ってきたのでしょうね。薬草を置くとサッとまた行ってしまいました。


「へぇ~マジでちゃんと薬草取ってくんだなぁ。これが広まったら従魔師とか調教師が窟兎を捕まえまくるんじゃねぇか?薬草収集の依頼って量さえ集めれば結構な金になるしな」


 ユーラシは関心しているのか、うんうんと頷きながら自身の考察を述べる。

 なんだか少し認められたみたいで嬉しいですねぇ。


 では、時間がくるまで特にすることもないので【観察】の熟練度を上げるついでに近辺を探索しますか。



 ◇


 あれから一時間たった頃、ユーラシと僕は窟兎塚がある場所まで戻る途中でした。


 ひたすら【観察】を使い続けたのですが、スキルレベルが4に上がることはありませんでした。まぁ初めて見る果実や植物を色々と教われたので良しとしましょう。

 ついでに、【生物操作】コストがあと1残っていたので羽がきれいな鳥を一羽見つけて捕まえ(?)ました。まぁ僕が呼んだら来るように言っているので今は自由にさせていますけどね。


 っと、窟兎塚が見えてきました。もう窟兎たちも戻ってきてます…よねって…。


「す、すげーな…」


 ユーラシが僕の心を代弁してくれました。それほどまでに窟兎の薬草収集能力は凄まじいものだったのです。ここに集めてくださいと言った場所にはこんもりと薬草の小さな山が出来上がっていたのですからその凄さは分かるでしょう。


 …数えてみると薬草の束が8つ出来ました。改めてみると一時間で集まったとは思えない量です。


「さてと、そろそろ日も暮れて来たし街に帰るか」

「そうしましょうか、こんなに沢山に取れましたし、依頼は大成功ですね」

「ハハ、そうだな」


 ◇


 森から帰るのは来た時よりも楽に感じました。別にLⅤが上がったわけでもないので、まぁ気分の問題でしょう。帰り道は【観察】を使うこともなくユーラシと色々な話をしながらだったので、街に着くのがすごく早く感じます。


 そしてそのままギルドへ行き依頼報告をすると、薬草の多さに若干ヴァーチュさんが引くというアクシデント(?)もありつつ銅貨を合計で22枚とちょっとした魔物退治より稼ぐことに成功しました。

 因みに僕の取り分は13枚。本当は半分の11枚のはずなんですが、ユーラシが


「【観察】使って二人で集めた分はともかく、窟兎が集めたのは100%お前の力だ。だからこの銅貨8枚はソージのもんだ」


 と言い、僕に押し付けてきました。頑として受け取りそうもなかったのですが、僕としては何だか普段色々とお世話になってるのでこれはフェアじゃないと思ったので、気弱な心に鞭打って何とか朝食代分である銅貨2枚をユーラシの取り分にすることで話をつけました。


 その時点で、もうかなり日が沈んでいたので、僕らは晩ご飯を大通りで構えてる屋台で適当に済まし、宿へ帰ることにしました。

 あ、今日から僕は自分で部屋を借りて寝泊りすることにしました。ユーラシには金すくねぇんだから無理せず私の部屋で泊まれよと言われましたがそこまで甘えるわけには…と言うかユーラシと同じ部屋ではドキドキして寝付けれません!昨日もほとんど寝れませんでしたし、甘い誘いではあるのですが体のためには仕方ありません。


 これで僕の所持金は銅貨8枚、明日もバリバリ働かないといけませんね。窟兎の操作はまだ切れてないのでまた新しく命令を出せば薬草は集めれます。

 明日は何の依頼を受けるか分かりませんが、ついでに薬草収集を受けるのもいいですね。


 さて、もう寝ますか。最初はどうなるかと思いましたが、何だか順調ですねぇ!



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