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第5話:訓練

 ユーラシからギルドの規約や仕組み、この世界の国の事を聞きながら森へ向かい、日が少し真上に近づいてきた位で森へ到着することが出来た。


んー、大体今がお昼前なので街から徒歩約一時間と言ったところですね。現代日本の基準で言えばそこまで遠い距離ではありませんが高速移動手段が馬や馬車しかないこの世界では一般人には中々に遠い距離です。もちろん体を鍛え上げている人は別だと思いますが。


 ユーラシから教わった規約や仕組みはとても簡単な内容で、ざっと要約すると

『1,ギルド員同士の私闘行為は禁止、ただしギルド職員の立会いの下の決闘はOK』


『2,依頼に失敗すると違約金を取られる。失敗が続くとギルドランクの降格処分』


『3,ギルドランクは銅(駆け出し~中級)→銀(中堅~一流)→金(一流の中でもトップクラス~人間兵器)という段階になっており、それぞれ銅1~3、銀1~3と小分けされている(因みにユーラシは銅3で、銀も目前の実力者だそうだ)』


『4,依頼をこなし続けたり、依頼を通して実力を証明すればギルド職員の判断でランクが上がる。金以上の昇格にはギルド総本山のギルドマスターの承認が必要。現在金3の冒険者は世界で5人存在する』


『5,このリズナールが属する国、アドルグ王国はこの大陸でも上位の国力をもつ国。2人金級の冒険者が王国で暮らしている。他にシャーリアル教国、ガルベザン帝国などが有力な国。あと、厳密には国ではないがアレヒサス商業連合という大陸の中心に巨大な商業市場があり、そこには王の様な存在(巨大市場の主催商会会長)も治安維持隊という名の軍もいることから実質的には一国家である』


 ややこしそうに聞こえますが、内容をかみ砕けば喧嘩するな、失敗しまくるとペナルティ、階級は銅銀金、頑張れば昇格、おっきい国は四つだよ、の以上です。


 まぁそれはともかく今日するのは薬草採取という駆け出しの冒険者が森での動き方や採取の基礎などを学ぶのによく受注される常在依頼だ。


 なんでも薬草というものは、豊かな自然―――特に広大な森では放っておけば、雑草のようにいくらでも生えてくる強い生命力と、傷に当てたり咀嚼することによって、自己治癒促進、疲労回復などの効果があり、且つ傷薬や簡単な風邪薬、薬膳料理等などの素材になるという用途が存在する素敵植物だそうです。

 文字通り『薬』草ですね。


 あぁ、あと薬草を集めれば集めるほど貰える報酬金が増えるという出来高制な部分が初心者に好まれているポイントですね。レートは薬草(茎の部分含め)5本で一束と計算し、一束で銅貨一枚貰えます。頑張って集めないと子供のお使いの駄賃並になってしまいそうです。


 昨日の夜と今日の朝の飲食代で今僕がユーラシにお世話になっている金額は銅貨5枚。薬草五束……ー25本ですか。頑張らないといけませんねぇ。


「ようし、とりあえず薬草の見つけ方を教えるぜ。まず薬草ってのは他の雑多な草と見分けがつきにくいんだ。しかも、なんでか知らねーが、雑草と一緒に生えてるから余計にな。だから駆け出しの冒険者がよく間違えて、ただの雑草を薬草だと思い込んで受付に持っていくんだ。もちろん、そんな草をいくら持ってったって金は貰えずに周りのベテランたちに笑い話にされてその日は腹空かしておやすみだ。ま、これは大体の奴が通る道だな」


 そんなことを笑いながら言いつつユーラシはその場にしゃがみ込み、無造作に生えている草を一瞬眺めると、淀みない動作で草を二本引き抜いた。

ずいぶんと手慣れた手つきですね。


「さて、問題だ、ソージ。右の草と左の草、どっちが薬草だと思う?あ、使ったら分かっちまうから【観察】は使うなよ?」


 そう言って両手を僕に突き出す。

その手にはそれぞれ全く見た目が同じの様にしか見えない草が握られており、どっちが薬草だなんて全然わかりません。【観察】が使えれば分かるそうですが……確かに何の知識も経験もない初心者に見分けるのは難しそうです。ていうかホントに見分けれるのですか?これ。


「正解はこの右手の草だ。どうだ?全然分かんねぇだろ?ハッハッハ!」


 草を両手に持ったままその手を腰にやり、愉快そうに笑う。正解を教えられても、やはり見分けはつかない。

むむぅこれがベテランに小ばかにされるって奴ですか。少し悔しいですねぇ。うーん、あ、もう【観察】は使ってもいいですよね?ではまず右の本物の薬草から……


【観察】を使うと意識しながら草に注目すると、じんわりと情報が脳裏に浮かびあがってきた。

なんだか不思議な感覚です。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 薬草…効果:傷の回復の促進、疲労小回復、抗体強化。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 うーん、凄く基本的なことしかわかりませんね。スキルのレベルが上がればもっと詳しい情報が見れるようになるのでしょうか?スキルレベルはそのスキルを使い続ければそのうち上がるとユーラシに聞いたので頑張って上げましょう。なんせ、観察は僕の得意分野ですしね!


 あ、ついでに見た目がそっくりなあの雑草も【観察】しておきましょう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 雑草…効果:草食動物や虫類の主食。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 これは効果というのでしょう……か?まぁそこはあまり気にしないでおきましょう。

観察を終えると、それを待っていたかのようにユーラシは話し始めた。

まぁ実際に待っててくれたんでしょうが。


「ところで、見分け方だけどな……」

「見分け方は……?」

「【観察】で見る!それだけだ!」


 ユーラシは僕を人差し指で指し、ババンッと豪快な効果音が幻聴で聞こえるかと思うほど清々しいまでにバッサリ言い切った。

 って、え?


「そ、それだけですか?」

「おう、それだけだ!冒険者は駆け出し以外皆スキルレベルにはバラつきがあるけど【観察】を持ってるんだよ。あ、もちろん私も持ってるぜぃ。まぁ薬師とかなら長年の経験でわかったりするそうだけど私ら冒険者にゃそんな技能はない、だから【観察】で見るのが一番手っ取り早いんだよ」


 な、なんとも釈然としない理由ですね……。でもそうですよね、こんなの【観察】がないとホントに見分けがつかないほどそっくりなんです。

 薬草という種が長い時間をかけてそのように変化してきたのでしょうか?やはり自然は地球でも異世界でも不思議がいっぱいですね。


「で、だ。ソージの【観察】は今レベル1だったよな?だからしばらくの間はレベル3か4にまで上げんのを目標にする。【観察】って結構他のスキルと比べてレベル上げやすい部類のスキルなんだぜ?どっか適当な場所を観察しまくるだけでいいんだからな。魔力も消費しねぇから理論上はずっと続けられる。ま、LV:1じゃあ10分もずっと【観察】のスキルつかってたら絶対頭が疲れちまって出来なくなるんだけどな。私でも30分も持たねぇ。じゃもうここには薬草ねぇし、移動すんぞ。地面【観察】してたらたまに見つかるから見逃さないようにな」

「はい、わかりました!」


 なんだかんだでスキルという不思議パワーが使えて少しウキウキな僕は元気よく返事をし、ユーラシの後ろを付いていくのでした。地道な作業は得意分野ですからねぇ~。



 ◇


 2時間ほど地面どころか周りの木、そして時たま見つける鳥や虫、小動物を片っ端から【観察】し続け、なんと一日にしてスキルレベルが2つ上がり、【観察*3】へと成長を遂げました。スキルレベルが上がるとき、ピコン♪という電子音と同時に『スキル【観察*1】のレベルが上昇しました。【観察*2】へ変化しました』というシステム音声が流れ、かなりびっくりしてしまいユーラシに大笑いされてしまいました…………まぁ、2回目はもう驚きませんでしたが。


 あ、もちろん薬草も度々見つけていて、二人合わせて報酬金換算で銅貨14枚分、手取りは半分の7枚なので、これでもう僕の目標は達成です。

 しかし、ここまでしてもまだユーラシの言う、観察による頭の疲れというのを感じませんし、まだまだ使える感があります。そのことをユーラシに言うとかなり驚かれました。まぁ連続使用時間が1時間を超えたあたりからすでにかなり驚かれて、無理すんな、とか、マジで大丈夫なのか?と割と本気な感じで心配される始末です。ユーラシがそこまで心配するってことはやっぱり異常なんでしょうね。


 あれでしょうか、現代人はこの世界の人達より頭脳労働に耐性があるからでしょうか。うーん、当たらずとも遠からずって感じがしますねぇ。まぁこの辺の研究は後に落ち着いたころにしましょうか。


「よしソージ、ちょっくらこの水辺で休憩だ。なんか興奮してるみてーで気付かねぇと思うけどお前結構消耗してんぞ」

「はれ?あ、確かに言われてみると僕汗だくですね」


 ユーラシは周りの木より少しだけ大きめの大木の前で止まり、その場にあった大きな倒木に座って水筒(防腐加工された哺乳類の動物の胃を引っ繰り返して入口を紐で縛ったもの)を取り出した。


 水分補給は大事ですね。


 僕は体感的な疲労は一切感じてないのですが、冷静になってみると僕の服は汗でビショビショになっていて、喉もカラカラに乾いていました。アドレナリンが沢山出ていたのでしょうか?このままでは脱水症状や熱射病になってしまいます。


 これは危ないですね、僕も座って水を飲みましょう。


 あ、そういえばよく見るとユーラシはほとんど汗をかいてませんし疲労している様子もありません、まるで近くの公園を軽くジョギングして来たみたいです。とうてい2時間森の中、獣道を闊歩してきた様には見えません。このユーラシと僕の差は単純な体力では説明がつかない様な気がするのですが…。気になったことは何でも聞けとユーラシに言われているので聞いてみましょう。


「ユーラシ、なぜ貴女と僕ではここまで消耗の差があるのですか?」

「ん?あぁ~まぁ元の体力の差と森の歩き方を知ってるか知ってないかの差があるけど…、何より大きいのがLⅤ差だな。ソージ今LⅤいくつだ?」


 LⅤと言えば、ステータスに書いているやつですね。僕は今…1、ですか。1ってこの世界ではどれくらいなのでしょうか?弱いことには間違いないと思うのですが…。


「LⅤは1ですね、これはどうなのですか?弱いことは分かるんですけど…」

「1っつーと一般人レベルだな。LⅤは魔物を殺さなきゃ上がらねえ、だから街の外に出たり普段戦闘をする機会がない街人とかは一生LⅤが1のままだ。村人なんかだと魔物狩ったりしてレベル上がることがあんだけどな。あ、貴族は私設の騎士団が弱らした魔物に止め刺してLⅤあげたりもするぞ。あと『学堂』の学者とかも護衛と一緒に外に出ることはあっても戦いにゃ参加しねぇからレベルも上がらねぇ」

「ほぇ~、では今の僕は一般人と同等の身体能力なのですね」

「あぁそうだな、LⅤが上がれば上がるほど身体能力も上がるし頑丈さとかも上がる。もちろん体力もな。うーん、いよいよソージの素性がわけわかんなくなってきたな」


 わけわかんなくなった……とはいったいどういう事なんでしょうか……?


「え、それはどういうことなのです…?」

「実はお前のことどっかの商人の息子だと当たりをつけてたんだよ。見るからに弱っちぃし口調もバカ丁寧。極めつけは字の読み書きだ。教養がたけぇってことは貴族か力のある商人なのは間違いない。でもLⅤが1ってことは商人か商会の関係者ってことになる。でも一番不思議なのはそのスキルなんだ。スキルは絶対に無くならねぇしレベルが下がることもない。にもかかわらずお前が持ってたのは【観察*1】と【生物操作*1】だけ、商人にしてはありえないスキル群だし、何よりそんなユニークスキルを持ってるやつが行方不明になってても誰も探しに来ない。探してるって噂も聞かねぇ。これは異常なことなんだ」


 と、ユーラシは言葉をそこで切る。僕は黙って聞くことしかできませんでした。確かに、僕のステータスはこの世界の人達から見ると異常ですよね。


「ま、とりあえず今は一人でも生きていける力をつけないとな」


 ニシシと僕に笑いかけるユーラシ。その笑顔を見るとなんだか胸が高鳴って元気が出てきます。


「さぁユーラシ、休憩も出来ましたのでそろそろ行きましょう」


 僕は立ち上がりユーラシに手を差し伸べる。しかしユーラシはその手を取らずに、気まずそうに頬をポリポリ掻きだしました。どうしたのでしょう。


「あー、やる気があんのはいいんだけどよ、私の考えてた予定がもうとっくに終わっちまってんだよ」

「へ?」



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