第4話:威勢
展開が遅いのは自覚しています。
その代わり投稿ペースを上げていくのでお許しを!
第一部は大掛かりなプロローグだと思ってください!
「~きろー、起きろ~」
うーん…誰かが僕の顔をぺちぺちと叩く。いったい誰ですかぁ…。
「起きろ!」
「痛い!」
ゴチン!と朝から一発、強烈なものを入れられてしまいました…。まぁ自業自得ですが…。
◇
「ところでユーラシ、今日はどんな依頼を受けるのですか?自分で言うのはあれですが、魔物退治とかは僕出来そうにありませんよ?」
もぐもぐと固めのパンを咀嚼しながらユーラシに尋ねる。現在僕とユーラシは宿の食堂で朝食の真っ最中だ。メニューは固くパサパサなパンと、ブッフ・ブルギニヨンという肉を赤ワインで煮込んだ庶民料理―――の様なもので、まんま中世ヨーロッパの食事って感じです。まぁ美味しいので良いのですが。
「心配すんな、今日は薬草集めくらいしかやんねーよ。それに、ソージが戦えないってのは見りゃ分かる。明らかに力なさそうだしな。私もついてるから万が一魔物が出ても問題なしだ!」
「それは心強いですねぇ」
「じゃ、朝飯も食ったことだし、ギルド行くか」
「そうですね、行きましょう」
話してる間にすっかりと綺麗になってしまった木製の皿を置き、立ち上がる。その際にユーラシは4枚の銅色のコイン(昨日寝る前に教えてもらったこの世界の基本通貨である銅貨だ。因みに銅貨1枚でパンが一つ買えるらしい。物価的なことも考えて日本円で言うと…大体50円ほどでしょうか?まぁ世界が違うと物の価値感にも違いが出ると思いますので、一概には言えませんけどね)をテーブルの中央のくぼみに置いた。
昨日は教わらなかったのですがこれがこの世界の駄代金の払い方なのでしょうか?ずいぶんと防犯性のないチップの置き方ですが、大丈夫なのでしょうかねぇ。まぁ何らかの魔法が働いてると考えれば頷けますけど…。うん、少し気になるので聞いてみましょう。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥です。もし一般常識を訪ねて呆れられても記憶喪失で全部誤魔化せます。ユーラシを騙しているようで少し胸が苦しいのですが、これもこの世界で生きるため、何よりユーラシに相応しい男に近づくためにはドンドン知識を吸い込んでいかなければなりません。幸い、ユーラシは世話好きっぽいので、呆れながらもキチンと教えてくれます。
「ユーラシ、あの支払い方は問題ないのですか?防犯性があまりにも欠けているようにも見えますが…」
「ん?あぁあれか?お前そんなことも忘れちまってんだなぁ。あれはな、と言うか建物自体に魔法が掛けられてんだよ。金を払わないと店出た瞬間に金縛りの魔法が発動しちまうようにな。あと客が勝手に他のテーブルから金盗った場合も同じだ。その場で金縛りにあう。これはむかーしの商人上がりの魔導士が開発した魔法で、今じゃ大体の食堂に使われてる。維持費も安いしな」
「ほぇ~魔法って便利ですねぇ」
と、外の大通りに出てギルドへと向かいながら教えてくれた。
現代日本で曲がりなりにも研究者(まぁ生物学のですが)をしていた僕の感覚では俄かに信じられないようなものですが、まぁそれがこの世界の常識ならば受け入れるしかありませんね。郷に入っては郷に従え…と言うのかどうかは分かりませんが柔軟に対応していきましょう。
あ、そういえば魔法って僕にも使えるのでしょうか?もし使えるなら使ってみたいですねぇ、男のロマンです。
「で、さっきから言おうとしてたんだけどよぉ」
突如ユーラシは立ち止まり、ジト目をこちらに向けてくる。あれれ?僕何かおかしなことでもしていましたか?
「お前、なんでずっとその変な恰好してんだ?めっちゃ見られてんぞ」
「え?…あぁ、これですか…」
ユーラシが指摘したのは僕の白衣。地球で着ていた服装のままにこの世界へ飛ばされたので、僕の装備品は上から順に『大きなレンズの丸メガネ』『新品に近い白衣』『チェック柄の上着(黄緑基調)』『ジーパン』。
まぁピッチリ前を絞められた白衣で大体隠れてますが、やっぱり…と言うか白衣が悪目立ちするのは当たり前ですよね。こんな服この世界で着てる人いなさそうですし。
「出来れば目立たない服にしたいのですが…」
そう、本来なら僕だって目立たない服にしたいのです。注目されるの苦手ですしね。でもそれが出来ない理由が…この称号のせいです…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【研究者】…異世界『地球』の科学に準する分野を研究する者。白衣着用時、思考能力、病原耐性、自己治癒力上昇。白衣脱衣時、病原耐性、自己治癒力、低下。称号取得時スキル【観察*1】を入手。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
昨日少し寝付けなくて自分のステータスを再確認している時に知りましたが、この称号のせいで白衣を脱ぐことが出来ません。いや、まぁ呪われているわけではないので脱ごうと思えばいくらでも脱げるんですが、見た感じ衛生管理が行き届いていない(さっきちらっと路地裏が見えた時にバッチリ野グソしてる現場を見ちゃいました)この世界で病原耐性を低下させるのは恐ろしすぎます。絶対医療学は地球程発達していないだろうしね(まぁ回復魔法みたいなもので外傷に対する医療は進んでいるとは思いますが)。
「と言うわけでこの格好はもう気にしないでください…」
「ふーん、じゃあ仕方ねぇな。病気になっちまったら依頼受けんのも大変だし、最悪死ぬからな」
さらっと死ぬって言われました。うーん、落ち着いてきたら医療学の研究もしたほうがいいですかねぇ。専門の知識はないですが【生物操作】を使えば色々出来そうです。ウイルス動かしたりとか。
と、自分の可能性に未来を思い描きながら、活気ある街の大通りを練り歩くのだった。
◇
「着いたぜ、ここが国営総合ギルド。通称、冒険者ギルドだ!」
「で、でかいですねぇ~」
それは猛々しい金剛力士像のような威圧感を放つ、巨大な建物だった。
そんな威圧感に圧倒されながらも、意を決して中に入ると、ギルドの中はどこもかしこも人、人、人。巨大な大剣を携えている大柄な男もいたら、ゆったりとしたローブで全身を包んだ知的そうな女もいる。そして猫耳虎耳兎耳、ついでに狼耳と所謂ケモミミを携える人たちもいる。あれが太古に神獣の血脈をもつ獣人という人種だそうだ。
やはりと言いますか全体的にごつくて筋肉質な人が多い。ギルドの依頼は魔物退治や土木作業、荷物の輸送、宅配等など、基本的に肉体的な仕事が多いそうなので、自然とそんな人が多くなったそうです。まぁ魔術師も一定数いるみたいですが。それにしても…
「い、いっぱいいますねぇ…これ全員がギルド員なのですかぁ?」
平然としているユーラシとは違い、僕はあまりの人の多さと威圧感で思わず足がすくんでしまいました。うぅ、メンタルの弱さが恨めしいです…。でも、ゴリゴリな人が多いせいか本当に威圧感が尋常じゃないのです。並の人でもビビると思います。
「まぁ依頼を出しに来た奴とかこのギルド内で回復薬とか消耗品を売ってる商人とかもいるけど、大体がギルド員、冒険者だな」
「へ、へぇ~そうなのですかぁ~」
声が若干震えてしまいます。未だに威圧感に慣れません。怖すぎます。
「ん?なんだお前?もしかしてビビってんのか?っかぁ~!男のくせになっさけねぇなぁ~」
ひえぇぇぇ!ついに言われてしまいましたああ!
ユーラシはがやれやれと言った仕草で溜息を吐く。これは不味いです。なんとか巻き返さないと!
「び、びびってなんかありませんよ!さぁユーラシ!早くカード作って依頼に行かないと日が暮れてしまいますよ!受付に参りましょう!」
精一杯の威勢で声を張り上げ、ユーラシの腕を掴み引っ張りながらギルドの奥へ向かう。入口からも見えていたのですが、このエントランスともいえる大部屋の中心が受付の様だ。
「あっちょ!急に引っ張んなよぉ!」
言葉ではそう言いつつも特に抵抗をするわけでもなく。そのまま僕に引っ張られるユーラシ。あれ?結構勢いのままやっちゃったんですけどあんまり嫌がってないっぽいですか?いや、まぁこんな世界ですし地球と同じ様な恋愛観の定規で測るのは最善と言えませんよね。呆れられてるけど嫌われてはないと信じておきましょう。
そんな妙な考察をしている間に受付のカウンターがある大部屋の中央に着いたのですが、結構人が列を成して並んでいました。受付の係員が数人いるからと言っても、この冒険者の数です。こんな行列ができるのも仕方ありませんね。少し歯痒いですが大人しく一番人の少なそうな列の最後尾に並びましょう。
◇
「次の方~」
「ふぅ、ちょっと長かったですねぇ」
受付の女性から声が掛かりました。並び始めて30分程でしょうか?某ネズミ帝国のアトラクション並の待ち時間ですね。あ、いや?あそこは2時間待ちとかがザラでしたっけ?まぁそれはどうでもいいですか。
あ、因みにユーラシはこの場に居ません。呼ばれる直前までは一緒にいたのですが、先ほど依頼を取ってくると言ってどこかに行ってしまいました。
「おや?初めて見る方ですね。ギルドカードはお持ちですか?」
おぉ、一目で初めて来たと見抜くなんて凄いですねぇ。冒険者の顔を一人一人覚えているのでしょ…いや、分かったのはこの服装のせいですよね。こんな怪しい人(この世界的に)、見たら絶対忘れません。
「いえ、持ってないので発行をお願いします」
「はい、承りました。カードは新規発行でしょうか?新規なら無料でお作り出来ますが再発行の場合銀貨5枚がかかってしまいます。いかがなさいましょう?」
銀貨5枚!?再発行って高いのですねぇ。その代わり新規は無料なのですね、良かったです。
「新規でお願いします」
「はい、ではこの用紙に記入をお願いします。必要記入事項は名前だけとなっていますので、他は書いても書かなくてもどちらでも大丈夫ですよ。ただ、書いてもらえば、適性のある依頼を回せますのでご一考ください。あ、申し遅れました。私、ここ国営総合ギルドにて受付を任されております、ヴァーチュと申します」
「ご丁寧にありがとうございます。さて…」
渡された用紙に目を落とす。その紙質は意外なことにゴワゴワしておらず、色は黄ばんでいるのもも紙自体の品質は悪くないものだった。
うーん、この世界の技術水準がイマイチつかめませんねぇ。部屋の明かりも魔力を燃料に煌々と輝いていますし、皿やペン、机やいすなどの物の質も案外悪くありません。でも、衛生技術はそこまで高くなく、科学も進んでいなければもちろん工学、機械工学も発達していません。魔法の発達で技術の偏りがでたのでしょうか?
「あ、代筆が必要でしたか?」
「え?あぁすみません!大丈夫です!」
用紙を眺めて固まっていたため字が書けないのかと思われてしまいました。考え事をすると他のことに気が行かなくなるのは悪い癖です。なまじ【研究者】の効果で思考力が上がっているのでその傾向が地球に居た時より顕著になってしまっています。気を付けないと。
「えーっと、まぁ書くのは名前だけにしときましょう」
スキルや称号、出身国、特技などを色々と書く欄がある中で、名前の部分のみをこちらの世界の文字で書いて用紙をヴァーチュさんに手渡して返す。
なぜ僕がこの世界の字が書けるのかと言いますと、それは称号の【来訪者】のお陰です。この称号は簡単に言うと世界と世界の言葉の壁を取っ払う自動翻訳のような効果を持っています。あぁ、【来訪者】にはあともう一つ効果があるのですがそれはまた別の機会にでも。
因みにこの世界の住人の識字率はあまり高くないそうです。貴族や中規模以上の商人の子なら学堂と呼ばれる学校的な施設に通えるのですが、街の外に点在する村や集落はもちろん、街に住んでいる子らも金銭的な理由で中々学堂に通えません。この辺は昔の地球と同じですね。
「へぇ~すげぇなぁお前常識は全部忘れちまってるくせに字は書けるんだなぁ。そんな変な恰好してるし実はお前どっかの金持ちの息子だったりしてな!」
ひょっこりといつの間にか戻ってきていたユーラシがヴァーチュさんの手元にある用紙を覗き込みながら言った。その言葉、地味に心に刺さります。
ヴァーチュさんはさっと用紙をカウンターの内側にある引き出しに入れ、それと同時に3つの菱形の窪みがついた銅色のカードの様な物を取り出した。あれがギルドカードですか…。
「ではこのカードに血を一滴垂らしてください」
ヴァーチュさんはその言葉と共に小さな針とギルドカードをカウンターに置いた。
「ち、血ですか…」
痛いのやだなぁと思いながら人差し指の腹を針で突く。するとぷくっと血がにじみ出てきたのでカードに擦り付けると、カードが淡く輝き、僕の名前が染み出るようにカードに浮かびあがった。凄い技術ですね。
「ではギルドの簡単な規則と仕組みについてお教えしま…」
「あー!いいっていいって、そんなの!それは私が道すがら教えるからさ!それよりもこれ、受注承認してくれよ!」
ユーラシがヴァーチュさんの言葉を遮り、バンッと1枚の紙をカウンターに叩きつける。ちょっと、心臓の弱い僕にはこの状況は心臓バクバクです。流石にこれはヴァーチュさん怒って…!
「薬草収集…ですか、いいですよ。説明の件もユーラシさんなら任せても大丈夫ですね」
怒らない!?なんですか?ユーラシって実はギルドからの信頼厚いのですか?
「じゃ、行こうぜ!」
ユーラシは僕の腕を掴み、引っ張りながらギルドの出入り口へ向かう。入ってきた時とは逆の構図ですね。結構ドキドキします。




