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第3話:夕日

「ここがリズナールだぜぃ」

「おぉ〜夕方なのに活気がありますねぇ〜」


 日は既に傾いており、空はオレンジ色に染まっている。だが、街の様子は賑やかで、街の大通りには大勢の人が行き交っていて、笑顔と活気に満ち溢れていた。

 道沿いに展開されている様々な店の店主も、満足のいく繁盛をしているのか、屈託のない笑みを浮かべて訪れた客と会話している姿がチラホラと見える。

 そして、少し見渡すと所々で子供が倍ほどの身長の女性と手を掴み合い、ルンルン気分で歩いている。親子だろうか、とても穏やかな光景だ。


「良い……街、ですね」


 ユーラシにも聞こえない位の音量で、思わずぽつりと言葉が漏れる。それほどまでに、素晴らしさを感じたのだ。この暖かな光景は決して、現代社会では見ることが出来ないだろう。


「さて、早速ギルドカード発行しに行きましょう!」

「あー待て、そのことなんだけどよ……」


 穏やかな心境のさなか、スイッチを切り替えるように言い、ギルドへいざ赴かんとする。が、そんな僕をユーラシは引き止め、ゴニョゴニョと気まずそうに後に続く言葉を濁した。


 どうしたのでしょう?現在、僕のギルドカードの発行は急務、にも関わらずどうして渋っているのでしょうか……?ま、まさか僕と合法的に一緒に居たいということですかあああ!?


「いやぁ、カードの発行も依頼の受注もこんな時間からじゃ受け付けてくれねぇんだよ。やる気があんのは結構だけど、発行は明日だな」


 デスヨネー、どうせそんなことだろうと思いましたよ!あぁ、馬鹿な期待を抱いた五秒前の僕をぶん殴りたいです……自惚れてんじゃねぇ!って。

 あれ?でもそうなると、何処かで宿泊しないといけませんねぇ。ここって日本円使える……わけないですし……。あ、じゃあ今の僕ってもしかしなくても無一文?……どうしましょう。


「じゃ、さっさと宿行くぞ。お前もまどろっこしいと思うけど、カードの発行までは一緒に行動しなきゃいけねぇからな」

「いえ、それは願ってもな……じゃなくて全然構わないのですが……」


 一度そこで言葉を切る。


 女の子にお金持ってないんですがどうしましょうだなんて……恥ずかしくて言えません。いや、結構今更感はあるのですが、これ以上は僕のメンタルが持ちそうにありません。でも結局ユーラシからは離れられないから野宿も出来ないですし……。


「どうした?」


 ユーラシの、言いたいことがあんなら、さっさと言えよ!と言わんばかりの訝しげな目が僕を射抜く、うーんどうもこっちの世界の人の目は慣れないですねぇ……って、そうじゃなくて!ああああ!もう!腹を括って言うしかありませんね!


「お、お金持ってないんですが、どうしましょう……」

「はぁ〜そんなことか……いいよ、今日は。貸し付けといてやる。その代わり、明日カード発行したら、バリバリ働いて返せよ?」

「は、はい!」

「よぉうし、じゃあとっとと宿に帰って明日の作戦会議だ!」


 ニシシと悪戯な笑顔を浮かべて笑いかけてくるユーラシ。その姿は背景の夕焼けと重なってとても美しく、そして、儚げにも見えた。

 その姿に僕は、明るい真っ赤な花が似合いそうですね……と、ふと感じるのだった。


 ◇


 現在、僕とユーラシは『同じ部屋』で、隣合って布団に包まりながら、明日について話し合っていた。なぜ同じ部屋かというと、ユーラシ曰く、スペースに余裕あんのに、わざわざもう一部屋取るのは部屋代が勿体ない、だそうだ。


 あぁ、女の子と同じ部屋で、ましてや隣同士に寝転がって寝るだなんて人生初めてで、何か考え事をしていないと脳の血管が破裂してしまいそうです。

 あ、いい匂いが……って、僕は何を考えているのですか!?そうだ!素数を数えるのです!1、2、3、ダー!1は素数じゃありません!


はぁ……自分でも想像以上に動揺しているようですね……ユーラシ……恐ろしい子……。


「……〜〜って、おいソージ、聞いてんのか?」

「へ?あ、すいません!つい考え事してしまっていました!」


 ユーラシのジト目の視線が僕の頬を貫く。

 うぅ……いけません、バカなこと考えてないで集中しないと。僕の人生に直接関わることなんですから。


「ったく。もう一回だけ言うぞ?」

「すいません、お願いしますぅ……」

「まず明日することはギルドカードの発行、晴れて冒険者になりゃその次は簡単な依頼の受注だ。んで、依頼のついでにソージのスキルの訓練だな。私もいつまでも面倒見れるわけじゃねぇし金に余裕があるわけじゃねぇ、ソージには自分の力で生活できるようになってもらう」


 まぁそれは当然ですね。このままユーラシに紐男の様に養われるなんて僕の心臓が持ちませし。主に申し訳なさで。

 うーん、でも僕みたいな非力な人間に出来る仕事はあるのでしょうか?ギルド……冒険者……恐ろしい魔物と戦闘したり危険な迷宮を突き進んだりする光景が容易に想像できるのですが……。


「ま、心配すんな!乗り掛かった船だし、ソージが最低限一人で生きていけるように私が色々教えてやるよ!」


 僕の不安を取り除こうと……したかどうかは分からないが、まるで雲を散らす太陽の様に屈託のない笑顔で笑うユーラシ。その姿は暗い夜の中でも、どうしても輝いて見える。


 この人は本当に素敵な人ですね……でもどうして……


「……どうして、ユーラシは僕にそこまでしてくれるんですか?」


 ぽつりと、ずっと感じていた疑問を口にする。何か目的や企みが?とユーラシに対し失礼だが、冷静な思考が僕の脳裏を通り過ぎていくさなか、僕はユーラシの本心を訊ねずにはいられなかった。


「……どうして、か……。そーだなぁ……ソージ、弱くて……力のない人間はこの世界じゃ、生きていけないんだ。誰もが何らかの力を持って、強くならなきゃいけないし、手を汚しても生きていかなきゃいけない奴も……いる。私は昔、親に捨てられたんだ。ガキの頃の話だし、もう親の顔も分からねぇ。もちろん、なんで捨てられたのかも……今その親が生きてんのかもな」


 天井を眺めながら語っていたそこでユーラシは言葉を切る。かつての自分を思い出しているのか、虚空を見つめるその目は少しばかり遠い目をしているようにも見えた。


「捨てられたら後は酷いもんよ。食いもんにもありつけず、飢えと孤独に押しつぶされそうになってさ。ホントならそのまま死んでたんだぜ?……でもそんな時、ある人が助けてくれたんだ。その人は強くて……優しかった。私を娘みたいに育ててくれて、生きる力も貰った。んで、ソージを見た時、無力で、何の知恵もなかった、昔の私と重なったんだ。だから助けた……。色々教えてやんのも、助けて拾って街についたらポイじゃ後味悪ぃからだ」


 そこでユーラシは天井から僕へと、顔の向きは動かさず目線だけを移し、横目に僕を見つめる。


「ま、理由はそんな感じだな。……柄にもなく語っちまったな。じゃ、もう寝ろ、明日に障っちまうぜ?」


 ユーラシはそう言うと、やはり気恥しいのか、バッと毛布を被り背中を向けてしまいました。……寝息がどこかわざとらしいのは、まぁ気にしないでおきましょう。


 そんなユーラシの小さな背中を眺めながら、考える。

 このあまりにも華奢で屈強な男が触れるだけでポキリと折れてしまいそうな背中に、どれほどの強い意志を背負っているのだろう。そして、僕はこの恩をどう返せばいいのだろうか、と。


 結局、その自問の答えは出ないまま、目線を天井に移し、今度はボーッと虚ろな意識で天井を眺め続けた。


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