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第7話:学会と教師

前回までの生徒視点

ミシェットが単独でソージの研究室に突撃!それからなんやかんやあってミシェットの所属する考古学会にソージが見学に行くことになったよ!

 隣にソージが居るのを意識しながら、廊下を歩いていると、道の先にいつも出入りしている考古学会の会室(地球で言う部室)が見えてきた。

 今更ながらに、この現在警戒すべき男を連れて来てもよかったのだろうかと思ったが、部屋には自分のクラスの担任でもあり、大学堂の教師の中でも高い実力を持つマーシュ先生がいるので、早々に身の危険を心配する必要はないと決定付けた。

 それに、博識なマーシュ先生にこのソージと大通りの捕食(ロード・イーター)事件の関係性についても相談したかったのだから丁度いい。マーシュ先生もソージ本人と直接対話しなければ判断に困るだろう。


 と、頭の中でグルグルと思考を巡らしていると、会室の前に辿り着いた。中からは二人の男女の声が聞こえるので、どうやらメンバーは揃っているようだ。


「ソージ先生、ここが考古学会の会室です。どうぞ中に」

「ハイ、案内ありがとうございます」


 扉を開けて中に入るよう促すと、ソージはニコニコと人当たりの良い笑みを浮かべて感謝を示し、会室の中へと入っていった。


「あれー?ミシェット会長、誰ですぅ?その人ぉ」


 部屋に二人が入って、真っ先に間延びした反応を示したのは、考古学会のメンバーでミシェットの二年下の後輩、ミキィ・ハイアーという女子生徒だった。のべーっと机に突っ伏しており、顔だけをこちらへ向けているが、これはいつもの事なのでミシェットも何も言わない。

 因みにミシェットは考古学会の会長でもある。単にミシェットの同級生がこの学会に参加しておらず、且つミシェットは今年で最高学年だから、と言うのが会長になった理由だ。

 付け加えて説明するなら、この考古学会のメンバーはミシェット合わせて三人しかいない。


「先に紹介するわね。この人は最近ここの教師に就任したソージ先生よ。考古学会に興味があるって言ったから連れて来たの」

「あ、そう言えば最近噂になってましたね。新しい教師が来たって」


 ミシェットの紹介に反応したのは、一年下のゴールン・サイサスという男子生徒だ。メガネをクイッとあげて、知的な雰囲気を醸し出している。


「あ、そう言えば勢いで連れて来てしまったんですけど、大丈夫でしたよね?マーシュ先生」

「えぇ、問題ないですよ。それに、考古学に興味がある先生は中々いなくてね、私も嬉しいよ」


 会室の一番奥に置かれている机に座っているピシッとした鋭い雰囲気を放っている教師が、すこし表情を緩ませて頷いている。大丈夫だったようで、少しミシェットはホッと胸を撫で下ろした。


「じゃあソージ先生、空いてる机に座ってください。これから集会を始めます」


 ミシェットはマーシュの席の近くにある会長席に座り、ソージが適当な席に着いたところを見計らうと、集会の開始を宣言した。


 集会の内容は主に、どういった分野を調査するか、または調査の結果の報告、というもので、基本的に皆各自興味のある事柄を研究しているのだ。

 まず初めの報告は一番学年が低い、ミティ・ハイアーからだった。


「えーっとぉ、私はこれまでと同じようにぃ、古代魔道具の研究ですぅ。今発掘に成功した物はありませんがぁ、埋まってるだろう場所の大体の目星はつけれましたぁ。以上でぇす」


 報告の時だけ体を起こしていたが、以上という言葉と共に再び体を突っ伏せる。この気だるげそうな雰囲気は彼女の最大の特徴だ。


「えー、次は僕ですね。僕はミティ同様これまでと同じように神子バラシェラの予言の書の発掘及び考察です。先日、なんと学堂の書館の古い本に予言の書の断片が挟み込まれていたのを発見しました。司書さんに聞いても全く知らなかったそうなので、偶然によるものだと思われます」

「その断片は今どこに?」


 ゴールンの報告の途中だが、マーシュが興味津々といった様子で、机から身を乗り出すようにして口を挟む。


「えぇ、ここにあります。ただ、紙の劣化が激しいので触らないでくださいね」


 そう言いながらゴールンは懐から高級そうな布を取り出した。どうやら予言の書の断片はこの布に包まれているらしい。

 マーシュもミシェットも、だるそうにしていたミティまでゴールンの机の周りに集まり、その断片に食いつく。当然、ソージもだ。


 そして、布を慎重に、ゆっくりと開き、露わになったのは小さな紙の断片。それには短い文が書き込まれていた。


『シャーリアル歴1111年 魔の血筋は再び目を覚ます』、と。


「これは……いったいどういうことでしょうか?」


 断片を覗き込んでいたソージは何気なしに呟く。しかし、その言葉に誰の返答も無かった。

 それもそのはず、誰も答えれなかったのだ。文の意味を理解することが出来なかったからだ。

 現在はシャーリアル歴1023年。この予言は今から88年後の話である。


「分かりませんな」


 ポツリとマーシュは漏らす。


「ま、まぁこの解読はまた進めておきます。では僕からの報告は以上です」


 ゴールンは再び断片を丁寧に包みなおし懐に入れると、報告を終わらせた。残っているのはミシェットの報告だけだ。


「最後は私ね。私は今まで通り古代魔法の研究を続けるわ。古代魔法とエルフ族の関係が明瞭化してきたので、エルフ族の歴史を追う研究も並行しています。私からは以上よ」


 そうして一通り報告が終えたところで、今日の所の集会は終了し、それぞれ帰り支度をしながら雑談していた。

 ミシェットが気付いた時にはもうソージの姿は無かった。なので、今がチャンスだとマーシュに思い切って相談してみることにした。


「マーシュ先生、少し……いいですか?」

「ミシェットですか、大丈夫ですが……どうしました?」


 いつもと違うミシェットの雰囲気を訝しげに見据え、声を潜める。マーシュは嫌な予感がしてならなかった。


「マーシュ先生は『大通りの捕食(ロード・イーター)事件』をご存知ですか?」

「えぇ、知っていますとも」

「なら……その事件の犯人には目星がついてますか?」


 マーシュはこの時、ミシェットは何を言ってるのだろうと思った。『大通りの捕食(ロード・イーター)事件』と言えばいまだ何の手がかりも得れていない事件。なのにいきなり犯人の目星について聞かれても、マーシュは何も答えることが出来なかった。

 それに、マーシュも実はこの事件を嗅ぎ回っている一人ではあるが、他と同様に何の手がかりも得れていない。大通りに住んでいる人々を一人一人詳しく調査しても、だ。


「いえ……それは全く……って、まさかミシェット貴女……!?」

「ハイ、こじつけな理由ではありますが、目星はついています」

「その人、とは……?」


 自然とゴクリと唾を飲み込んでしまう。緊張、そう、緊張しているのだ。


「恐らく、ソージ先生、かと思われます」

「……理由を聞いても?」

「はい、まず、ソージ先生がこの学堂に就任した時期と事件が起こり始めた時期が重なっています。そして、ソージ先生は調教師(テイマー)です。痕跡を掴ませない犯行は十分に可能です」

「ふ、む……」


 マーシュはソージの姿を思い浮かべてみた。直球な感想は、いかにも人畜無害そうな男で、そんな凶悪な事件を起こせそうな輩にも見えなかった。

 ここで何を馬鹿な、と切りてるのは簡単だ。しかし他ならぬミシェット・ファチウィードが言う事だ。短い付き合いでもないし、彼女の聡明さは十二分に知っている。だが、推測理由が弱い。まだ的確な判断を下すのは難しいだろう。

 しかし、もしここで否定すれば彼女はこの事件に関わることを止めるか?いや、それは無いだろう。だがこの危険な事件に貴族令嬢が首を突っ込むのはダメだ。ならば……


「少し、推測理由が弱いですね。しかし、手がかりがないのも事実。ソージ先生については私が調べましょう」

「マーシュ先生!それは私が……っ」

「ミシェット、こう言う事は本来なら言ってはいけないのですが、貴女は貴族令嬢なのですよ?それに子供がこんな危険な事件に首を突っ込んではいけません。……大人である私に任せなさい」

「……分かりました……」


 ミシェットは少し項垂れて引き下がる。しかしこれでは止め切れないでしょう。それは想定の内、ならばミシェットが再び捜査に動く前にソージ先生の身の潔白を改めましょう。

 それに、ミシェットにはルークが付いている。あの子ならそれなりにミシェットのブレーキ役にはなるでしょうしね。時間稼ぎは十分です。



 ◇

 その後、ミシェットも他のメンバーも帰り、会室にはマーシュ一人だけが残っていた。


「とは言ったものの、どう調べようか……ひとまずソージ先生の研究室に行ってみるか」


 そう独り言を漏らすと、マーシュは鞄を担ぎ、会室の鍵を閉め、一直線にソージのいるであろう研究室へと向かった。


 すっかり夕暮れの光が窓を貫いて廊下を彩る中、迷いなく進む。もう研究室は目前だった。

 そうして、研究室の前に辿り着き、ノックをしてみたが、返事は無かった。もう帰ってしまったのだろうか?と思いながら何気なしにドアノブに手を掛けると、するりと扉が開き、開いた勢いのまま部屋の中へ侵入してしまった。


「しまった……勝手に入ってしま……ん?」


 入った瞬間から感じるじっとりとした妙な視線が気にかかった。その主を探してみるも、どこから見られているかは分からず、ジワリと嫌な汗が手や首に滲みだすのを感じた。

 確実に、見られている。そんな認識はあれど、どこからの視線かすらわからない。


「これは……案外大当たりかもしないな……」


 額にも滲んできた汗を袖で拭い、緊張に耐える。


 ここはもうすでに、悪魔の腹の中だとは気付かずに……。

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