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第5話:学生な勇者

 俺たちが異世界に召喚されて早三か月が経った。初めのうちは地球と違うことが多すぎて戸惑いや驚き、感動があったが、それも次第に慣れていった。

 それと、召喚されるはずだった四人目の勇者の事は王国騎士団や密偵が現在調査中の様だ。魔力の消費量から逆算して、四人目が召喚されたのは確実だそうで、座標のずれが原因で他の場所に召喚されたと王国側は睨んでいるとのこと。


 あぁ、そういえば、俺、有希、竜司の中で、正式な【勇者】の称号を持つのは俺だった。ゲームで言う主人公的な立場なのだが、どうにも俺の性には合わないと言うかなんというか……まぁそういう役割を与えられているのだから、この世界では勇者として生きる覚悟はもう決まっている。それまでに色々と悩みはしたが、それは今はいいだろう。

 あと、竜司に与えられた称号は魔法、特に大規模魔法に突出した才能を与える【賢者】で、有希に与えられた称号は守ることに突出した才能を与える【守護者】だ。もし有希が戦闘職なら、何この脳筋勇者パーティとなっていたところだ。危ない、攻めることしかできないバランスもクソも無いパーティになるところだった。

 そして、各自の役割が違うので、必然的に戦闘訓練や技術訓練は、皆バラバラになってしまう。まぁ座学は一緒に学ぶから単独移動学習に近いものを感じるのは、現代の学生だった故だろうな。


「お、澪慈。お前が書館に居るなんて珍しいな」

「おう、竜司。ちょっと調べたいことがあってな」


 そんなことを考えながら本棚に並ぶ古めかしい本を眺めてると、ここ、書館に竜司が入ってきた。その服装は、魔術師が羽織るローブの様なもので、本来ならダボッとしているはずなのだが、地球に居た頃に鍛え上げられた筋肉が自己主張しており、ピチピチになっている。こいつこれでも魔法職(後衛職)なんだぜ?まるで魔術師の変装をしている重戦士だ。もし神様とやらがいるのなら、役割を与えるに際して何も思わなかったのだろうか。


 あ、因みに書館と言うのは、簡単に言えばデカい図書室の様な物だ。王城の一角にあるので、当然珍しい本や貴重な本まで置いていて、俺たちは自由に閲覧することを認められている。ここなら色んな情報が調べれるので、気になったことや知りたいことがあるならここに来れば大抵のことは解決する。まぁ、日本の図書館と違って検索機能がないため、目的の本を探すことの方が一苦労だ。それどころか、探した結果ありませんでした、と言うのも珍しいことではないしな。やはり本類は貴重……というより絶対数が少ないために、蔵書数は決して多くない。まぁ少なくもないのであまり困らないが。


「へぇ、調べものか。何を探してるんだ?」

「あの予言についてな」


 あの予言……それはこの国の王族に古代より代々受け継がれてきた予言の書の断片の内容であり、そして俺たちがこの世界に呼び出された原因でもある、神子バラシェラの予言のことだ。

 俺たちは初め、そんな曖昧なモノの為に呼び出されたのかと怒りを覚えたが、バラシェラの予言は他にも様々な年代の予言が数々あり、そして見つかっている限りでは、過去の予言は全て的中しているらしい。

 そして今回の予言、その原文はこうだ。


『シャーリアル歴1028年、紅き月が空に登る時、天より幾万の軍勢を従えた魔の王が現れ、世界を混沌に陥れるだろう』


 そう、世界を混沌に陥れる魔王の襲来、その予言である。今はシャーリアル歴1023年……つまりこの予言が本当なら、勇者としての役目を果たすのは五年後、ということになる。それまでに知恵や力を身に着け、魔王襲来に備えてくれ、と国王からは言われている。向こうも、無理矢理この世界に連れてきてしまったことに対し、それなりの罪悪感は感じているらしく、特に行動を制限されていたりという事は無い。ただ、暫くの間、城からの外出は控えてくれとのこと。何でも、勇者、もしくは来訪者と言うのは強大な力を持っていることが多いが、訓練で実力がしっかりとつくまではあくまで一般人なため下手な発表を避けたいらしい。

 特に、軍事至上主義国でもある帝国が勇者の力をつけ狙う可能性があるためでもある。


「予言についての本はここにはないぞ」

「え……?」


 そんな思考を巡らせつつも手を休めず予言に関する本を探していたところに、キッパリと竜司が無いと断言する。


「予言に関しての本はほとんどこの世に存在してないんだそうだぞ。なんでも、教会が予言の書を写本したり、考察書を書くことを禁忌としてるそうだ。何でかは知らねぇけどな。あと俺も前に探したが一冊もなかったぞ」

「……まじかよ」


 せっかく朝早くから起きて探していたのに、とんだ無駄足になってしまった。これなら剣術の訓練でもしてた方が得だったぜ。

 まぁ予言の書の本以外にも、魔物とか魔法の本で気になるものは見つけたから全くの無駄……とは言わないけどな。


「あ、そろそろ座学の時間じゃねぇか?」

「ん?もうそんな時間か、じゃ行くか」


 チラリと窓の外に建てられている時計塔を見ると、いつもの座学の授業が始まる時刻の30分前を指していた。あの時計塔は王国の一流工芸師が作ったもので、かなり正確に時間を測れるそうだ。


 そうして俺と竜司は書館から出、座学の授業に用いられる会議室の一室へと向かっていった。


 ◇


「~~~であるからして……っと、そろそろ終わりの時間ですね。皆さん、お疲れさまでした」


 授業を担当するのは、王城の書館司書を務めているラナウドさん。今ではよぼよぼな博識のおじいちゃんなのだが、昔は宮廷魔術師として活躍していたそうだ。因みに、竜司が魔術の指導を受けているのも、このラナウドさんだ。肉体的な衰えはかなりあるものの、魔力や魔術の精密度には衰えが全く見えないと、他の宮廷魔術師から尊敬の念を一身に受けている。


 いつもならこの後は、各自の技能を伸ばすべく指導を受ける時間なのだが、座学の授業が終わったのを見計らったかのように、部屋に騎士団団長であり俺の師匠的な存在でもあるガーミナル団長が入ってきた。

 ガーミナル団長は国王から俺たちの訓練の総指揮を担っており、現代で言う総責任者の様な存在だ。

 そんな彼がわざわざ俺たち三人が揃っているタイミングでやってくるということは、何か連絡があるという事だな。


「レージ、リュウジ、ユキ。お前たちはこの三か月でそれなりに成長したと思う。なので、来月からお前たちは第一王都大学堂に通ってもらうことにした。友人たちと切磋琢磨することで心身共に強くなってほしいという事もあるのだが、お前たちは元の世界では学生と言う身分で、それを中途半端に放り出してしまっている状況も考えた結果だ」


 王都大学堂……地球でいう中高大をひっくるめたかなり大きな学校だ。確かに、学生だったこともあり通いたいと思うことはあったが、まさか本当に通うことになるとは……。


「あぁ、それと、王都大学堂には年に一回『大覇天祭』と言う祭りの中に、学生の武闘大会があるんだが、お前たち三人の誰かに優勝してほしいんだ。国王からの頼みでな、他国に対して勇者の力のパフォーマンスと大々的な発表が目的だそうだ。なぁに心配はいらんよ。お前たちは十分優勝できるほどの力と才は備わっているからな」

「なるほど……発表と同時に勇者の力を示すということですね」


 それは悪くない発想だ。勇者の力を見せつけることによって、俺たちをつけ狙ってくるであろう帝国に対する牽制になりうるかもしれないしな。


「いいじゃんいいじゃん!学校行きたい!」


 さっきまで黙って話を聞いていた有希が無邪気にそんなことを声を大にして主張する。目を輝かせているところを見ると、どうやら大会云々よりも学堂で友達を作りたいと言う思いの方が強く伝わってくる。まぁ元々有希は色んな人と友達になりたい人間だから、人との付き合いに飢えていたのだろう。王城に同年代の人間なんてほとんどいないからな。

 俺たちは友達と言うよりもはや家族みたいなものだしな。


「よし、では編入手続きはこちらでしておく。話は以上だ、各自訓練場所に行ってくれ」


 ガーミナル団長はそれだけ言うとさっさと何処かへ行ってしまった。恐らく編入のなんやらかんやらをしに行ったのだろう。

 それにしても学堂か……楽しみだな。


「じゃ、また後でな~」


 三人でそう言いあって、各自の訓練所へと向かう。竜司も口には出さないが、学堂生活に思いを馳せているようにも見えた。







『勇者一行の現在のステータス』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前:レージ・ウチミヤ

種族:人族

LⅤ:1

スキル

【剣術*5】【闘気操作*2】

【見切り*3】【火属性魔法*1】


ユニークスキル

【勇気変換*2】


称号

【来訪者】【勇者】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【闘気操作】……魔力と対になる闘気を操るスキル。闘気とは生命力から変換されるエネルギーの事で、体に纏わせると身体の頑丈さや技の威力が上がったり、闘気そのものを飛ばして攻撃することもできる。魔法に似ているが、属性という概念はない。


【勇気変換】……様々な勇気を己のあらゆる力に変換するスキル。強大な敵と戦う時や逆境に瀕した際にその真価を発揮する。まさに勇者のスキルだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前:リュウジ・ツキザキ

種族:人族

LⅤ:1

スキル

【火属性魔法*2】【風属性魔法*2】

【水属性魔法*2】【土属性魔法*2】

【魔力操作*4】


ユニークスキル

【属性複合魔法*1】


称号

【来訪者】【賢者】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【魔力操作】……このスキルは無くても魔力を操作することは出来るが、あればより早く精密に魔力を扱えるようになる。


【賢者】……魔法の扱いに補正が掛かる。基本属性を全て扱えるようになるが、派生属性が使えるかは努力次第。派生属性を全て会得する素質的可能性はある。


【属性複合魔法】……異なる属性を混ぜ合わせ、性質の混ざった魔法が発動する。このスキルを使った魔法は魔力を大幅に使用するが、かなり強力。あまりにかけ離れた効果同士の魔法は複合できない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前:ユキ・キクノ

種族:人族

LⅤ:1

スキル

【水属性魔法*2】【魔力操作*3】

【薬学*3】【結界魔法*4】


ユニークスキル

【結界整形*2】


称号

【来訪者】【守護者】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【結界魔法】……ドーム状や円形の結界を張り、それに様々な効果を持たせる魔法。


【結界整形】……ドーム型や円形の結界の形を変えることが出来るスキル。


 勇者たちはまだ実戦訓練(魔物との戦闘)をしていないため、レベルは上がっていない。



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