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第4話:懐古と生徒

更新が滞ってしまってすいません!

 

 僕はベッドにもたれながら、薬師さんから頂いた魔物に関する本を読んでいた。

 右足を動かすな、とのことなので安静にしていなければならないのですが、如何せん暇だったので魔物について調べているのです。僕の能力に魔物の知識は欠かせませんからね。

 おや?視界を共有して連携をとる狼……ですか、中々面白い魔物もいるのですねぇ。


『ようソージ。足の調子はどうだ?』


 そうして、一人魔物の不思議さに感心していると、さも自分の部屋に入るかの如く自然体で、金髪の少女が片手を軽く挙げながらやってきた。


『おぉユーラシ、来てくれたのですね。足は……どうなんでしょうね、薬師さんが留守なので何とも言えません』

『そっか、早く良くなるといいな……。あ!べ、別に暇だから来ただけだぞ!』


 しみじみとした声色で僕の右足を眺めながら言っていたが、突如思い出したかのように少し照れ気味に弁解(?)をするユーラシ。

 これは可愛い……はっ!もしやこれって所謂”デレ”と言うやつですかっ!?

 ……あ、いや、そんな思い込みは止めておきましょう、過去それで何度か酷い目に合っていますので。


『ん?ソージ、何読んでんだ?』

「――――さい。……生」


 そう言ってユーラシは広げている本を覗き込む。ふわりと女性特有の良い香りが漂ってきたが、出来るだけ気にしないふりをし、魔物に関する本ですよ、と返事をした。


『へぇ、そんな難しそうな本読めるなんて、ソージ頭いいんだな!』

「――――ください!……ジ先……!」


 花が咲いたと見間違うような曇りのない笑顔で、ユーラシは僕を称賛する。やはり、この笑顔のユーラシが一番可愛いですね。守りたいこの笑顔、です。


 ユーラシの笑顔を眺めてニコニコとしていると、どこからかぼんやり言葉が聞こえてきた。まるで世界の外から声を掛けられていると錯覚してしまいそうなほど、おぼろげな声だ。


『ところでソージ……』

「起きてください!ソージ先生!」

「ふあ!?」


 ユーラシの言葉の途中で、耳元で大きな声を出され、机に突っ伏していた体が飛び跳ねる。何事かと周りを見渡すと、そこは本や資料に囲まれた僕の表の研究室で、声を掛けられていた方を向くと、薄い金髪のドリルツインテールっ子であるミシェットが顔に若干の怒りを浮かべながら僕を見下ろしていた。

 あぁ、あの実験の後、ここに戻ってきてそのまま寝てしまっていたのですね。それにしても、懐かしい夢を見るものです……。いえ、つい三、四か月ほど前の出来事だと思うと、それほど懐かしいとは言わないですね、ずいぶんと昔の事の様に思えてしまうのですが。


「あれ?僕部屋の鍵かけていませんでしたか?」


 はて、昨日地下の研究所に行く際、鍵をかけたと思うのですが……と考えながらチラリと施錠部分を見ると、金属部品に薄っすら霜がついていることに気付いた。

 あぁ、そういうことですか。


「淑女として、勝手に開錠するのはどうかと思いますよ?」

「中に居るのに返事がなかったので仕方ないじゃないですか!ずいぶんとぐっすりでしたよ!?」


 顔を赤らめながら、誤魔化そうと必死に抗議をするミシェット。

 なぜ僕が怒られてる風なんでしょう。そして、ミシェットの言い分通りだとしても、やはり無断侵入はいけませんよ。


「まぁいいです。ところでルーク君は?」


 一人で来たのでしょうか?ルーク君の姿が見えませんが……。


「ル、ルークなら今日は用事があるので来れないと言ってました」


 その言葉からは若干の緊張と不安が垣間見えた。

 恐らく、推測上の犯人と二人きりでいるのが怖いのでしょう。まぁ、それにしてはわざわざ一人でこの部屋に突撃してくるあたり、肝が据わっているのか据わってないのかイマイチ判断しかねますねぇ。

 安心してくださいミシェットさん、僕は貴女の事をどうこうしようなどとは考えていません。今はまだ、ね。


「そうですか、ではどうぞ。自由に調査してください」


 僕がそう言うや否や、待ってましたと言わんばかりに動き、本棚へとかじりついた。

 ま、邪魔ではありませんしこっちはこっちで一つ実験でもしましょうか。生物実験は出来ませんが、魔法の研究ならここでも出来ますしね。


「ミシェットさん、少し実験をしたいのですが……」


 そう言いながらミシェットさんの方を向くと、ブツブツと何かを呟きながら資料とにらめっこしている彼女が目に入った。

 どうやら周りの音すら聞こえない程集中しているようですね。素晴らしい集中力です。


 これでは何を言っても耳には届かないでしょうと、声をかけるのを止め、自分の実験の準備を始める。今回するのは、魔法陣の実験です。


 まず、この世界の魔法について軽く説明しましょうか。魔法には属性と呼ばれる特徴があって、『火』『水』『風』『土』の四つの属性があります。そして、これの上位版……所謂『上位属性魔法』と呼ばれる基本属性の派生属性や【結界魔法】や【聖光魔法】【精神魔法】などの無属性魔法、更には『唯一属性魔法』と呼ばれる、スキルで言うユニークスキルのような存在の魔法もあります。属性は人それぞれ生まれた時に何かしら一属性は必ずランダムに振り分けられ、属性を持たない人間はまずいないそうです。才能次第では四属性全て持っているなんてこともあります。まぁ僕は基本属性どころか無属性すら持っていない特例なんですがね。それに加えて言うと、属性を持っていない=魔力を持っていないということだそうで、僕には魔法を使うことが出来ません。”正当法”ならね。

 他にも魔力や詠唱などもあるのですが、それはまた別の機会に話すとしましょう。

 あ、因みにミシェットさんが開錠に使っている氷も、『水』の上位属性『氷』の魔法ですよ。本来上位属性に目覚めるかどうかは完全に本人の素質次第なのですが……学生の時点で覚醒しているとなると、本当に彼女は優秀な子だと言えます。ま、用途は少しアレですがね。


 そして今日実験で用いる魔法陣なのですが、これは決まった模様や文を組み合わせ、魔力を注ぐことによって、魔法を発動するという、主に生活道具や特殊な武器に仕込まれたりしています。

 そもそも魔法陣自体はそれ専用の学者……『魔法陣学者』が存在しており、僕の専門ではないのですが、そんな僕でも、いや、属性及び魔力を持たない僕だからこそ出来ることがあります。

 先ほども言った通り、人なら必ず属性を持っている……つまり魔力を持っているという事です。従って、人々は余程特殊な魔法でもない限り自前の魔力で発動させるため、魔石の内包魔力を使って魔法陣を発動させようという試みはあまりされていないのです。一人の魔力では発動が難しい場合、数人がかりで発動させるというのが主流になってましね。

 それに加え、魔石から魔力を抽出するのは案外難しいようで、ずいぶん昔に魔石を魔力に還元する研究は諦められてしまったそうです。


 あぁ、説明が多くなってしまいますが最後に、魔石というのは魔物の体内や魔力濃度が濃い土地の土中に埋まっている魔力が結晶化したものです。その存在自体は地球で言うところの、宝石のような感覚に近く、より純度の高い魔石や大きな魔石は職人によって加工、アクセサリー化され、高値で売られています。

 色や模様も魔石一つ一つ微妙に違いますし、貴族世界では美しい魔石を所有していることが一種のステータスになっているのだそうです。実際、ミシェットさんの耳には小ぶりながらも純度の高そうな魔石を用いられたイヤリングがつけられていますしね。


 まぁそんな話はともかくとして、今日したいのは、そんな魔法陣の実験である。本当なら魔石の魔力を抽出する方法をたまたま見つけれたので、その研究がしたいのですがミシェットさんがいるので出来ません。絶対に騒がれますしね。まぁそんな抽出のお話はまた今度にしましょう。

 さてさて、では実験を始めましょうか。僕は魔力がないため自力では魔法を発動することはおろか、魔法陣の主な使用法とも言える魔道具すら使えません。ですので、従魔の魔物に発動してもらう事とします。……魔物が魔法陣を使うというのも結構変な話なんですがね、この世界では。


「ウィグマジカル、出て来てください」


 そう呟くと、白衣の袖からずにゅりとぽよぽよとした外見をもつ薄ピンクの物体が這い出てきた。この子は『ウィグマジカル』といい、体の構成成分の95%以上が魔力という摩訶不思議な魔物です。魔石によって体を形作っていると言われるウィグ系の魔物は総じて摩訶不思議ちゃんですが、中でも飛び切り異質なのはこのウィグマジカルでしょう。

 まぁ、この子は僕が作った人工魔物だから、その種の系列生物として異質なのはある程度仕方ないんですけどね。


 そして、そんなこの子の最大の特徴は、魔力を操れて、小規模ながらも魔法を扱える、この一点に限られます。魔物の中で魔法を使える存在はそう多くはありません。スキルは普通に使えますが、魔法ともなると、大昔から生きている魔物や人間以上の知性を持っている魔物でないと扱えないのです。

 ですが、このウィグマジカルはほとんど魔力のみで体が作られており、本能的にどんな生物より魔力を操ることに長けているのです。まぁ当然魔力を消費すればするほど体も小さくなるので、多用すると消滅してしまうという欠点を抱えていますがね。それでも、放置しておけば空気中の魔力を吸収して、元の大きさに戻ることも可能です。


「この魔法陣を発動してください」


 一枚の幾何学模様が描かれた紙を取り出しながらウィグマジカルにそう命じると、緩慢な動きで魔法陣に覆いかぶさり、淡く光り始める。その次の瞬間、ウィグマジカルはパンッという風船が弾けた様な音を放ちながら爆発四散してしまい、余波の様な風がふわりと髪を靡かせた。今回魔法陣に記した魔法は、風魔法のウィンドという短い時間だけ突風を発生させる魔法です。覆いかぶさっていたので、風船のように膨らんで弾けてしまったのでしょう。

 そんなことは全然意識してなかったので、少し驚きました。まぁ普通に考えれば分かってたことなんですけどねぇ。


「せ、先生?何したんですか?」


 ふと声が聞こえた方に目を向けると、ミシェットさんがおっかなびっくりといった表情でこちらを凝視していた。

 まあ流石にあんな大きな音を発せられて気にならない方がおかしいですよね。


「あぁ、従魔を使って魔法陣の実験をしていたのですよ」

「そ、その……従魔は死んでしまったのですか……?」


 周囲に散らばるウィグマジカルの残骸をチラチラ見ながらそう訊ねるミシェットさんの目には、やはりこの男は平然と従魔を殺すのかと、恐怖と嫌悪が浮かんでいた。まぁ何も知らずに見ると、ウィグマジカルの破片は何かの生物の肉片に……ギリギリ見えなくもないですし、この反応は仕方ないと言えば仕方ありませんね。


「いえ、安心してください。死んでませんよ。よく見ていてください」


 貴重なウィグマジカルちゃんをそう簡単に殺すわけないんですよねぇ。結構純度高い魔石を素材に生み出したモンスターですので、おいそれと作れませんし。


 ミシェットさんの視線を誘導するように地面に転がるウィグマジカルの核である魔石を指差す。すると、核近くの破片がうぞうぞと蠢き出し、核に覆いかぶさるようにして集まりだした。これがウィグ系魔物の最大の特徴、核さえあれば半液体上の体故、バラバラにされても一つに纏まることが出来るのです。


「す、凄い……もう完全に治っちゃった……」


 驚くのも無理はありません。なんて言ったって、大体のウィグ系の魔物……ウィグアジドやウィグウォータは一撃で核を破壊され、バラバラにされるどころか再生する機会さえ与えられずに息絶えてしまうのですから。故に、こんな再生能力を持っていることはあまり有名な話ではないのです。

 ミシェットさんの僕に対する悪感情が鳴りを潜めたようで何よりです。


 僕は最高の生物兵器を生み出すために、色んな魔物を捕獲、解剖、研究してきたのでね、その副産物として面白い作品が生まれたりするのです。ウィグマジカルはその最たるものですね。

 まぁそんな話はさておき、しっかりとウィグマジカルが魔法陣を発動できるのは確認できたので、この実験はまた今度進めましょうか。

 そして僕としては実験ばかりしているわけにもいかないんですよね、そろそろ授業のネタに困ってきたところですし、資料を纏めるとしましょう。

 この学堂に就任したのも、未だ王都に在住しているのも、全ては計画のため……ではあるのですが、教師としての仕事はキッチリこなしておきたいのです。まぁミシェットさんを実験体視している時点で、教師云々など詭弁でしかなくなるのですがね。


「さて、個人授業というのは不公平を生んでしまうので、この子の解説はこの程度にしておきましょうか。それで、今日は何か見つかりましたか?」

「いえ……合成獣(キメラ)学が気になった以外はなにも……」

「そうですか、まぁまだ時間はありますし、引き続き見ていても構いませんよ」


 ほう、やけに合成獣(キメラ)学の書類に目を通してるなと思えば、やはり気になっていたのですね。合成獣学及び獣合成術式というのは僕の【生物錬成】に近い学問ですが、結果が似ているだけで、根本的には全くの別物です。まぁだからこそ研究対象として食指を伸ばしたのですがね。

 あぁ、そのうち『魔物学』の一環で合成獣の解説などをしてみても良さそうですね。


 僕がそんなことを考えていると、ミシェットさんはあっと何かを思い出したような表情を浮かべた。


「あ、今日は学会の集会があるのをすっかり忘れてました!」

「へぇ、学会ですか。ミシェットさんは何の学会に参加しているのですか?」


 学会とは、部活の様なものである。新たな魔法を作り出す活動をしている学会もあれば、剣の鍛錬を主としている学会もある。一定数の生徒と一人の顧問となる教師がいれば自主的に学会を新しく作ることが出来るので、この学堂には結構な数の学会があるのです。まぁ大体が魔法系と武術系に大別できてしまうのですが。

 ミシェットさんなら……魔法系統の学会でしょうか?


「はい、私は考古学の解析や発掘を主な活動としている学会に入っているんです」

「おやおや考古学ですか……」


 これは予想外ですねぇ。ですが考古学ですか……中々に興味が惹かれる学会ですねぇ。一応考古学にも食指を伸ばしてはいるのですが、一種類の成果しか挙げれてませんし……見学とかできるんでしょうか?


「その学会は教師も参加できるのですか?」

「はい、他の学会に所属していなければ大丈夫です。ソージ先生見に来てみますか?」

「ぜひ、見学させてください」


 これはこれは……何か収穫があれば上々ですねぇ。あ、ついでですしフジメを寄生させた小型の蜘蛛を三匹ほど持っていきましょうか。一応性能は良くありませんが、親フジメは送られてきた視覚情報を記録することも出来ますしね。


「では行きましょう先生!」

「はい、では案内をよろしくお願いします」


 風で少し散らばった資料を軽く纏め、部屋を出て鍵を閉める。

 そして、興味惹かれる案件に少し心浮かせながら、リードするように隣で歩いているミシェットに合わせて歩を進めるのだった。

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