第0話:夜更
とある大学の片隅にある研究室でカタカタカタ~と淀みなく叩かれるキーボードの音が響く。
僕、こと内宮創慈は自分の専攻する生物学の論文作成の真っ最中なのである。時刻はすでに12時過ぎ、でももう最後の方まで書いてるし帰りの電車も終電時刻はとっくに過ぎてる。一応お母さんに心配かけないように連絡も入れたし、今日は大学で泊まるかなー。
なんて考えながら最後の行を打ち込み、ッターン!と小気味のいい音を鳴らしながらエンターキーを叩く。
あとはうっかり消してしまわないように保存し、作業は終わりだ。
「くぅ~終わった~」
椅子の背もたれに凭れこみ、ぐーっと背中を伸ばす。長時間座りっぱなしだったせいか体のあちこちが凝り固まっている。
「もうこんな時間…早く寝ますかぁ」
研究室の奥の壁際に鎮座しているソファに向かう。
大きなあくびをしながら僕のチャームポイント(お母さん曰く)であるレンズの大きい丸メガネを外し白衣のポケットに突っ込みソファに寝転がると、よほど体が疲れていたのかすっと意識が薄れていく。
「おやすみなさぁーい…」
誰に向けたわけでもない、ただちょっとした一人の寂しさを紛らわすかのような言葉は、当然誰にも聞こえることなく電気の消えた研究室の闇に吸い込まれていった。
◇
背中全体に感じる固い感触、少しむっとするような草木の匂い、そしてちゅんちゅんざわざわと全方向から聞こえる鳥や葉っぱの音––––––って、え?
寝ぼけた頭でもハッキリとわかる程の環境の違和感にガバッと起き上がる。
そしてそのままじゃほとんど何も見えないので急いで白衣のポケットから愛用の丸メガネを取り出し装着する。メガネのお陰でよく見えるようになった目が写したのは………
どこまでも、どこまでも広がっているかのように見える広大な森だった––––––。