第四話 記憶
何が起こっているのかわからない。
ただただ怖いという感情だけ押し寄せてくる…。
足はもつれ、上手く走れない。
連結部分のドアを勢い良く開けて崩れるように隣の車両へ移った。
「え…」
目の前に広がったのは、晴天の空に眩しく光る太陽。
木々の葉は露に濡れ、まるで夏の朝のような風景だ。
さっき夕日が沈み夜を迎えるのを確かに見た。
「何だよこれ…」
その場に座り込み、小刻みに震える自分の手を見つめた。
身体は確かに存在していて、体温も感じる。
「死んでないよ?」
ふっと自分に影がかかる。
顔を上げると未知が穏やかに微笑みかけた。
「あれ、違う?自分が死んだからここにいるのかもーとか思わなかった?」
「えっと…いや、うん。少し…。」
「そっか、良かった。大丈夫、死んでないよ。
案内役って言っても本当の気持ちまではわからないんだ。
わかったら楽なんだけどね。」
「…何故俺はここにいる?」
「迷い込んだのかもしれない。
でも意思が無いとここへは来れないから、
タスクとスバル…どちらかの意思がそうさせたのかもね。」
「どちらかの…。」
「うん、ハッキリわかんなくてゴメン。
でもちゃんと案内はできるよ。ほら、見覚え無い?」
未知は窓の外へ視線を移す。
そこには川を渡る大きな橋、河川敷、野球のグラウンド。
俺はこの景色を知っている。
まだ家族みんなで暮らしていた頃の街だーー。