第三話 線路の先
「この電車は、逢いたい人に会いに行くためのものだよ。」
未知というその子は、そう言った。
「…え?」
「逢いたい人がいるから乗ったんじゃないの?」
「い、いや…俺はただ部活の帰りで…。」
「…。」
未知は目の前まで寄って、
まじまじと顔見つめ、ハッとした顔をする。
間近に迫った顔は子供とはいえ整った顔立ちで、
なんというか…とても可愛くてドキっとした。
「…もしかして、迷子…?
あなたの意志で乗ったんじゃないんだ…こんなの初めて。」
うーん、と窓の外を見つめて考え込む。
今にも沈んでしまいそうな夕日のかろうじて残る光が、
未知の瞳を微かに揺らしていた。
「どういう事だよ…?」
「うーん…、ちゃんと説明しなくちゃいけないかな。
こんなパターン初めてだから私もびっくり。」
「俺の方がびっくりだよ、訳わかんねぇ…。」
走り続ける電車、沈む夕日。
どんどん暗闇に覆われていくのがわかった。
「私はね、逢いたい人がいる人を案内する役目なの。」
「…は?」
「まぁまぁ、落ち着いて聞いて。びっくりするのもわかるよ。
ここに来る人たちは、ちゃんと意志を持って来るから…。」
未知はゆっくりと窓の外を指差した。
ゆるやかにうねる線路。
それはずっと先まで続いていた。
「この線路はあなたの意思。そして願望。それは言葉にしない、本当の気持ち。」
「気持ち…?」
「逢いたい人がいるんでしょう?」
全てを見透かすような瞳が、俺を捉える。
さっきとは別人のような、光の無い目。
一瞬ゾクっと背筋が冷たくなる。
無意識に後ずさり、力の入らない指先をどうにかぎゅっと握りしめ、
気付いた時には隣の車両へ繋がるドアへ走り出していた。