閉幕!! 1日
うだうだと言っていたシュンだったが、舞台に立った瞬間、遠くから見てもわかるほどにガラッとシュンの雰囲気が変わった。
そして、完璧な台本通りの台詞、自然だけれど大きな動きで演技を続けた。
思わずため息が出てしまうほど、シュンは綺麗だった。
「あれが女だったらなぁ……」
ヒトミは隣でスマホを使って連写をする。
ウケをとるべきところできちんとウケもとれていた。
「僕より全然上手いよ……」
「大丈夫、コウキも可愛いよ」
「フォローになってない……」
僕はそこでヨシタカがいつの間にかいなくなっていることに気づいた。
「あれ、ヨシタカは?」
「もうすぐ出番だから、スタンバイしてる」
ヒトミが指差したステージと舞台裏との境辺りにヨシタカが立っていた。
チトセはそこを行ったり来たりしていて、大変そうだった。
そして、ヨシタカがステージへと入っていった。
僕らはそれを見届けてからヨシタカのいた舞台裏ギリギリのところまで足を進めた。
チトセはそこで最後の出番を待っていた。
「すごいね、シュン」
僕がチトセに話しかけると、チトセはフッと頬を緩めた。
「当たり前だ」
「もー、チトセちゃん、相変わらずシュン大好きなんだからー」
「ひっ……ヒトミ!!」
ヒトミの言葉に珍しくチトセが顔を赤らめ、声をあらげた。
あまりに珍しかったため、ヒトミの持っているスマホを頂戴して、カシャッと。
「……コウキ、何してるんだ」
「気にしないで」
「無理だ。頼むから今すぐ消してくれ」
「あっ、チトセちゃん、キスシーン!!」
ヒトミの一言でチトセの関心がステージへと向いた。
「チトセちゃん、BL狙ってるの? 腐女子?」
「違うっ! 私はBLに興味もないし、ましてや腐女子ではない!!」
「はいはい」
でも、チトセの気持ちもわからないでもない。
僕も少し気になっているし、ヒトミなんて僕からケータイを取り上げ(もともとヒトミのだが)ちゃっかりビデオモードに設定している。
下手側からはすでにケータイではなく、ビデオカメラを三脚に立てて見守っている山下の姿もうっすらと見える。
『ああ、可哀想な白雪姫! 私がもう少し早くここを通れば、貴女を妻として迎え入れることができたというのに!!』
「あいつ、ノリノリだ」
「無駄に暑苦しいね」
「眩しすぎて目が当てられない。痛々しいな」
ヨシタカの演技に三人で批判をする。
シュンは静かにシーツのかけられた台座で眠っている。
そして……。
『一度でいいから、生きている貴女を見てみたかった……』
ヨシタカが台座に両手をつき、シュンの顔に自分の顔を近づけた。
壁ドンではなく、床ドンだ。
「「「きゃあああああ!!」」」
客席から腐女子兼二人のファンが黄色い声をあげる。
「きゃあああああ!!」
……ここに同類がいた。
その時、それは起こった。
ヨシタカが台座から片手を滑らせたのだ。
ヨシタカがシュンに顔を近づけた時、シュンはヨシタカに強く囁いた。
「絶対、失敗しないでよ!! ぶっ殺すからね!」
「わかってるって!」
ヨシタカはそのままシュンに顔を近づける。
もちろん、寸止めだ。
しかし、途中でヨシタカは片手を滑らせてバランスを崩した。
「「!?」」
つまり、どうなったかというと……。
……二人の唇があたってしまったのだ。
慌ててヨシタカが顔をあげる。
((おええっ……))
「しゅっ……シュン……」
シュンは演技どころではなくなってしまい、ヨシタカが馬乗りの状態でも構わずに上半身を起こした。
目には涙をためている。
女子に泣かれているような気分になり、ヨシタカが動揺しているとシュンが叫んだ。
「このっ……死ね!!」
そして、ヨシタカの股に強く蹴りを入れた。
「うごっあばば……」
わけのわからない呻き声をあげて、ヨシタカが台座の横に転がりこんだ。
シュンはドレスの裾を持ち上げてカツカツとヒールをならしながら上手へと歩いていった。
「いや、本当にキスするとは思わなかったよ、シュン……」
僕はシュンが今にも泣きそうな顔で戻ってくるなり、そう言った。
シュンは両手に顔に埋めた。
「ううっ……コウキー……。僕、もうお嫁にいけないよー……」
「大丈夫。シュンはいく方じゃなくてんもらう方だから」
「やれやれ。あのゴミはどうするんだよ」
チトセは肩をすくめながら、まだ地面に転がっているヨシタカを見た。
しかし、僕らが答えるより先にチトセはステージへと入っていき、マイクで話し始めた。
『……こうして、ファーストキスを奪われた白雪は目が覚めるなり王子から逃げ、小人の家に引きこもるようになってしまいました。めでたし、めでたし』
「……チトセの対応力、すごいね」
僕が呟くと、ヒトミが胸を張った。
「でしょう?」
こうして白雪姫は閉幕した。