罠!! 25日~10月1日
「違う!!」
体育館に演劇部の部長の山下のどなる声が響いた。
「ご、ごめんなさい……」
僕は慌てて謝る。
学園祭が近づき、動きの確認へと入った。
「もっと、顔近づけて!!」
(無理だ!!)
僕は今、ヨシタカに抱きかかえられている状況である。
リアルお姫様抱っこだ。
ただでさえ密着しているのに、これ以上近づけるなんて……。
ヨシタカはなんでもないように僕を抱き寄せる。
「勘解由小路、腕を首にからませて!!」
(ひぃぃ……)
僕はしぶしぶヨシタカの首に自分の腕をからませる。
「笑顔!!」
「はい!!」
学園祭の前日まで、山下のスパルタ指導は続いた。
「明日かぁ……早いなぁ」
ヨシタカがお茶を飲みながらつぶやいた。
僕は帰り支度をする。
「……あ、そうだ。ヨシタカちょっといい?」
僕は言い忘れていたことをヨシタカに伝えた。
「――いいな、それ」
ヨシタカがにやり、と笑う。
当日、僕らは朝から集合した。
「――どうすんの、それ」
シュンは驚いて僕の足を見る。
僕は頭を掻いた。
「いやぁ、昨日階段から落ちちゃってさ、骨折しちゃった」
僕の足には包帯が巻かれていた。
そして、僕は松葉杖を持っている。
「ごめん。やれないみたい……」
「代役は!? ヒトミ、行ける?」
「無理。あたし小道具係だから、セリフわかんない……」
「演劇部に代理頼んでこようよ」
シュンが慌てて廊下に出ようとするのをヨシタカが止めた。
「……約束は破りたくないんだ。皆をがっかりさせたくない」
「けど……」
「できるだろ? シュン」
「……はい?」
「お前、演出担当だし、覚えてるよな? セリフ」
「無理だよ!! 何言ってんの!? ヨシ君、一旦落ち着いて!!」
「時間がないんだよ」
CATの出番は10時からだ。
しかし、舞台のセットや、衣装の準備もあるし、模擬店のテントもたてておかなければならない。
それを考えると、確かに時間がない。
僕らは、模擬店で焼きそばを作ることになっている。
「賞金出たら、お前にやるから!!」
「いいよ」
シュンはあっさりとうなづいた。
(何よりもお金なんだな……)
シュンの思考が単純なおかげで助かったが。
文化部の舞台の出し物には一般のお客さんや学生に良かった出し物についてのアンケートに答えてもらい、その中で人気だった1位から3位の部活に、15000円、10000円、5000円がもらえる金に余裕のあるこの高校ならではの制度がある。
それをもらえれば、演劇部と山分けすることになっている。
山分けした分をすべてヨシタカはシュンに渡すつもりらしい。
それだけ、シュンにやってほしいのだろう。
ついでに、運動部はというと、体育祭で同じように賞金を懸けて色々な種目で競う機会がある。
そして、ヨシタカとシュンは一足先に衣装に着替えに行ってしまった。
「なるほど……。私に大きめの衣装を一着別に作らせたのは、そういうことだったのね……」
衣装や小物を担当していたヒトミはため息を吐いた。
「シュンが不憫ね」
チトセも呆れたように僕を見た。
僕は包帯をとって、両足で椅子から立ち上がった。