白雪姫!! 24日
「……一つ聞こうか、ヨシ君」
シュンが改めて口を開いた。
「何だい? 大豆生田君」
「学園祭の出し物ってさ、文化部だけだよね? CATはどちらでもない。そう言い通せるだろ?」
「……」
確かにそうだ。学園祭の出し物は時間の都合で文化部のみだった。
CATは例外だ。と言えばそれで言い通せる。
「やらなきゃならないわけでもあるの?」
「……くっ」
ヨシタカが悔しそうに顔をしかめた。
(あったのかよ……)
ため息が自然ともれた。
「実は山崎先生から、『出てくれたら小遣いをやろう』と……」
(ワイロ……)
「……それ、僕らにも出るの?」
「多分……」
話の流れで僕はハッとした。
まずい。この話の流れは非常に。
「シュン、やめよう。山崎先生の嘘かもしれないだろ?」
「……そこは僕らの目の前で先生の口から言わせれば大丈夫。それに、録音しておけば……」
シュンの目が輝いたように見えた。
そして席から立ち上がる。
「よし、やろう」
「……」
シュンは金に目が無い。
そして、シュンは一度やると決めたことはどんな手段を使ってもやろうとすることを僕はこの半年で学んでいる。
「いいんじゃない? まぁ、出し物についてはそこの二人に決めてもらうとして……。デメリットは無いと思うけど?」
「た、確かにそうだけどさ」
僕はちらっとチトセを見る。
しかし、チトセはいつの間にか本を開いていて、話に無関心だ。
「……まぁ、無難なものならいいよ」
なるべく、問題の起きないものなら、という条件で僕は折れた。
「それでさぁ、俺、演劇部に混ぜてくれないか、聞いてきたんだけどさ」
「ヨシ君、相変わらず行動が早いね」
演劇なら結構無難に終われるかもしれない、と思い僕は口を挟まなかった。
適当な裏仕事をすればなんとかなるだろう。
「で、オッケーだったの?」
「もっちろん! ただし、賞金は取れたら半分ずつ分けることと、役を三人決めること」
「何やるの?」
僕の問いかけにヨシタカが何故か胸を張る。
「白雪姫!」
「高校生がやるものじゃないでしょ……」
ヒトミがため息を吐く。
「だから適当にウケを狙ってやっていくんだよ。で、そのなかで俺らがやるのは、白雪と、王子と、ナレーターってわけだ」
「重要すぎる役ばっかじゃん! いいの? 演劇部はそれで!!」
シュンが顔を真っ青にする。
「白雪とか、できそうなのヒトミくらいだよね!? 学校一の問題児がやり切れると思う!?」
「シュン、殴るよ」
「ごめんなさい」
シュンは暴力っぽいところがあり、結構問題を起こす。
ほとんど、相手が悪いことが多いのだが。
ヨシタカは不敵に笑って見せた。
「ふっふっふ。馬鹿だな。ウケを狙うって言っただろ?」
「……」
シュンは何かを悟ったのだろう。
慌てて僕の肩に手を置いた。
「じゃあ、コウキでいこうよ、白雪」
「は……? ええええ!? なんでだよ!!」
「ほら、ウケ狙えるし、似合うって。衣装とか」
「嫌だよ!!」
「いいじゃん!! で、王子をヨシ君がやって、ナレーターをチトセにやってもらえれば、一番無難で、しかも上位が狙えるって!!」
(さりげなく自分を役割から遠ざけるな!!)
それにしても、シュンは何をそんなにも焦っているのだろうか。
本人は気づいてないのかもしれないが、ヨシタカの方をちらちらとみて、僕を説得させようとしてくる。
「でもさ、シュン。俺的には……」
「いいよね、コウキ! お金のためだよ!!」
ヨシタカが何か言おうとしたのをシュンが慌ててさえぎった。
そして、僕はシュンの慌てている理由をやっと悟った。
(なるほどねぇ)
納得して、頷く。
「仕方ないなぁ……。いいよ」
「だって、ヨシ君。これでいこうよ」
「でも……」
「い・い・よ・ね!?」
シュンの放つ圧力に負けたのか、ヨシタカが少し残念そうにうなづいた。
「ああ。わかった。それでいこう」
僕はシュンのコロコロと変わる表情や、反応が面白くて、ちょっと意地の悪いことを思いついてしまった。
チトセがため息を吐く。
「コウキ、顔がにやけているぞ。何をたくらんでいるんだ」
「え、ああ。なんでもないよ……?」
「……」
チトセはなかなか鋭い。
気をつけなくては。