タイムリミット
「……まあ、小学生だったからためらわず、勢いでってのもあると思うんだけど」
「……」
シュンがそう呟いた後、僕らは黙りこくった。
僕が何も言えないまま俯いていると、シュンが再び口を開いた。
「まあ、その事がショックでトラウマになっちゃったわけ。僕は……それに似たようなものをみると気持ち悪くなって立ってられなくなる。……昨日のトマトみたいなね」
「……これでも十分ましになってきたと思うけどな。初等部の最後あたりまで、バケツの水がひっくり返ったりするだけで駄目だったし」
「誰かさんが一発顔面殴ってくれたおかげでね」
シュンはふてくされたように口を尖らせる。
「……え?」
その時、チャイムが鳴った。
「さてさて、暗い話はおしまいにして教室に戻ろうか」
シュンもヨシタカもいつもと変わらない笑みを浮かべている。
それがなんだか悲しかった。
教室に戻る途中の廊下で、僕らはばったりと僕らの教室で授業を終えた先生に出くわした。
「やっばー……」
「大豆生田! お前はまた……」
「せんせー、俺らは戻っていいですか?」
廊下でシュンを叱りつけようとしていた先生はヨシタカと僕を見た。
「俺、ちょっと体調崩してて、コウキは付き添いをしてもらってましたー。結局保健室で手伝いすることになっちゃってたけど」
「そうだったのか……。なるほど、じゃあ教室に戻って次の授業の用意をしているように」
「すみませーん」
「え? ……ちょ、ヨシ君!?」
僕はヨシタカと一緒に先生の横を通り過ぎて教室の方へ向かった。
「そりゃあ、ないよー!!」
「大豆生田、叫んでないで職員室に行くぞ!」
「ちょ、待ってくださいよ!!」
シュンの叫び声が廊下に響き渡った。
*****
夜の道をタカシは光希と歩く。
「……なんか、そんな顔されたら僕が泣かせてるみたいに思えてくるんだけど?」
「……教えてもらったのに何も力になれないのが悔しいんだ」
光希は目に涙をためてタカシをみた。
「あの事よりも自分の事はいいの?」
タカシがそういうと、光希の顔がこわばった。
しまったな、とタカシは心の中で呟き、話題を変えようと思ったがそれよりも先に光希が力強く言った。
「……まだ、怖いし、辛い。でも、タカシたちが辛い思いをしてるのはもっと辛い」
「……そっか」
拳を強く握りしめ、前を見つめている光希の姿は少し前よりもずいぶんと変わった。
――また、立ち直り始めてる。
きっと、光希は自分の過去の事をのりこえられる。
けれど、せっかく乗り越えた先に『タイムリミット』があったとしたら……。
……いや、今はまだ考えるのはよそう。
二人はこの日も同じようにタカシの家に戻るのだった。
作者の千秋梓です。
なかなか更新できない挙句、非公開にしてしまっていたこの作品ですが、近々話の流れなどを変更して新作として投稿することにしました。
今までの設定を使うものの、別物の作品という扱いになってしまうかと思います。
今までご愛読ありがとうございました。
もしよろしければ新作としてあげた時もよろしくお願いいたします。