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真ッ赤ナ地面…… 3 4日

 屋上は風が吹いていて、少し寒かった。

「さてさて、コウキ? 何が知りたいんだい?」

 シュンはいつもと同じようにおどけてみせた。

「え、や、その……。何か訳ありっぽかったから」

 何が知りたいか、と聞かれるとこれとは言えなくなってしまった僕のかわりにヨシタカが口を挟んだ。

「お前の事に決まってるだろ」

「んー、じゃあふざけるのはやめて、ちょっと真面目な話をしようか」

 シュンがコンクリートの地面に座り込んだ。

 僕とヨシタカもシュンの隣に座る。

「僕とヨシタカは幼馴染みだけどさ……。実はもう一人、いたんだよ。すごい仲のよかった幼馴染みが」

 タイミングよく一時間目を報せるチャイムが鳴った。


*****


「なぁー、将来の夢って決まってる?」

 いつものように集まったシュンの部屋のテーブルに原稿用紙を広げ、ヨシタカはため息をついた。

「俺、無いんだけど」

「安心しろって。俺も決めてない!」

 ヨシタカの隣でチヒロが胸を張った。

「チヒロ、それ自慢できる事じゃないよね?」

 シュンは苦笑いを浮かべる。

 それを聞いたチヒロは口を尖らせた。

「なんだよー。じゃあお前はあんのか!?」

「ううっ……」

 シュンは言い返せなくなり、うつむいた。

 しかし、少ししてから静かな声で言った。

「校長先生と政治家には絶対なりたくない」

「それは、お前のじーちゃんととーちゃんの職業だろ」

「うん」

「何で?」

 ヨシタカが首をかしげると、シュンはキュッと唇を結んだ。

「……だって、仕事ばっかりなんだもん。それに、僕に同じ職業につけって言うんだ」

「そりゃ……ドンマイ」

 チヒロは気まずくなったのか、シュンから目をそらした。

 シュンには政治家の父と高校の校長である祖父がいる。

 シュンの祖父は、三人の通う学校の高等部の校長だ。

 シュンの母はシュンが初等部に入学した頃に病気で他界していた。

 三人は四年生になると必ず書かされる『将来の夢』という題名の作文について考えていた。

「……でも僕、一応夢はあるよ」

「へっ?」

「なんだと!?」

 二人に迫られ、シュンは控えぎみに言った。

「お医者さん」

「医者!?」

「うん」

 シュンは少し楽しそうに話し始めた。

「だって、人をきちんと自分の手で助けられるお仕事だよ? ……あの人達とは全然違う」

「俊……」

 そのとき、急にチヒロが立ち上がった。

「決めた!!」

「「!?」」

「ちょと、急に叫ぶなよ。ビックリするだろ?」

「あ、わりぃ」

「き、決めたって、将来の夢?」

 シュンの問いにチヒロは首をぶんぶんと縦にふった。

「俺、政治家になる!!」

「えええ!?」

 チヒロの言葉にシュンが驚いて叫んだ。

「な、何で!?」

「何か、シュンの話聞いてると、『政治家』っつー職業がおかしいって風に聞こえる。何かそれって違うと思うよ。だから俺が政治家になって、きちんと子供の面倒も見れる政治家だっているんだって、お前に教えてやる!」

「ち、チヒロ、きちんと自分のなりたいのを選んだ方がいいって……」

「じゃ、俺先生になるわ」

「ヨシタカ!?」

 シュンが二人を交互に見る。

「んで、俺とチヒロとシュンの子供に、一緒に授業教えてやるんだ! あ、俺は別にシュンの話を聞いて決めた訳じゃないからな!! 校長じゃなくて、先生!」

「ヨシタカ、成績悪いじゃん。やれんの?」

「うぐっ……。や、やってやるし!! 何なら罰ゲーム決めようぜ。その職業になれなかったやつの」

「望むところだ!!」

「ちょ、二人とも落ち着いて考えようよ」

「じゃ、お前なれなかったら最新型のゲーム買えよな!!」

「ばぁか、今最新型のゲームなんて俺らが大人になったら最新じゃねえよ!!」

「バカは余計だ!!」

 二人は何故か取っ組み合いになっている。

 ……けれどこの日、確かに三人は約束した。

 それぞれの夢を叶えようと。


 成績の悪かったヨシタカの成績は上がっていった。

 チヒロはどんどんリーダーシップを発揮し、周りの人間をまとめられるようになった。

 シュンはもともとよかった成績を更に伸ばし、順位は一番をキープするようになった。


 けれど、すぐにそんな約束は薄れていった。

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