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Chip's Cat   作者: 遠夜
5/10

カシルの町で

『天蓋騎士団』の通り名は広く世間に浸透していても、『ジグラッド』という国の実態について詳しく知る他国人はそう多くはない。

ほんの一昔前まで流刑地代わりに罪人が追いたてられるような土地であったため、一般人から忌避される傾向が強い事も含めて、害獣で溢れ返る樹海に近付こうとする酔狂な者など滅多に現れないからだ。




「ミケ、ミケ。あの屋台すっげえ旨そう!パンに好きな具を挟んで食うヤツ!」


「んー?どれどれ…」


「あっ!あっちの揚げてるヤツも捨てがたい~。むぅ~、悩むぜ」


「…ちょっとは落ち着けって、タマ。食いもんは逃げねえんだからさー」



カシルの町の目抜通りの両側にところ狭しと並ぶ屋台や露店の間を、パタパタとせわしない足音を立てて歩き回る二人の子供。

既にその手には幾つもの食べ物の包みが抱えられ、口許はモグモグと忙しく動いている。

好奇心丸出しの少々落ち着きのない態度ではあるものの、子供の行動としてはごく当たり前の部類に入るもので、嬉々として買い食いに走る二人の姿が町中を巡回する兵の目に留まったのはたまたまの事だ。


「――――見ない顔だな、お前たち。どこの子供だ?」


後ろから不意に声をかけられはしたものの、浮浪者時代と違って気分的に余裕がある二人は、口いっぱいにほお張った食べ物をモシャモシャと咀嚼をしながらゆっくりと振り返った。

そして自分達を呼び止めた相手がまだ若い兵士の二人連れだと分かると揃って首を傾げ、返事の代わりに直球で疑問を投げつけた。


「―――オレらまだ何にも悪さはしてないぜ?ちゃんと金は払って買い物してるし。それともにーちゃん達『買い』の客か?悪ィけどオレら客は取ってねーんだ。しかも男とかありえん」


「そーそー、オレらまだ清いカラダだしさー」


「「違―――う!!」」


青年兵二人の声がキレイにハモった。

どちらも見た目は十代後半から二十歳ほどと若いが、揃いの腕章を着けているところから同じ組織に属している事は一目で判る。


「ここら辺は俺達の庭みたいなもんなんだが、お前らみたいな目立つガキんちょ見たことが無かったんで確認したかったんだよ!」


「―――おい、ソーマ。こいつら“腕輪”してるぜ。新入りだ」


「うぉ、マジか…、お前ら根性あるな。あの樹海もり越えて来たのか!」


「どっかの商隊に同行して来たんだろうさ。団体さんなら護衛の数もそれなりに多いだろうし、隊列の間に挟まれてりゃ気分的に幾らかマシなはずだ」


「「……………」」


「総勢三名様で走破しましたー」とか、絶対言わない方が良いに違いない。面倒臭そうな匂いがする。

二人の子供はチラリと視線を見合わせ、早々に会話を打ち切りにかかった。


「オレらこれからとーちゃんと待ち合わせなんだ」


「遅れると心配させるから、もー行くよ」


「そうなのか?じゃあ取り合えず名前だけ教えといてくれ」


「オレがタマでこっちの派手な髪色した方がミケだよ」


「………猫みてーな名前だな」


「俺はソーマ。で、相方がハヤトだ。俺達はカシルの守護隊の所属だから大抵この町で見廻りとかしてる。なんか困った事があったら相談くらいは受け付けるぜ?」


相手は中々の好青年であるものの、二人の子供にしてみれば長年身に染み付いた習性のようなもので、官憲の類いというだけで警戒対象として見てしまう。

常に飢えと隣り合わせの生き方で、スリや万引きの真似事が日常茶飯事とあっては、どこの土地でもいわゆる『お役人』と仲良く出来た試しが無かった。


「「そりゃどーも…」」






待ち合わせを口実に使った件もあって、その後は昨日食事をした『火竜のカマド』亭に直行する事で二人の意見が一致した。


「これ以上面倒なヤツにからまれたくねー」


「……気分的に疲れた。なんか甘いもん食おーぜ」


幸い店はすぐに見つかったものの、扉にはまだ準備中の札がぶら下がっていたため、二人は揃って落胆の声をあげる事になった。


「え~、まだなのか~」


「……ちぇー…」


すると、ションボリと肩を落とす二人組の後から新たな客がやって来たらしく、ドカドカという足音とともに真後ろから威勢の良い声が降ってきた。


「なんじゃ、まだ開いておらんのか!ちと早く来すぎたかのー」


その声につられて振り向いた二人は、思わず目を丸くして首を上向ける。


(……でけー女)


(しかも派手…)


そこには並みの男より遥かに立派な上背をした迫力美人が腰に手を当ながら立っていた。

『燃えるような』と表現するのがピタリとはまる豪華な赤毛を背中に流し、一見ごく普通の町の女性が着るような衣服を身に着けている。

いる、が。生憎と雰囲気がこれっぽっちも普通では無かった。

まず眼力が半端無い。

無駄に生気が有り余っているというか何というか、二人の本能は即座に相手が確実に強者ツワモノであると判断を下す。

この時タマとミケが揃って頭の中で北の最果てに棲むという鬼人ヴィークルの女戦士を想像したのはまだお互いナイショの話だ。


「なんの、開いておらねばコッソリ入るまで!わらしらも行くぞ。たのーもーう!」


「「え、何で!?」」


どこがコッソリだ。


そして謎の赤毛美人はどこぞの道場破りのような掛けとともに、たまたま居合わせただけの子供二人を引き連れて未だ開店前の店内に突入したのだった…。











































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