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Chip's Cat   作者: 遠夜
2/10

使用前使用後?

大陸しまに十六ある国の中において、その《ジグラッド》の立場は非常に微妙だ。

国家としての歴史は150年足らずと浅く、国土も僅かばかり。

元はならず者の集団であったものがいつしか《国》として機能し始めると、それに伴い荒くれ者を束ねる頭は《総代》を名乗って、武力を統括するようになったという。


かつては『流刑地』と同義語であった樹海と岩山ばかりの過酷な環境にも、適応する人間が居たわけだ。


やがてかの国は民を養う為に『兵力』を切り売りし始め、それが時を経て国を挙げての事業に発展してゆくのだが、その『兵』の戦闘力の凄まじさ、統率力の高さが瞬く間に周辺諸国に知れ渡ると、ジグラッドの傭兵部隊の名は恐れを以て語られるようになる。


金子次第で如何様にも立ち回る在り方を蔑む者がいる傍ら、報酬分はキッチリと成果を上げる彼等に畏敬の念を抱く同業者は多く、ジグラッドの傭兵部隊を他所の傭兵組合ギルドの兵と一線を画して扱う事に異論を唱える者は少ない。


いつしか付けられた通り名が《天蓋てんがい騎士団》。


天蓋てんがい山脈の峰にある主都ジグラッドにちなんでの呼び名らしいが、余りにも仰々し過ぎて当人達がその名を名乗る事は無いという。











「――――とまあ、こんな感じなんだが…」


「「ふーん…」」



何の気紛れか男の提案に乗っかる形で二人の子供が帰国の旅に加わって二月半。

三人が再会した宿場町から小さな国を二つ跨いで季節は夏に移り、いよいよ男の故郷が近くなった。


荷物を括りつけた馬の手綱を引いて歩きながら、「ジグラッドってどんな国?」という質問に男がざっくりとした説明をすると、タマとミケからは分かったような分からないような相槌が返ってきた。


「ま、着いてみりゃ分かるさ――――おい、お前ら。人通りが多くなってきたからアタマ隠せよ」


「りょーかーい」


合点ガッテン承知~」


男が何故こんな事を言うのかといえばそれは、『目立つから』の一言に尽きる。


この顔触れで再会を果たした直後、男は浮浪児二人のあまりの汚れっぷりに、井戸端で二人まとめて丸洗いにしたのだが。

素っ裸に剥いて石鹸で何度も洗い流し、替えの衣服に袖を通した子供を正面から見て、男は顎を落とした。


――――誰コレ。


タマは薄汚れて灰色にしか見えなかった髪を洗った事で、銀灰色の地毛に純白の房が混じるキラッキラの斑髪があらわになり、大きな青紫の目が印象的な美童という凄まじい化けっぷりを発揮。

ミケに至っては頭髪が左右と前髪で白・オレンジ・ピンクと染め分けたような派手な組み合わせの上、どの角度から見ても美少女にしか見えない有り様で、ペリドットの艶をまとった目の色がどことなく猫の瞳を思わせる妖しげな雰囲気を漂わせている。


(あ、これ駄目だ)


―――――男は直感的に悟った。

こいつら放置したら最期、女衒ぜげんに売り飛ばされて色町行きだと。


実際男がこの二人の顔を出したまま連れ歩いていたら、何度もその筋の商売人と間違われた。

一晩幾らだの買い取らせろだのと言い出す輩の多い事多い事。

いちいち勘違い野郎の相手をするのが煩わしくて、男は二人に人が多い場所では極力被り物で顔を隠すように言い含め、厄介な視線をかわしながらなんとか平穏無事に旅を続けてきた。


口には出さずとも二人の反応には『慣れた感』が滲み出ている事から、寧ろそのての厄介事トラブルは日常茶飯事で、あえて薄汚れたていを装い人目を引かないようにしていたのではないかと、男は今更ながらに思い至った。




一方の元浮浪児二人組は慣れた仕草でストールを頭に巻き付けると、お互いの身嗜みだしなみチェックをするように顔を近付けて、何やらボソボソと小声で会話を交わしている。


「でもハイネのおっちゃんも随分お人好しだよなー。馬があるのにオレらに合わせてずっと歩きでさぁ」


「おまけにこの道中、宿も飯もみんな世話してくれちゃってるし?」


「オレらが途中でトンズラしたらどうすんのかね」


「――――するのかタマ?」


「まっさかー!あんな気前の良い金ヅル他にいるかってのー!」


「だよなぁ!んじゃ、当分の間コキ使われてやるか。飯と寝床には困らなそうだしな! 」


二人は密かに元傭兵の男にかなりの高評価を下した。


男が予想した通り、二人は必要以上に薄汚れた身形を装う事で自分達の容姿が目立たぬように、間違っても人目を引いて要らぬトラブルを呼び込まぬようにと、息を潜めるような生き方をしてきた。


だからこそあの街で急に声を掛けられ、何度も自分達を見掛けたと言う男に当初は強い警戒心を抱いたものだ。

だがその男に銀貨を握らされ『もう会うことも無いだろうから』と告げられて、二人が少しばかり興味を覚えたのは自然の成り行きでもある。

薄汚い浮浪児に良からぬ目的以外で近付いて来る輩など今まで誰ひとりとしていなかったからだ。


二人が持ち前の勘の良さで感じ取った“予兆”を男に告げたのも、ほんの気紛れにしか過ぎない。

信じても信じなくてもそれは男の自由。―――運は天に丸投げされていた。


その数日後に道端でひょっこりその男に再会する事になるとは、その時二人の子供も全く予想だにしていなかった。






街道を地道にてくてくと歩き続けた一行は、どうにか日暮れ前にジグラッドとの国境に位置する町まで辿り着く事が出来た。


「今日はこの町で泊まりだ。しっかり食って寝て身体休めておけよ。明日は装備を整えて樹海入りだ」


「……マジでー?」


「うーわー…」


ここまでの道程は多少危険があると言っても整備された街道での事で、追い剥ぎや悪天候での野宿の心配だけをしていればよかったのだ。


パッと見うだつの上がらなそうな四十路よそじハイネは、今まで単身子連れという点から何度となく頭の悪そうな破落戸ごろつきに金品目的で絡まれ、その都度適当に相手を蹴散らしてきた。

明日からはそこに野生の獣やら妖獣やらの襲撃が加わる可能性が高いという。


天蓋山脈の裾野は全て樹海に覆われており、ジグラッドに行くためにはどうしても樹海を越えねばならないのだ。


「…とんだ野生の王国だよなぁ。どうするミケ?」


「ここまで来たんだし、行くしかないっしょー。一宿一飯どころじゃない恩もあるしさぁ。何よりオレらの大事な金蔓だし!」


「だよなー…」


「…お前ら。そういう会話は俺の聞いていないとこでやれ」


「「あ」」


































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