違う現実
18:38
「はあ、はあ、はあ、」
「どうした?」
ガシッ!
まなぶは突然つとむの胸ぐらを掴み、壁に追いやった。
「くっ、はっ……、な、んだ、、よ……」
「ふざけんなよ…てめぇ、殺す気か?」
「く、、るしい……、俺が……死ぬ…」
つとむの表情は、いつもと同じ、いや、苦しんでいた。
「や…、め、……」
どんどん力が抜けていくつとむを見て、パッと手を離す。
「ゴホッゴホッ……はあ、はあ、はあ、何、すんだよ……」
「いや…お前が……」
何も変わらないつとむに対し、落ち着きがないまなぶ。
「殺そうと……」
「落ち、着けよ…。未来で何が」
「お前に殺された」
18:40
「え?」
つとむは状況を飲み込めなかった。殺す気など、微塵もないらしい。
「えーっと、よくわかんないけど、未来行ったんだよね?」
「……、ああ、」
「で、俺がまなぶを殺したと」
「ナイフで心臓をグサリってね」
「……クスッ」
「え?」
「あははははは、なるほどね。そりゃ、俺が殺されそうになるわな。だって、俺に殺されるんだもん」
やはり、まだ未来の通りにと思い、つとむの表情を見つめる。そこには、涙目で安心しきった顔があった。
「逆の立場でもそうしたね」
一人で納得したかのようにつとむは頷いていた。まなぶは、キョトンとしている。
18:43
「つとむは……俺のこと刺すのか?」
「ない、ない笑」
「……わけわかんね」
まだ、死ぬ可能性はあった。未来から戻って7分は経過していない。残り2分もないわずかな時間で、少ない可能性に怯えていた。つとむとは、別れたがどんな状況であれ、死から逃れたのか、それだけが不安だった。
18:44
プァッーッ!!キキーッ!
「どこ見てんだっ!!」
「……あ、っ、…」
信号は赤だった。車は奇跡的に止まり、事故まで発展はしなかった。
18:45
7分経ったが、あの死んだ瞬間の映像が頭から離れなかった。感覚はない。しかし、記憶はある。死ぬ可能性はなくなったが、脳が死んでしまったかのようだ。
その日は、目が冴えたまま朝を迎えた。