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CAIL~英雄の歩んだ軌跡~  作者: こしあん
第一章~集結~
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第九話―帝国部隊長会議

 




 

「いやぁ~、それにしても似とるなぁ自分ら。ほんまに双子やん。そんな包帯グルグル巻きにしてたらどっちがどっちか分からんで? あ、カイル、コレ食べるか?」



 ジャックは皿いっぱいに乗せられた料理を突き出す。湯気が僅かに立ち上るそれは食欲を強く刺激する香りを放つが、



「俺はリュウセイだ!」



 ジャックが話しかけたのはカイルではなかった。



「俺がカイルだ! ちゃんと見分けてくれよオイ!?」


「嘘やんっ!? あっちゃー、やってもた。


 なぁ、見分け方とかあったら教えてーな。このままやったら、ほんまに分からんわ」


「「強そうなのが俺だ」」


「一斉に喋るな双子っ! しかもセリフも一緒やしそんな基準分からんわ相打ちしたやろうが己ら!!

あぁもう!! さっさケガ治さんかいっ! 服で見分けるからっ! ってかなんでケンカしとんねん!?


 軽いケンカならまだエエわ。何マジ喧嘩して大ケガしとんねん! しかもカイル!! お前ウィルとやりあったときよりボロボロやぞ!?」


「「それはコイツが悪い」」


「もう黙れ!」



 ちなみにここはカルト山の中腹にある洞窟の中である。洞窟の中には生活空間が形成されていて、机が一つ、ベットが二つに食器、キッチン、本棚まで完備していた。洞窟の中なのに、カイルが住んでいた小屋より居心地が良さそうである。


 地面に落ちても口喧嘩をしていた二人はゲンスイとジャックに担がれ、ここまで連れてこられた。ちなみにカイルはリュウセイと戦った言い訳をユナに説明しきれず、ゲンスイの男の治療という薬草をたっぷり染み込ませた包帯をグルグル巻き付けるだけの処置を受けた後にこっぴどく怒られた。


 余談だが、説教を始めたとき、リュウセイとカイルの見分けがつかずに、ユナがリュウセイを怒っていたことは誰の記憶にも残っていない。

 


「なんやねん、兄弟でここまで戦うとか有翼族っちゅうんは戦闘種族なんか?」


「ハッ! もしかしたらそうかも知れねぇな」


「戻った記憶も戦いの練習しかしてなかった気がするなー。まぁコイツとの記憶は勝負事ばっかだな。完全に戻った訳じゃないけど、多分あってるんじゃないか?」


「認めるんかいな……」



 ガクッとうなだれるジャック。するとキッチンからユナがひょっこりと顔を覗かせた。



「ジャックさん。早く食器を下げてください。お話しならゲンスイさんも一緒に皆でしましょう」


「了解やー」



 盛り付けられた料理を口の中にかきこんでジャックはさっさと皿を下げにいく。慣れた手つきで食器を洗い終えると何故かユナの隣にじっと立っていたゲンスイと一緒にカイル達のベッドに集まる。これでユナ、カイル、ジャック、ゲンスイ、リュウセイの五人が集まった。



「まずは自己紹介からですね」


「そうじゃな、まずは互いのことを知らねば。ちなみに隠し事はナシでいこう。お互いにその方がこれからの為になるじゃろう」


「え……あの……」



 ユナが明らかに動揺する。闇属性のことを話すべきか、迷っているのだろう。見かねたジャックがそっと助け船を出す。



「あー……ゲンスイ? どーしても言われへん事情は言わんくてもええ?」


「内容によるのう。例えば、ユナちゃんが闇属性を有しているという事実程度なら隠す必要はないぞ?」


「なっ!?」


「はぁ??」


「ええ!!?」


「……どこで知ったんや?」



 カイル、リュウセイ、ユナの順に驚き、ジャックだけが冷静に事態を見る。


 少々緊張した空気を生み出す発言をした当の本人は、ゆったりとした表情で空を見つめていた。



「いや……知った、と言うよりは気付いた、じゃな。そもそも闇属性でもないのにその闇属性の魔具をつけておるわけなかろう」



 そう言うと皆がユナのブレスレットを見る。黒く、黒く漆黒一辺倒のブレスレットを。ユナはブレスレットを隠すように握りしめた。



「なんでや? ワイですら気付かんかったユナちゃんの闇属性の魔具に、どうして自分が気付けた?」


「見たことがあるからじゃ、闇属性の魔具をのう。闇属性の魔具というのは異なモノじゃ。その魔具は必ず漆黒である上、どんなことがあっても所有者を離れることがないという不思議な特性を持つ。


 まぁ、ぶっちゃけほとんど勘じゃがの。その黒のブレスレットを見て、闇属性を連想しただけじゃ」


「闇属性の魔具を見たことがあるんか? そんなもんワイですら見たことなかったで?」


「いや……ジャックも見たことがあるぞい」


「なんやて? どこで見たっちゅうねん」


「まぁ、待て。順を追って話すわい。


 さてカイル君にユナちゃん。ワシの名はゲンスイと言う。

使う属性は水。種族は超人族ハイヒューマンじゃ。

珍しい種族での、能力がないので亜人族ではない。ただ普通の人族では考えられない身体能力と魔力を持つ種族じゃ。魔具で霧と陽炎を生み出し、その中で刀を振るい戦うワシの姿に帝国軍は、




    〝斬影きりかげ



 とワシをそう呼び怖れた。そして先の反乱軍の全軍総大将を務めた経験がある」


「全軍総大将!? あなたが!!?」


「それって凄いのか?」


「凄いも何も、帝王に次いで人類最強とまで吟われた剣術の天才! 付けられた異名は数知れません!

 〝斬影〟〝剣聖〟〝人類の救世主〟〝智将〟……そして戦闘能力だけでなく、知略にも優れた才能の権化みたいな人間ですよ!

でも、最後の反乱軍撤退戦で命を落としたと聞いていたんですが……」



 捲し立てるように喋り、ユナはゲンスイを誉める。とうの本人は褒められて照れるとか、嫌そうな顔をするというわけでもなく、穏やかそうな表情を保っていた。



「ユナちゃんそれは誉めすぎやで……ワイも死んだかどうかは半信半疑やったけどな」


「その通りじゃよ、確かにワシは剣士として高みには立ったが、知略にまで優れておると言うわけではない。ワシの方こそジャックは死んだと思うとったぞ?」


「ワイは偶然死なんかっただけや。それにゲンスイ、知略に優れてない言うんは謙遜し過ぎやわ。アンタの指示で、どんだけ危機的な局面を乗り越えられたと思ってんねん」



 ジャックの発言で、少し空気が変化した。ゲンスイの纏う雰囲気が鋭くなり、カイル達が緊張で汗ばむ。これから話すことは冗談ではない、心して聞け、そう言っているように思える圧力がそこにはあった。




















「それが、ワシの指示じゃなかったとしたら?」


「どういう……意味や?」


「そのままの意味じゃよ」


「ゲンスイさん以外の誰かが、ゲンスイさんのかわりに反乱軍の作戦を考えてたってことですか?」


「そんなことしてどんな利益があるんだよ? よくわかんねぇけど、作戦を考えて勝ったら、名誉とか名声とかが貰えるんじゃないのか?」



「それじゃよ、カイル君。



 名誉や名声などの全ての“注目”が〝彼女〟にいかない為にワシはあたかも自分が作戦を立案し、指揮したように見せかけた。

強いて言うなら注目されないことこそが利益じゃ」


「ゲンスイさん……それってもしかして……」


「あぁ、多分ユナちゃんの想像通りじゃよ。反乱軍時代のワシの立てた作戦、指示は全てワシのものではなく、その全てを考えたのは彼女じゃ。反乱軍唯一の闇属性であり……【未来予知】の【能力】を持っていた……







 名はスミレ。ワシの愛する孫娘じゃ」







――――――――――――――――――――





「でハでハ~、臨時ノ帝国部隊長会議、始めルヨ~」


 円卓に九人の人間が並び、座っている。その面々は女だったり、男だったり、子供だったりと、様々である。

だが、この場の人間は見るものが見れば、腰を抜かして気絶するほどの面子であった。


 少年がのんびりと言った様に、これは帝国部隊長会議だ。つまり、帝国軍の全ての部隊長がこの円卓に集まっているのだ。もちろんその中にはカイルが倒したウィルの姿もある。


 臨時部隊長会議とは反乱軍が新たに出てきた、新しい闇属性が見つかった、今まで隠れていた新たな種族が出てきた。等の緊急性の高い事態にのみ開かれるものである。


 場所は帝王が鎮座する城の一角、窓はついておらず、壁に並べられた蝋燭の明かりが、この場を照らす唯一の光。お互いの顔がわずかに視認出来る程度の明かりが妖しい雰囲気を漂わせ、円卓に座る者に圧力を与えているかのようである。



「今回の議題ハァー……そこにふてぶてシク座ってイル〝最弱〟の部隊長ウィルが、ドコの馬の骨とも知れナイ奴にボッコボコにさレタ挙げ句堂々と我らが帝王に宣戦布告さレタことダヨ~♪


 それカラ、ウィルにどんな罰を与えようカ、っていうのも考えようネ☆」



 この中で一番若い、少年の姿をした部隊長が今回の議題を述べる。

発音に違和感を感じる口調だが、これは彼の個性なのか、この場の誰も咎めない。

そして、小さな少年がこの雰囲気の中で一切の気後れなしに部隊長たちに話しかけ、会議を仕切る姿は異常だった。



「トイフェル殿……妾達はたったそれだけの為に集められたのか?」



 トイフェルと呼ばれた少年から向かって右側の女が、漆黒の扇子で口元を覆いながら話す。佇まいは凛としており、言葉が突き抜けるように部屋に響く。



「それだけダヨー、一応、反乱者は出たワケだし、仮にも部隊長の一角がボッコボコにさレタことは緊急性の高イ案件だと思うヨ?

とりあえズ……ナニか言うことはあるかイ? ウィール君♪」



 トイフェルという少年部隊長に無邪気な笑みを向けられたウィルは、少しの沈黙の後、喋り出す。



「私がこの中で一番実力が無いことは分かっています。

ですが相手は想像以上に強く、高い戦闘技術を持ち合わせていました。そしてなにより桁外れの魔力を有していました! 私では倒せなかったのも当然かと……」



 それは誰がどう聞いてもみっともない負けたことの言い訳だった。ウィル以外の八人の部隊長が冷めた目でウィルを見る。

と、その内の一人、



「桁外れなんて、テメェの基準だろうが。んなもんどうでもいいんだよ。みっともねぇ言い訳くっちゃべってんじゃねぇ。どうせテメェの実力なんて、大したことねェんだからよ。さっさと敵の情報話して罰されろクズ」



 ウィルから左に二つの席に座るガタイの良い男が低い声で罵る。幾千もの死線を越えてきたかのような気風を持ち、鋭い目付きがウィルを射ている。ウィルは少し反論しようとしたが、諦め、小さな声で話し始めた。



「……敵は三名です。

闇属性の女、名前は不明、種族も不明。帝国が何度か捕捉している女かと思われます。


 もう一人は元反乱軍、魔具職人部隊隊長。

ジャック・ドンドン。地属性の男、種族は小人族ドワーフ


 最後は経歴不明、火属性の男、カイル。有翼族にして……私を倒した男です」



 苦々しげにそう呟くウィル。カイルにやられた屈辱を思い出しているのか、拳が硬く握られている。



「ほう、妾と同じ闇属性か。それならば少しはここへ足を運んだ甲斐もあるというものよ。


 帝国内で現在確認されておる闇属性は妾と帝王様。それと“ハクシャク”を含めて五人。その内の一人がそやつらと行動しておるのなら、捕らえやすいというものじゃ。


 帝国が手中に納めている小娘……スミレと言ったか? あやつの【未来予知】は便利じゃからの。その小娘は一体どんな能力を持っておるのか……楽しみじゃのう」



 舌なめずりする女の目は爛々と輝き、蛇のように遥か遠くの獲物を狙う。



「ジャンヌ・ド・サンス殿は相も変わらず闇属性に執心。ハクシャクも帝王様も闇属性のことが気になっている様子。我が頭では理解が不能」



 ウィルの左隣の男が全く抑揚のない声で話す。黒いターバンで顔中を包んで、片目だけが出るようにしている。



「マァ、闇属性だもんネ、興味が湧くのもわかるヨ。彼らの能力ハ面白いもン」


「ぅぉおい………話がズレて来てんぞぉぉ………酒も出ねぇ会議ぃらんてぇもんはぁ……退屈でぇ退屈でぇ……ヒック。どうりかぁ、らっちまいそうだぜぇ……」



 明らかに酔っ払った男が進言する。呂律の回らない喋り方ではあるが、言っていることは的を射ていた。



「アァ、ごめんヨ、アジハド♪ さて、と、じゃア、ウィルの罰はどうすル? ナニか面白イのはないカナ?」


「アタイの専属奴隷になるってのはどーよ? たーっぷり可愛がってやるぜぇウィル?」



 はすっぱな口調で、鼻につく話し方の女が発言する。内容は帝国の会議の発言とは思えない不埒なものだが、このような発言に慣れているのか、誰も咎めることはしなかった。



「断らせていただく、私が罰を受けねばならぬことは理解しているが、私と貴殿方は立場は同じである筈だ!


 ゆえに罰は帝王様より与えられたものしか受け付けない!」



 調子の良い発言をするウィル。帝王に対する忠誠心だけが取り柄のような男が強めにその女の部隊長に反論する。


……が



「ナマ言ってんじゃないよクソガキ。アタイらとあんたが対等だって? 寝言は寝てから言いな。ここは実力がモノを言う帝国軍だ。

同じ部隊長でも〝最弱〟のアンタとアタイらは対等じゃねぇのさっ!」



 女は円卓の上に一足で飛び乗り、ウィルのすぐ眼前にその体を落ち着ける。

そして、じっとウィルの眼を見つめた。

その女の目は真っ赤に輝き、見るものを威圧し、取り込むかのような強かさを備えていた。


 見つめられたウィルはその眼から目を離せずに、体が硬直して……。いや、そんな生易しいものではない。

ウィルの動きが、完全に止まっていく。

足元からその〝静止〟は始まり、今ではウィルの顔まで……



「ソコまでだヨ。その“眼”を使ったんジャ、罰にならないじゃないカ。抵抗した所でどうセ罰せられるんダ。


 止めなヨ」



 先程とは変わらない口調だが、確実に殺気が込められているトイフェルの言葉。チッ、と舌打ちを漏らした女は元の席、トイフェルから見て右へ三つ目の席に座った。その左には先程の酔っ払いの男が座っている。よく見るとイビキをかいていた。


 今まで女に見つめられていたウィルは急に動き始め、肩で息をしている。眉が寄せられ、皺をその額に刻んで、汗を滴らせ、強烈な苦悶の表情を浮かべていた。



「さ・て・ト☆ ナニか案のある人はいないノー?」



 そんなウィルを無視するように殺気が込められていない口調でトイフェルが続ける。



「敗けた者に情けは要らず。不要な問答を続けるは愚の極みなり。死を以て償わせることを、辛辣なる儂は提案す」



 腹の底に響く重い声がトイフェルの左から聞こえる。座っていたのは、壮年の男。その見た目こそ老体だが、発する気迫は尋常でははなかった。



「それもマァ、有りっテ言えバ有りなんだけド……何か面白くないジャナイ? だかラもっと他の意見ガ欲しいナ♪」



 トイフェルは、そんな男の発言さえ軽く流す。しかも死を以て償わせる、つまり死刑という罰を面白く無いからという理由で却下し、その発言に対して誰も反論しないという現実が、この少年の異常さをさらに際立たせていた。



「やっぱりアタイの奴隷でいいんじゃねぇか?」


「キミはそれで楽シイだろうけどサ、ボクは楽シクないんだヨ。だから別のにしようヨ☆」


「zzz ……」


「ほらっアジハドだって賛成だってよ!」


「ただのイビキだヨ! 折角の処罰なんだからもっと面白いのないのカイ!?」


「トイフェル殿に意見を具申」


「ン? なんダイ?」



 無感情ターバン男が再び口を開く。口調は相変わらず抑揚がなかった。



「我が管轄している実験場で今行われている新たな試み。それは魔具に二つの【能力】を付与すること」


「ヘェ……」


「それは……」


「ふむ……」



 部隊長の中から声が上がる。それは興味だったり、驚きだったり、感心だったりと様々なものである。


 ちなみに部隊長を唸らせるこの技術は一年ほど前にジャックが完成させていたりする。



「実験班は同時に二つの【能力】を発現させるために合成獣を作ることを検討。

例えば、【身体強化】と【魔力強化】の二つの【能力】を持つ二匹のモンスターを合成し、二つの【能力】を保有させる、そのようなことを実行中」


「そんなに上手くいくもんなのかい?」


「完全に合成できた場合それは上手くいくと踏んでいると推量。現在のところの合成手段は半分に切ったモンスターを繋ぐ、異種交配、等であるが、いくつかのモンスターでは二つの【能力】の発現を確認。




 ……がそれらはとても実戦で使える代物ではなく、とても成功とは言えない。例を挙げると、先程の二つの【能力】、【身体強化】、【魔力強化】については合成され、二つの【能力】を有したモンスターが誕生。

だが、合成獣の素材が異常に脆かったり、加工できないほど堅かったり、軟体だったりと、成功の【能力】は得られても魔具へと加工するのは到底不可能。

これから先十年単位の時間をかけてやっと完成する技術だろうと我々は推測。


 故に、実験班は方針を変更。時間がかかる実験は後回しにして、すぐに効果を確認できる実験に。


 それは魔具に二つ分の【能力】を持たせるのではなく人間に二つ分の【能力】を持たせる試み。


 モンスターの時と同様に、人間の身体とモンスターの身体を接合。腕をモンスターの腕に、脚をモンスターの脚に、といった具合」


「妾にはそちらの方が完成させるのは難しいようにも思えるがの」


「だが、この実験は既に実用段階を視界に捕捉。何人かの人間が同時に二つ分の【能力】を発現している。

さらに亜人族でない獣人族なども【能力】を持つことが可能」


「なんと……」



 ジャンヌから驚嘆の声が漏れる。他の部隊長も驚きを隠せていない。何人かは声を漏らしているし、トイフェルは目を輝かせている。



「それデ? 今の時点での問題はなんダイ?」


「二つの【能力】を発現出来たのが、亜人族だけだという点、強力な【能力】を体に入れると絶命する点。この二点。


 元々の身体能力や、魔力が高いほど成功確率は高いと予測。実はこの実験には多大な痛みが伴う。異種の生物の身体の一部を自分の肉体の一部とすげ替えることによる拒否反応なのか、はたまた一部となったモンスターの身体のなかに意思が存在するのかは不明。

ゆえに被験体には相当な精神力、体力が必要。

しかし、この実験が成功すると新たな【能力】を手に入れるだけでなく、魔力の最大値も跳ね上がることが確認。


 この実験が成功すれば、部隊長のさらなる強化も可能。ゆえに、被験体にウィルを使い、仮説を証明することを望む。

仮にも部隊長なのだから、前提条件の二つはクリア。多大な痛みに命の危険、罰としては充分だと我は思考」



 場を沈黙が支配する。

だが、その沈黙は実験にウィルを差し出すことに対する反対の意思ではない。


 待っているのだ、この場で一番の発言力を持つ人間の答えを。その答えを期待されている当の本人は目を輝かせて……



「乗っタ! それ二しよウ! とっても面白そうダ!


 第九部隊長ウィルは第八部隊長ダンゾウ・ハチスカの管理する実験場での被験体になることに決定♪」


「「「「「「「同意」」」」」」」



 ウィル以外の七人が一斉に了承した後、八人の部隊長がウィルに目を向ける。帝国の精鋭達の圧力の前には、ウィルも観念するしかなく、小さな声で



「同意」



 と呟くしかなかった。




「それかラ、ウィルを倒した三人組の件なんだケド……」


「妾が行こう。闇属性がいるのだ、妾はそやつに興味がある。妾なら、よもや文句は出るまい」


「第二部隊長のアンタが行くなら問題はねぇな。どうあっても三人組なんてゴミクズどもは相手にさえなんねぇだろう。俺は別に興味もねぇ」


「zzz … … 」


「問題はない、ジャンヌ殿が出るなら我は納得」


「アタイも別に構わないよ」



 それぞれが賛成の意を唱える。


 ジャンヌ・ド・サンス第二部隊長。帝王に次ぐ最強の三人と言われる第一~第三までの部隊長の一人である。

そんな女が自ら行くというのだから反対意見が出る方がおかしいというものだ。







 そんな常識は異常を極めた部隊長会議では通用するはずもなかったが。







「ボクが出るヨ」








 場が静まりかえる。シン……と空気が張り詰め全員の視線がトイフェルに注がれる。トイフェルは薄い笑みを浮かべ、それが部隊長達に寒気を感じさせた。

彼がこのような表情をするときは絶対にその意思は覆ることはない。最悪、この場の部隊長を皆殺しにしてでも意見を押し通すだろう。この場の部隊長の一人--ジャンヌはこの少年との出会いを思い返す。



――此奴が帝国軍に加入したときもそうじゃった。歪んだ笑みを浮かべ、帝王様に条件を突きつけた。

最初聞いたときは此奴の人格を疑った……帝王様の見る目も狂ってしまわれたかと思った。

〝神童〟などと言われたこやつはただの狂った少年だと思った。


 じゃが、違った。人格は破綻しておるやも知れんが、帝王様の評価は間違いではなかった。こやつの〝強さ〟は規格外じゃ。帝王様を彷彿とさせるほどに。帝王様には及ばぬが、それでも間違いなく、帝王様を除けば人類最強は此奴……




 帝国軍に入る条件として月一回の帝王様との決闘を要求し、今なお続けているこの男。


 第一部隊長トイフェルに間違いないじゃろう――



 反対はおろか賛成の意見も出ないまま、トイフェルがカイル達を追撃することが決定した。















 

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