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CAIL~英雄の歩んだ軌跡~  作者: こしあん
第三章~絶対強者との邂逅~
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第八十一話一帝国最強の豪傑たち

 





 突然現れた帝王という存在に、空気が凍りつく。

実際にその姿を見た者はほとんどいない存在。

いや――いるにはいたが、皆死んだ。

十一年前、帝王がその力の限りを尽くした征服戦争において何十万、何百万もの人間が帝王の前に立ちふさがり、羽虫の如く蹴散らされたのだ。


 敵うものなし無敵の覇王。絶対強者。

あまりの強さの故に、魔族、魔王と呼ばれた唯一無二の存在--帝王。



「あれが……帝王、なんか?」



 ジャックですらその姿は見たことがない。

が、口から出た疑問は本心からのものではない。

心の底の部分では、しっかりと理解している。

アレが放つ異質な――別次元の存在感を。

間違いなく、アレは帝王であることを。


 と、ジャックが自問自答じみたことをしていると、



「アハッ☆ まタ会えたネッ! ボクは嬉しイヨ!」


「妾は別に会いたくはなかったがのう」



 新たに二人、乱入者が現れる。今度の二人は、ジャックは名乗られる前に自らの記憶と照合し、判別することができた。できてはいたが、それが現実であることを認めるのは困難を極めた。



 第一部隊長――〝神童〟トイフェル


 第二部隊長――〝魔女〟ジャンヌ・ド・サンス


 

 帝国三強の二人が、この場に現れる。くしくも、帝王の背後で瀕死のヴァジュラと合わせて帝国最強の人間達が集結したと言えよう。



――そんなん、ワイらが反乱起こした時にもなかったで!?



 十一年前の建国、そして〝闇集め〟と〝種族選別〟の施行の後、沈黙を保ち続けていた帝王。

二年前、帝国軍に参入し、第一部隊長を襲名したトイフェル。

反乱軍との戦争の際、悪夢のような強さを見せつけたジャンヌとヴァジュラ。


 そのそれぞれが、出会っただけで命を諦めるほどの豪傑達だ。ジャックもこの時点で自分の命を半ば放棄した。完全に捨てきれなかったのは、暴走しているとは言え、ヴァジュラを追い詰めたカイル、リュウセイの存在と、得体の知れない隻翼の男の存在があるからだ。



「それ二……ふゥン……そこの二人はまさカ変異パンドラかイ?

嬉しいナァ……ボクと対等ナ存在がマダ居るなんテ……」



 トイフェルが、シュウの風に押さえつけられたカイルとリュウセイを見て、舌嘗めずりをする。

それはまさしく、イキのいい獲物を見つけた捕食者の視線だった。シュウはその視線に嫌悪感を示し、



「神影、カイルの魔力の残量を調べて」


「ん? ああ、りょーかい」



 神影に小さく声をかける。神影はシュウの頼みに了承したのち、ぶつぶつと小声で呪文のようなものを唱え始めた。

そして、目視でそれを確認したシュウは、おもむろにリュウセイに施していた風の拘束を解いた。



「ガァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」



 --瞬間。跳ね起き、咆哮するリュウセイ。狙いは勿論、瀕死のヴァジュラだが、



「後で迎えに行くから、待っててね」



 何をすることもできず、風に拐われてしまう。

否、それは風などという生易しいものではなかった。

風の海流? 風圧の砲弾? ……違う。

そんな陳腐な表現では到底収まらない。


 “神隠し”。


 それくらいの表現はされて然るべきだ。目の前で、刹那の時間を待たずに姿が消失した。

神隠しがシュウによる魔法の結果であると認識できたのは、濃密な魔力の残り香を感じ取った後であった。



「昔と変わらず、呆れるほどの魔力量じゃのう」


「誉め言葉と受け取っておくよ」


「――開け、〝開白の眼〟。


 その権能を以て我に不死鳥の限界を示せ。解析アナライズ!!!」



 ジャンヌとシュウが軽口を交わしていると、神影が大袈裟に格好を付け、カイルを指差す。


 そして、神影の目が……虚空に写った、彼だけに見えるソレを捉えた。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 カイル(暴走状態)


 【再生】の炎による再生は通常状態の場合、約六万㏄の出血、約七百二十㎏の筋肉、骨、神経、内臓、脂肪等の肉体組成の構成要素の補填が可能。

計算上は約六回、身体の九十九%を損傷しても、再生する。


 毒、もしくは【能力】による特殊作用の攻撃に対しては、それぞれに相当するだけの魔力を消費する。

これは帝国一般兵の平均魔力値を鑑みて―――



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 


「九十九パーの、六回分だ」


「六回だね………………分かった」



 酷く、苦々しげな顔をするシュウ。

そして悲痛な面持ちで……カイルを解放した。



「キュルァァァァァァァァアアアアア―――」


「ごめんね、カイル」



 リュウセイ同様、咆哮したカイルの叫びは途絶させられる。


 再び、“神隠し”だ。


 いや、本質的には、違う。

今回の魔法は〝吹き飛ばす〟ことを目的とした魔法ではない。

〝削ること〟を目的とした魔法だ。

同じ“神隠し”のように消えたカイルだが……確かにそこにいるのだ。


 ほんの一%の欠片だけを現世に留めて。


 使ったのは風の魔法。

過程は不明だが、結果は明白。

カイルが……死んだ。

それも身体の九十九%を〝削り〟取られて。


 しかし、



「―――アアアアアアアアアア!!!」



 残り一%のカイルから溢れんばかりの白炎が巨大な人魂のような形で吹き上がり、カイルは再生した。

これは何の誇張もなく、文字通りの意味である。

残った一%は脳細胞ですらないただの細胞であるが、カイルは失った九十九%の肉体を取り戻したのだ。


 服が完全に剥がれ、羽毛で覆われた生身が晒されていることで、この場の人間は何が起こったのか理解した。

そして、



「ごめんね、カイル」

 


 結果として、シュウはこれを含めて後五回……この言葉を口にするのだった。

帝王に……剣を降り下ろした出会い頭の姿勢のままで。







――――――――――――――――――――






 カイルは、暴走前の翼を生やしていない状態にまで戻っていた。

傷は一切なく、服もない。

実験場でビックバンの爆心地に居たときと同じである。

そのカイルは、風によって安全な位置にまで移動させられている。


 ジャックは当惑していた。

いきなりの帝王達の出現の後、リュウセイがどこかに飛ばされ、カイルが訳も分からない内に元の状態に戻されたこの状況……ジャックでなくとも理解するのに時間を要するだろう。

もはや、ジャックに出来ることはこれから交わされるだろう会話を傾聴することだけだった。



「ふむ、せっかく状況が整然としたものになりつつあるのじゃ、お主が寝ておっては体裁が悪いのでのう……」



 ジャンヌが黒の扇をヴァジュラに向け、それから具現化させた闇をヴァジュラに浸透させた。



「〝オ キ ロ〟」



 むくり、と人形が無理矢理起こされたような不自然さでヴァジュラは起き上がる。

そこには暴走による瞳の色彩の変化はなく、元の金の瞳が現れていた。



「なにごとか起こりけん」


「成り行きを見守っておれ、今はそれでよい。


 ……さて、では状況を仕切り直そうかのう」


「……仕方無いね」



 シュウは剣を引き、神影とマリアの傍に戻る。ゆっくりと……意識は帝王に向け――視線だけは、強くヴァジュラへと向けながら。



「それで、君達は何のためにここに来たのかな?」


「“母”に会うことに、理由がいるのかのう?」



 シュウの問い掛けに、ジャンヌが応える。

母。よく知られる意味において産みの親のことを意味する言葉である。

だが、この場にジャンヌ以外の女はマリアしかいない。

体型、そして年齢からして、マリアがジャンヌの母であることはあり得ない。

だが、ジャンヌの眼はしかとマリアを見据えていた。



「よくもまぁ、生きていたものよのう、母様。

妾達はとっくに死んだものと思うていたぞ?」



 疑いようもなく、視線が固定されている。

ジャンヌの言う母は……どうやらマリアのことであるらしい。



「そのつもりじゃったんじゃがのう……。

儂にも生きる理由ができたのでの、ぬしらの計画を阻むことにしたのじゃ」


「生きル理由―――フザけないでくれるカナ……!!? だったラ、ボク達は何の為に生まれタって言うのサ!!!」



 トイフェルがソロモンを抜き放ち、その切っ先をマリアへと向ける。



「お前ガ死にたイと願ったカラ、ボク達、変異パンドラが生まれたンじゃないカ!!

勝手ナ仕事を押し付けテおいテ……よくもそんナ事を口にできたネ!!!」


「それは……」


「落ち着くのじゃ、トイフェル殿。まだ話が済んでおらぬ。それで? 母様よ、妾達の計画を阻む、と……そう言ったのか?」


「……そうじゃ」



 マリアはその容姿に似合わぬ覇気の込められた強い視線をジャンヌへと、そしてトイフェルへと向ける。



「どれ程理不尽であろうと、どれほど恨まれようと、儂はぬしらの計画を阻む。


 身勝手じゃと罵られるのも当然。じゃが……儂の意志はもう揺らがん。


 必ず……〝世界〟を救ってみせる」



 トイフェルはその視線に晒されて……



「……いいヨ。受けて立っテあげル。キミがどれだケ足掻いテモ、ボク達は必ず〝世界〟を滅ぼス。キミのことを殺しテあげル。


 今スグにでもネ!!」



 刹那に行われた【形態変化】――悪魔王サタン

同時に左手が愛刀ソロモンに添えられていて……



「ゼノ!!!!」



 光速の居合が放たれる。痛みを感じる暇もない。

刀の軌跡を見ることも叶わない。

極限にまで高められた速さが、マリアを襲う。



「……ッ!」


「残念だけど、僕が居る限り、マリアには指一本触れさせないよ。……例え相手が帝王でもね」



 瞬きをすれば、ギリギリと、シュウの剣とトイフェルのソロモンが競り合う光景が目に入る。

トイフェル最速の技、ゼノ。

シュウはさらに……その上を行く。



「トイフェル殿」


「……分かったヨ」



 ジャンヌに諫められ、トイフェルは存外あっさりと刀を引いた。【形態変化】も解き、元の子供の姿に戻る。



「ジャンヌ、ボクはもう帰るヨ。帝王様が動くっテ言うカラ付いてきたケド……何かモウどうでもヨクなっちゃっタ」



 ソロモンを鞘に戻し、トイフェルはシュウ達に背を向ける。



「……そこノ白い奴ハ嫌いだケド、シュウだっケ?

キミの事は嫌イじゃないヨ。機会があレバ、また遊ぼうヨ」


「マリアを殺そうとする子とは遊びたくないんだけど?」


「ハハッ! そんなの知ーらナイッ☆ じゃアまたネ!」



 トイフェルは片手を振りながら去っていった。

嵐のように現れ、突然に去っていたトイフェルにジャンヌは扇を持っていない左手で額を揉んだ。



「話を戻すが」



 ジャンヌが言葉に少々トゲを含ませる。

トイフェルの扱いには彼女も苦労しているのだろう。



「どういう心境の変化か、教えて貰いたいものじゃな、母様。あれほどまでに死にたがっていた母様が、何故そうも生きたがれるのかのう?」


「……シュウが居るからじゃ」


「ん?」



 マリアの言葉にジャンヌが眉をひそめる。

漆黒の扇を広げ、口元に当ててマリアの話の続きを聞く。



「永劫の時を過ごしてくれると誓うてくれた。

これから先、どんなことがあっても隣に居てくれると言うてくれた。

もう儂は独りじゃないのじゃと、教えてくれた。


 もう儂の命は儂だけのものでは無くなったのじゃ。

それが儂の生きる理由で、儂がぬしらの計画を阻む理由じゃよ」



 言い切ったマリアの目には一切の迷いはなかった。曇りのない澄んだ新雪のような白い瞳には決意の灯りが光る。その目に射抜かれたジャンヌは、

 


「くっ、くくく……はーはっは!!」



 衆目を度外視した大声で、ジャンヌは笑う。

それでもなお、高貴な佇まいや風格は損なわれていない。優美かつ艶やかなまま、呵々大笑とジャンヌは笑い、扇を開く。



「まさかそんな人間じみた返答が返ってくるとは思いもよらんかったわ。中々に、愉悦な話じゃな。母様にも遅い春が来たということか……」


「遅いとはなんじゃ!」


「ツッコむトコそこなのかよ」



 神影はマリアを呆れた目で見る。

と、神影が喋ったことでジャンヌは初めて神影に注目した。



「ふむ、そこの貴様は何者じゃ。母様と行動を共にしておるくらいじゃ……タダの人間、という訳でもあるまい?」


「お、気づいちゃう感じ? やー、やっぱアレか、出ちゃうのかねぇ、タダ者じゃないオーラって奴が」



 ふぅっ、やれやれだぜ、と誰に向けるわけでもないため息を付き、神影は名乗りを上げる。



「生まれは日本が大和男児! 古き良き神社の長兄にして、太古の時代より神に仕えてきた一族が末裔! その名は神「こやつは異世界人じゃよ」っておい!?」



 神影は盛大に邪魔されたことでマリアにぶーぶー文句を垂れるが、ジャンヌはマリアの一言で全てを理解したようだった。



「ほう! 貴様が異世界人か! もうとっくに死んでおるものじゃと思うておったわ」


「ま、しぶとさだけには自信があるもんでね」



 ジャンヌは興味深そうに眼を大きくする。

そして扇で隠した口元に、薄っすらと笑みを浮かべた。



「貴様、帝国軍に来ぬか?」


「断る」


 

 即答。

しかし、ジャンヌはその答えに微塵も動揺を見せない。



「こちら側にくれば何事も意のままぞ?

女も、酒も貴様の自由じゃ。相応の地位も与えてやろう。貴様は被害者じゃ。妾らと共に居る権利はある。そんな人外の人間ごっこに付き合う必要はないのじゃぞ?」



 ジャンヌは扇を口元から外し、腕を組んだ。

漆黒のドレスによって支えられた豊満な胸が強調され、見る者の目を引く妖艶な笑みで神影を誘う。


 だが、神影は……



「残念だが、どんな条件だろうと答えはNOだ。俺は自分のことを被害者だなんて思ったことなんて一度もねぇ。何より、向こうに置いてけぼりにしちまった奴らがいるんだ。

だから、〝世界〟を滅ぼして帰れなくなるわけにゃいかねぇ。


 ……それによ、俺は絶対にダチを放っておくようなことはしねぇ。全部救って、丸く収めて、そんで俺は俺の世界に帰る!」



 そう大見得を切った。迷いなど微塵も存在しない。

遠い故郷で培った決意は、異世界においても根強く彼の中に根付いている。



「まぁ、よい。所詮は戯れじゃ」



 確かに神影のような無能なおっさんを本気で欲しがる者はいないだろう。(おいコラ)



「で、どうするの、君達は? このまま帰ってくれるの?


 それとも……」



 シュウの修道服の内側から若緑色の光が漏れだす。

その眼光には鋭い意思が秘められている。



るかい?」



 鈍色と、純白の二対の翼を広げ、右手には六連式の拳銃、左手には細身の両刃の剣を構え、さらに周囲に七つの小型飛行ユニットを……シュウは展開させる。


 その全ての魔具が単一の、【形状変化】を再現した一個の魔具である。

単純な【能力】ではあるが、使い方次第では万能な【能力】だ。


 その魔具一つ有するだけで、剣だろうが槍だろうが斧だろうが、あらゆる武具を持ち歩くに等しい。

最も、それらを扱う技術は伴っていなければならないが……


 少なくとも、四種類の形状に変化させた魔具を構えるシュウに……隙らしい隙は存在しなかった。



『……滑稽だな』


 

 声が響いた。

男のものでも、女のものでもない。

低くも、高くもなく、まるで言葉そのものが頭に直接送り込まれたような感覚だ。

そして、無個性的な声ではあるものの、それには底冷えするような威圧感も付随していた。


 一番印象的な登場を果たしておきながら、沈黙を保ち続けていた人物……その第一声は、あまりにも唐突だった。



『抗えぬ運命に必死になって噛み付き、それで何になる。何にもなりはしない。地に這う狼が龍に戦いを挑むのと同じことだ。


 もはやこの世界には何も必要ない。

命も、感情も、世にあまねく何もかもが不適格だ。

必要のない邪魔なものだ。

世の中は破壊されて然るべきだ。

後に何も残ることのないように、初めから無かったかのように、存在ごと、概念ごと破壊されるべきだ』



 万物が要らない。

物質的な存在も、精神的な存在も。

世に存在する全てが要らない。


 帝王の主張が頭の中で響く。



「……ぬしに何を言っても無駄なことぐらい儂は重々承知しておる。

〝破壊〟の化身よ、儂はぬしを全力で止める。


 その凝り固まった頭では決して理解できない決意を以て、儂は世界を救ってみせよう」



 全身を黒い鎧で覆った帝王と、全身を白い装いで整えたマリア。

白と黒、相反する二つの視線が交錯する。

世界が切り取られたような静寂があたりを支配する。

ぴん、と張りつめた空気。

嵐の前の静けさ、いや、決闘前の緊迫感が二人の間に漂っていた。



『ならば来い、ワールド・エンドに。大層な決意ごと破壊してやる』


「言われずとも、行ってやるわい。首を洗って待っておれ」



 帝王が闇の魔力を手に纏う。

緩慢な動作で、殺気の類は感じられない。


 その手を地面と平行に横に伸ばし、空を握りしめる。すると、帝王の手の内の空に四方八方に向けて亀裂が入る。亀裂は瞬く間に広がり、人一人を覆えるほどの大きさになった。


 帝王は握っていた空を握りつぶす。


 亀裂の入った空は割れ、何もない空中にぽっかりと穴が開いた。真っ暗で、先の見えない穴だった。



『さらばだ』



 帝王はその一寸先も見えない穴に踏み込み、姿を消した。

ヴァジュラ、ジャンヌとそれに続く。

ただ、ジャンヌだけは踏み込む前に振り向いて、



「では母様、次は世界の終わりをお目に入れましょうぞ」



 そんな言葉を言い残し、マリア達の眼前から消えたのだった。





――――――――――――――――――――





「心臓に悪ぃぜ、ったく……帝王まで出てきやがるなんて予想外にも程がある」


「フィーナ……ゴメンね。アイツを殺せなかったよ」


「無視か、おい」



 シュウは完全展開した魔具を球状デフォルトに戻し、修道服の中にしまう。

気丈な様子だった、だが同時に脆そうにも見える。

神影の目には、強固に組み上げられた積み木が中心部を抜き取られたように写った。

見てられない。

この強くて不器用な仲間の計画の末路を知る神影は、胸の奥に芽生えた想いを無理矢理に押し込めた。




「まー、よ。後悔すんのは構わねぇが……どうすんだ?

ここまで来ちまったんだ。何も話さないわけには……いかねぇだろ?」


「……うん、そうだね。話さなきゃ、いけないんだろうけど……はぁ、困ったな。やっぱり、再生しちゃってるだろうな……」


「タイミング的には、最悪だな」


「とにかく、落ち着ける場所まで行こうか。

何を話すにしても、ここはあまりに向いていないよ」



 草一つ残らなかったキューケン・ホッフルの花園。

今や、荒野と呼んで差支えないだろう。

何もない、何も、残らない。

寂しい大地だった。








「ああ、嫌だなぁ。涙を流さない自分が……憎らしいよ」



 自身の純白の片翼をそっと撫でながら呟いた言葉は、酷く消沈したものだった。

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