第八話―リュウセイ登場
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ありがとうございますっ!!
とても励みになりますっ!
「うぅ~~ん……」
「どうしたんですか?」
「いやな……さっき霧が出る前に一瞬カイルが……こう……ボヤァっとした感じになったように見えてん」
「あっ! わたしも見ましたよ! 陽炎って現象じゃないですか?」
「陽炎……?」
――なんやったかな。なんか懐かしい響きっていうか……うーん……。霧……陽炎……キリ……カゲロウ……きり…かげろう……………きりかげ?
「っっあぁああぁ!!!!!!」
思い出した思い出した思い出したっ!! えっ? 嘘やん。なんでこんなとこにアイツがおんねん! というか生きてたんか!? アカンやん!! カイルじゃ絶対勝たれへんがな!!
「えっ! ちょっとどうしたんですか!?
大声なんて出したら敵に見つかっちゃいますよ? どこに潜んでるかも分からないのに……」
「違うっ!! 敵は一人や!! いや、敵っちゅうか……とにかく周りには誰もおらん! くっそ何ちゅう星の巡り合わせや!! アイツがこの山におるなんて!!」
「ひ、一人ですか? でもっ……この霧は一体「ユナちゃん耳塞いでっ!」はっ、はい!」
巾着から風属性を使った拡音の魔具を慌てて取り出す。まだ使えたらええけどっ!
『こちら魔具職人部隊隊長ジャック・ドンドン! 暗号コードは421226! 攻撃体制をやめんかいアホ!』
ふぅっ、使えたわ、ほんま良かった。使われへんかったら地声でやらなあかんとこやったわ……
「あの……ジャックさん……今の……?」
「後で全部説明するわ。ほら見てみ、霧が晴れてきたやろ?」
これでひと安心やな……あの変態が素直に言うこと聞くのがちょっと不安やったけど、まぁなんにせよ万事オッケーや。
霧が晴れて、目の前にヤツが現れた。昔となんも変わらん白髪に長い顎ひげ。目は閉じてんちゃうか思うくらい細くて、シワだらけの顔。ジジイのくせして背筋は真っ直ぐ伸びて、袴姿に羽織、腰にはワイが作った〝幻海〟が差してある。ほんま変わってないってか服替えてんのかこいつ?
とか考えてると、ふざけたことにこの変態は腰の刀、幻海を抜くとワイの首に当ててきよった!!
「っ!! ジャックさん!!」
「なっ!? ちょ、お前なにやっとんねん!!」
「お主が本物のジャックであるという証拠がないのう、『合言葉』を言ってもらおうか」
「ふざけんな! 変態ジジイ! 暗号コード言ったやろうが!!」
「最近年でのう……あんな細かい数字忘れてしもうたわ」
「なっ!??」
こんのっ変態っ! この状況で遊んどるで! ニヤニヤしおって! ほんまムカつく面やわ!! ワイがあの『合言葉』だけは言いたくないって分かっててのことやな!? 何が年じゃ! 狸ジジイ!!
「どうした? 早く言わんか」
「絶対言うかあんな合言葉! あれはワイの信条に反するんや!!」
「そんなもん知らんわい」
「ぅうおぉっ!!???」
なんか水の刃がワイの周りにっ!? そこまでしてワイにアレを言わせたいかっ!
「ちょ、ちょっと何しているんですか!? ジャックさんとは知り合いなんでしょう!?」
おぉ、ユナちゃん! よー言うた! もっと言ったれ! こんなジジイの思い通りになんかさせるなっ!!
「こやつが本物のジャックであるという証拠がないのでなぁ、ワシも疑うのは心苦しいのじゃよ。まぁ、合言葉を言えば全て丸く収まるんじゃが……」
「だ、そうですよ? 言えばいいじゃないですか。合言葉は覚えているんですよね?」
敵に回ったやと!!?
「そうじゃ、全てはお主次第じゃ」
ニヤニヤしとんちゃうぞぉお!! くっそ……ぁあ……もう無理か……
アレを。言わな……アカンのか。 嫌やなぁ。でも、言わんとこの変態はマジで切りそうやなぁ……。
「ユナちゃん……」
「なんですか?」
「今からワイが言う言葉はワイの意思やない。ただの単なる合言葉や。ワイの主義思想思惑その他諸々とは一切関係のないことや」
「は……はぁ……」
「やから、これがワイの気持ちやないと言うことを肝に命じといて欲しい」
「ほれほれ、さっさと言わんか」
「黙っとけ! お前は!!!
くっそ……はぁ……まさか再びこれを言うことになるとは……
〝ロリは愛で、愛するもの、その純真無垢な心は何人も汚してはならない。
そして貧乳こそ至高であり正義である〟」
「ふむ、どうやら本物のようじゃな」
「こんなん合言葉にしとんちゃうぞ……」
「合言葉を何にしようとワシの勝手じゃ」
「暴君っぷりは帝王と変わらんで……ユナちゃん? カイルを……」
「ジャックさんのへんたいーーっ!!」
ゴンッ!!
ユナちゃんが拳二つぶんくらいの石でワイの頭を殴ったようや……視界が黒くなって意識が薄れていく……
その石……危ないって……言うたやん……―――
場所は変わってカイルとリュウセイがお互いを兄弟だと確認したところである。
「リュウセイ……」「カイル……」
「「ここであったが百年目だっ!!
今日こそ白黒はっきりつけてやる!!!」」
息ピッタリの双子発言である。至近距離で二人は睨み合うが突如、山全体に声が響く。
『こちら魔具職人部隊隊長ジャック・ドンドン! 暗号コードは421226! 攻撃体制をやめんかいっ!』
霧が晴れ、お互いの姿がよく見えるようになった。端から見ると、翼と服以外は違いが見当たらないほどよく似た二人である。
金髪も、緑眼も…… 果ては背丈まで。全く……完全に一致している。
「うざってぇ霧が消えてよかったなぁカイル。これで負けたときの言い訳はなくなったぜ?」
「そっちこそ良いのかよ? 霧っていうハンデ無しじゃ俺と戦うのは厳しいんじゃないのか?」
軽口に軽口でやり返すカイル。双子ということを思い出してもこの戦いは止まないようである。
「ハッ! 言ってろ! 七星流・参の型・明星!!」
リュウセイは身を捻って、瞬きをする間にカイルの後ろへと周り、上段から攻撃する。カイルはリュウセイの方を振り向かずに、腕のフェルプスの炎を大きくして、防御する。
しかし、刀が当たった衝撃がいつまでたっても来ない。代わりに小さく何かが触れたような--。目を向けると、籠手に触れていたのは刀では無く、手刀。
――やべぇ!!これはっ!!?
「遅ぇよっ!!!!」
リュウセイが片手で持つ刀でカイルの脇腹を狙う。刀に纏う雷が尾を引き、残像を残して目標を切り裂く。
「~~~っ!!!」
カイルの脇腹から血が流れる。深くは切られていないが、危ういところだったと言っていいだろう。完全にリュウセイのフェイントにはまってしまったのだから。
たが、リュウセイも立場は同じである。フェイントに使った手が火傷を負っているのが伺える。それほどまでにカイルの炎の魔法密度が高かったのだろう。
「ちっ……なんて密度の魔法をだしやがる。俺の手に火傷を負わせるなんざ、よっぽどだぜ」
「お前こそ、なんつースピードしてんだよ。後ろを取られたとき、ほとんどみえなかったぞ」
「「やるじゃねーかッ!!」」
同時にカイルとリュウセイが動く、今度はお互い突進するような真似はせず、中距離からの攻撃で戦いを始める。
「クリスタルバレット、乱れ打ち!!!」
カイルはポケットに入れていたクリスタルを全て取り出して、その全てに魔力を込めて砕いていく。右の正拳、左の回し蹴り、左の裏拳、右のハイキック、諸手突き、二段蹴り、拳の乱打、蹴りの乱打……。
とこれらの技を滑らかに繋いで、二十程の熱線がリュウセイに向かう。
精密な攻撃とは言えないが、まるで壁のような炎の弾幕がリュウセイに向かっていく。
「七星流・護りの型・其の伍・五芒星!!」
剣先で五芒星が一筆書きされ、雷がその形をなす。
雷の防御を素早く完成させると、リュウセイは、すぐさま別の図式を空中に描き出す。その新たな図式を描き始めると同時に巨大な炎塊が五芒星にぶち当たる。
激しく衝突する炎の奔流が徐々に五芒星を呑み込んでいくが、その時間はリュウセイの図式を完成させるのには十分だった。
「七星流・護りの型・其の陸・六芒星!!」
正三角形と逆正三角形を組合せ、そのそれぞれの頂点を〇で囲った図形、六芒星が描かれる。炎の奔流が六芒星をも呑み込まんと浸食するが、それは叶わず、炎が消えた時には六芒星のみが空中に残っていた。
「七星流・壱の型・一ツ星!!」
横方向に振られた刀から雷が飛ばされる。
そこから続けてリュウセイは刀を連続で振り回し、雷を放つ。様々な角度から飛ばされる雷の軌道はカイルがいる点で交わった。
「うるぁああぁっ!!!」
カイルは両手を前に突きだし高密度の炎を生み出す。その炎で一点に交わった雷の束を受けきる。
しかし、防ぎきったカイルの目の前に雷を隠れ蓑にして近付いたリュウセイの姿が現れた。
――速ぇっ! あの距離をもう詰めたのか!!
間合い取りは完璧だった。すなわち、リュウセイの刀の先がカイルに届くが、カイルの拳や脚は届かない距離。
その間合いからリュウセイの攻撃が始まる。
まず下段からの切り上げから始まり、それを止められると逆サイドから切り払い、振り下ろし、袈裟懸けに切り、逆袈裟、突き、流れるような刀の剣激がカイルを襲う。
カイルは反応できる範囲で拳や脚で剣激を防ぐが、その身体能力をもってしてもなお反応できない速さを有するリュウセイの刀によって少しずつ体に刀傷が刻まれていく。
――速すぎるっ! こいつ昔と違って完全に刀術を身に付けてやがる。一旦距離をあけねぇと、マズイっ!!
その思考がカイルを後退させるが、リュウセイは間合いを崩さずに追いかけてくる。カルト山の上空で赤色と黄色が、炎と雷が凌ぎを削る。
もし、地上からそれを見上げる者がいたならば、その光景に息を飲んだだろう。一定の距離を保つそれらが、ぶつかる度に火花を飛ばして、小さな花火のようになっている。
その花火は凄まじい速さで打ち上がり、縦横無尽に青空を占領していた。
「ハッ!!! 遅ぇなァカイル!!!!
しばらく見ねぇ内に弱くなったんじゃねぇのか!?」
「………言ってろ! お前の蚊みたいな攻撃がどんだけ俺に当たろうとッ痛くも痒くもねーんだよっ!!」
その軽口はカイルの心を揺さぶっていた。突き離されてしまった実力にカイルは困惑し、混乱してしまう。
――なんっだよっ!!! なんなんだよ!?
リュウセイに……こんな……差をつけられるなんてっ……!!
ふざけんなよ俺! 情けないっ!!
今まで何してたんだよ! ただ、森で一日一日を無駄に過ごしてっ! 部隊長を圧倒して、いい気になってたのか? アイツは部隊長最弱だってジャックが言ってたじゃないかっ!!!
俺はまだ、こんなに弱いじゃないか!!!――
幼き日に優劣を競いあっていた双子との差に、カイルの心の中に数年間の惰性の日々を恨む心と己への怒り、そして差をつけられた悔しさが溢れてくる。
ちなみに言うと、カイルの過ごした年月は無駄ではない。モンスターとの戦闘は確実にカイルを成長させ、強くしている。
が、モンスターの戦闘、しかも大した魔法を使えなかった状況では技術の向上や知性のある対人戦の経験には繋がらなかった。カイルが手に入れたのはもっと別のものであり、それに気付かなければカイルに勝機はないだろう。
「なんだよカイル……テメェほんとに弱くなったのか……?」
剣激が止み、リュウセイが刀の間合いで話しかける。その目は少し、寂しそうだった。
「何……言ってやがる……」
「それはこっちの台詞だ。俺に一撃も与えられねぇ。傷だけを負わされて防戦一方なんだ。お前が弱くなった以外この状況はないだろ?」
「うるさい……」
「ハッ! この程度の軽口に落ち込むようじゃマジで弱くなったみたいだな。テメェは俺と会ってない間、何してたんだ?」
「関係ないだろ……」
「なっさけねぇ……なんもしてなかったのか? 言っとくぜ、今のお前じゃ俺には勝てねぇ」
リュウセイの言葉がカイルの心を抉る。一つ一つの言葉が、カイルの心を重くしていく自分が思っていたこと、認めたくない事実が的確に心を撃ち抜いてく。
――俺が……リュウセイに……負けてる……? いや、この状況なら誰がどう見たって俺の負けは明らかだ……。なにやってたんだろうな……俺は……
そう思って握りしめた拳を緩めようとする……
「少年よ、諦めるにはちと早いぞ」
不意に声が聞こえた。その声はいつの間にか俺とリュウセイの間に入っていた爺さんからだった。
え? 爺さん浮いてる? いや、そんなことはどうでもいい。今、このじいさんは何て言った?
諦めるのは早い?
「おい、ジジイ。気休めなんて言ってんじゃねぇよ。何が諦めるのは早い、だ。この実力差じゃ何を言おうが無駄だ」
「言っておるはずじゃぞリュウセイ、慢心は捨てろと。例え実力差があろうと、戦場では欠片の慢心が命を散らすことになるのじゃ。
--それにお主とこやつの実力差は、目に見えるほど存在しておらぬ」
「ハッ! そうかよ。じゃあさっさとアドバイスしてやるんだな。今のソイツを見てるとイライラする。実力差がねぇッてんなら--やってみせろよ」
「そのつもりじゃ。精々油断は捨てておくことじゃな。
さて、カイル君、初めましてじゃな。ワシはゲンスイと言う。君の名前は超絶可愛い黒髪 貧 乳 美少女のユナちゃんから聞いておる。
そして、訳あって君らが双子であることも知っておる。
自己紹介はここまでにして……カイル君、君は何故リュウセイに押されていると思う?」
「……技術がないから」
いきなり現れたこのゲンスイとかいう爺さんの質問に拗ねたように答えてしまう。自分にアドバイスをしてくれる存在のハズなのだが、何故か素直になれない。
「違うのう、闘いに置いて技術は確かに重要なものじゃ。君には確かに技術がないかも知れん。
しかし、君は長年森のモンスターと闘っていたのではないのか?」
「なんでそれを「そんなこと今はどうでもよかろう。モンスターと闘う時、君はどうしていたのじゃ? 逐一攻撃を防いでいたか? 森には人間では考えられない動きをするものもいたのではないか?」
確かに……手が六本ある熊とか、無茶苦茶早い八本足の虎とかいたな……あんとき俺はどうやって勝ったんだっけ……。あぁそうだ。無理矢理懐に突っ込んで……
「一撃で沈めていた、ではないか?」
このじいさんも人の考えが読めるのかよ。
でも、そうだ……確かに一撃で仕留めた。
六本熊は攻撃を全部受けて、一撃……
八本虎は、腕を噛ませてから、一撃……
そういや、森のモンスターは全部一撃で仕留めてたっけな。
「森のモンスターには遮二無二突っ込むのに、リュウセイの刀は怖いのか?」
「っ!!!」
そうだ……いつもの俺なら攻撃なんて、気にかけずに突っ込んだじゃないか……!
それを、リュウセイの攻撃を受けたくないばっかりに……
「自身の経験を否定するでない。自分の長所を見失うでない。君の力で何もかもをねじ伏せろ。そのパワーで、敵を蹂躙するのじゃ。野生の中で培われたセンスに、君の膂力が噛み合えば、時にそれは磨き抜かれた技術を凌駕する。
何も考えるな。いつも通りにすればよい。--ワシが言えるのはここまでじゃな」
「……おう」
「うむ、その粋じゃ。待たせたのう、リュウセイ」
「ハッ! 少しはマシになってるんだろうなぁ、カイル?」
「それは……お前の目で確かめろ!」
「軽口を叩けるくらいには戻ったみたいだな。いいぜ、始めようじゃねえか。
おい、ジジイ!」
「わかっておるわい……。
いざ、尋常に……始め!」
今度は迷わねえぞ。まずは一撃入れてやる。
リュウセイに向かって突進すると、脇構えから横凪ぎに刀が振るわれる。……その刀を、あえて避けない! 刀を無視して突き進む!
「なっ!?」
リュウセイの驚く声が聞こえる。へっ! 刀の根本で切られたって、たいしてダメージはないぜリュウセイ!!!
そのまま懐に入り込んで腰を捻り、両手を腰の位置に置く。脚は空中だけど大きく開いてどっしりと構える。フェルプスに全力全開で魔力をぶち込んで、燃える炎を……リュウセイに向かって解き放つ!!
「フレイムバースト!!!!」
第九部隊長ウィルを倒した技がリュウセイを捉え、右手は鳩尾、左手は丹田を貫く! フェルプスから溢れる炎が前回とよりも巨大な炎注となり、リュウセイを焼いた。
「ぐぁっ、はっ……!!!」
大きく吹き飛ばされたリュウセイは何とか、空中に踏みとどまる。あいつの額には玉のような汗が浮かび、打ち抜かれた箇所は黒く焦げている。人体急所の二つに打ち込んだダメージは相当なものみたいだ。
「それでよい。カイル君とリュウセイでは鍛えられた利点が違う。リュウセイはワシの元で技術を身に付け、速さを伸ばした。対してカイル君は森での生活で野生じみた反応、本能的な戦闘センスやパワーを伸ばした。
それを生かさずにリュウセイの土俵で戦えば押されもするわい。さて、これで勝負は分からんくなったのう」
じいさんの解説が聞こえる。そうか、そういうことだったのか。俺が今まで培ってきたのはパワー。これでリュウセイとやりあえるっ!!
「どうだっ! リュウセイ!!!」
「ハッ! 上等……! こんぐらいやれなきゃカイルじゃねぇよ……ッ!!」
「今までの俺とは違うんだ。覚悟しろよ?」
「やってみろよバーカ。お前の攻撃なんざ、もう当たんねぇよ……いくぜ……
七星流・弐の型・双星!」
突貫してくるリュウセイに対して同じように突っ込む。横向きに切り払われた刀は服の上から一枚皮を切っただけだ。フレイムバーストのダメージが効いてるな。間合いを間違えたみたいだ。この隙にもう一発ぶちこんでやる!
そう思って拳を引いた瞬間、不意に右肩から縦方向に深い刀傷が刻まれた。
「なっ!?」
いつ切られた!? そう思っている間に次の攻撃が迫る。上から振り下ろされる刀を避けるがまたもその瞬間、腹の辺りを横方向に切られる。十文字に切られた切り傷の痛みを無理矢理押さえ込んで、右斜め上から切るようにこめかみに蹴りを放つ。
「ぐっ!!」
狙い通りこめかみに当たったけど浅いな……。あれじゃ大してダメージは残らない。っていうか、あいつの技が全く読めない。どんな技使ってんだよリュウセイのヤツ。
いや……もういいか。魔力は残り少ないんだ……だから、
「リュウセイ」
「あ?」
「次で決めてやる」
「そうかよ。なら俺は次が来る前にテメェを潰してやる」
いくぞ……残った魔力を全部右手に集めるんだ。でかくて……高密度な炎を……!!!――
カイルの右腕から溢れる炎は小さな太陽のようだった。広がる炎はカイルの何倍もの大きさで、楕円形を象る。その魔法はリュウセイの汗を誘い、周囲の温度さえあげているように思えた。今まで戦ってきた中で一番の高密度の魔法。右手を引くカイルと炎は一体となり、今にも辺りを焼き付くさんとして構えているようだ。
「いくぞっ!!」
動き出したカイルにリュウセイは引くことなく壱の型・一ツ星の嵐を浴びせる。それは流星群のような美しさを孕んでいたが、浴びせられるカイルはたまったものではなかった。服を焦がし、体に次々と雷が突き刺さっていく。
しかし、痛みも恐怖も全て握りつぶして、カイルはひたすらリュウセイの元へと駆ける。刀の間合いに入った途端に弐の型・双星が繰り出される。一度刀を振るうと二つの刀傷が刻まれる剣がカイルの体に幾十もの傷を付けていき、その剣戟はカイルの炎が自らに届くその時まで止まることはなかった。
そして、
「だるぁあぁあっ!!!!!!!!!!!」
とうとう目的地にたどり着いた拳が、リュウセイの身体の中心を捉えた!
炎がその体を引きずるようにしてリュウセイを後方に吹き飛ばし、その身を焦がす。空中でなんとか踏みとどまるリュウセイ。炎がリュウセイだけをその場に置いて空の彼方へと消えていった。
二人は今の攻防で魔力が切れたのか、翼が消え、地面に落下していく。ヒュウウウ、と自身の体が風を切り、スピードを上げていく。
地面に激突すると思われたが、地面に当たる寸前、突如現れた水が彼らを包み込む。水は落下の衝撃を受け止め、衝撃を吸収した。その後、水は役目を終え、地面に吸い込まれるように消えていった。
地面に仰向けになって寝転がる二人の息は荒れていて、しばらく無言が続いた。隔絶していた年月が二人の関係を元に戻すのを邪魔しているのだろうか?
「「なぁリュウセイ(カイル)」」
満身創痍の二人が、同じタイミングで喋りだそうとする。
しかし、気まずさなどは一切感じさせず、二人はお互いをチラリとも見ずに会話を続けた。
「んだよ、気持ちわりーな同じタイミングで喋りだしてんじゃねーよバカ」
「お前の方こそ気持ち悪い。なんだよ……俺が見ねぇ内に刀術なんて覚えやがって」
「うるせー、バカイル」
「昔の呼び方すんなチビホシ!!」
「だぁれがチビホシだ!? 昔の呼び方してんじゃねぇ!!!」
「弟なんだから、兄貴を敬えよチビホシ」
「ハッ! お前みたいなバカ誰が敬うかっ!」
「相っ変わらず口が悪いな」
「直す気はねぇ」
「あっそ」
失った月日を感じさせない自然な会話が流れていく。兄弟らしく、勝負して、双子らしく引き分けた二人はそれで対話を終えたのかもしれなかった。しばらく押し黙る二人……。風が木を揺らし、森の音がそこらじゅうから聞こえる。
するとカイルが沈黙の中、口を開いた。
「「生きてて良かったな」」
「「っ!! お前っ!!!」」
再びハモったことをきっかけにまた罵りあう二人。直前に言ったお互いらしからぬ台詞のことなど完全に忘れた二人の声が山の中にどこまでも響いていた……。