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CAIL~英雄の歩んだ軌跡~  作者: こしあん
第三章~絶対強者との邂逅~
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第七十一話―恥ずかしくない〝自分〟

 



『どういうことだよ』



 間を置いて返ってきた返事は存外冷静なものだった。ヴェンティアの町民の悲鳴が、水晶を通して海中の水を揺らす。



「黒い海龍はバットが変化したもの」


「レヴィは関係ないわ」


「「だから、放っておきなさい」」



 絶句、リュウセイは言葉を失った。

いや、リュウセイだけではない、この声を聞いた全員が――放送を聞いていたヴェンティアの町民も含めて、静まり返った。



『そいつぁ、この街の奴等を見殺しにするってこと……なんだな』


「「そういうことよ」」



 探るような言葉にも、二人は間髪入れずに肯定する。

なんの躊躇いも、迷いもなかった。二人はどこまでも冷淡だった。


 直後、割れるような怒号が【テレパス】で送られてきた。








『フザけるな!! 何とかしろよ!』




『人殺し! 犯罪者!!!』




『お前らさえこなけりゃ……こんなことにはならかったんだ!!!』




『ちゃんと落とし前着けろよ! お前らがしでかしたことだろ!』




『早く助けてよ! 死んじゃうじゃない!!!』











 止めどなく、怒りの声が溢れてきている。

魔具が振動し、熱を帯びて聞こえてくる声は町民の怒りを表現しているように聞こえる。


 だが、そんな怒りをものともしないほど、ぶちギレている者が……いた。
















「「うるっさい!!!!!!!!!!」」



 近くで爆発が起こったかと錯覚するほどの怒声。

その破裂音に近い怒声で、暴徒は黙る。

いや、強制的に黙らせた。

そして二人はその怒りのままに言葉を吐きつける。



「言っとくけどね、あんたらは加害者よ」


「あんたらが今あたしらに対して叫んだ言葉は、全部自分たちに返ってくるのを理解してる?」


「『フザけるな』? それはこっちの台詞よ。

あんた達は、この十一年でいったい何百人を生け贄に差し出したのよ」


「『人殺し』? この街そのものが人殺しの街で、あんたたちもそうなんでしょう?」


「『お前らさえこなければ』? 違うでしょ。

あたし達が来なくたってこの街は〝最悪〟だったわ」


「『落とし前着けろ』? 何寝言、言ってんの。

自分達が出来てないことを人に頼むなんて何を考えてるのかしら」


「「『助けて』? 




 ……それはこの街で生け贄にされた人が全員、死ぬ寸前まで思ってたことよ!!!!!」」



 畳み掛ける二人の言葉に返ってきたものは沈黙だった。

向こうの様子は、きっとこの場にいるセーラと同じなのだろう。罪悪感に苛まれ、顔を上げることができないでいるのだ。




「睡蓮は一方的な被害者しか助けないの」


「乞うだけの加害者なんて助けたくないわ」



 それは、彼女らの明確な線引きだった。

カラクムルの街とは違う絶対的な線引き。

……あの街にはスラムという一方的に搾取されている人間達がいた。不正を知らずに、過ごしている人がいた。財政難の、孤児院があった。


 彼らは〝被害者〟であり、〝弱者〟だ。


 この街は、違う。

リュウセイが少し前に言ったように、この街は〝加害者〟だ。

助けるべき対象ではない。二人の線引きから……外れているのだ。


 マリン達が今回この街を訪れた理由はレヴィに恩を返すためだ。

その結果として、バットが暴走して暴れても、子海龍は既に救出してある。……この街での目的は果たしている。




『でっ、でも俺達が今まで生け贄に差し出した人間はあんたらみたいに海龍が助けてんだろ!? だったら――』


『違う。私は全ての人間を助けた訳ではない。

その強さを見込み、認めた者だけ。

今のところは、この二人だけなのだ』



 聞こえてくる言い訳を、レヴィはすぐさま切り捨てる。


 手当たり次第に助けて、それがバットに露見した場合、どうなるか分からなかった。

殺されはしないだろうが……娘が酷い扱いを受けるのは間違いなかったろう。

だから、レヴィは全て“始末”してきた。差し出された……生け贄を。



「あんた達は生け贄を差し出すことを受け入れた」


「戦わなかったあんたらは、帝国の奴等と同罪よ」



 重苦しい……沈黙。

リュウセイが海龍と戦っている音だけが海底に届いていた。


 心のどこかでは皆、どこかで分かっていた。

自分たちは間違っている、と。


 気が付いていた。

戦わなければいけない、と。


 しかし、誰もそれを口にはしなかったし、行動にも移せなかった。

今さらこの制度に意見を唱えたところでどうなるわけでもなし、ましてや戦うなど……。



『俺達は……っ』

『ううっ……!』

『どうすれば、よかったんだよ……』

『もう、どうしようもないじゃない……』

『手遅れなのか……我々は、もう……ここで……』



 命を懸けてまでやること……ではあった。

だが、懸けられなかった。

自分の命と他人の命を天秤にかけて、この街は自分の命をとった。


 その選択が、マリンとフィーナを怒らせた。


 だから二人は糾弾する。

自分本意で、身勝手で……ヴェンティアは〝加害者〟だ、と。


 誰一人として、抵抗の意思を示さなかった――戦わなかったこの街は帝国と同罪だ、と。












「ぴゅ……違うよ。違う……!

この街は……パパは戦ったよ……!!」



 振り絞るような否定の声がした。

拳を固く握って、今にも泣きそうになっている――少女の姿があった。




「パパは、戦った!

十一年前、〝自分〟を誇れるように!

パパが信じる〝パパ〟を守るために! 戦ったんだよ……!



 パパは戦ったんだっ!!!!」



 熱い雫が、セーラの瞳に溜まっていた。

今にも溢れ出しそうな雫は真珠のように大きいが、セーラはそれを溢さない。

瞳の縁で、必死に堪えている。



「確かに、私達は間違ってた。

マリンやフィーナが言ったみたいに……何か、やれることはあったハズなんだ。


 二人の言うことは……正しい。


 でも……今からでも……いいんじゃないかな……っ!!」



 真っ直ぐに澄んだオレンジの瞳には強い覚悟の光が差していて、放送を介し、セーラはその覚悟をヴェンティアの街に届ける。



「今からだって……戦えばいいんだよ!!

今度こそ、〝自分〟を信じて!!

勝てないから諦めるなんて決めつける前に、〝自分〟を信じて戦おうよ!!!


 まだ……間に合うんだよ……これで、終わりじゃ……ないんだよ……っ。



 だって私たちはまだ生きてるんだからっ!



 生きることを諦めないでよ……、償いだって……死んじゃったら出来ないんだよ……っ!」



 セーラの拳が、白くなるほど堅く握られる。

彼女はこの街が好きだ。

生まれ育ったこのヴェンティアの街が好きだ。


 このヴェンティアの秘密を知っても、それは変わらない。


 だからそんなに簡単に諦めないで欲しかった。

間違ったら正せばいい。

それに早いも遅いもない。


 間違いだと気づけたなら、セーラの好きなこの街は……〝ヴェンティア〟はきっとやり直せる。

セーラはそう……信じている。



「どうやって償えばいいのかなんて……私には分からない。


 それでも……絶対何かあるはずだよ!


 間違いは直せるし、罪だって償える!

皆、〝自分〟に聞いてみてよ!


 そしたら、弱くたって、今までダメだったって………一歩は絶対、踏み出せるから!!!」



 海底に、セーラの叫びが響く。海に残響し、尾を引く言葉……。

セーラの言葉は胸に染み入ってくるようで、心の底にある〝ナニか〟が強く揺り動かされる感覚がした。




 レヴィは、その感覚に覚えがあった。

 

 レヴィは回想する。

セーラに十一年前、自身に挑んできた無謀な男の姿を重ねて――







――――――――――――――――――――









『ガァッ、あっ、あぁぁっ!!』


『ふはははは!!! 滑稽だなァ! 

意気揚々と挑んでおいてなんと呆気ない!!』



――男は、他ならぬ私の尻尾によってその身体を貫かれていた。

たった一人で挑んで来た割りに、本当に呆気ない幕切れだった。



『海龍……どうして海の王であるアンタが……帝国に味方する……!!』



 男は私を糾弾した。

険しい顔つきで、きっと人間からしたら恐ろしい顔つきなのだろう。私からすれば、必死なだけのように見えるが。


 答える義理はなかった。

ただ、何となく、気まぐれのようなもので私はその質問に答えた。



『娘が……人質に取られている。

あの男の首元に巻かれているのがそうだ』



 私の言葉に男は目を丸くして、憎たらしいバットという役人に目をやった。

そして……その首に巻かれた愛し子を確認した途端、険しかった顔つきが……僅かに緩んだ。



『ああ……そうかい、そうだったか。

だったら……しゃーねぇな……はは、何だよ……アンタも人の親なんだな……』



 私は人ではない……だが、その言葉は出なかった。


 笑った。


 身体を貫かれ、まさに死を目の前にしながら、男は笑った。

理解ができなかった。意味が分からなかった。



『何故、笑う……』



 思わず口をついた疑問の言葉に、男は驚きながらも理由を話し始めた。



『龍ってぇのは……人間並みに、下手するとそれ以上に……賢い生き物なんだって聞いたことがある……。

言葉は話せずとも意思は通じる……そんな存在だって、ばっちゃんが言ってた……気がする。


 だから俺ぁ、アンタを責めようと思ってたんだ……。

敵わずとも、殺されようとも、アンタの心に〝ナニか〟を植え付けられりゃ……良いと思ってたのによぉ……。


 ガキが理由じゃ……責めらんねぇよ。これが笑わずにいられるか……』



 笑えない。私の顔は微動だにしない。

そんな不確定な……万が一の確率のことのために……この男は命を捨てたのか。



『何故だ、何故……命を捨てる。

そんなことをせずとも……この街の住民は、生きていけただろう』


『俺はそんな状況を生きてるなんて言いたくねぇ』



 私の言葉に、男は間髪入れなかった。

他者を生け贄にして生きていくという制度。

人間からすれば、非人道的なことなのだろう。

しかし……それでも自分の命はもっと……貴重だろう。


 見たこともない相手の為に、命を捨てる?

それは生き物としての本能に抗っている。

人間が賢いと言う龍でさえ、群れの仲間のことしか考えていない。


 だというのに……



『何故、そんなことをする……。

他人の為に……そなたはどうして……』


『他人の為……そいつぁ、違うな。

俺は……娘の為にここにやって来た』


『娘……?』



 それは私の興味をそそった。

人間でも龍でも、子を思う気持ちに変わりはないのだろうか、と思った。



『まだ、俺の腰にも届かねぇちっこい奴だ。

あいつはこれからこの街がどんな風になっちまうのかを知らされない。

でも……いつかその日は来る。

あいつが、誰かを生け贄にするその日が。


 親として……そんなことはして欲しくねぇんだ。


 〝俺〟は、そんなことを娘にさせる親じゃねぇんだよ……っ……ガハッ!!』



 男は大きく吐血した。

血で男の姿が霞んでしまう程の量。

どうしようもない……まもなくその命は潰えるだろう。



『海龍……アンタに、頼みがある』



 死にかけの男は、息も絶え絶えになりながら、最期の力を振り絞って私に頼みがあると言った。

必死、いや……決死の様子だった。

死ぬと決まった男の様子だった。



『この街は……きっと堕ちる。

ズルズルと……帝国に呑まれちまう。

だが、もし、いつか、アンタの娘が解放されたなら……どうしようもなくなったこの街を……救って欲しい。


 俺の娘が……ちゃんと真っ直ぐ、〝自分〟を誇って……生きていけるような……………そんな街に……………して………………………………』



 小さな命が、潰えた。


 娘の名さえ言わずに、男は死んだ。

その願いを叶えてやる義理は私にはない。


 だが……男の目的通り、これから十一年、〝ナニか〟が、私の心の底に、楔のように打たれて、存在し続けることとなる―――




――――――――――――――――――――





 セーラが、十一年前挑んできた男の娘。

何だかそれは運命じみていて、滑稽だった。

友の為に命を捨てようとしたセーラを、初めは変な奴だと思ったが……あの男の娘なら……理解できるような気がした。


 そしてレヴィは、あの男の願いを……聞いてやろうという気になったのだ。



『一人の男の話をしよう』



 静かな……重みのある声が海底に、海上に響く。

それはヴェンティアの民が慣れ親しんだ海のような声で、セーラの声とは違う感覚で心の中に染み入ってきた。



『その男はたった一人でこの私に挑んできた。

そして呆気なく、その命を散らした』



 一斉に息の呑む音がする。

レヴィはチラリ、とセーラの方を見ると、その大きな目をさらに大きく見開いていた。


 

『馬鹿な真似をするものだ、と思った。

だから思わず尋ねてしまった。何故、と』



 死を眼前に収めながら、男が言った言葉を思い出す。彼の人は……



『娘の為、と言った』



 そう言って、破顔したのだ。

それは娘を思う親の顔で、どこにでもいる……人の顔で。とても興味を惹かれたものだった。


 

『自らの死と引き換えに、その男は私に願った。

娘が誇って過ごせるように、どうしようもなくなったこの街をあるべき姿に戻してくれと頼んだ。







 答えろ、人間。


 そなたらは、やり直す覚悟があるか?

今までの非を認め、罪と向き合っていく覚悟が。


 あるべき〝街〟を〝自分〟を……取り戻す覚悟が』



 答えは……すぐに返ってきた。



『ありますっ!!』


「っ、リオネッ!?」



 それは、セーラの親友の声。

ユナとカイルを、街外れの岩礁地帯に誘導し、生け贄にしようとした人物だった。



『ごめんなさいっ!!!

私は……セーラが死んでほしくなくて……今日、セーラの友達を……生け贄に……っ!


 やっちゃいけないことだってわかってた……っ!!

でも……それでも私は……セーラに、生きてて欲しかった……!!


 罪なら償います!!

だから……私達を……助けてください……っ!!』



 涙の流れる音がする。

汚れた〝自分〟をみそぐような……涙。

懺悔とも、贖罪とも言えるその涙はリオネだけのものではなかった。



『私だって、あるに決まってるさね!!』


「ママ!!」


「ああ、そうさ……! 私は最低な人間さね!!

セーラと仲良くなった奴等を……生け贄にするつもりで家に泊めたさ!!!


 死んだ旦那にも顔向け出来ないどうしようもない女でも……やり直せるっていうなら!


 何だってやってやるさ!!!」



 声が聞こえる。割れんばかりの巨大な声が。

声と声が重なり、希望が響きあう。

もう、この〝街〟は迷わない。

進むべき道を間違えない。


 誇れる〝自分〟を見つけたから。


 そんな〝自分〟に顔向け出来るように。


 戦うことを、決めたのだ。



『そなたらの覚悟……しかと受け取った』



 レヴィ――海龍が動く。

娘をフィーナ達に預け、代わりにセーラを額に乗せて。



「ぴゅっ、とと」


『振り落とされるなよ』



 バットが開けた巨大な穴を通って海龍は海上を目指す。

娘の為に戦った……男の願いを果たす為に……。





――――――――――――――――――――






「行っちゃいましたね」



 残されたユナは海龍が出ていった穴をぼんやりと眺めて、そう呟いた。



「よかったんですか? 止めなくて」



 ユナはくるりとマリン達の方を向き、意地悪そうに微笑む。

不機嫌そうな顔を浮かべているかと予想をしていたユナだったが、その予想は外れていた。


 二人は、何だか少し嬉しそうな顔をしていた。



「「あの状況で待ったをかけるほど、空気が読めない女じゃないわよ、あたし達は」」


「というか、初めから見捨てるつもりなんてありませんでしたよね?」



 ユナは思っていたことを口に出した。

すると二人は揃った仕草で【テレパス】の切れた水晶に目を向ける。



「それはヴェンティアの街の奴等次第ね」


「ちゃんと〝ケジメ〟をつける意志を見せたら助けに行くつもりだったわ」



 そう、待ったをかける以前の問題……彼女達は別にヴェンティアの街を滅ぼそうだとかそのようなことを考えていた訳ではない。

〝加害者〟だから殺すだとか……そういうことを計画していた訳ではないのだ。



「おかしいとは思ってたけどな。

街にはちっちゃい子供とかもおるし……マリンさんとフィーナさんやったらその子らが悲しむことはしやんやろうし」



 ジャックは子海龍に絡まれながら話す。

自らを縛る魔具から解放された自由を満喫しているようだ。



「って、痛い痛い!! 鼻はアカン鼻は!!

そこは入るとこやないっ!!」



 満喫しすぎた小海龍は怒られてしまった。

他の三人はその様子を見てそっと笑う。


 マリンとフィーナは感慨深げにレヴィが出ていった穴を見上げた。



「今まで色んな街に行ってきたけど」


「自分達で覚悟を決めた街は初めてね……」



 帝国の闇は……どこにだって存在する。

見えないように見える――いや、見えないからこそ、闇なのだ。


 この時代に闇を抱えていない街など存在しない。

取り繕った仮面を貼り付け、平和に見える街にも必ず……帝国がいる。


 それは、マリンとフィーナが“睡蓮”で実際に見てきたこと。


 誰かが割りに合わない理不尽に会っている。

それが一人であったり、街全体であったりするだけだ。


 “睡蓮”はそんな状況を正すために活動を続けてきた。

その中にはもちろん、ヴェンティアのような生け贄の街も……あった。

その度に二人はその街に発破をかけ、正してきた。


 今回もそうするつもりだったのだが……



「「レヴィに全部取られちゃったわね」」



 自分たちの発破など必要とせずに、このヴェンティアの街は立ち直ってみせた。

その役目は、レヴィに盗られてしまったワケである。

それでも、二人は満更でもなさそうだ。



「これから、どうするんですか?

あの黒い海龍……強そうでしたけど……助けに行くとかは……?」


「大丈夫よ」


「あれは見かけ倒しだから」



 フィーナの言葉にユナはこてんと首を傾け、疑問符を浮かべる。



「あのバットが取り込んだ黒いのはね」


「稀に帝国に通じる権力者が持ってるんだけど」


「あれを身体に押し込めば、理性を失ってモンスターに成れるの」


「魔力も跳ね上がるわ」


「ただ、元が人間だからか、本来のモンスターが持つ【能力】までは使えないの」


「龍ともなれば手強いことには変わりないんでしょうけど」


「〝本物〟には敵いっこないわ」



 付け加えるなら、そうして人間が変化したモンスターは総じて漆黒の色をしていた。

元がどんなモンスターであろうとも、全身が真っ黒に塗り潰されていたのだ。



「そうですか」



 ユナはホッ、とため息をつく。

これで、何も案ずることはなくなった。

今回はこれで全てが丸く収まる……








 と、そう思ったユナだが、不意に違和感を覚えた。


 あれ、真面目な話が真面目なまま続いている、と。

普段ならあり得ない。

だって普段なら……



「あ」



 ユナは気が付いた。違和感の正体に。

そして、それを口に出す。



「カイルさん……どこに行ったんですか?」



 話を聞かないバカの姿は……どこを探しても見当たらなかった。





 

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