第七話―霧と陽炎と流れ星
ここはカルト山。『迷わせ霧のカルト山』と呼ばれ、民間人はおろか帝国兵すら寄り付かない山。無人の山で葉擦れの音に混じる--いるハズの無い人間の声を、鳥だけが聞いていた。
「おいジジイ気付いてるか? 久しぶりに客が来てるみてぇだぜ」
「お主が気付けておるというのに、ワシが気付いておらぬワケがなかろうが。さて、ではいつもの通り、霧を出して追い払うとするかのう」
「ハッ! 霧は任せるが、追い払うのは俺にやらせろよ。滅多に来ない客だ。例えザコでも、多少の経験にゃあなるだろ」
「ふむ、いいじゃろう。--それにしてもこの山に人がやって来るとは。人数からして帝国兵ではなさそうじゃ。逃亡か……? 密使という可能性もあるのう。人の通らぬこの山を、何の目的を以って……」
「訳わかんねぇこと言ってんじゃねぇよ。いいからさっさと霧を出せ。顔は見られちゃマズイんだろうが」
鳥は会話の意味を理解しない。されど、タイミングを計ったかのようにその場を離れるのだった。
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「おはようございます、カイルさん、ジャックさん」
「「オハヨウゴザイマス、ユナサン」」
機械のようなカタコトの返事をする二人。カイルの方は目の下に大きな隈ができ、背後から黒く陰鬱なオーラがにじみ出ている。一方でジャックは顔が元の二倍に腫れ上がり、服はボロボロの上、痣だらけである。
何があったのかは割愛させてもらおう。
「さぁ、朝御飯を作るので皆さんしっかり手伝ってくださいね!」
「「イエッサァ!」」
息ピッタリのカイルとジャックである。
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「ふぅーっ! いやー、徹夜明けのユナちゃんのご飯は最高やな!!」
しゃべり方も、顔の腫れも不思議と元に戻ったジャックが言う。ちなみに本日の朝御飯はカイルが捕まえた魚型モンスターを山菜で包み、蒸し焼きにしたものである。山菜の風味が魚に乗り、塩だけでも絶品の品に仕上がっている。
「徹夜したんですか? あんなボロボロの身体で?」
「ボロボロにした張本人が何を言……いえ、何でもございません」
ユナから黒いオーラを関知したジャックはすぐさま逃げの姿勢に入った。
――あんなボロ雑巾にされて、まだ歯向かうなんてワイには無理やっ!
「ま、まぁ、早いこと魔具を完成させるに越したことはないしな。いつどこで襲撃があるか分からんのに魔具が出来てなかったので殺されました、じゃあ笑いの種にもならんわ。
ワイの仕事は出来るだけいい性能の魔具を、出来るだけ早く作り上げることや。命を預かる作業になる魔具作りやねんから、これぐらいはせなあかんやろ。
やから徹夜して魔具を完成させたったで!!」
今現在のこの大陸では、カイル達にとって安全な場所等は存在しないと言っていい。なので、ジャックの理屈も分からなくもないのだが、一晩で魔具を完成させるなど、普通はあり得ないことである。普通の職人は一週間ほどかかって魔具を作り上げる。もちろん、睡眠は取って……だ。
それを差し引いてもその完成速度は異常と言えた。
「俺、初めてジャックのこと尊敬したかも」
「わたしもです……」
「なんやそれっ!? ワイの普段が凄くないって言うんか!?」
「だってなぁ……」
「ですよねぇ……」
ユナとカイルが意味深な表情で頷き合い、それを見たジャックが真っ赤になって怒りだす。
「なんやねん!! ワイの何が自分等をそんな顔にさせんねん!!?」
「ちっちゃくて、子供みたいに怒ったり喜んだりして、すぐ調子に乗るところとか?」
「女の人の価値を胸の大きさで決めたり、デリカシーの欠片もないところですかね?」
「そ、即答かい……」
ガクッと膝を付くジャック。大袈裟に手まで地面につけて悲しみを表現している。
「ま、それは置いといてさ。出来上がったんだろ? 俺の魔具。話を聞く限り、良いのが出来たっぽいけど」
「そぉぅやでぇっ! かなりの自信作や!
まぁ、ワイの作った魔具に自信作やない魔具なんてないんやけどなっ! そんなかでも特に気合い入れて作ったから自信作の中の自信作やっ!
名付けてぇ〜〜っ〝フェルプス〟!!」
大地に伏せていたジャックが跳ね起き、指を天に向けて語る。自分の魔具に対する思い入れも大きいのだろう。
「で……どこにあるんだ?」
「これやっ!!」
ジャックは腰に下げていた巾着から四つの魔具を取り出した。その魔具は腕輪のような形状をしており、円柱を斜めに切ったような概形をしていた。魔具全体が一つの大きな炎を思わせる造形となっている。大きさはそれほどでもなく、一つ一つが手のひらに乗るサイズである。
その表面には火のクリスタルが、対面には魔力鉱石であるスタールビーが埋め込まれていた。
「これはどういう風に使うんだ? 見た感じ腕輪みたいだけど……」
「そやな、二つは腕輪や。でももう二つは足につけんねん。ちょっとだけ形が違うやろ?」
よく見ると、四つの内二つが小さめに作られ、もう一つが大きめに作られている。つまり小さい方が腕輪で、大きい方が足に着けるということなのだろう。
「これは、カイルの戦い方を考えて作ったんや。それから……
いや、まずは実際にみてもらう方がええやろ。カイル、とりあえず着けてみ。あっ、フェルプスの長い部分が手足の外側にくるように嵌めてな」
「あいよー」
腕輪と脚輪をそれぞれ着けるカイル。
――すげぇ、俺のサイズにピッタリだ。着けても全然違和感がない。脚に着けるってことは蹴りも考えてのことなのか?
もしかして、かなり戦いの幅が広がったんじゃないか? 一つ言うなら、この大きさにしてはちょっと重い気がするな……
「どうや?」
「スゲェよ。サイズピッタリだし、違和感が全然ない。やっぱお前スゲェ奴なんだな」
「そんなに凄いんですか?」
「腕輪なら今までみたいにクリスタルを握る手間がなくて済むからな。相手のパンチを受け止めたり、っていう動作も出来るだろ? 他にも色々あるけどとにかくスゲェ」
「おまっ、もっと誉めぇよ! もうちょっとなんかあるやろ!!
そんなんじゃユナちゃんにワイの凄さが伝わらんやろっ!!」
「あっ、そーいやコレ、意外と重さがあるんだな。別に問題にはならないけどなんか理由があんのか?」
ピク……と一瞬ジャックの動きが止まる。急に下を向くが、口の端が上がっていくのが容易に見ることができた。
「フッフッフッフッフ……フフフフフフフ、ハーッハッハ!!」
「ジ、ジャックさん?」
――ど、どどどどうしたんでしょう??
ま、まさか昨日ちょっと叩き過ぎすぎちゃいました!? 急にこんな笑いだすなんて……どこか壊れてしまったみたいです。
壊れる……?あっ!! 確かお父様が言っていました!
壊れたものは叩けば直るって!!!
この考えに至ったユナは未だに笑い続けるのを止めないジャックに対して、足元にあった拳二つ分くらいの大きさの石を持ってジャックに向けて振りかぶり……
「ハッハッハー……? っ!?!?
ちょっ……ユナちゃん!? 何持ってんの!? 危ないよ!!? そんな石を人に向けたら危ないよ!!?」
「お父様が言っていました! 壊れたものは叩けば直るって!!」
「壊れてない! ワイは壊れてないっ!」
「嘘ですっ!! あんな急に笑いだすなんてジャックさんじゃないですっ!!」
「嘘じゃないです! ごめんなさい!! 調子乗ってました! なのでその石をどうか収めてください!!」
素早く土下座に移行し、平謝るジャック。数秒前の高笑いはどこへやら……である。
「むう……このすぐに態度を変える感じ……いつものジャックさんみたいですね……」
言われた通りに石を地面に置く。ジャックは安心したように息を吐いて立ち上がる。
「えーー……気を取り直して……よー気づいたな、カイル!!
その通りや!! フェルプスはちょっと重い!!!」
「お、おぅ」
「それこそが今回一番こだわったところやっ!! さぁカイル!!!
フェルプスに魔力を込めてみぃ!!!」
「おう!」
カイルが魔具に魔力を込める。魔具が赤い光を放ち、炎が溢れ……でなかった。
その代わりに魔具が赤い光を放ったかと思うと、次の瞬間、魔具が大きくなっていた。
先程まで腕輪だった魔具が今では大きく拡張し、手首の少し手前から肘までを余裕を持って覆う。
先程の状態の縮尺が反映されているのか、腕の内側の長さはそれほどでもなく、腕を曲げる動作に対しての違和感が全くと言っていいほどない。
手はガントレットで覆われて、指を開閉するのには不自由だが、殴る上で問題になるものではない。
そして手首の両サイドにはクリスタルと魔力鉱石がそれぞれ埋め込まれている。
足輪の方は、足の甲から膝の辺りまで魔具が覆い、腕の魔具と同様に膝の表はしっかりと覆われているが、裏側は表の半分程しかない。
足首の部分はくるぶしの部分だけを丁寧に魔具が包み、足とふくらはぎの魔具がくるぶしを包む魔具を中継にして間接が動きやすいような柔軟性に富んだ素材が蜘蛛の巣の如く繋がる。
「うおわっ!!!なんだこりゃ!!」
「ええっ!?なんですかこれ!?」
「フッフッフ、驚いたかっ!!!
これがフェルプスの目玉システムや!!!
内側と外側、表と裏の長さを異なるものにすることによってカイルの動きを邪魔することがないっ!
瞬間的に大きくなるから、急な戦闘にも便利! いつも携帯出来て邪魔にならない!
当然っ!!
前の即席魔具よりも基本性能も数段上!! 【能力】も再現しとる!! どうやっ、凄いやろ!!!」
要するに、通常時には腕輪と足輪だが、戦闘時には魔力を込めることで手足を完全に覆う防具を兼ねた魔具となる、ということだ。
「ここまでくると感動だぜ……」
「これ……どうなってるんですか?」
フェルプスの機能に目を奪われ、二人とも夢を見ているかのようなフワフワした口調である。
「まぁ結果から言うとな、ヘラクレイブルの甲殻にバルーンパグの筋繊維を入れてん。
まず今のサイズでフェルプスの原型をヘラクレイブルの甲殻で作って、クリスタルと魔力鉱石を埋め込む。そこからバルーンパグの筋繊維を元々あるヘラクレイブルの筋繊維を壊さんように入れてく。
バルーンパグの【能力】は【フリーバルーン】、自分の身体の大きさを自由自在に変えれる能力や。
これを再現してフェルプスの大きさをあのサイズにする。大きさの変化の割合を調整して、手首とか足首の先も完全に守る仕組みや。
あとは術式で腕輪の大きさと戦闘用の大きさを記録しておいて、腕輪ん時に魔力を込めると戦闘用の大きさになるようにしとく。ほんで、戦闘用の大きさの時はこの指輪に魔力込めたら腕輪サイズになるわ。
あっ、この指輪も渡しとくー。
んで、大きさは変わるけど重さは変わらんから腕輪が重くなってしまうのがネックやけどカイルならなんとかなるやろ。
さらにフェルプスはヘラクレイブルの【硬化】も再現しとる。
これは魔具に魔力を込めると自動で発動するように設定したわ。
魔法八割、硬化二割に自動でなるからなんか不具合があったらまた言ってな」
「ちょっと待ってくれ、全然分かんねぇ」
「わ、わたしもです……」
――カ、カイルさんはともかくとしてわたしが理解出来ないなんて……不可解なことが多すぎます。魔具があんな風に大きくなるなんて……それに筋繊維を入れる?
それに術式はどこに書かれているんですか?
「ジャックさん……聞いてもいいですか?」
「おう、なんでも聞いてやー」
「同時に二つの【能力】を再現するなんて聞いたこともないんですけど……」
「そりゃあ、ワイが作った技術やからな」
「ジャックさんが作ったんですか!!?」
「おう、一つしか能力を再現できへんのは癪やからな。反乱軍が負けてから研究して……一年くらい前に完成した技術や。まぁ、色々制限はつくねんけどな。
例えば強すぎる【能力】は二つの両立が難しい。
あと二つの【能力】は本来の力を発揮できへん。【硬化】も【フリーバルーン】も本来それだけを目的に再現したらもっと高いクオリティが出るわ」
「じ、じゃあ……術式はどこに書かれているんですか?」
「術式はなぁー、【能力】の連立の研究の時の副産物でな、筋繊維で術式を書いとる。つまりフェルプスの中で術式は構築されてんねん」
「なっ……そんなこと……」
「出来へんと思ったか?
そんな常識を破るんがワイは大好きやでっ! 出来ることやり続けてもおもんないやん!! 自分の手で未知のモンを生み出すんはゾクゾクする!! やからワイは魔具作りが好っきゃねん!!」
言葉が出ません……。自分の目の前にいるこの人の規格外さに、その才能に……。
魔具に関してならこの人はこの大陸で一番じゃないんでしょうか?そう思わせるくらいの技術。
この研究はきっと歴史に残るほどの大発明であるにも関わらず、まだ、越えられる……まだまだ限界を破ろうとするジャックさんはどこか遠い世界の人のようでした。魔具職人部隊隊長という昔の肩書きは伊達でもなんでもないんですね。
「ほんとに……凄かったんですね……ジャックさんって」
「そんな誉めてもなんもでぇへんでっ♪」
その照れ臭そうにする姿はいつも通りのジャックさんで、思わず微笑んでしまいました。--
「ジャック!! フェルプスだっけ!? ほんとありがとうな!! これほんとスゲェ!!!」
炎が両手両足から燃え上がり、翼を生やしたカイルが空中にいる仮想の敵に対して拳を振るっている。いや、拳だけではない、今では蹴りも織り混ぜ、荒々しい炎が空に舞う。
「当たり前やっ! っていうか自分はスゲェしか言われへんのかっ!!?
もっとなんか具体的な感想とかはないんか!?」
スゲェ、スゲェよー、と仮想の敵をなぎ倒していくカイルにジャックはため息をつくしかなかった。
その時、カイルの姿が少しボヤけた気がした。
ゆらゆらとカイルの姿が揺れて、ジャックとカイルの間に何か膜でもあるような……
「なんや……? カイルの姿が今……」
ジャックが呟く前にユナ達が濃い霧に包まれた。一メートル先も視認できないようなそんな霧に一瞬思考が止まるが、そんな不可思議な現象にジャックがいち早く反応する。
「カイルっ!! この霧は魔法や!! すぐにこっち戻れ!!! ユナちゃんもこっちや!! 三人で固まるんやっ!!!」
冷静で的確なジャックの指示に三人は手早く集合する。カルト山に入る前に、これから戦闘に入る際はこの中で一番対人の集団戦を経験しているジャックの指示に従うことに決めていたのだ。
「魔法ってどういうことですか?」
「ワイはこの魔法を知っとる。水の魔法でこの霧を発生させてんねん」
「どうすればいい?」
「周囲を警戒せぇ、攻撃が来たらやり返せ。
この手の魔法は遠くから数人で霧を発生させて、何人かがワイらを仕留めにくる。
やっぱりこの山の霧は人為的なものやってんな。タチの悪い山賊か凶暴なモンスターか……どっちにしても用心せぇよカイル。ワイら二人は戦わへんからな」
「分かった、戦闘は任せろ」
「わたしは何をすればいいんでしょう?」
「闇の魔力でワイと自分の二人を隠せるか?」
「それぐらいなら大丈夫です」
「よし、ワイは闇で隠れてこの場から退避や。カイルはそのままで敵をぶっ飛ばせ!」
「「了解!!」」
ジャックによる的確な指示が言い渡され、ユナが素早く闇の魔力で辺りの闇を操り、ジャックとユナを包む。
そして二人の姿が唐突に消える。溶けるように徐々に姿が薄くなり、完全に姿は見えなくなっている。背景に同化したような消え方で消えた二人を見たカイルは……
――周りからはこんな風に見えてたんだなぁ。
と、呑気なことを考えていた。
すると足元に一筋の雷が飛んできた。その雷はカイルの足元に着弾すると地面を抉り、撒き散らされる石がカイルを襲う。
「うぉっ!」
とっさにカイルはフェルプスから炎を出し、石を払う。
――くそっ、油断した! 今のが直撃したら危なかった……。にしても、今の雷……ウェルの鞭なんかより数段速くて、密度も濃かったな。少なくとも部隊長レベルはあるだろうな。油断はもう死に直結する……。
集中しろ。どこから雷がくるかは直前まで分からねぇ……
周りの音が小さくなり自分の魔力の存在が際立って感じられる……。目は効かなくてもいい、身体で……相手の位置を……感覚で感じるんだ……。
木の葉が擦れる音……風の音……どこかで流れる川の音……どこに……どこから……!!
その時、上空から僅かに漏れる殺気を感じた。
「上かっ!!!」
見上げると長さ一メートル半はある刀を降り下ろそうとしている敵の姿を見えた。落下してくる敵の攻撃に対し、腕を十字に組んで受け止める。
フェルプスと刀の激突で火花が散り、刀に纏わされた雷が迸る。
その刀の太刀筋は素人目に見ても鋭く、重いものだった。
「ぬぁああ!!!」
力と魔法で無理矢理に刀使いを横に弾き飛ばした。輪郭は分からねぇけど、場所だけならなんとか見える距離だ。パワーは俺の方が上。
そんで、この間合いなら……
「クリスタルバレット!!」
ポケットに仕込んでいたクリスタルを取り出し、拳で砕いて爆炎を飛ばす。
どうだ!! もうこの距離ならかわすことも出来ないだろ!!
そう思っていると、刀使いのいるところから声が聞こえてきた。
「七星流・壱の型・一ツ星!!」
さっき地面を抉った雷がクリスタルバレットとぶち当たる。ここら一帯を魔法の激突による爆風が駆け抜け、余波で木が揺れる。
「一ツ星!!」
「っ!!」
再び飛んできた雷をかわし、間合いを詰めていく。フェルプスから炎を出し、地面を脚で思いっきり蹴って、石礫を飛ばす。刀使いは後ろ上方に飛び上がり、石礫を避けた。そのまま木を蹴ってこちらに向かってくる。
翼を生やして空中戦に持ち込めばこっちのもんだ! 一気に翼を生やして向かってくる刀使いに向かって飛んでいく。
一瞬の交錯。
刀とフェルプスがぶつかって、キィン、と高温の音が辺りに響く。空中戦に持ち込もうとしたが、刀使いはするりと俺の横を抜けて、地面に降りたった。
すぐに後ろを向いて体制を立て直し、刀使いを見ると……
ソイツは翼を生やして俺に突進してきていた。
「んな、なぁぁ!??」
どういうことだよ!? 翼生えてんぞ!?
鱗があり、羽毛がなく、赤ではなく、黄。俺の翼が鳥の翼だとすると、そいつの翼は竜の翼のようだった。翼膜があり、骨格の先端には婉曲した角のような物まで生えている。
何事もなかったかのように追撃してくる刀使いの武器は雷を纏っている。
脇構えに刀を構えて、横薙ぎに刀を振るう。左腕で受けに入り再びキィン、と音がなるが、今度は離れず空中で動きが止まる。
「お前、もしかして……有翼族なのか?」
生まれた膠着状態を使って聞く。どうしても知りたかった。こいつが有翼族なら、俺の知らないことも知ってるかもしれない。
記憶を失う前の俺を知ってるかも……
「だからなんだってんだよ、戦闘中にんなこと聞いてんじゃねえよバカイル」
「うっせー、黙ってろ。お前こそ一丁前に刀なんか持ちやがって。戦い辛いんだよチビホシ」
ん? なんだ? 喋るつもりなんかなかったのに勝手に口が動いた? それにチビホシ?
誰だ、それ? 口をついてでちまったけど。
ゆっくりとソイツを見るとどうやら同じ状況だったようで、こちらを見ている。視線が合う。
目の前の刀使いは無造作にされた短い間髪、澄んだ緑の瞳に黒い剣術道着を着て、手には一メートル半程の刀が握られている。不思議なことに刀はあるのに鞘がその腰にはついていなかった。
「「ぐぅあっ!!」」
なんだ……記憶が……頭ん中から……出て……
急に痛みだす頭、戦闘中にどうかと思うが、片目を瞑り痛みを堪える。湧き出てくる記憶の泉が幼き日の思い出を吹き出す。
走馬灯のように情景が流れていく。
勝負するのが好きだった。
かけっこして負けた。
腕相撲して勝った。
ケンカして相打った。
魔力コントロールが下手な二人だった。
刀を使われて、負けたのが悔しかった……
そんな情景が頭を流れた後、もう一度目の前の男を見る。生意気な顔で俺を睨んでいる。どうやら向こうも同じ状況だったらしい。俺の姿を写すように片目を瞑っている。
目の前のこの男は双子の弟のリュウセイだった。