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CAIL~英雄の歩んだ軌跡~  作者: こしあん
第三章~絶対強者との邂逅~
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第六十七話―リュウセイと、ヴェンティアの裏

 



「じゃあリュウセイ」


「あたし達も出掛けるから」



 リュウセイはセーラの家の庭で素振りをしながらマリンとフィーナの話を聞いていた。

まだ完全に制御できていないのか、狼の尻尾が一振りごとに上下し、連動している。

誰も得しない可愛さだった。



「も、ってこたぁ、他に誰か出掛けてんのか?」



 ぶん、ぶん、と風を切る音を立てながらリュウセイは二人に話しかける。

姉の方を向かずに、ただ前を見つめている。

彼にとっては素振りの方が重要で、姉達の話は話半分のつもりなのだろう。



「「ユナちゃんとカイルがデートよ」」


「はぁっ!?」



 ぶぉん、と剣線がぶれて尻尾がピンと逆立つ。

リュウセイは驚いた顔で二人の姉を見る。清々しいほど満面の笑顔だった。



「ハッ! なんだ、姉貴たちがカイルを唆したのか」


「せぇ~かぁ~い」


「結果はどうなるかは分からないけどね」



 にししし、と笑って尻尾を振る姉にリュウセイは心の中で今回の悪戯の犠牲者ユナに同情した。



「じゃっ、そういうわけだから」


「あたしたちも出掛けてくるわ」


「あ、そうそうリュウセイ一つだけ」











「「何があっても街の人は殺しちゃ駄目よ」」



 そう言って二人は、足元にある触手的な植物で簑巻きにされたジャックを掴み、軽快に家の側に浮かぶ水路に飛び込んで、ヴェンティアの街に繰り出していった。


 姉達が出ていった水路を眺めて、リュウセイは汗のしたたる身体で首を傾げる。



「街の人間は殺すな……だと?

どういうこった? 殺すわけねーだろ」



 まぁ、あいつらの言うこと全てを真に受けてたら身が持たないな、と早々に決断を下したリュウセイは一人になった庭で素振りを再開する。



――つっても、一日中素振りをするわけにもいかねぇしな……とりあえず日課の分が終わったら俺も外に出るとするか……








――――――――――――――――――――







――昨日はあんな人気のねぇ場所で過ごしてたから気付かなかったが……この街、やたら魚人族マーマン人魚族マーメイドが多くねぇか?



 リュウセイは街に繰り出していた。

昨日と同じ雷柄の水着を着用し、今日は刀をしっかりと腰に差している。

空中を蜘蛛の巣のように張り巡る水路を泳いで移動しつつ、リュウセイは眼下に広がる街を眺める。



――ま、水の街だし、それに適した種族が多いってことか。



 水の流れに流されるまま、ぶらりぶらぶらとリュウセイは遊泳する。

金は昼食分のみ、マリン達から支給されているのでどこかの施設で遊ぶことも出来ない。

地味にケチな二人だ、とリュウセイは思った。


 しばらく水に流されて腹を空かせたリュウセイは水路を飛び下り、別の水路に着水する。

その水路はいわゆる立ち食いの店が乱立するエリアで、道行く人は水上に建てられた出店に泳ぎながら注文していた。

リュウセイもそれにならい、近くの食欲のそそる匂いを出す店に向かって泳ぐ。

そして、ジュウジュウと音を立てて料理をする屋台の親父に声をかけた。



「おいオッサン、水焼きそば四つくれ」



 いきなり失礼である。

確かにオッサンではあるが、彼は爽やかなオッサンなのだ。

しかし、屋台のオッサ……親父はリュウセイの言葉に何の不快感も抱いていないようだった。



「あいよ、毎度ありいっ! 包もうか?」


「いや、すぐ食べるから別にいい」


「そうかい! よく食うなぁ! あんちゃん!」


「ハッ! まぁな」



 他愛のない会話をひて、リュウセイは山盛りに盛られた水焼きそばを受け取り、四人前の代金を支払う。



「一人前、オマケしといたぜ!」


「マジか、さんきゅ」


「その代わり、その内の一人前はハズレで激マズだから気を付けろよ!」


「何やってんだテメェ!?」


「がっはっは! 冗談だ! また来てくれよ!」


「……」



 リュウセイは水焼きそば屋の魚人族マーマンの親父を無言で睨む。

しかし、彼はイイ笑顔を浮かべるだけだった。


 不味かったらぶん殴ってやる、と心に決めたリュウセイは、山盛りにされた水焼きそばを食べながら泳ぐ。


 ちなみに水焼きそばとは、ここヴェンティアの水料理の一つで、麺の形に加工され、味付けされた水の焼きそばだ。

水なのに腹持ちがいいことがウリである。


 

「……げっ、百マムしかねーじゃん」



 そんな水焼きそば五人前をぺろりと平らげたリュウセイは残金を確認して頬をひきつらせる。

ちなみに外れは無かった。残念。



「これからどーすっかな……」



 意味もないボヤきをしながらつまようじを噛む。

特に何も考えるでもなくつまようじを噛み噛みしながら流される。

ぼー、と呑気に空を眺めて噛み噛み。噛み噛み。


 そんなことを繰り返していると、強化された獣人族の耳がすれ違う人の声を拾った。



『今回の指名……誰だっけ?』

『セーラだよ、セーラ』

『マジかよ……今日が期限なんだろ?

大丈夫なのか?』

『リオネの奴がカップルを岩礁地帯に誘導したらしい』

『そっか……なら今回も何とかなりそうだな』

『ああ………そうだな』

『この街は、どうなるんだろうな』

『もうどうしようもねぇんじゃねぇの』

『……かもな……』



 その会話の内容自体は理解できなかったものの、そこに知っている人間の名前があったことにリュウセイは少し驚く。



――セーラ……指名……? どういうこった……?



 リュウセイは二人の会話の意味を考えながら水路を行き、広場に出た。

広場、とそう表現したが実際には水場だ。

様々な場所へ繋がる水路をこの広場のような水場に繋ぎ、交通をより便利にしている。

この水場をスクランブル交差水路と呼ぶことにしよう。


 とりあえずリュウセイはスクランブル交差水路の真ん中に佇み、先程の会話について思いを廻らせる。



――さっきの会話……何だったんだ?

この街……何か裏がある……のか。


 そもそも姉貴達は遊ぶために寄った……とか言ってたけど、本当にそうなのか?

スミレとの約束じゃ、俺らは派手に動く囮のはず。

そう約束した矢先、遊ぶためだけに街に寄るのか?


 いや……待てよ……。


 そういや、この街……帝国兵が一人もいない・・・・・

そんなことあり得るのか?


 街に入る時の関所にもいなかった。

普通の街なら帝国兵が必ず見張っているはずなのに。



「この街……一体何が……」



 そう口にして、俺は異変に気付く。


 考え事に集中して周りに集中してなかったせいで気付くのが遅れた。

さっきまで人が行き交っていたこの広場が、今は俺1人しかいなくなっている。

だが、人の気配は感じる。

獣人の感覚と魔力探知が教えてくれる。

この広場を囲むようにして……いや……俺を囲んでやがるな、これは。

水中にもいやがるし……ったく、どうなってやがんだよ。


 

「うおおおおおおおお!!!!」



 水中から魚人族マーマンが槍を突き上げてくる。

何のためにこんなことやってんのか知らねぇけど、攻撃してくる以上、覚悟は出来てんだろうなぁ!!



『『何があっても街の人は殺しちゃ駄目よ』』


「っ! チッ!」



 突き上げてくる槍を避け、鞘に入れたまま刀を振るって手首を打つ。

そして痛みで槍を取り落としそうになるそいつの腹に追加で蹴りを入れて、吹き飛ばした。



「がふっ!!」



 危ねぇ、切りかけた。朝の姉貴の言葉……もしかして姉貴はこうなることを予期してたのか?


 ハッ! やっぱりただのバカンスじゃ無かったってことか。

あいつら初めから何か企んでやがったな。


 とりあえず、俺への指示は〝殺すな〟ってことだけか……。カイルやユナにも何か言ってそうだな。


 ハッ! まぁ話は簡単だ。

殺さない範囲なら、俺は俺で好きにすりゃいいってこったろ?

この街の裏事情とやらは、この街の奴等にでも聞きゃあいい!!



「オラ、かかってこいよ魚ども!

俺は逃げも隠れもしねぇからよぉ!!!」



 俺の挑発で隠れて囲んでいた奴等も姿を見せる。

結構いるな。

二十人……くらいか。水中にはまだ何人かいるみたいだけどな。


 と、考えていたら、少し老けた魚人族マーマンがデケェ声を上げた。



「行け!! 冒険者達! 〝流星(りゅうせい)〟を捕らえろ!!!!」


「あ゛あ゛ん?」



 その声を合図にして、襲ってくる武器を構えた冒険者達が接触する前に、俺のことを〝流星〟なんて呼びやがった魚人族マーマンに一ツ星を飛ばしてやった。

俺の名前はリュウセイだっての。



「ぐあっ!」


「町長!!!!」



 へぇ、あいつが町長か、ならこいつら全員戦闘不能にした後、あいつに話を聞けばいいわけだ。



「貴様、よくも……っ!」


「襲ってきてんのはお前らだろうが。責められる謂れはねぇぜ」


「黙れっ、この犯罪者!!」



 ハッ! 犯罪者……ねぇ。



「その犯罪者ってのは誰が決めたもんだ?

帝国の都合で決められたもんだろうが。


 それをそんな風に言うってんなら……テメェら帝国と繋がってんのか?」


「なっ……それはっ……」



 答えない。黙った、か。チッ! めんどくせぇ。

まぁ、姉貴達が殺すなっつうんだ。何かしらの事情はあるんだろうが、ま、とりあえずは……



「ええい! 〝流星〟の言葉に惑わされるな!!

かかれ! かかれぇえ!!!!」



 ……全員切ってやろうか。



 まずは二人、前後からの挟み撃ち。

水中ではあいつらに利がある。

だが、魔力を足場にすりゃあ水中だろうが踏み込むことは出来んだぜ。

交錯する攻撃を魔力を足場にして水中とは思えない動きでかわし、鞘と柄の連撃で二人の意識を奪う。


 攻撃の合間を狙って水中から襲ってきやがった奴には一ツ星を飛ばし、ついでに近くに来ていた奴を蹴り飛ばす。


 これで、四人だ。


 張り合いがねぇな……これまでの戦いと比べたらアクビが出るぜ。

こんなもん、ジジイの所にいた頃の俺でもあしらえる。


 六人。


 町長の野郎にゃ話を聞くとして……俺に向かってこない奴等もいるな。

あいつらは何だ?

冒険者は俺を襲ってきてる。

なら、あいつらは一般人か?


 七人。


 一般人にしちゃあ、武装しすぎな気もするが。

男だけってわけでもねぇ、女もいる。

子供は……見た感じいねぇな。


 八人。


 

「くそっ、全員でかかるぞ!!」


「おお!!」


「ああ!!」



 残った三人が水上に飛び上がり、頭上から同時にそれぞれの武器を振り下ろしてくる。

……連携もクソもねぇな。馬鹿かこいつらは。

素直に食らってやる義理もねぇから、俺は魔力の壁を頭上に作り、それを押すことで水中へ沈む。


 当然、そいつらの攻撃は空振りし、勢いあまった三人はちょうど揃って俺の目の前だ。

攻撃をかわされて驚いたそいつらの顔がよーく見えた。




(七星流・壱の型・一ツ星・放射型!)



 放射状に放たれた雷が三人を射ち、気絶。

これで十一人。

最初に言ってた冒険者はこれで終わりだ。



「冒険者以外が……九人か」



 さて、じゃあ残ったやつらにでも話を……!!



「うおわぉぁぁぁぁぁぁあ!!!」


「おっと」



 正気か?

冒険者十一人でも歯が立たなかった俺にたった一人で向かってくるなんてよ。

ん……? コイツは……



「よぉ、水焼きそば屋のオッサンじゃねぇか。さっきぶりだな」


「っ……!!」


「棍棒なんて振り回して……どういうつもりだ?

慣れねぇことはするもんじゃねぇぞ」



 読み易い攻撃だ。刀を握るまでもねぇ。

こんなもん、いつまでだって避け続けられる。



「うっ、うぅ、うわぁぁぁっ!!!」



 おいおい、なんだよオッサン……なんて顔で戦ってやがんだ。

唇を固く結んで、泣き出す寸前の子供みたいな顔だぜ。

いや、こいつだけじゃねぇな。

さっきまでの冒険者どもの中にもこんな顔をしてるやつはいた。

見ているだけで、戦っていない奴等も、こんな顔だ。



「そんなに戦いたくねぇんなら、帰れ」



 殺気を込めて睨むと簡単に動きが止まった。

だがそれも一瞬で、すぐにまた顔を歪めて棍棒を振り回す。



「ひ、引けねぇ! こっちにだって戦う理由がある!!

やらなきゃいけねぇんだ!!


 ……頼むから、やられてくれぇっ!!」


「だったら死ぬ気でかかってこいよ。

攻撃するたびに目ぇ瞑りやがって……やる気がねぇのか? ああ?」


「そっ、それは……!」


「ハッ! もういい」



 手刀で手首を打ち、棍棒を落とさせる。

呆然とするオッサンを掴んで見ていた奴等の方へと投げた。


 他の人間に介抱されるオッサンの――そして町長の前に、俺は立った。



「テメェらが目ぇ瞑って逃げてること、話せ。


 この街は……一体なんだ? テメェらは何をしてやがる」



 ………………………………………………………………黙んなよ。

ッチ、面倒くせぇな……。



「……話して……どうなると言うのです」



 ちょっと焦げた町長が口を開いた。

さっきと口調が変わってんな。焼けて冷静にでもなったか。



「この街の〝罪〟をあなたに話すことで、一体何になると言うのです」


「さぁな、同情でも引けんじゃねぇの?」



 まぁ、しねぇけどな。



「同情……ですか。それくらいしか、私どもに出来るのとはないということですか……」



 まぁ、しねぇんだけどな。



「でしたら、私がこの街の〝罪〟をあなたに話せば……ある場所に行っていただけますか?」


「ま、その話次第だな」


「……いいでしょう。この街の秘密を……話します」



 そして町長は語りだした。

この街の……秘密を。

水上都市ヴェンティアとは……どんな街なのかを――








――――――――――――――――――――










「この街は……十一年前までは……そこそこ名のあるただの歓楽都市でした。

魚人族マーマン人魚族マーメイドのみで構成された住民達は……毎日を平和に暮らしていました。


 それが変化したのは十一年前、帝国がこの大陸を支配した時からです。


 元々自衛の為の戦力など、あってないようなものでしたから……あっという間に、抵抗する間もなく……一人の犠牲者を出して、この街は占領されました。


 その日から、この街にはあるルールが出来たのです。

それこそが……この街の〝罪〟であります。





 生け贄制度。




 これが最も適切な表現でしょう。

一週間に一度、この街に派遣された帝国の役人によって無作為に町民が指名されます。


 指名された人は生け贄とされ、殺されてしまうのです。


 死にたくなければ代わりを差し出す他ない……。

街ぐるみでの、人殺しが始まりました。

指名された町民を助けるため、観光客を引き込み、騙して……生け贄とするのです。


 例えば……道行く恋人達に人気のない場所を教え、油断したところをモンスターに襲わせる……家に引き入れ薬を盛るなど、手段は様々。


 この街の町民は皆、罪を感じながら、それでも人を差し出して……生きているのです。

そうするしかない………!

生きるには……帝国に従うしかないのです!


 私どもにはどうすることもできません。

服従の道しか残されていなかった。

殺してしまった人達には、本当に申し訳なく思います……


 抵抗ですか? そんなことは不可能です。

負けることが目に見えてる戦いに意味などありません。

今まで一度だって起こしたことはございません。

やるだけ無駄ですよ。

勝てる道理がありませんから。


 帝国の役人はそれほど強いのか、ですって?

いやいや、役人自体はそれほど強くありません。


 問題は、奴の従えてるモンスターなのです。


 海の王、水中種最強のモンスター……海龍。

アレには……誰も勝てません」





――――――――――――――――――――





「先程、この街を支配している帝国の役人バットから連絡がありました。


 あなた達賞金首六人を自分の元に連れてこい、さもなくば我々の子供を百人、殺す……と。


 お願いします。バットの所へ行ってください」



 リュウセイは目を閉じて町長ルーカスの話を聞いていた。

額には酷いシワが寄せられ、刀を握る手が白くなる。

それはこんな状況を生み出した帝国に対する怒り……








 ではない。



「ハッ! 気に食わねぇな」


「……何がでございましょう?」


「テメェらのその態度だよ」



 “被害者”である町民に対して、だ。

町長含め、この場にいる町民が何を言われたのか分からずに固まる。

町長が話している間に集まってきた町民の数は増え、結構な大人数となっていたが、リュウセイの声を聞いたその全員が固まっていた。



「被害者ヅラしてんじゃねぇよ。

どうすることもできねぇ?

やりもしねぇうちから何言ってやがる。


 そんな簡単に……諦めてんじゃねぇよ!!」



 リュウセイは知っている。

たった一人で二年間も戦い抜いた少女のことを。

辛くて、苦しくて、どんなに絶望しても仲間のために、命と魂を削った少女のことを……!


 だからリュウセイは彼らに憤る。


 無意味としりつつも、勝てないとしりつつも、抗い続けた少女がいるというのに……この街の住民はなんだ、と。



「相手は海龍ですぞ!?

それがどれほどの存在かあなたは分かっていない!

ヤツはまさしく海の王! ですから――」


「逃げたんだろ?


 戦うことが面倒だから。他人を殺す方が、楽だから。


 ハッ! テメェは、テメェらは……姉貴達が救おうとしてるような“被害者”なんかじゃねぇ。


 帝国の影にビビる“加害者”だ」



 リュウセイは町長の言い訳をあっさりと切り捨てる。

町長を含むリュウセイの話を聞いた全員が反射的に違う、俺達は加害者なんかじゃない、と反論しそうになるが、その言葉は彼らの喉で引っ掛かってしまって出てこなかった。



「海龍だから、勝てないから、仕方ないから帝国に従おう。



 帝国の言う通りに、人を殺そう。



 ハッ! ムカつくぜ。

そんな理由で殺されちゃあ、たまったもんじゃねぇなぁ」


「そんな理由ですと……!!?

我々だって命が懸かっているのですぞ!

それに何度も言うように海龍になど……」


「勝てねぇから、なんだよ。


 武器をとることだけが抵抗か?

戦闘行為だけが抗うことなのか?

海龍を殺すことが“勝ち”なのか?


 違うだろうが!


 どんな状況だろうと、戦う手段はあるんだよ!

それをテメェらはしなかった!


 テメェらはただそれが面倒だから人を殺してきたんだよ!!!!」



 リュウセイの怒声が広場全体に響き渡る。

集まってきた人間は皆俯いていた。


 罪の意識はあったのだろう。

出さないだけで、見せないだけで……この街の住民は罪悪感に苛まれていたのだろう。

それしか助かる道はないのだと信じこんできたのだろう。


 それを誤りだと、罪だと指摘されてしまった今、住民は何も言うことが出来なかった。



「なら……我々は一体どうしたらよいのですか。これから、我々は……」



 生気の抜けて、干からびたような顔をした町長がすがるようにリュウセイを見る。



「知るか、そんなもんはテメェらで考えろ。

……そんなことより、今回の生け贄に選ばれた奴はセーラで合ってるか?」


「え、ええ……」



 リュウセイはその言葉を聞いて浅く舌打ちをする。



――色々繋がったな……。

朝からセーラが見えねぇのもそういう訳か。

どうしたもんか……とりあえずセーラを止めねぇと……。



 リュウセイがそう思索を巡らせていると不意に甲高い音がした。


 キィ―――――――ィン。


 それは、放送の合図。

どの街にも必ず置いてある放送器が作動する音だった。



「放送だと!?」


「バットのやつか!?」


「今度は一体なんだ!?」



 にわかに騒然とする広場。

備え付けの放送機に耳をすませ、憎たらしいバットの声を聞こうとする。

しかし、放送と共に聞こえてきたのは忌々しいバットの声ではなかった。



『私は死んだって構わない!

友達を生け贄にして、生きたくなんかない!


 さぁ、海龍!! 私を食べてよ!!


 それで今回の生け贄は終わり!!

ユナたちを生け贄になんてさせない!!』



 飛び込んできた声は、今まさに話題にしていたセーラのものだった。

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