第六十四話―海だ水着だバカンスだっ!
水上都市ヴェンティア。
それは海上にある水の都。
美しい景観と個性に富んだ娯楽施設が多様に存在する……観光業が盛んな街である。
盛んなというのも曖昧な表現ではある。
だがまぁ、一言で簡潔にヴェンティアを紹介するとすれば……
街全体が一種の遊園地のようなものだ。
「ユナたちおっせーなぁ……」
「女子の着替えっちゅうもんは、時間がかかるもんやでカイル、わん」
そんな遊園地の中の娯楽施設の一つ、〝海遊スプラッシュワールド〟に狼の獣人の姿をしたカイルと、犬の獣人の姿をしたジャックの姿があった。
同じ犬科だが、ジャックは垂れ耳で、カイルはぴん、とした直立耳だ。
尻尾もカイルの方がギザギザしているような印象がある。
「なんだよ、姉貴たちはまだ来てねぇのか?」
そう言いつつ現れたのはリュウセイ。
彼もまた狼の獣人の姿をしており、娯楽施設ということで、現在は小竜景光を外している。
つまりカイルとの違いが無くなってしまったのだ。
つまりつまり……無理、こいつら見分けられない! ということなのだ。
二人が同じ水着に着替えた後で、しまった! と思ったジャックはすぐにリュウセイを走らせ、見分けがつきやすい水着を買わせて着用させた。
リュウセイが今着ている水着は雷の絵が描かれたハーフパンツ型の水着。
カイルが着ている水着は炎の絵が描かれたハーフパンツ型の水着。
二人の属性に合わせた水着である
ちなみにジャックは犬が描かれた可愛い水着だ。
あざとい。
「「お待たせー」」
「す、すいません、待ちました……か?」
と、リュウセイが言った傍から、マリンたちの声が聞こえてくる。三人がその声に引かれて振り返ると……
「ぶふふぉあっ!!!!」
ジャックが鼻血の噴射で吹き飛んだ。
ジャックが見たものはもちろん三人の水着姿だ。
鼻血ジェットの原因は二人だが。
その原因の二人が着ているのはビキニ。
格別に布面積が小さいというわけではない。
むしろ少し多いとも言えよう。
乳がはみ出ることなく、しっかりと覆われている。
そして、ホルターネックタイプのビキニによってしっかりと支えられることによって矯正された乳が深い、深い渓谷を形成し、一段と二人の魅力を上げていた。
パンツもトップと同じで過激なものではないが、二人の太ももが露になり、見るものが見れば鼻血で顔を染めることになるだろう。
あまりこてこてしい装飾はなく、単純に胸の魅力を魅せにきている水着だ。
マリンは淡い水色の水着。
フィーナは桜色の水着だ。
さらに、二人の頭の上には猫耳。
お尻からは尻尾。
セクシーさの中に見える可愛さ、これらが揃ってしまえば、誰もジャックの鼻血ジェットは責められまい。
一方、鼻血ジェットの原因ではないもう一人、ユナはと言うと……。
なんとこちらもビキニである。
白に花柄の上下。
トップにはフリルが付いていて、ユナの胸の大きさを少しだけ増して見せる。
前の二人に比べると……というかどこの誰と比べても断崖絶壁のユナの胸。
増して見せても残念なのが残念だ。
いつも着けている深紅のペンダントは魔具と一緒に手首に巻かれていて、ワンポイントを飾る。
……だが、ユナの真骨頂はそんな見た目からくるものではない。
貧乳を自覚し、恥ずかしがっているところだ。
分かってますよぅ、でも、大きく見せたいじゃなぃですかぁ………、と言わんばかりにユナの狐耳は折れ曲がり、顔を真っ赤にして胸を隠す。
ボンキュッボンではなく、キュッキュッキュだ。
滑らかな髪が微風によってなびき、ユナの魅力を二倍にも三倍にも底上げする。
さらにユナは狐の獣人を模していて、尻尾はこの中で一番大きくふわふわとしている。
それもまた、恥ずかしがるようにユナの生足を隠し、もう萌えゲージは爆発寸前。
見るべき者が言えばこう言わずには居られまい。
なんだこのかわいい生き物は。
さぁ、声を出してもう一度
なんだこのかわいい生き物は!
「~~~~!!!」
「おー、やっときたか」
同じ顔で異なる反応を見せるカイルとリュウセイ。
ちなみに赤くなって顔を背けたのがリュウセイだ。
ウブである。
「「あらぁ、リュウセイ……どうしたの……?
こんにゃに赤くにゃっちゃって……」」
「……っ!? 寄んな!!!」
「どうしたんだ? ユナ?」
「……カイルさんは……いえ、何でもないです」
「……?」
ユナにも姉にも全くと言っていいほどにいつも通りなカイルにユナは羞恥心が抜かれてしまうのだった。
カイルにそのような機微を期待するのは無駄なのである。
ともあれ、これで六人全員が揃った。
準備は万端、オールオーケー。
今こそ、ヴェンティアに来た目的を果たすときだ。
「「さて、じゃあみんにゃ……思う存分、遊ぶわよ!!!!」」
「「「「おー!!!!」」」」
そう、この娯楽施設にカイル達がいるわけは……ヴェンティアに来た目的とは……まぁ、つまるところ、息抜きの羽伸ばし、なのである。
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「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「どぉりぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
白い水しぶきを周りへの被害を全く考慮せずに巻き上げ、猛進し爆泳する二つのバカの姿があった。
「さぁ、始まりました因縁の兄弟対決、障害物水泳レース、わん。
今のところ二人の間に差はないようです、わん。
まさにしのぎを削る戦い、息もつかせないほどの泳ぎを見せてくれています、わん。
解説のユナさん、どう思いますか、わん」
「ジャックさんのわん付けに違和感を感じます」
「それは仕様なので勘弁してください、わん」
迷惑な二人、カイルとリュウセイは泳ぎで勝負をしていた。
それを踏まえて改めて見てみると確かに実況のジャックの言う通り、両者の距離に差はない。
「ハッ! 遅れてんじゃねぇのかバカイル!」
「バカ言うな! お前の方こそ俺より遅れてんだろうが!!」
「いいや、俺の方が二センチほど先に行ってる」
「いいや、俺の方が二センチほど速い」
もう一度言わせてもらうが、二人の間に距離はない。ジャックは用意してあるマイクを握った。
「おおっと、何やら言い争いをしているようです、わん。
しかし、不毛です、わん。
二センチとか誰も分かりません、わん。
解説のユナさん、どう思いますか、わん」
ジャックはユナの方を見る。
ユナの前には解説、とかかれたプレートとマイクが置かれていて、ジャックのその問いに、ユナは全く表情を変えない。
「ジャックさんのわん付けがあざといです」
「仕様なので勘弁してください、わん。
おおっと、こちらの方でも不毛なやり取りをしている間に、第一の関門、流れる水ゾーンに突入するようです!! わん」
流れる水ゾーンとは、文字通りの意味で、つまりは流れるプールのことである。
この〝海遊スプラッシュワールド〟は大きなプールの中に、流れるプールや波の出るプールが併存しているのが特徴だ。
だが、それは普通なのだ。普通すぎるのだ。
他の娯楽施設では風魔法の魔具を利用し、水中ウォーキングを楽しめたり、ナーデルのような穏やかな気性の魚型モンスターに乗れたりする。
当然、流れるプールや波の出るプールの強化版である激流プールや津波プールも存在する。
故に、あまり面白味のない施設である〝海遊スプラッシュワールド〟にはあまり人はいなかったりする。
というか、いない。
少なくとも、一見する範囲にはいない。
まぁだからこそ、カイル達もあれほど伸び伸びと水飛沫を撒き散らしながら泳いでいるのだ。
「へっ、流れる水がどうしたよ!!
俺にとっちゃ流れてない水の方が珍しいっての!!」
「ハッ! この程度の流れで俺の泳ぎを邪魔できると思うなよ!!」
まぁ、普通の民間プールレベルの水流でこの二人の泳ぎを阻害できるわけもなく。
二人は完全に流れを無視して泳ぐ。
ぶつかり合い、蹴り合い、殴り合いながら。
頭突きまでするのは器用だと言えよう。
「障害の意味がないようです、わん」
「まぁ、分かってましたけどね」
「人がいるところはワイらの素性がバレるかもしれないので、こんなショボい障害しかないところでしか遊べないのは残念です、わん」
「……そうでも、なさそうですけどね」
「わん?」
ユナがため息混じりに口にした言葉に、ジャックは首を傾げる。
ユナはそれを黙殺し、どこか呆れつつも諦観したような目線をカイルたち……の前の存在にに送る。
「にゃおん♪
あたしが居るのに、そんにゃ簡単にゃ障害にゃわけにゃいでしょ?」
その目線を進めた先に、猫のような悪戯っぽい笑みを浮かべたマリンが……水上に立っていた。
それを見てしまったカイルとリュウセイは顔が真っ青になってしまう。
「「げっ」」
「さぁ、第一の関門、荒れ狂う水流。
越えられるものにゃら、越えてみにゃさい。
もちろん、魔法と【形態変化】は禁止ね♪」
マリンは指揮棒を振る。
猫が毛糸の玉を転がすように軽々と、鼻唄を歌いながら、指揮棒を縦横無尽に振り回すのだ。
マリンが一振りする度に、強烈な水流が二人を押し流すというのに。
「右へひょいっ♪」
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」
「左へひょいっ♪」
「「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
「前から後ろへひょいひょいっ♪」
「「うわっ、ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
「にゃははははははは♪♪」
その高笑いは、実況席にも届いていた。
「マリンさん、楽しそうです、わん。
カイル選手達をまるでボールか何かのように扱ってます、わん。
そして猫喋り最高です、わん。
解説のユナさん、どう思いますか、わん」
「ジャックさんのわん付けが不快です」
「それは仕様なので勘弁してください、わん」
ジャックが喋っている間にもカイルとリュウセイの二人は仲良くマリンの玩具になっていた。
右に左に、前に後ろに、そして時おり上空へと、二人はマリンによってシェイクされる。
「ほれほれ~、さっさと越えてみにゃさいよ~。
そんにゃんじゃ、いつまで経ってもゴールできにゃいわよ?」
マリンがそう言いながら二人をシェイクする。
閑散としたプールの一角が、次々と不自然に波打ち、うねりをあげる。
普通なら、これを注意する係員のようなものが居てもおかしくないが、悲しいかな、人気のないこの場所には係員はいないようだ。
「んのっ、だぁらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「あら、頑張るじゃにゃい」
カイルは姉の理不尽な暴力に対して真っ向から抗うことに決めたようだ。
いや、決めたというよりは何も考えず、ごり押しでいってやる! みたいな結論に至ったのだろう。
姉の水流もなんのその、力押しで逆流する水に向かっていく。
「おぉっと、カイル選手、少しずつではありますが前進しております、わん。
正攻法のようでいて正攻法ではない方法です、わん。
カイル選手らしいです、わん。
解説のユナさん、どう思いますか、わん」
「ジャックさんのわん付けが不愉快です」
「それは仕様なので勘弁してください、わん。
それにしてもリュウセイ選手の姿が見えません、わん。
このままではカイル選手が荒れ狂う水流を突破してしまいます、わん」
カイルは乱暴な泳ぎでとうとうマリンの妨害域を抜けた。
「っしゃあ!!!!」
「カイル選手、とうとう第一の関門を突破しましたぁぁぁあああ!!! わん」
ちっ、と悔しそうに舌打ちするマリンを尻目にカイルは爆泳する。
これで、リュウセイとカイルの差は……
「っぷはっ!!」
「なっ!?」
無くなった。
ジャックがマイクを握り、思わず立ち上がる。
「リュウセイ選手が水中から現れたぁぁあ!! わん。
な、なんとリュウセイ選手は潜水で水流を避け、水の中を進んでいたのだぁぁあ!! わん」
というわけで、レースは再びイーブンに。
歯を立てあいながら、二人は再び並んで泳ぐ。
ジャックは座り、落ち着いて実況を続けた。
「さぁ、第二の関門、第一がマリンさんであったということは……わん」
もちろん、待ち構えているのはフィーナだ。
「にゃはっ♪
次はこの植物地獄を越えてみにゃさい」
マリンとは違い、水上ではなく、空中に立つフィーナが、植物の種をカイル達の前方にばら蒔く。
そして指揮棒を振り、【発育】を発動させた。
その種から、芽が出て、茎が伸びて、葉が生えて、
「「ぐあっ!!?」」
花を咲かせた瞬間、二人は反射的に後退する。
今の今まで猛進してきた勢いを全て押し殺し、あまつさえ後退するという異常行為。
二人でさえも、何故後退したのか分かっていない。
だが、その理由はすぐに明らかになる。
雪崩れ込んできた、鼻を裂くような異臭によって。
「さぁ、この刺激臭をはにゃつ植物群を越えて、この先にあるゴールを目指すのよ!」
鼻を手で押さえたフィーナが叫ぶが、その彼女でさえ、若干涙目であった。
その芳しい香りは……実況席にも……
「あ、あれは腐レンゲに腐乱バナ!! わん。
あまりの臭さにモンスターも寄り付かない一番使いたくないモンスター避けの植物として有名な植物です!! わん。
臭い! 臭いです! わん。
こちらにまで匂いが届く! わん。
ワイは犬の獣人なので、鼻が……鼻がぁぁ…!! わん」
「狐でも……この匂いは辛いです……何でこんなところまで再現してるんですか……!!!」
「ワイは手抜きはしないんです、わん。
でも……ちょっと後悔気味です、わん。
この文字通り鼻が曲がりそうな匂いを、あの二人はどのように攻略するのでしょうか、わん。
解説のユナさん、どう思いますか、わん」
「ジャックさんのわん付けが鬱陶しいです」
「それは仕様なので勘弁してください、わん」
狼の獣人に変身している二人にとって、この匂い攻撃は極めて効果的だった。
もはや、凶器である。
腐レンゲや腐乱バナは何も犬型限定のモンスター避けではない。
嗅覚を持つモンスターになら必ず効果がある代物だ。
人間ですら本能的に近付くことを拒否する。
まして鼻が効く獣人ならなおさらだ。
もしあのまま直進していて、目の前で花開かれでもしていたら……そんな想像をしてしまって二人は背筋を震わせた。
しかし、あれを越えればゴール。
競争相手は絶対に負けたくない相手。
ここで引くわけにはいかない。
そうして二人がとった行動は……
「おおっと、カイル選手に、リュウセイ選手、二人同時に海中に潜ったぁぁあ!! わん」
なるべく匂いの届かないところまで潜り、そのまま潜水でゴールするというものだった。
二人は一気に底までたどり着き、ゴールを目指す。
(うおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)
(おおおおおおおおおおおおおおお!!)
底にも届く匂いに涙目になりながら、一刻でも早くゴールするために水中を必死に泳ぐ。
加工された滑らかな底を這うようにして二人は泳ぎ、そしてラストスパートをかけようとしたとき……
二人の目の前に、一つの種が落ちてきた。
((!?!?!?!?!?))
何の種か分からない。
だが、とてつもなく危険な匂いを二人は感じていた。
あの姉がやることだ、何が起こってもおかしくない……!!
頭に浮かぶのは姉の黒い笑み。
人を虐めるときの……楽しそうな笑顔。
その顔が頭に浮かぶということは、ヤバイ。
二人は直感的にそう感じていた。
一刻も早く逃げなければいけない。
しかし、そんな二人の思いとは裏腹にその植物は無情にも花開いてしまう。
その花の名は……黄泉レシア。
匂いでモンスターの命を奪うことさえできる……世界一の臭さを誇る花だ。
まるで鼻にガスバーナーを直接突っ込まれ、点火させられたような……殺虫剤を吹き込まれたような……わさび、いや、ハバネロ級の辛味を持つナニかを液体にして濃縮し、鼻に直接注ぎ込まれたような……。
気がついた時にはもう二人の意識は奪われていた。
「あれは……一体フィーナさんは何の種を水中に投げたのでしょうか、わん」
「さぁ、あの人のことですから黄泉レシアとかじゃないですか?」
「まっさかー、いくらなんでもそんなもん投げたら意識がなくなるどころの騒ぎではなくなりますよ、わん」
「じゃあ、あのフィーナさんの鼻を塞げ、というジェスチャーは何なのでしょうか?」
「さぁー、わん」
と言いつつもしっかりと鼻をつまみ、匂いをシャットアウトする二人。
その直後、強烈な匂いが二人を襲った。
「「う゛っ!!!!」」
例えるなら、なんだろうか。
ドリアを腐らせた匂いとでも言うべきか。
腐乱臭、刺激臭、特異臭……の悪い部分を集め、抽出したような匂い……。
だが、その匂いも一瞬。
すぐにフィーナは指揮棒を振るい、黄泉レシアを枯らす。
それでもまだ、残り香は残っていたが。
「くっさぁ……わん」
「あ、あり得ないです……」
あまりの臭さに悶絶する二人。
もう解説だとか実況だとかやってられない。
どちらにしろ、あれを食らってカイルとリュウセイが無事であるなどとは到底思えないのだ。
そしてその予想は当たり、カイルとリュウセイが水死体のようになって水面に浮かんできた。
……ぴくりとも動かない。
生きているのだろうか。
少し疑問に思ってしまう。
安否を確認するためにフィーナとマリン、ジャックにユナが二人のところへ集まっていく。
じぃっ……
八つの目がカイルとリュウセイを見つめるけれど、本当に微動だにしない。
白目を剥き、口の端から出てはいけないような汁が出ている。
ジャックが二人の脈を恐る恐る取ってみると……
「……多分、生きてる……かな……?」
指から感じる弱々しい鼓動の感触が、その命の炎がまだ消えてないことをしらせる。
しかし、疑問系であることを鑑みるにその命の炎はかなり小さいのだろう。
まぁ、もう慣れた光景なのか、この場の空気は一気に柔らかくなった。
「はぁーっ、良かったです……。
全く……何てものを使うんですかお二人は」
「「出来心にゃん♪」」
「ならしゃーないなっ!! わん」
「簡単に籠絡されないで下さいジャックさん。
マリンさん、フィーナさん、カイルさん達を虐めるのは構いませんが周りの被害も考えてください」
「虐めるのはええんかい……わん」
「矛先がこっちを向かないならいいです。
大体、他の人がいたらどうするんですか……」
「それは大丈夫よ」
「始めに確認したけど、この場所にはあたしたちしかいにゃかったもの」
「「よっぽど、人気のにゃい場所だったみたいよ?」」
安心しなさい、と胸を張る。
本当ですか? と疑いの視線を向けるユナ。
そして一応は信頼してみることにして視線をフィーナから外し、軽くため息をつく。
……その時、ユナの視線がナニかを捉えた。
ここ、ヴェンティアの水は基本全て海水だ。
娯楽施設とはいえ、例外ではない。
普通のプールよりは透明度は低いものの、そこは観光業で成り立っている街というべきか、海水にしてはそれなりの透明度を誇る。
その五メートル下が透けて見えるくらいの水の中をそのナニかがゆっくりと浮上してきていた。
すぅっ、と揺れることなく、そのナニかは静かに海面へと上昇を続け、海上へと辿り着いた。
それは海の中で映える橙色の長い髪を持ち
滑らかな肌は真珠のように光輝き
その優美な橙色を基調とした尾びれは見る者の目を引き付け
……白目を、剥いていた。
「「「「あ………」」」」
気を失って水上に上がってきたのは……人魚族の少女だった。