第六十二話―闇を騙りし六人目
「ぎぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
日も昇りきらない朝方。
空はうっすらと白みを帯びはじめ、薄雲がぽつりぽつりと空に浮かんでいる。
そんな雲を突き抜けて、空を飛んでいく者がいる。
白い髪の毛に、白い眼、白い服装という雪もビックリの真っ白な出で立ちの幼女。
淡く、柔らかい栗色の髪に眼鏡の青年。
青年は義翼をはためかせ、幼女は目一杯青年にしがみつく。
その幼女の甲高い悲鳴が肌寒い朝の空に響いていた。
「主っ!!
とばっ、トバしすぎじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
その幼女、マリアは必死に叫びながらより強く青年、シュウの首にしがみつく。
マリアの長い髪がばさばさと空気の波に揺らされて音を立てる。
マリアと比べて短く、肩にかからない程度のシュウの髪でさえ風に晒され、音を立てるほどのスピードだった。
シュウはギリッと歯を食い縛り、さらにスピードを上げた。
「人の話を聞かんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「そうは言ってもこれは急がないとダメでしょ!!
風はある程度防いであげてるんだから我慢して!!」
「ぎぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
シュウの顔には焦りが色濃く出ていた。
視線は進行方向に固定され、可能な限り速度を上げようとする。
景色がぼんやりとした色でしか追うことができない。
それでも彼は必死になって速く飛ぼうとする。
「さっきの魔力の膨脹……リュウセイの変異が目覚めたんだ……!!」
「い、今は恐らく収まっておると思うがの……!!」
「でも、この魔力の膨脹……今度はカイルの変異が目覚め始めてる!!
手遅れになる前に急がないと!!!」
「っと、主!!! 見えたぞ!!」
マリアが指し示した通り、シュウの眼前には帝国実験場が広がっていた。
半径十キロの球形ドーム。
その黒光りする巨大な建造物の上にはカイルと、ダンゾウの姿があった。
マッハ程のスピードで飛んでいたシュウが一瞬で停止する。
慣性の力がマリアとシュウの体を襲い、マリアがシュウの背中に押し潰されそうになる。
顔が千切れるかと思うほどの衝撃がマリアに降りかかったが、同時にカイルの様子も垣間見ることができた。
「シュウよ……あの小僧の手にあるもの……ヤバイのではないか?」
「……まず間違いなく実験場は跡形もなく吹き飛ぶだろうね」
「儂らは?」
「ヤバイね」
カイルの手の上には明らかに扱いきれていないだろう魔力密度の炎の球。
まるではち切れそうな風船だ。
被害は間違いなくこちらにもやってくるというのに、シュウはさらにカイルに近付いた。
「シュウ!!? 何故近付くのじゃ!!」
「あの実験場にはリュウセイ、マリン、フィーナもいる! 多分カイルは何も考えずにあれを爆発させる気だ!!」
「何を考えておる!? いや、何も考えとらんのか!? あやつは馬鹿か!!?」
「そういう子なんだよ!!!」
「ならばどうする!?」
「カイルは後からどうとでもなる! なら僕は実験場の中にいるリュウセイ達を守る!!!!」
「出来るのか!?」
「誰に向かって言ってるんだい!?」
「クカカカカ! 頼もしいのう!!
……頼むぞ、マジで頼むからな。こっちの安全もな。巻き添えで死ぬのとかマジ勘弁じゃからな?」
マリアが情けない声を出したその時……
カッ――――――――!!!!
カイルの手の内の炎の球が……輝いた。
「うわー、まるで核爆発が起こったように爆発が上空に逃げたのー。
それでいて近くにいる儂らには熱や風が全くこないとはのー。
すごいのー。一体何が起こったのじゃー」
「何でそんなに説明的な文章なのさ……。
僕はただ、実験場の壁の内側に真空の壁を作って中を防御し、僕らの周囲も真空の膜で覆い、爆発を風の魔法で無理矢理上空に向けさせただけだよ?
あと、中にいる人か爆発で何も影響を受けないのもアレかと思って適当に真空の膜を薄くして熱を通して、瓦礫とかを風の魔法でかき回したり、とかかな?」
簡単なことのようにそう言ってのけるシュウ。
しかし、それは言うほど簡単な行為ではない。
実験場を覆うほどの真空を作り、爆発を上空に逃がす程の風の魔法。
それはカイルのビックバン――この爆発を引き起こした魔法――よりも遥かに多大な魔力を必要とし、さらに実験場内を中にいる人間が不審に思わない程度に風の魔法でかき回す……恐ろしいほどの魔力コントロールが要求されることだろう。
「このチートめ……」
「ちいと? ……また神影かい?」
「反則野郎、という意味じゃよ。ほれ、爆発も収まったじゃろう。早く小僧のところへ行かんか」
「そうだね」
シュウはマリアの言葉に同意し、爆心地のちょうど真下に降り立つ。
本当に巨大な爆弾でも落とされたようなクレーターが綺麗にシュウによって作られていて……そこには、真っ黒に炭化してしまった物体が一つ……転がっていた。
「戦っていた人間の方は跡形もなく消えたようじゃの」
「まぁ、肉体が残る方が不思議だよね」
「不思議がここにあるではないか。どうする? 解明するか?」
「理由は分かっているからいいよ。それよりマリア……頼んだよ」
「クカカカカ! お安いご用じゃ。
この程度のこと、儂にかかれば造作もないわ」
マリアはシュウの背中から降り、炭化した物体の傍に寄り、両手を向けた。
するとその物体が白炎に包まれる。
そして瞬きをした瞬間、マリアの目の前には何事もなかったかのように傷一つないカイルの姿があった。
健康的な肌色で、今までの戦いが嘘のように、カイルは一糸纏わぬ姿で現れた。
いや、現れたのではない、炭化した物体が、カイルに戻ったのだ。
マリアはすっくと立ち上がり、かいてもいない汗を拭う。
「ふう、ま、こんなもんじゃな」
「流石だね」
「まーのう、さて、もう一つの仕事もせねばの……」
マリアは立ち上がり、周りをキョロキョロと見渡し始める。
一方のシュウは入れ替わるようにカイルの傍に膝を付いた。
「全く……キミは昔から無茶ばっかりして……こっちの身にもなって欲しいよ……」
慈愛の眼差しでカイルを見つめるシュウ。
ゆっくりと、シュウはカイルの髪を撫でる、何度も何度も、慈しみながら……まるで母のように。
シュウは髪を撫でていた手をそっと頬に移動させ、カイルに顔を近付け……
カイルの頬に、キスをした。
「なぁ、主よ、この場所はおええええええええええっ!!!!??」
振り返ったマリアを待ち受けていたのは薔薇色の光景だった。
生憎、マリアはノーマルであったので、薔薇色の光景に対して喜ぶということはなかったが。
「どうしたんだいマリア?」
「そんなもん見せられて平然としておられるかっ!!
振り向いたら男と男がキスしておったのじゃぞ?」
「ただのスキンシップじゃないか」
さも当然であるかのように、言い切ったシュウに、マリアはげんなりとする。
そして悟るのだ。
こいつには何を言っても無駄だと。
「……もうよいわ。そやつに服を着せてやれ。
主の修道服はダメじゃぞ? そんなことしたら儂は泣くからな?」
「はいはい……」
シュウは修道服を脱ぎ、その下に着ていた服をカイルに着せた。
そうして二人は各々の仕事を再開する。
「こっちは終わったよ」「こちらも終わったわい」
その作業終了後、二人は同時に顔を見合わせる。
するとシュウの耳が何かを察知したように、ピクリと動いた。
「人が来るみたいだ。マリア、とりあえず乗って」
「了解じゃ」
マリアがシュウの首に手を回し、二人が空へと飛び上がるとすぐにマリン達がやってきた。
傷が全くないカイルの様相を不思議がりながらも、喜んでいるように見える。
「シュウよ。あやつらは自力で変異を開いて見せたぞ?
どうするのじゃ? このまま接触するか?」
「う~~ん……そうだね……自力で開いた以上は接触を持ちたいね」
「どのタイミングで出るのじゃ?」
「とりあえずは……次の町に――」
prrrrrrrrrrrrrrrrrrrr………
「ん、ああ、神影か……」
シュウは懐から携帯電話を取りだし、かかってきた電話に出る。
「神影? なんだい?」
『電話に出るときはもしもしって、言えって言ったろうがぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
キーーーン、と耳鳴りがするほどの大音量が耳元で炸裂する。
シュウはしかめっ面をしながら携帯を離し、渋々と言った表情でもしもし、と口にした。
『よおし、それでいい。それが正しい電話の使い方だぜ。渋々なのは気に食わないけどな』
「……はいはい、分かったから。それで?」
『〝ハクシャク〟が次の部隊長会議に出てくる』
「っ!? それは……本当なのかい?」
『ああ、間違いなく、な。
まぁ、お前らが見に行った帝国実験場のあれやこれが終わったら開かれるんじゃね?』
シュウは目下の帝国実験場の状態を眺める。
元々の帝国実験場は跡形もなく、それを管理する者もいなくなってしまっている。
神影のいう帝国実験場のあれやこれやは終わった、と言えるだろう。
『あぁ、なんだ、もう終わってんのか。
だったら急げよシュウ。やっと掴んだ〝六人目〟の情報だ。城に乗り込んででも接触しろよ?』
「はぁ……分かったよ。じゃあね、神影」
『おう、じゃブツッ』
シュウは神影が喋っている途中で電話を切る。
「行くよ、マリア。カイル達との接触はしばらく後だ。やらなくちゃいけないことが出来た」
「む、そうなのか?」
「うん」
シュウは体をその方向へと向け、翼を精一杯大きく広げる。
「行き先は……ワールドエンドだ」
――――――――――――――――――――
「はいハァ~イ☆ 臨時ノ部隊長会議、始めるヨ~~。
今回はサ、特別にハクシャク、エレナちゃンにも来テもらってるからネッ♪」
白髪、赤目の第一部隊長、トイフェルがそう開会の宣言を行う。
帝国部隊長の会議は首都、ワールドエンドにある城の中で行われている。
九人が与えられた議題を審議し、円卓を囲むのが部隊長会議だ。
蝋燭の明かりでしか照らされない薄暗い城の中の一角でその会議は開かれた。
だが、現在の部隊長の席には空白が目立つ。
ウィル、エリュア、アジハド、ダンゾウ………相次ぐ部隊長の死により、その数は普段の半数近くにまでなってしまっていた。
「さてサテ、今回の議題何だけどネ、相も変わらズアノ六人組の話ダヨ☆
じゃアじゃア、エレナちゃン。実験場デノ顛末を教えてくれるカナ?」
「……帝国の誇る大実験施設である帝国実験場は、壊滅。
第八部隊長ダンゾウ、第九部隊長ウィルの両名は恐らく死亡。
実験場内に収容されとった者共の大半がその六人組に味方したもんやと思われる。
目的である人体改造による多重【能力】発現は成功を修めたものの、被害の方は甚大……やな」
「ンー、ありがとウっ! マァ、とりあえズ?
その六人組に懸賞金トカかけちゃうのは問題ないカナ?」
ざっと周りを見渡す。無言で返す彼らは、その案に対して意見する気がないようだった。
「ハァイ、じゃァ決定☆
まァ、その六人組の快進撃ハ目を見張ルものがあるモンネ。
ウィルはまだしモ、エリュア、アジハド、それに改造されたダンゾウまでやっつけちゃウなんてサ。
でモ……ちょっト、これハ舐められ過ぎじゃァないのカナ?」
ぞくり、と背筋が凍るような悪寒が駆け抜ける。
トイフェルの赤い眼が……残された部隊長に向けられた。
まるで悪魔の一睨み。
殺気が込められているわけではない。
ただ、心臓を締め付けるのだ。
「ま、ブッちゃけどーでもイイんだけどネ。
ボクは戦いが楽しめレバそれでイイ。
その六人組ガ、ゲンスイさんくらいに強クなってくれるコトを願うヨ」
一転して、その空気を変える。
ゲンスイの、その名を口にしたとき、彼は本当に楽しそうな笑みを浮かべていた。
彼の身体に刻まれた十字傷、ゲンスイの手によって刻まれたその傷は……癒えることなく残っている。
「それじゃア次の議題だネ。じゃア、エレナちゃン、お願いするヨ☆」
「あぁ、ウチが持ちかけた議題は簡単や……部隊長を改造して、もっともっと強くしたい。
任意でかまへん、ウチは部隊長を改造したい」
エレナはギラギラした目付きで部隊長を見渡す。
品定めをするように、より強い素材を探すように。
彼女の目は、目的だけを捉えていた。
「ボクはとりあエず保留カナ。
これ以上強クなってモ戦えル人がいないシネ☆」
「妾もパス、じゃな。
今のところ妾は不自由などしとらん」
「不要なり」
一、二、三部隊長が揃ってエレナの提案を一蹴する。
まぁ、彼らの強さは既に規格外……人外の位置にあるのだ。
この上さらに強さを求めたところで大した意味などないのだ。
エレナにとってはその先に意味があり、この三人を改造することを期待していたのだが……中々上手くいかないものである。
「ルルルルルルルルル………いいですよ……私は……ルル、ええ、いいですとも。
欲しい【能力】がありますので……ルルル」
黒いフードを被った部隊長。
第六部隊長であり、〝軍師〟と呼ばれている部隊長だ。
中性的な声で喉の奥から囁くような声音で話す。
鈴の音のような小さな声だが、鈴虫の羽音のように通る声だった。
「俺もやるぜ」
第四部隊長である男も、改造を望む。
大きな体躯に身体は傷だらけ……歴戦の戦士のような風格を持つ男だ。
乱暴で粗雑な声は盗賊を思わせる。
「マァ、こんなところカナ?
詳しイ話はキミ達でやっておいてヨ。
さて、じゃあ次の議題だヨ。ハクシャク、お願イ」
トイフェルはアジハドの席に座っていた男に視線を移す。
その男は……異様に白かった。
病人のように真っ白な肌……健康とは程遠いような色。
金色の髪が刈り上げられ、横髪は肩に届いていて、前髪が目にかかっている。
血のように赤い深紅の眼。
背中から生えるコウモリのような翼。
そして……口元に見える鋭い八重歯が……特徴的だった。
「ユナ……そう呼ばれる闇属性の小娘を、何としても生け捕りにしろ」
地の底から這い寄ってくるような……ねっとりとした嫌な声。
聞けば生理的嫌悪感を感じ、思わず耳を塞ぎたくなってしまうような……そんな声だった。
「はァーイ、皆聞いたよネ☆
マァ、元カラ闇属性は生け捕りなんだケド、これからはより一層注意してネ」
「即刻この場に連れてこい」
「それはハクシャク、無理ってものダヨ」
「奴が鍵、奴が鍵、奴が鍵……姫を誘きだし……私が王と、王となるための……」
「あらアラ、もう狂っちゃっタ。
じゃアもう皆解散でイイよ、お疲レ」
ハクシャクが目を見開き、中空にぶつぶつと言葉を発する。
明らかに常人の様子ではない。
トイフェルの言葉の通り……狂っている。
その様子に慣れているのか、トイフェルはもうどうでもいいとばかりに会議を終わらせる。
他の隊長達やエレナもその言葉に従い席を立とうとした。
その瞬間、室内であるはずのこの部屋に一陣の風が吹き抜けた。
「ちょっとその会議、延長してくれないかな?」
部隊長達が動きを止め、声のした方を見やる。
カツ……カツ……
薄暗い部隊長会議の場に響く足音を連れながら、その男……シュウは現れた。
その横にマリアはいない。
エレナが首都に到着してまだ三日しか経っていない。
エレナは移動に飛空挺を使ったが、シュウは自力で飛んできた。
シュウはそれに追いついたのだ。
……驚異的なスピードだ。
「貴様は……っ!!?」
第二部隊長ジャンヌが驚愕を顔に浮かべて立ち上がる。
手に持つ扇子から闇が漏れ出し、シュウを睨む。
一方、そのシュウは気楽な風でジャンヌに笑いかけた。
「やぁ、ジャンヌ。久し振りだね」
「フン………まさかこのような場所で再会しようとはの……。一体何の用じゃ?」
「生憎だけど、今日は君に会いに来たんじゃないんだ」
敵意を剥き出しにするジャンヌに対し、シュウは飄々としてそれを受け流す。
そんな二人のただならぬ様子に、トイフェルは嬉々として口を挟んだ。
「ねぇネェ! 二人は一体どんな関係なのサ!」
「……こやつは十一年前の――」
「おっと、ジャンヌ。その話は後にしてくれないか?
僕は早く用事を済ませて帰りたいんだ」
「帰すと思うのか?」
「帰るさ」
シュウはさらに前に出て円卓の上に躍り立つ。
そして、円卓に座する内の一人を、見つめた。
「僕の用事は君だよ、ハクシャク。
あり得るはずのない六人目の闇属性。
存在しえないイレギュラーの君を、ね」
シュウが六人目、と口にした瞬間、帝国の三強、第一、ニ、三部隊長から強烈な殺気が注がれる。
濃密な魔力が放たれ、卓上のシュウを押し潰さんとしているようだ。
「……貴様、どこでそれを知った?
いや……どこまで知っている?」
「全部さ。
僕は信仰深い信徒だからね、神様が教えてくれたのさ」
「……どういう……いや、まさか……!?」
「そこまでだよジャンヌ。そのことは今はどうでもいい。
僕の用事を終わらさせて貰おうか」
シュウの眼鏡が、緑色の光を放つ。
そしてシュウは携帯を取りだし、何処かへ電話をかけ始めた。
(もしもし、マリア、聞こえる?)
(うむ、バッチリじゃ。
【テレパス】はしっかり機能しとる)
(見えるかい?)
(それも、バッチリじゃ。
お主の眼鏡の【彗眼】を通してしっかり見えとる。
じゃが……これは【彗眼】を使うまでもなかったかもしれん)
(もう分かったの?)
(ああ、これは本物の闇属性ではない。
後付けの、偽物の闇属性じゃ。詳しい話は帰ってからする。
じゃから早ぅ帰ってこい)
(了解)
ブツッ、とシュウは電話を切った。
「【彗眼】と【テレパス】やな………」
「成る程、貴様はそれを誰に見せて誰と会話をしていたのじゃ?」
「それに答える義理はないね」
「……まぁ、よい……何を知ろうと、もはや誰にもこの世界の流れは止められぬ。
それに貴様も……ここで死ぬのじゃからな」
パンッ! とジャンヌがその手に持つ扇を広げる。
黒一色。
扇の折り目すらも黒く塗りつぶしたような漆黒の扇。
見ているだけでその漆黒面に吸い込まれそうな黒。
見ているだけで気が狂わされてしまうような黒。
ジャンヌの……闇属性の魔具である。
「亡国の誘手」
ジャンヌの扇から闇が具現化される。
それは手。無数の手。
ジャンヌは扇を振り払い、地の底から伸びてくるような手が扇からシュウへと向かっていく。
「無駄だよ」
シュウはそういうと、何の予備動作もなしにその手を吹き飛ばした。
ジャンヌの頬を風が撫でる。
ジャンヌの攻撃に全く動じていないシュウ。
その後ろで、赤い眼が狂暴に光輝いた。
「アルマッ!!!」
トイフェルは自身の長刀ソロモンを抜き放ち、シュウに向かって高速の突きを繰り出した。
雷を纏ったトイフェルによる不規則な加速でソロモンはシュウに迫る。
「残念」
ガキン!
トイフェルの刀はそんな音と共にシュウの翼によって防がれる。
もちろん、本物の翼ではない。
金属の……優秀な魔具の義翼。
その翼はシュウを空へと連れ出すばかりではなく、トイフェルの攻撃を受けきって見せた。
しかし、攻撃が防がれたと言うのにトイフェルは驚いた様子はない。
むしろ嬉しそうに、満面の笑みを浮かべている。
「キミ……強いネ……!!」
「まぁね」
「遊ぼうヨ!!」
トイフェルが刀に魔力を流す。
「妾達から逃げられると思うなよ」
ジャンヌが扇に魔力を流す。
「有無を言わさず決するなり」
第三部隊長がその指輪に魔力を流す。
帝国には、絶対的な強さを誇る者達がいる。
一人はかの暴虐王、帝王その人。
帝国建国の際、たった一人でこれまで存在していた国を全て薙ぎ倒したと言われる人間だ。
そして……それに次いで強いと言われるのが第一、ニ、三部隊長。
その強さは他の部隊長とは明確に一線を隠している。
もし帝国建国当時にこれほどの者達が帝王に敵対していたら、また違った歴史があったのではないか、と民衆の間でまことしやかに囁かれているほどだ。
その三強に囲まれ、敵意を剥き出しにされているシュウは……
「やれやれ」
と、億劫そうに呟いた。
「素直には帰らせてくれそうには無いんだね……はぁ、全く……ちょっとだけだからね」
そんな子供の遊びに付き合うような気楽さで……シュウは背中の魔具の翼に手を置くと、翼は緑色の光を放ってその形を変えた。
「来なよ」
挑発的にそう言ったシュウの手には………二丁の拳銃が……握られていた。
こしあん「出張! ユナあん委員会!」
ユナ「皆さん、お久し振りです」
こしあん「今回は二章の終わりというこで、出張させていただきました!」
ユナ「また全員分のインタビューでもするんですか?」
こしあん「それはちょっとめんど……じ、時間がないかなっ、あはははは」
ユナ「なんて自分勝手な……」
こしあん「まぁ、今回の出張はね、事務連絡的な要素が強いんだよ」
ユナ「事務連絡ですか?」
こしあん「うん、二章が終わったからね、今後の予定を皆さんに言わなくちゃいけないでしょ?」
ユナ「はぁ……」
こしあん「まず、来週」
ユナ「はい」
こしあん「こしあん先生が描く短編、〝地の文読んでますっ!?〟を投稿いたしまーす」
ユナ「(自分のことをこしあん先生って言った……)」
こしあん「この話はですね、今回のお話でも出てきた神影君の話です」
ユナ「シュウさんの電話の相手ですね」
こしあん「うん、そうだよ。
その神影君の過去、高校時代の物語なんだ!
ぶっちゃけCAILとはなんの関係もなく、独立した物語になってるよ!
概要を言うと、地の文が読める神影がその《能力》を使って自分と周りに振りかかったトラブルを解決するっていう話なんだ!」
ユナ「ものの見事に学園モノですね」
こしあん「そのとおりっ、気が向いたら見てやって下さい。
それからそのまた来週には二章の人物紹介を投稿します」
ユナ「一章でもやったアレですね」
こしあん「そうそうアレアレ。
そこで今章の苦労話とかのちゃんとしたユナあん委員会もやるからねっ!」
ユナ「そのまた来週はどうなるんですか?」
こしあん「そこはねぇー、申し訳ないんだけど、休ませて欲しいんだ」
ユナ「と、言いますと?」
こしあん「ぶっちゃけ、四日連続投稿でストックが切れかけてます。
三章の細かいプロットも考えないといけないし、受験勉強もしなきゃだし……その週だけは申し訳ないけどお休みさせて下さい」
ユナ「読者さんには見えてないですけど今こしあんさんは土下座してますよー」
こしあん「その次の週からはまたいつも通り毎週投稿に戻りますので、どうかお願いします」
ユナ「じゃあそれでは今日はこの辺で」
こしあん・ユナ「「以上、ユナあん委員会でした!」」