第六十一話―平和な未来の為に
「お、終わったのですぅ~……!!」
「お疲れ様ぁ、エルちゃん♪」
あれからさらに二週間、ようやくエルの初仕事は終了した。
今、眼前に広がるのは数十機の飛空挺。
しかも、その一つ一つがマリン達がエリュアから強奪した飛空挺よりも大きい。
ほとんど不眠不休で働いたエルは疲れすぎて眠ってしまい、クレアにされるがままとなっている。
「すげーなー、これで反乱軍全員を運ぶのかー」
「一度にではないですけどね」
カイルの言葉に、ユナが補足する。
現状用意することができた飛空挺の数は正確に数えると二十四機。
一機当り五百人搭乗できるものだと考えても、とても七万人を運べる数ではない。
では、どうするのか。
拠点だ。拠点を作るのだ。
流石に七万人もの人間を一度に動かす訳にはいかない。
労力がかかり過ぎるし、時間の無駄だ。
その為に、反乱軍の本拠地となる拠点が必要不可欠となる。
必要最低限の人数を素早く送り出すことの出来る拠点が。
ここで、問題が発生する。
どこを拠点とするか、だ。
現在この大陸は帝国によって完全に支配されている。
その手が及んでいない隠れ里や集落、場所は恐らくないだろう。
危険なモンスターがうようよ潜むような魔境なら、反乱軍の拠点を作ることも可能だろう。
しかし、それも時間が異常にかかる上に拠点を作る段階で確実に死傷者がでる。
それでは駄目だ。
なるべく、帝国との戦い以外で死傷者を出したくはない。
一つ、ある。
帝国の手が及ばず、恐らく手付かずとなっている場所が。
それは、カイル達の故郷。
浮遊島だ。
空を漂い、誰もいなくなった島だ。
あそこは既に壊滅しているため、人が住むような所ではなく、常に空を浮遊し、どこにあるのかも分からないので、帝国から放置されている島だ。
しかし、現在の場所はスミレの【未来予知】で捕捉した。
場所さえ分かればこれほど条件のいい場所はそうない。
反乱軍の拠点は浮遊島に決定した。
ちなみに場所の案はフィーナ達から出された。
あそこなら、反乱軍の拠点にピッタリだと。
だが、当の本人達はというと……
「マリンさん達の故郷かぁ……ワイはちょっと興味あってんけどなぁ……」
「その話は何度もしたでしょ」
「あたし達は〝行かない〟わ」
本人達はずっとこの調子なのである。
不自然な程〝行かない〟の一点張りなのだ。
カイルやリュウセイですら……
「〝行かねぇ〟」
「あぁ、〝行かねぇ〟な」
と、聞く耳も持たない。
〝行かない〟と、浮遊島に関してはこれしか言わない。
ジャックもユナも、事情を知っているため、深くは踏み込もうとはしなかった。
随分昔のことように感じるが、カイル達は忘れていた惨劇を思い出したばかり。
その胸中は当人達しか分からないのだ。
……と、話が反れた。
という訳で、拠点とする場所はカイル達の故郷、浮遊島に決定したところまでは話した。
話を続けよう。
反乱軍はその内部で二つに別れることにした。
一方は浮遊島での拠点作り、もう一方はさらに追加の仲間集めだ。
拠点作りの方はエルを中心にパック、クレア達が残る。
反乱軍の大部分はこちらのグループだ。
交渉に人数を集中させても仕方ない。
拠点作りの方が大切なのだ。
対する交渉のグループはスミレを筆頭にサテラ、ディアス、ザフラ、他数人……と割りと攻撃的な面々だ。
まぁ、こちらは帝国中を移動するので万が一スミレの【未来予知】を越えるような事態に備えての用心の意味を込めての面々だ。
交渉組が飛空挺一機、他全てを拠点作りに回し、反乱軍は動き始める。
拠点製作組は何グループかに別れ、何段階に別れて浮遊島で拠点作りに。
そして交渉組がさらに仲間を増やす。
帝国を打倒出来ると確信するまで……そうするつもりだ。
「さぁ、明日から忙しくなるわよ」
出立は明日。
今日が、実験場で過ごす最後の日となるのだ。
――――――――――――――――――――
「うぉぉぉぉ……、やっとモンスター狩りから解放される……」
無傷だったせいでこの三週間死ぬほどこき使われたカイルはぐでーっ、と床に倒れこんだ。
「お疲れ様です、カイルさん」
ユナだけが優しく声をかけるが、他の面子は見向きもしない。
ここで言う他の面子とはカイル達六人と新生反乱軍の幹部達七人だ。
場所はジャックによって改造された元エリュアの飛空挺のリビングだ。
まぁ、内装はそこまで変化しているわけでもないのだが。
「さぁ、全員集まったことだしそろそろ始めましょうか」
「明日にはもうお別れなんだしね」
思い思いにくつろぐ十一人を前に双子の姉妹はそう口火を切る。
「話し合うといっても私達は何を話すのか聞いてないんだけど……」
「ハッ! それは俺達だってそうだぜ」
完全に夢の中のエルを膝に抱えたクレアが答え、リュウセイが賛同する。
ちなみにリュウセイの隣にはスミレが座っていたりする。
「決まってるじゃない」
「「反乱軍の名前を決めるのよっ!!」」
「「「「「「「「「名前?」」」」」」」」」
「「zzz……」」
約二名程、眠気でダウンしているが、それ以外は全員が同じ疑問を口にした。
「そ、名前」
「それが無いと締まらないじゃない」
「「前回の敗因も、きっと名前が無くて締まらなかったからよ!」」
二人は揃ってポーズを決めた。
「何か二人とも無茶苦茶言い始めたで……」
「「だまらっしゃいっ。
反乱軍反乱軍、って言うだけじゃまとまりづらいし、士気も上がりづらいでしょーが。
真面目に考えても名前を考えるのは必須なのよ!!」」
急に正論じみたことを言い出す二人。
それが正しいのか正しくないかは分からないが、やはり名前が無いせいで負けたというのは言いすぎだろう。
「「はいっ、てなわけで皆一つは意見を出してね。
あたし達は〝木蓮〟という名前を推すわよ」」
木蓮……ちなみに覚えていると思うが彼女達二人の盗賊ユニットの名前は〝睡蓮〟である。
――……自分たちを推しすぎやん。
という心の声はジャックの心の内に留められた。
これ以上ツッコミを入れたら話が進まないと考えたのだ。
「「ほら、寝てる人も起きる」」
「あべっ!?」「なのですっ!?」
フィーナとマリンによって強制的に起こされた二人。
カイルは姉に優しく、エルはクレアに優しく現状を教えてもらっている。
しかし、いきなり名前を考えろ、と言われてもそうそう簡単に出るわけもない。
フィーナ達以外の十一人は頭を抱えた。
――っつーか、いきなりすぎるやろ……。
っ、まさかこのタイミングで言ったのって木蓮を通すためなんか?
どんだけ木蓮にしたいねんあの二人……。
という心の声はまたもジャックの心の内に留められた。
「そうね……じゃあ私からは〝ショタッ子、男の娘、カワイイ少年を守るため帝王をピーする会〟という名前を推すわ」
と、不意に誰かが案を出した。
……まぁ、言わずとも分かると思うがクレアである。
帝王をピーするとは一体……。
「あら、そんなのでいいのぉ?
じゃあワタシは〝新しいセカイへの扉を開いて帝王をアーッする会〟にするわ」
「いや、お前ら反乱軍やからな!?
会じゃないからな!!
しかもなんやねんピーとかアーッ、ってお前らは帝王をどうしたいねん!!?
あ、ワイは〝巨乳バンザイ〟で」
「死んでくださいジャックさん。
一番変ですし、士気が下がります。
ジャックさんの趣味とかどうでもいいです。
あ、私は〝ジャックさんに全力で天罰を与える反乱軍〟ということで」
「いや、ユナちゃんのも変やからな!!?
っていうかそれは断固拒否する!!」
「士気は上がりますよ?」
「上がってたまるか!!!」
「うみゅうみゅ……え、なんれすかクレアひゃん……?
名前……?言えばいいのれすか?
〝は、初めてだから、優しく……してね〟
もう寝てもいいれすかぁ……?」
「うっは、エルお前そんなんでいいのかよ。
んー、じゃあオレっちは〝女王様って実は―――〟」
「実は、何なのかしらパックぅ?」
「ぁ、ゃっべぇ」
「それ以上口を開けたらもっと酷いことするわよ。
そうね……〝妖精十字軍〟でどうかしら?」
「やっとマトモな案が出たな……俺は〝竜炎革命軍〟だ」
「ちょっとカイルさんこの言葉を……」
「ん~~がぁ~~……〝ジャックハゲろ〟」
「言わせるなや!! クレアもやぞ!?」
「〝シューティングスターブレイド〟」
「……〝ミライへの翼〟」
全員の意見が出た。
何だか色々とダメな気もするが……まぁ、一応全員何かしらの案は出した。
中心でそのやり取りをメモしていたマリンとフィーナはそのメモを高々と掲げる。
「「全員、一個は出したみたいね。
全員の名前と案を書き出してみたわ」」
マリン・フィーナ……木蓮
クレア……ショタッ子、男の娘、カワイイ少年を守るため帝王をピーする会
ザフラ……新しいセカイへの扉を開いて帝王をアーッする会
ジャック……巨乳バンザイ
ユナ……ジャックさんに全力で天罰を与える反乱軍
エル……は、初めてだから、優しく……してね
パック……女王様って実は―――
サテラ……妖精十字軍
ディアス……竜炎革命軍
カイル……ジャックハゲろ
リュウセイ……シューティングスターブレイド
スミレ……ミライへの翼
キワモノばかりである。
中には本人の意思とは関係の無い意見もあったりするが……まぁ、起きていたところで大した意見がでないことはこの惨状を見れば火を見るより明らかだ。
「じゃあ、一回全員の分をすり合わせてみましょうか」
「すり合わせるんですか?」
「皆で意見を出しあった時の定石よ」
「へぇ~……そうなんですか……」
初めて知りました、と納得して頷くユナ。
……完全に騙されている。
その騙した張本人達はその状態を放置するようだ。
言葉通り、全員の意見を合わせていた。
「「えぇっと………
〝実は初めてだからミライへシューティングスターを与える翼ハゲろ妖精竜炎ジャックさんにアーッピーする木蓮〟
って具合かしら?」」
無いわぁ……。
とは全員の心の言葉だった。
「「やっぱりここは木蓮……」」
「どんだけ木蓮にしたいねん」
とうとう口にしてしまった。
「「いいじゃない、木蓮で」」
「いやいや、ここは妖精十字軍で」
「いやいや、ここは竜炎革命軍で」
「いやいや……」
あとは省略させてもらう。
結果から言うと阿鼻叫喚の大騒ぎになった。
皆が皆、自分の意見を押し出して、ワーワーギャーギャーと喧嘩のような話し合いが始まる。
夜の酒場のような騒がしい喧騒。
罵詈と雑言が飛び交っていた。
「ふふっ」
「楽しいか?」
「ええ、とっても」
スミレがふわりと笑いリュウセイもそれにつられる。
目の前では醜い言い争いが繰り広げられているが、スミレはその惨状を微笑ましいものを見るような目で見る。
「昔はね、ジャックおにいちゃんがイタズラして……誰かが被害にあって、ディアスおじさんが怒って、エルちゃんが止めに入って、クレアおねぇちゃんが暴走して、ザフラおねえちゃんも混ざって、おじいちゃんがそれを煽るっていうことが毎日あったの」
「……こんな感じか?」
「ええ」
ジャックが目にも止まらぬスピードでリュウセイとスミレの後ろにある壁に突き刺さった。
とうとう戦闘が始まったようだ。
「……もうちょっとおとなしかったかも」
「……多分姉貴たちのせいだな」
指揮棒を持ち、戦場の中心で高笑いする二人。
次の瞬間、カイルもジャックの横に突き刺さる。
彼は戦闘に参加していたわけではない。
単純に巻き添えだった。
「でも、私はやっぱり楽しい」
魔法と人が飛び交うような光景を目の前にして、スミレはやはり笑った。
「昔に戻ったみたい……」
「ハッ! そうかよ……」
ディアスを水流が襲い、ザフラがパックを掴み、クレアがエルをピーする。
騒がしくて、普通の感性を持つ人なら目を背けたくなるような光景だ。
そんな懐かしい光景を見ながら、スミレはリュウセイの肩に頭を乗せた。
「膝の上じゃなくていいのか?」
「……そこは昔に戻らなくていいのっ」
ぷうっ、と顔を膨らませるスミレ。
こういう動作をすると、不意にスミレが子供なのだと思い知らされる。
いくら思慮に富んでも、未来が見えても、総大将でも、彼女は十一歳の少女なのだ。
「なぁ、スミレ」
「……何?」
「一つ、頼みがあるんだ」
リュウセイが肩に頭を乗せたスミレの顔を見る。
「いいよ。
私の、私達の未来を救ってくれたんだもの、出来ることなら……何だってする」
――リュウセイの頼みって……なんだろう?
おじいちゃんの話?
いや、多分おじいちゃんは出来る話を全部リュウセイにしたはず。
……私にとって嫌な話も全部ね。
じゃあ……刀……?
一緒に修行したいの……?
いや、もしかして……【未来予知】?
ああ、それはありそう。
私にしか出来ないことだし、これからの活動について教えて欲しいんだろう。
「一人称を直してくれ」
「分かったわ」
さて、じゃあ早速……早速?
……あれ?
「一人称……?」
どういうこと?
「あぁ、どうやら俺は本気でジジイに何かされたみたいだ。
実はスミレが〝私〟っていう一人称を言う度にジンマシンが出てきやがる。
子供っぽい喋り方にもしてくれ。
見た目も……そうだな、ツインテールにしてくれ。
そっちの方が子供っぽい。
ヘアゴムは常備してるんだ。
じゃあ、早速―――」
「ちょっ、待ったやめっ、勝手に結ばないでよ!!」
何でヘアゴム常備!?
ていうか手付き慣れすぎ!!
何でそんなにツインテールにするの早いのよ!?
ほとんど抵抗出来なかったじゃないっ!!
「よし」
満足そうに私を見ないでっ!!
「よし、じゃないっ!!!」
「もうちょっと子供っぽく言え」
「~~~~~~っ!!!!」
な、何でこんなことに……。
でも、私の方から何でも言うこと聞くって言っちゃったし……ううううう~~!!
「ど、どうしてリュウセイはそんなに髪を結ぶのに慣れてるのー?」
は、恥ずかしいっ!!
私の精神はもう子供じゃないのにっ!!
子供じゃないのにぃっ!!
「ジジイに仕込まれた」
うん、だと思った。
「じ、蕁麻疹は治ったのー?」
「ああ、かなり引いた」
「よかったー、わた……スミレも嬉しいっ」
私って言おうとした瞬間リュウセイがぞわっ、ってした。
本当にジンマシンが出てるのかもしれない。
おじいちゃん、一体リュウセイに何をしたの?
「うわぁ……」
「リュウセイ……お前……」
カイルさんとジャックおにいちゃんが後ろから私達の方を見ていた。
壁から自力で抜け出したみたい。
「ロリコン……いや、フランとミシェルには反応せんかったから……まさかスミレちゃん専用で働くロリコン!?」
「人聞きの悪いこと言ってんじゃねぇよ」
「いや、お前自分の発言を思い返してみろや」
「別に何も問題ねぇだろ」
「問題しかないわ」
そう、問題しかないの。
「「そうね……まさかリュウセイがロリコンに目覚めてしまうなんて……」」
「……リュウセイさん……」
……え?
マリンさんにフィーナさんに……ユナさん!?
「リュウゥゥセェェエイ?
貴様ぁぁ、スミレに何を言わせているのだ?」
「リュウセイ君もついに新しいセカイへの扉を開いたのね」
ディ、ディアスおじさんにザフラおねえちゃんまでっ!!?
な、なんで、皆こっちを見てるのっ!?
皆さっきまで……
「反乱軍の名前を決めてたのに……」
「「面白そうなことが始まったから後回しにしたわ」」
あぁ……この二人はマトモな人たちだと思ったのに……かなり人をからかうのが好きな人たちだったみたい……。
そのベクトルが無差別なのが恐い……。
「い、いつから……?」
「「一人称を直してくれ、のところからよ」」
じゃあ、私の恥ずかしい台詞は全部聞かれたのね……。
もうやだよぅ……。
なんでこんなことに……。
「ハッ! 何をそんなに見てやがんだお前ら。
俺はただ、スミレに年相応の振る舞いを頼んだだけだぜ?」
そう言えば普通のことみたいに聞こえるけど……
「「ツインテールを強要して、喋り方を調教しただけでしょ?」」
その言い方はその言い方で問題ありすぎな気が……
「きっさまぁぁぁ!!!!!
スミレを調教しただとぉぉおお!!?
そこに直れ!!
叩き潰してやる!!!!」
そう言えばさっきからディアスおじさんの様子が……あれ?
鱗が赤くなって……まさか……
ディアスおじさんにお酒を飲ませたの!?
ディアスおじさんお酒に弱いのに!!?
一体誰がそんなことを……?
周りを見ると双子の姉妹がスゴい悪そうな笑顔で酒瓶を持っていた。
……さっきディアスおじさんが水流を浴びせられてたけど……あれがお酒だったのかも……。
マリンさん、なんてことを……
「上等だぜ酔っぱらいが!! 叩っ切ってやんよ!!!」
喧嘩が始まった。
ランスと刀を取り出して、ディアスさんとリュウセイが結構本気に切り合う。
わー、すごいなー。
そんな風に蚊帳の外から戦闘を眺めてたらディアスおじさんが叫び始めた。
「スミレはなぁ、俺の娘のような存在なんだ!!
貴様なんぞにくれてやるものか!!!!」
……はい?
「何の話をしてんだよ!!?」
「惚けるな! スミレがお前を好いているとザフラから聞いたのだ!!
それをいいことにスミレを好き勝手調教しおってぇええええ!!!」
ザフラおねえちゃん? どういうこと?
「あら、好きじゃないの?」
「……す、好きって……」
どうなんだろう……この気持ちは……私は……リュウセイが……
「なぁにが、スミレのことは俺が一番分かる、だぁ若造め!!!!
貴様なんぞにスミレの何が分かる!!」
「ハッ! そんなもん生まれてから二年前までの一日刻みの身長体重スリーサイズに嬉しいこと楽しいこと恐いこと好きなこと嫌いなこと下着の色さらにはおねしょの回数の何から何まで全部に決まってんだろぉが!!!」
「ちょっとリュウセイ!?」
な、なんでそんなことまでっ!?
それにそんなに大声で言わないでよ!!!
な、なんで、おね、おねしょなんかっ!?
皆もうわぁ、ってなってるし!!
「下着の色だとぉおお!!!!!?
貴様ぁぁぁ!!!!
既にそこまで進んでいるのか!!!!
絶っ対に許さんぞぉおおおおお!!!」
「ハッ! 許す許さねぇなんざ関係ねぇな!
俺は何もかもをぶった切ってやる!!」
「貴様なんぞに……貴様なんぞに……絶っ対にスミレはやらんぞっ!!
出来ちゃったとかそんな理由は断固としてゆるさんぞぉぉおお!!!!!」
ブチッ!!!
……ふふ。ふふふふふ。
……本人がいるっていうのに……随分好き勝手言ってくれるじゃない……!!
別にリュウセイのことなんて好きじゃないしっ!!
ザフラおねえちゃんもディアスおじさんに勝手なこと吹き込んで!!
私にはこれっぽっちもそんな気持ちはないんだからぁっ!!!
だから……
「スミレの前で勝手なこと言わないでーーーーーっ!!!!!!」
「うおっ!」「あぶねぇっ!」
っち、外した……。
「ふふふ、スミレは怒ったよ?
リュウセイにディアスおじさん……覚悟してねっ!!!」
闇の刀を具現化させてリュウセイ達に切りかかる。
もう我慢の限界っ!!
ぎったんぎったんにしてやるんだから!!!
「あらあら、スミレちゃん言葉使いが昔に戻っちゃってるわね、無意識かしら?」
「ぼくはそれもスミレちゃんらしくていいと思うのです」
「あれは照れよねぇ~、青春だわぁ~」
後ろで何か言ってるけど全然気にしないんだからっ!!!
あんまり私に強く出れない二人をめっためたにするまで、私は止まらなかった。
初めてこの喧騒に参加したけれど、中々楽しかった。
弄られるのは二度とごめんだけどね。
反乱軍の名前は真面目に審議した結果〝カルミア〟に決まった。
カルミアは花の名前。
花言葉は………大きな希望。
――――――――――――――――――――
「じゃあ、もうお別れね」
「だな」
一日経って、出発の朝。
リュウセイ達、スミレ達を合わせた13人は当然のこと、反乱軍七万人もスミレ達の後ろに集まっている。
一番奥には二十四機の飛空挺が立ち並び、いつでも飛行可能な状態だ。
カイル達の飛空挺もカイル達の後ろに置かれ、もちろん準備は万端である。
「うぐっ、えぐっ、も、もうっ、みなっ、皆さんと……お別れっ、なのですね……」
「もうっ、エルちゃんったら……カワイイんだからっ!!」
大粒の涙を流すエルを、クレアは思いっきり抱き締める。
その豊満な胸がエルにのしかかるが、今のエルにはそれを気にする余裕はないようだ。
二度と会えないわけじゃない、とは誰も口にしなかった。
こんな世の中では、“永遠の別れ”はいつ訪れても不思議ではないのだから。
「ううっ、皆さんっ……!!
ぼくは……昔の、平和な頃のっ、森に…帰りたいのですっ……!!
もし、帰れた……その時には、皆さんっ、にもぉ………遊びに……ヒック、来て……欲しいのです……!
この実験場に……捕まってからはぁ……えぐ……毎日が……嫌だったのです……。
でも……っ!!
皆さんは、そこからぼく達を……救ってくれたのです……!
ありきたりな……言葉なんですけど……本当に……ありがとうございましたぁ……!!」
エルの涙は止まらない。
ジャックとの別れ、カイル達との別れは……それだけでエルの涙腺を激しく刺激する。
その涙につられて、何人かも涙ぐむが、それはとても……暖かかった。
「絶対行く。
反乱が終わって……平和になったら……絶対、行く。
やから、エルも……それまで元気でな」
「うぅ、ジャックたいちょ~~~!!」
「まったく……エルちゃん……泣きすぎですよぅ……」
「ゆ、ユナさんだってぇ………!!」
エルはさらに涙を流す。
ぽろぽろと大粒の涙が腕を伝っていくのを、クレアは慈愛の眼差しで見る。
スミレも、エルのその様子を見守り、一歩前に出た。
「反乱軍〝カルミア〟を代表して、彼らにお礼を。
私たちはずっとずっと、絶望の中にいました。
日の変わり目も分からない暗い実験場。
いつ帝国が実験の為に来るか分からない恐怖。
悲惨な衛生環境は皆の心を暗くし、心の内にあった希望を……折っていきました。
私も……その一人です。
変わらない“未来”に絶望して……戦うことを……諦めていました。
私たちの皆が、そうです。
変わらない日々に絶望して、抗うことを諦めていました。
しかし、皆さんがその絶望を終わらせてくれました!
ウィル、ダンゾウを下し、鬱屈とした実験場を吹き飛ばし、私達の心に希望の火を……再び灯してくれました。
『希望をもっている限り、我々に敗北はない』
私の祖父であり、前反乱軍の総大将ゲンスイの言葉です。
私たちは、一度敗れ、捕まりました。
ですが! 希望をもっている限り!!!
何度絶望しても、敗北ではありません!!
帝王の圧政は、今度こそ!!
私達〝カルミア〟と彼らが力を合わせ、終わらせましょう!!!
明けない夜はありません!!
終わらない絶望はありません!!
そのことを、私たちに命懸けで示してくれた彼らに!!
今一度、感謝を述べたいと思います!!
ユナさん、フィーナさん、マリンさん、ジャックおに……さん。
そして、カイルさん、リュウセイ。
私たちを、助けてくれて、本当に……!!
ありがとう!!!!!」
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
空を飛ぶ鳥も驚き、落ちてしまうほどの歓声があがる。
七万人が口々に、カイル達に感謝をのべているのだ。
「本当にありがとう。
私たちもこれから新しく始めるわ」
「ワタシも随分と助けられた。
感謝の言葉が尽きないわ」
「オレっちも礼を言うぜ! ありがとな!」
「妖精族を代表するわ。
救ってくれて、ありがとう」
「みなざぁぁぁん、ありがとうなのですぅうぅうう!!!!!!」
「何と礼を言えばいいのか……この感謝の言葉を口にするのは難しい……。
だが、一言……ありがとう……お前達の戦いの幸運を祈っている」
感謝の言葉が尽きることはない。
止まることなく、カイル達に浴びせられた。
「お前らもっ、頑張れよ!!
エルもザフラも、クレアも、ディアスも、スミレちゃんも!!
ワイも頑張るから……お前ら反乱軍の底力みせたれよぉおおお!!!」
「「私達の為に身を粉にして働くのよっ!!」」
「……冗談ですよー、真に受けないでくださいねー」
「お前らも頑張れよっ!!!」
カイル達も思いの丈を述べながら飛空挺に乗り込んでいく。
そして……リュウセイだけが残った。
「スミレ……お前に一つ、伝言だ」
「伝言……?」
「……ジジイからだ」
「!?」
「『スミレ……お前が今、どこで何をしておるか、ワシには分からぬ。
じゃが、一人でないのなら、それでよい。
反乱を続けるにせよ、止めるにせよ、それはどちらでも構わんが……一人になるのだけは止めてくれ。
ワシのような、寂しい生涯を送るのは止めて欲しいのじゃ。
これから先、一人でないのなら、どんなことがあろうと、必ず、何とかなる。
じゃから、孤独に生きるのは止めてくれ。
スミレには、いつまでも……笑っていて欲しいのじゃ……』」
「おじいちゃん……っ!」
「ジジイは、お前の幸せだけを願ってた。
きっと死ぬ瞬間もそうだったはずだ。
……これからは、実験場以上の絶望が待ってるかもしんねぇ。
でも、お前なら、何とかなる。苦しかったら俺を頼れ。
また、切り開いてやるからよ」
スミレは静かに涙を溢す。
噛み締めるようにゲンスイの言葉を胸に刻む。
今なら分かる。
一人でいることの辛さが……
一人で出来ることの小ささが……
仲間で出来ることの大きさが……!!
後ろの仲間達の存在を強く感じて、スミレはリュウセイの方を向いた。
「スミレはもう大丈夫だよ。皆がついてるもん。
リュウセイも……頑張ってね。スミレたちなら、きっとできる。平和な未来をつくれるよ」
「ああ、そうだな。諦めなきゃ、絶望しなけりゃ、案外出来ねぇことなんて……ねぇんだよ。
頑張って作ろうぜ。平和な未来ってやつをよ」
リュウセイは後ろを振り向く。
もう言葉はいらない。
伝えるべきことはしっかりと伝わった。
その思い、飛空挺に乗り込もうとすると、既に飛空挺は空へと飛び上がっていた。
「……は?」
『『話が長いのよ。
自力で乗りなさい。
じゃあ、皆、絶対に帝国をぶっつぶすわよー!!!!』』
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
と、カルミアの大歓声が上がる。
リュウセイは額に青筋を浮かべ、翼を広げた。
「こんのっ、クソ姉貴どもっ!!
フザけた真似しやがってぇえええ!!!」
空へと舞い上がり、既に遠くへ飛行して見えづらくなった飛空挺をリュウセイは全力で追いかける。
そして、彼もすぐに、見えなくなった。
「呆気ないお別れね……しんみりさせる余裕もくれないなんて」
「ふふっ、マリンさんたちらしいじゃない。
本当に彼らにはお世話になったわ。
これからは、行動で私達の感謝を伝えなきゃね」
「了解したわ、スミレ総大将」
――総大将、か。
何だかそう呼ばれるのもくすぐったいな。
でも、私はおじいちゃんの跡を継ぐと決めた。
平和な未来の為に、戦うと決めたんだ。
もう私は……一人じゃない。
でも……一つだけ、気がかりなことがある。
ユナさん。
私と、とても似てるって言ったあの人は……大丈夫なのだろうか。
『あなたには……素敵な仲間がたくさんいるんですから』
ユナさんが……私を励ますときに言った言葉。
ねぇ、ユナさん。あなたには、仲間がいないの?
カイルさんや、ジャックおにいちゃんは……仲間じゃないの?
……止めよう。
きっとこれは、私が考えても仕方のないこと。
思い過ごしかもしれないし……。
今は、これからのことを考えよう―――
「さぁ、皆!!!!
私達も彼らに続きましょう!!!
反乱軍〝カルミア〟……活動開始よ!!!」
〝カルミア〟が活動を始めたこの日。
頭上の空は……これからの未来を表すように、青く、青く、どこまでも広がっていた……。