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CAIL~英雄の歩んだ軌跡~  作者: こしあん
第一章~集結~
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第六話―逃走中の三人組

 






 轍の無い山道を、一種の馬車のようなものが進む。


 麻の布でくるまれた荷台に、回る木の車輪。それを引くのはナーデルと呼ばれるモンスターだ。モンスターと言っても家畜化に成功した数少ない種であり、速さは出ないが、【身体強化】で重い荷物も険しい山道も苦もなく進み、長距離の移動に適している。


 ナーデルは、丸っこい体に短い四本脚を生やし、象のような厚い灰色の皮膚に黒くて小さな丸い目の……少しばかり愛嬌があるモンスターである。ずんぐりむっくりの短足を少しずつ動かし、甲虫の引き相撲を見るような無様さで馬車を運ぶ。


 そして、その馬車の荷台には--



「やーから、部隊長専用の飛空艇盗もうって言うたやんかー。速いし、揺れへんし、快適やねんで?」



 不服気に口を尖らせた、ライオンのようにセットされた赤髪をした小柄な少年。白のシャツ、青のオーバーオールを着て、腰には魔具を作るための道具が提げられている。小人族ドワーフ特有の小さな体躯に金の瞳。


--自称(?)凄腕の魔具職人のジャック。そして、



「いや、わたし--いえ、わたしたちは指名手配なんですよ? なんでそんな目立つもの盗むんですか。隠密行動を徹底しなくちゃ、すぐに帝国に見つかってしまいます。ダメです。絶対に却下です。それと、盗むんでしたらなんで着替えも盗まないんですか? 不潔ですよ二人とも」



 しっとりと光沢を放つ黒髪に、大きな黒い瞳。足下から胸元までは黒とベージュのボーダーで胸元は無地のベージュのロングワンピース。装飾品に漆黒のブレスレット二つと深紅の宝石のネックレスを装備。


--闇属性という稀有な属性を持つ少女、ユナ。そして、



「盗むとかそーゆー前にさ。気がついたらこの馬車に乗せられてた俺にそんなこと言うのはどうかと思うぜ?」



 無造作にされた短めの金髪に、緑の瞳。農作業時によく見かける薄緑のつなぎ。着飾るものは何一つ無い野生児スタイル。


--有翼族の生き残りの少年、カイル。


 彼ら三人はどのような因果に依るものか、出会い、一緒に旅をすることになった。目的は--打倒帝国。無茶も無謀も甚だしい、大それた目的。一旦の目的、指標であるとは言え、撤回することができないのは--ヨークタウンにて、既に帝国の最高戦力の一角を落としてしまったが故だ。


 ここで、先のヨークタウンの顛末を挟もう。


 帝国軍第九部隊長のウィルを下し、完全に寝ていたカイル。このバカをよそに、ユナとジャックが帝国軍から馬車とナーデルを拝借。バカを投げ込み、ついでとばかりにジャックが帝国軍の倉庫から魔具の素材も丁寧に運び込み、逃走。以上。


 現在はウィルを倒して一夜明けた昼下がりである。



「服はまぁ、忘れてたと思うわ……。魔具作んのに夢中でそこまで気が回らんかった」


「俺を無視すんなよ」


「でも、こないな普通の馬車やったら、おっそい上にめっちゃ揺れるやん! こないに揺れたら魔具が作られへんやない、かっ!?」



 車輪が石に当たり、荷台が大きく跳ねる。痛! と文句をいうジャックであるが、揺れや跳ねは今に始まったことではない。舗装されていない道を馬車で進む以上、当然の悪環境である。

しかし、飛空挺は高級品で中々世に出回る物ではない。そんなものが街に降り立つと目立つことは自明の理だ。今や三人が三人がお尋ね者になってしまった以上、目立つ行動は慎まなくてはならない。

そんなことはジャックにだって分かっている。分かってはいるが、素材があって、作った魔具を信頼して託せる人間がいる状況では、彼は魔具を作る欲求が抑えられないのだ。



「ちょっとは我慢してくださいっ。色々盗んだんですから、夜とか馬車が止まるときに頑張って作ればいいじゃないですか!」


「嫌やぁ~! ワイは魔具作るか、キレイなおねーちゃんとおらな生きていかれへん! ユナちゃんは顔立ちはええけど、オトナの魅力♪ ってやつに欠けるわー。

せめてもうちょっと胸があったらなぁ……。あーぁー、ここの断崖少女はワイの楽しみを全て奪い去るんかー……」



 ジャックが断崖少女の断崖絶壁を眺めて言う。ユナは慌てて胸を手で隠し、赤くなりつつジャックを睨む。ある意味必殺の言葉である。



「な〜〜〜〜っ!!? またそんなことっ!!

む~……はぁ、今日はこの辺で野宿しましょうか。早いですけどジャックさんが我儘言うのと、わたしの乙女心がもう限界です」


「おっ、さっすが~! ユナちゃんの乙女心に訴えた甲斐があったわ~」


「ただ、ジャックさんのことは嫌いになりました。これからジャックさんが声をかけた女性にジャックさんの悪口を言いまくってやります」


「なんでやっ!!?」



 こんなやり取りを経て、一行は山の中腹で止まり、明日の朝まで停留することにした。


 ここはカルト山と呼ばれている山。

ウィルを倒したことにより、いずれ追手がやってくると考えた三人は、人が寄り付かない道を行き、次の目的地ルクセンへと向かうことにした。

それによってとられたルートがカルト山を横断するというものだ。


 カルト山は標高約千メートルの山が二つ連なって出来ている。山肌が所々で見えるが、大部分は緑に覆われていて、山と山の間は谷になっており、川も流れている。


 何十年も前に作られた山道は悪路になってはいるが健在で、山越えも比較的容易なのである。

ヨークタウンとルクセンのちょうど中間くらいの位置にあるカルト山を昔は、誰もが横断していた。


 が、今はヨークタウンからカルト山を越えてルクセンに行くものはいない。いつの頃からか、カルト山を越えようとすると濃い霧が立ち込めるようになったのだ。一度カルト山に入ろうものならその霧が人々を迷わせ、山の入り口に戻したり、谷に落としたりするのだ。

周囲の人々はこの山を恐れ、


『迷わせ霧のカルト山』


 とまで呼ぶようになった。

ゆえにこの山を越えようとするものは帝国軍を含めても、現在はいないのだ。少々危険な匂いもするが、追っ手が確実に来ないことと、ジャックがどうせそんなんは人間が起こした魔法やろ、と言い張ってこの道を選んだ。


 実際に霧は魔法で生み出せる。しかし広範囲を霧で覆うとなると何人もの魔力が必要になるので、普通の人間が起こした現象なら、ここまで周囲の人や帝国兵が恐れるのは違和感がある。となると何か恐ろしいモンスターでも居着いたか、この山そのものに大きな異常がおこったのか。いずれにせよ、この山が普通でないのは確かだ。



「じゃあ、カイルさんは何か食べ物捕ってきて下さい。ジャックさんはもう好きにしたらいいです」


「了解やでっ!」


「あいよー」



 馬車から降り、一通りの野宿の準備を終えてからユナが号令を出す。その言葉に素直に従うカイルとジャック。


――さて、料理の準備でもしますかねっ!


 そう意気込んで、ユナはカイルが捕ってきてくる獲物を考えて、持ち合わせのもので取り敢えず料理に取りかかるのだった……。





――――――――――――――――――――





 その夜、カイルが捕ってきた猪のような巨大モンスターに一瞬目眩がしたユナが作った料理を三人が囲む。



「くぅぅあぁーっ! 旨いっ! ユナちゃん料理めっちゃ上手いやんっ!

なんこれ!? ひっさびさにこんな上手いモン食べたわ!! いや、久々っていうか初めてや!!」


「そ、そんな大げさですよ!」


「いーや、そんな大げさなことないっ! 料亭とか開けるレベルやでコレ!!!」



 ジャックが勢いよく料理にかぶりつく。カイルは無言になり、凄まじい勢いで料理を口に運んでいる。


 ユナは一人でいる時間が長かったので、料理や動物愛護、裁縫などの趣味にのめり込んだ。よって基本的な家事スキルはもちろんのこと、料理に至ってはプロと遜色のない程だ。


 ユナが今回作ったのは、俗に言うイノシシ鍋である。辺りを散策して、山菜を集め、帝国軍の食糧庫から借りた(?)調味料の中の味噌を使ったものだ。


 味噌の味を薄くし、イノシシの肉を長く煮込んだことで、ダシがぐんぐんと出てきてとても食欲をそそる香りとなっている。イノシシの肉は大量にあるので、継ぎ足し継ぎ足ししていけばいつかは無くなる、との考えでの料理であったが、男二人組……主にカイルの腹によってイノシシが瞬く間に骨になってしまった。



「ご馳走様でした」


「ごちそうさまー」


「ごっちそーさん!」



 ユナ、カイル、ジャックの順でそれぞれのごちそうさまをする。



「いやー、初めてこんな旨いもん食べたぜ!」


「それさっきワイが言うた」


「でも、カイルさんの言葉は真実味があります」


「そーいや長いこと森暮らしやった言うてたな。今までどないして食い繋いでたん?」


「焼いて食べる!」


「終わりかいっ!? 調理のレパートリー少なすぎるわっ!!」


「なんか……不憫ですね……」


「んー、そこまで不自由はしてなかったと思うけどな。肉は美味かったし」


「でも、この味を知ってしまったカイルはもうそんな焼くだけの食生活は耐えられへんで!?」


「それはそうかもなっ!」


「もうっ! 今回のはただ煮込んだだけですよ?」


「ワイはその動作に料理人の面影を見た」


「大げさ過ぎますっ!」



 そう言うユナの顔はどこか綻んでいる。ジャックもカイルも楽しそうに話す。こんな雑談がしばらく続くと……



「よっしゃ! そろそろ作り始めるとしよかっ!!」



 ジャックが立ち上がり、馬車の方から色々と材料と、料理が出来るまでの間引いていた図面を取ってくる。その中にはウィルが使っていた双剣もあった。



「ん? それウィルが使ってた剣か。何に使うんだ?」


「ほっほう、良い目の付け所やなカイル。ウィルの双剣はな、地味にええ素材で作られてんねん。魔力鉱石は属性の関係で使われへんけど、モンスターの素材は使い回せる。やから貰っといてん」



 ジャックがウィルの双剣を持ち、カンカンと軽い音を立てて打ち鳴らす。やから、の文脈が少々おかしいのだが、それを注意する人間はこの場にいない。



「へぇー、どんなモンスターの素材が使われてるんだ?」


「ヘラクレイブルっつー甲虫や。【硬化】っちゅー能力持っててな、メチャメチャ丈夫な武器になんねん。元々の素材も固いから、これやったらどんだけ雑に扱っても痛まへんで!!!」


「へー……」


「さらにっ! 使う魔力鉱石はスタールビー! ルビーよりも数段高級な魔力鉱石やっ!!」


「ふーん……」


「その上っ! この二つをこんな風に組み合わせて、こことここを溶接したら……」



 魔具についてアツく語るジャックは子供のように瞳を輝かせ、生き生きとしている。

しかし、カイルは始めこそ興味を持って聞いていたが、すぐに頭が追い付かなくなって、生返事しか返せなくなった。そんなとき、横からユナがジャックの語りに入り込む。



「あのー、ジャックさん。ちょっといいですか?」


「ん? どうしたん、ユナちゃん?」


「おふ……いえ、一定の範囲を加熱し続ける魔具ってありません?」



 その言葉を聞いたジャックはニヤァ、と意地の悪い笑みを浮かべた。おふ……といいかけて魔具の効果だけを説明する。一定範囲を加熱し続ける魔具。

ユナはその魔具を使って何をするつもりなのだろうか。



「あるでぇ~、でもユナちゃんはそれを何に使うんかなぁ~???」


「秘密です。ちなみにこっちに来たら容赦なく迎撃しますよ?」



 ニコッ、とユナも笑って見せる。本音を顔に出さない語り合いに、カイルだけが頭に疑問符を浮かべている。



「はいはい、わかったわかった。ちょーっと、待ってなー……………っとあったあった。

ほらっ、コレ貸したるわ。効果範囲は二メートルってとこやな。カイルに充電してもらってから行き」


 ジャックは馬車の中から帝国兵を蹴散らしたものとよく似た板を取ってきてユナに手渡す。それと違うところは、嵌め込んであるのが火のクリスタルだという所と、刻まれた模様だけのように見える。



「あっ! それあの嵐を起こすやつ?」


「違うわ! ってそーいや、術式について説明してなかったな。

この板はその辺の弱いモンスターの素材で作られて、中心に魔力鉱石とクリスタルを埋め込んである。そのモンスターの素材に、術式を刻んで完成や。


 術式っていうのはな、この魔具に魔力を注いだらどういう風な魔法を発生させるかっていうのを決めとく為のもんや。つまり真っ直ぐ魔法を飛ばせって術式を刻めば、魔力を注ぐだけで真っ直ぐ飛んでく魔法が出る。


 予め魔力を魔力鉱石に貯めとくと、魔力を込めずに魔法を使うこともできる。

起動方法は魔具によってちゃうけど、この板は横に付けたボタンを押してから二秒後に発動する。

 

 ちなみに、術式は記憶の封印にも使われとる。【催眠】の能力を持った魔具に、膨大な魔力とでっかい術式があれば、記憶を指定して封印できんねや。


 ちなみにこんかいユナちゃんに渡したんは半径二メートルの範囲を四十度にし続けるっつー術式が刻まれとる。分かったら、さっさ魔力込めたれ」


「記憶の封印にも術式が使われてる……か。俺の記憶もそうやって封印されたのか? まぁ原理がわかってもどーしようもないか。正直よくわかんねーし。


 それで、どれに魔力を込めたらいいんだ?」


「これです。中心にある魔力鉱石の方に魔力を込めてください」



 ユナが魔具をカイルに渡す。カイルは渡された魔具をしばらく眺めてから、魔力鉱石に魔力を込める。魔力鉱石が赤く光り、やがて消えていった。込める前と込めた後で、大した違いはないようだが、注意してみるとほんのり魔力の気配が感じられる。恐らく魔力は込められたのだろう。



「ありがとうございますっ! ついてこないでくださいねっ!!」



 ユナは嬉しそうに魔具を受けとるとそう言い残し、木々の中に走っていった。



「ついてこないでって……どういう意味だ? ジャック?」


「あん? お前……そんなんも分からんのか……森暮らしのカイルは水浴びとかせーへんかったんか?」


「いや? 毎日川に入ってたぜ?」


「ユナちゃんもそれや。近くの川で水浴びして、身体の汚れを落とそうってことやろ」


「でもなんでさっきの魔具がいるんだ?」


「あぁ、あれはな川の水をお湯にするためや。あれもって川に入ったら、周りの水がお湯になって気持ちえぇ~んやで~?」


「へぇー、気持ちいいのか。外の世界は楽しいことが一杯だな。飯も美味いし。--よし! なら、俺も行ってくるぜ!」


「あっ! ちょい待ちっ……って、もう行ってもうた……足速いなアイツ。


 まぁカイルはユナちゃんの裸見てもなんも思わんと思うし、女の子のお風呂覗いたらどんな目に会うかっていう経験になるやろうから……ま、えっか」



 お分かりいただけただろうか。ユナが欲しがったのはお風呂に入るための魔具である。


 そしてジャックはこの件に関して無干渉を貫くことに決め、黙々と作業に勤しむことにした。






――――――――――――――――――――




「ふぅ……やっと着きました……」



――今日の野宿の場所からこの川まで中々距離がありました。

でもっ! 久しぶりのお風呂ですっ。石鹸とかはないですけど、しっかり汚れを落とさないとっ!


 わたしはジャックさんから借りた魔具を地面に置いて、服を脱ぎます。ワンピースなので、脱ぐのは簡単ですね。後は下着だけですけど……うぅ……ブラなんて着ける意味あるんでしょうか?

形が良くなるとか、支えられて楽になるとかそんな効果聞きますけど、わたしのこの慎ましやかで、控えめなまない……かわいい胸にそんな効果期待していいんですかね……。


 どうして、こんな控えめに育ってしまったのでしょう? お母様はもう少しあったような……わたしも最終的にはあれぐらい育つんでしょうか? ジャックさんにも貧乳とか言われてしまいました。自分で思う分にはいいんですけど、人から言われるとかなりクルものがあります……。


 いいえっ! もう胸のことは気にしちゃダメですっ女の魅力はきっともっと別のところにあるんです!

……………多分。

り、料理も出来ますし! 頑張ります!


 はぁ……いつまでも悩んでいても仕方ないですね……さっさと入ってしまいましょう。下着もワンピースも丁寧に畳み、ブレスレットとペンダントも外して、川原に置いておきます。


 服を脱ぐとその下に真っ白い肌……身体のほとんどが真っ白……透けるような肌は自分でも綺麗だと思います。お母様譲りの黒くて綺麗な髪はよく手入れしてもらいましたね……。腕も脚も普通の人よりは細くて華奢、そして出るところは出て、引っ込むところは引っ込む……になったらいいなぁ。今のところ引っ込むしかないんですけどっ。


 いつまでも裸のままいるのはいけないので魔具を抱えて川の中に入ります。



「ひゃぅっ!!」



 つ、冷たいっ! なんですか普通に川の温度じゃないですかっ! 変な声まで出してしまいましたっ! ま、まさかジャックさんが仕掛けた罠っ!?

……ってそうでした。


 起動しないと魔法は発動しませんね。起動は魔具についているボタンを押すんでしたね。えーっと……ボタン……ボタン……っと……あ、ありました。これを押せばいいんですね。


 ヴ、ヴヴゥーン……


 なんか周りが温かくなりました!

 では……今度こそ大丈夫なハズです。


 ちゃぷん……


 足からゆっくりと川に入って、暖かいことを確かめてからある程度まで進み足を折り曲げて、肩まで浸かります。ちゃんと水はお湯に変わっていました。


 ふぅ~……癒されます……。やっぱりお風呂は気持ちの良いものですね。川なので擦ったときにでる汚れが流れていってくれるのもいいです。



「むう……やっぱり小さいんですよね」



 我ながら女々しいと思います。でも仕方ないじゃないですか。どうして世の女性の方はちゃんと育つのにわたしだけこんな……


 不公平です!


 

 ちょっとだけ、揉んでみます。べ、別にそんなイヤらしいことは考えてないですよっ!? た、ただどれぐらい育ってるのかなーっていうただの発育確認なんですからっ!!!



 ふに……ふに……ふに……。

何でしょう? すぐに固いものに当たります。肋骨ですか? あははー、まっさかー、そんなわけないじゃないですか。わたしだってそこまで小さくはないですよー。揉んだ途端に肋骨に当たるなんてそれじゃあ本当に断崖絶壁じゃないですか。

あはは……あははは………………はぁ。



「ふぅ~~っ…ん……くはぁ……」



 伸びをしてみました。発育確認はお仕舞いですっ。忘れましょう!


 こうやって伸びをすると全身の筋肉にお湯が染み込んでくるのを感じます。こうやって疲れも流れていくんですかね。

 今までの疲れよさらばっ!!








「それにしても……この四日間は色々ありましたね……」



 三日前……カイルさんと初めて出会って、助けてもらって……わたしと旅をしてくれると言ってくれました。


 一昨日はわたしの孤独を、寂しさをカイルさんに打ち明けました。その頃のわたしはまだ、カイルさんの事を信用してませんでしたね。


 昨日は凄かったです。放送で帝王に宣戦布告して……第九部隊長のウィルを倒して……あ、そーいえばジャックさんも一緒に旅をすることになりましたね。


 二人も信頼出来る人が出来ました。みんな……みーんな馬鹿な人達で昨日からとっても騒がしいんです。



「一人になって癒されるなんて……いつ以来でしょう……」



 うーん……一つ目族のとき以来ですかね? アレのせいで、からわたしの人間不振は加速してしまった気がします。


 それでも、カイルさん達の事は信じようと思うんです。あんなに馬鹿な人達が裏切るなら、ほんとに人間は信用出来ませんよ。


 信用……か……ふふっ、良いものです。安心して夜を過ごせる。笑顔で日々を越えて行ける。

ずっとずっとずっとわたしが望んでいたもの。


 温かい……わたしの居場所。



「あ……あれ? おかしい……ですね。な……なんで涙が出てくるんでしょう……?」



 悲しくなんかないのに……辛くなんかないのに…どうして涙が出てくるんでしょう?

 

 前にもありました。確か……カイルさんの放送の後と、カイルさんが死んじゃってるんじゃないかって思って……でもカイルさんが生きていたとき。あの時わたしは何を考えていましたっけ……?


 嬉しかっ……た?


 カイルさんが生きていてくれて……カイルさんがわたしのために頑張ってくれて……。あぁ……そうか……この涙は……



「嬉し……涙」



 初めての経験です。こんな矛盾した涙。涙を流しているのに、笑ってるなんて……なんか恥ずかしいです。





「お父様……お母様……わたしは元気です。

辛くて……泣いて……苦しい日々でしたけど、もう淋しくないんですよ? 友達が出来たんです。わたしの事を思って帝国に宣戦布告するようなお馬鹿さん達です。カイルさんとジャックさんって言うんですよ?


 カイルさんは世間知らずで……常識が抜けてて…思った事をそのまま行動に移してしまうような人です。素直で、いい人です。


 ジャックさんは、女の人が好きで、胸で人を判断するダメな人です。

でも、魔具のこととなったらすごいんですよ。その上わたしが知らない色んなことも知ってますし。


 

 ……まだ、お二人との約束は果たせてないですけど、もっと……力をつけて……きっと果たしてみせます。何年かかっても……わたしを待って耐えてくれている皆さんを救ってみせます。

だから……ちゃんと見ていてくださいね?」



 お父様、お母様。



 どこかで見ていてくれているお二人に聞こえるように口に出します。

わたしの使命。

やらなきゃいけないこと。

先は長いですけど……カイルさん達となら……きっと……



ガサガサっ!!


 っ!! 何かいます! まさかモンスター!? 魔具は水を温めるものしか持ってません。今襲われたら……



「お、いたいたー。なぁユナ、俺もお風呂ってやつに入れてくれよ。気持ち良いって、ジャックから聞いてきたんだよ」



 そう言って現れたのはカイルさんでした。



「なぁんだ……カイルさんですか……てっきり……モン……スターかと……」



 待って待って冷静に考えてくださいわたし! 今、わたしはどんな状態ですか? お風呂に入っているので裸です。正解っ!



「き、きゃぁぁああぁあ!!!!」



 その結論に至ったわたしは女の子らしい黄色い声を上げて、水の中で、胸を隠し、出来る限り小さくなって見せる範囲を小さくします


 わたしは今涙目です。これはきっと恥ずかし涙ですっ!! 初めての経験ですっ!!



「な、なんでっ! か、か、カイルさんがここにっ!??」



 ついてこないでって言ったのにどうしてですか!? ああああ………恥ずかしくてカイルさんの顔が見れないぃ……。は、はだ……裸ですよわたし!??



「いやー、ジャックにお風呂ってやつの説明聞いてさ、外の世界には俺の知らないことが一杯あるんだなって思ったんだよ。飯以外にもそういうことがあるなら、やりたいって思うだろ?」



 ジャックさんカイルさんに何を吹き込んだんですか!? ま、まさか自分は覗かないけど、カイルさんに覗かせて後で聞いて楽しむとかそんなことするんですか!?



「常識ってものを考えてくださいっ!! お、女の子がお風呂に入っているんですよ!?」


「だから?」



 それがなに? みたいな顔してます。まさかここまで常識がないなんて……。今更ですかね……。


 ふっふっふ……どうしてくれましょうか? 改めて常識ってものを叩き込まないといけないようですね。


 女の子のお風呂に入ろうだなんて、そんな非常識な人にはお仕置きです!


 でもっ……あぁぁ……男の人に裸を見られるなんてっ……恥ずかしすぎます。

顔もとっても赤くなってるでしょうし……恥ず、恥ずかしいてすっ!!!

これは記憶も忘れるくらい厳しいお仕置きをっ!!



「カイルさん?」



 抑揚をつけない声で優しく言います。



「何?」


「とりあえず後ろを向いて下さい」


「なんで?」


「向・い・て・く・だ・さ・い!!」



 口答えは許しませんよっ!!



「お、おう」



 カイルさんが後ろを向いた瞬間、持っていたお風呂用の魔具で後頭部を思いっきり叩きます。



 ふぅっ、気絶しました。さて……この隙に体を乾かして着替えましょう。カイルさんは起き上がらないでしょうけど、念のためです。

それに……は、裸を見られたんですからこれくらい当然ですっ!!





 服を着替えてからカイルさんを叩き起こして、お仕置きタイムです。

二度とこんな真似しないようにしっかり教育しないと……―――



 その後目覚めたカイルはみっちり三時間、女の子の扱い方やら、ユナの禁止ワード(貧乳、断崖絶壁、まな板、エトセトラ、、、)やら、お風呂の常識やらを叩き込まれた。その間のユナは常に黒いオーラが出ていて、とても逆らえる状態じゃなかったそうだ。









 ちなみに無関心を貫くと決めたジャックも




「てっきりジャックさんが覗きに来ると思ってました」


「覗くほど見るもんついてないやん」



 というやり取りの後、物理的にボコボコにされたそうな。










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