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CAIL~英雄の歩んだ軌跡~  作者: こしあん
第二章~絶望の帝国実験場~
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第五十六話―ダンゾウの【能力】

 





「七星流・よんの型・極星!!!!!」



 小竜景光の刃が、ウィルの腹に触れる。

横凪ぎの軌道の太刀は狙い通りの場所に当たり、リュウセイは身体を思いっきり回転させながらその刀を振り抜いた。


 ギィィィ……ン。

鉄を切ったような甲高い音と共にウィルは吹き飛ぶ。

リュウセイの攻撃は間違いなく当たった。

手応えは十分。

普通の人間であるなら間違いなく真っ二つになっているだろう。



「ッチ、硬ぇな……」



 しかし、ウィルはもはや普通の人間ではない。

身体の要所要所に貼り付けられた【硬化】の【能力】を持つガルガードルという亀の甲羅。

その甲羅を結ぶ土色の皮膚と尻尾は【身体強化】の【能力】を持つオニマジロのもの。

実験によって高まった魔力でそれらの【能力】は元の持ち主が使うよりも強大に発揮される。


 意識を保ったただの人間なら、こうはいかなかっただろう。

二つの【能力】を同時に扱い、かつ二つの属性をも同時に扱うなど……何年もかけて会得すべき技術だ。

しかし今のウィルは理性がない。

モンスターじみた本能によって動いている。


 身体に刻み込まれた二つの属性の扱い方。


 本能に刻み込まれた二つの【能力】の扱い方。


 それらがその技術を可能にしているのだ。



「グルオオオオオオオオオオオオオ!!!」



 吹き飛ばされたウィルが吠える。

その手には具現化された二つの鞭。

そして、それが……二股に分かれた。



二股の鞭デュアルウィップってやつか……」



 カイルからあらかじめウィルの情報を聞いていたリュウセイは舌打ちする。

理性を失ってなお、ここまで魔法の扱いに長けているとは……。

そして、現在のウィルは安全圏からただ鞭を振り回すような人間ではなかった。



「グオオオオオオオオオオオオオ!!!!」



 双剣をだらんと垂らし、力を抜いて突進してくるウィル。

【身体強化】で底上げされた彼は一踏みごとに地面にその足跡を刻み付け、リュウセイとの距離をあっという間に縮める。

そして、鞭の間合い20メートル圏内にリュウセイを捉えた瞬間、右の剣を振るった。


 リュウセイに向かうのは水の鞭。

二股に別れているそれはリュウセイを挟み込むように左右から襲いかかった。

リュウセイは焦らずに飛び上がり、それを回避する。

すると間髪入れず左側……つまり雷の鞭がリュウセイを襲った。

回避することを見越していたかのように上から迫る二本の雷の鞭。

リュウセイは流石に避けきれないことを悟り、刀を構える。



「七星流・護りの型・其の壱・柳星やなぎぼし



 迫り来る二つの雷の鞭。

リュウセイはそれらを……いなす。

刀の腹を使い柔らかく一本目を受け、もう一方は弐の型・双星の刃を使い、同じように受け流す。

包み込むように刀を動かし、流れるように雷の鞭がリュウセイを素通りしていく。

そして、護りの型・其の壱・柳星は繋ぎの技だ。

敵の攻撃をいなし、懐に侵入して切り崩す。

リュウセイが柳星を放ち終えた時、計ったように目の前に突進してきたウィルの姿があった。



「おっるああああああ!!!」


「グルゥオオオオオオオオアアア!!!!」



 空中で魔法を纏った刀と剣がぶつかり合う。

縦に切り抜こうとしたリュウセイと、双剣を外側から内側へと振り抜こうとしたウィル。

お互いの顔のちょうど中間でせめぎ合いが始まった。



「っくそ!!」


「オオオオオオオオオオオ!!!!」



 そうなった時、単純な力ではウィルに敵わないリュウセイは弾き飛ばされるしかない。

飛ばされたリュウセイが翼を使い空中で態勢を立て直そうとしたとき、その眼前には既にウィルの姿があった。

空中で魔力を足場にして、リュウセイを追撃してきたのだ。



「グオオオオオオオオオオオオオ!!」


「こんな魔力を使いこなすモンスター見たことねぇよっ!!!」



 半ば愚痴めいた叫び声を上げながら、リュウセイはウィルの剣を受ける。

ウィルはそのままリュウセイを押し込みつつ、剣激を繰り出した。

人間のように双剣を使いこなし、上から横からリュウセイを攻め立てていく。


 元々ウィルは双剣を使いこなせていた訳ではない。

実験前の彼は射程距離ギリギリで鞭を振り回すだけで双剣の技術に関してはほとんど見るべきところはない。

技術ならば、リュウセイの方が遥かに上だ。

しかし、現在ウィルはリュウセイを押している。

多少粗い剣線は、その余りある身体能力が完全に補っているのだ。

無茶苦茶な魔力で行使される【身体強化】と魔法の具現化は、ただそれだけで厄介だった。

特に【身体強化】に関しては、リュウセイはカラクムルで一度痛い目にあっている。

一撃の重さが決定打になりかねないため、リュウセイは攻めあぐねて、守勢に回り続けているのだ。

二十、三十と繰り返される剣激を極力受けないようにいなし、避ける。

苛烈な攻撃をリュウセイは刀一本で見事に捌いていた。


 しかし、守りに回ってばかりでは勝ち目はない。

ここいらでリュウセイは攻勢に出ることにした。



「七星流・弐の型・双星!!!」



 リュウセイは刀での防御に、双星による防御を加えた。

現時点、リュウセイがウィルに勝てる部分があるとすればそれはスピードと技術だ。

だからリュウセイは……そこで勝負する。



「はぁぁぁあああ!!!!!!」



 ウィルの攻撃を受けるのに双星を加えたことでリュウセイに攻撃をする余裕が生まれた。

キンキンキンキンキン、という音が鳴り続いている中、リュウセイの刀がウィルに届く。

しかし、それがウィルに傷を与えることはなく、今までと変わらず、甲高い音を鳴らす。



「まだまだだぁぁぁぁああああ!!!!!」



 それでもリュウセイの攻撃は止まらない。

さらに速く、さらに鋭く、リュウセイの刀は振るわれていく。

双星のスピードもそれに呼応するように上がっていき、ウィルの剣は完全に封じられた。



「グ………オォ」


「うおおおおおおおお!!!!!」



 完全に攻守が切り替わった。

リュウセイの目で追えない程の攻撃にウィルは防御するしかない。

そして、ウィルはリュウセイの攻撃を防御しきれていない。

受けきれなかった攻撃は、自分の身体で受けることになる。

何度切りつけられてもウィルの身体に傷がつくことはなかったが、それでもリュウセイは切り続けた。



「グっ………オオオオオオオオオオオ!!」


「なっ……がはっ……!!」



 攻撃を受け続け、怒りを覚えたウィルは【身体強化】と【硬化】をさらに強く発動し、リュウセイの攻撃を全て無視して腹を蹴り上げた。

みしぃ……という音と共に上空へと吹き飛ばされるリュウセイ。

あわや天井にぶつかる、というところでなんとか態勢を立て直す。

ウィルを睨むと、足元に魔力の足場を作り、今まさに飛び上がろうとしているところだった。



「来んなっ!!!

七星流・壱の型・一ツ星!!!!!」



 リュウセイは刀を振り、その先からウィルに向かって真っ直ぐに雷を飛ばす。

バチバチと鳴る雷は狙いを外さずに、飛び上がろうとしていたウィルに直撃する。

しかし、ウィルは何食わぬ様子で飛び上がってくる。

一ツ星によるダメージは全くといっていい程……無い。



「分かってんだよ!! んなことぁよ!!

一ツ星!! 一ツ星!! 一ツ星!!!」



 それでもリュウセイは刀を振り、三本の雷がウィルに向かって飛んでいく。

そして、リュウセイも三本の雷を追うように飛ぶ。

雷が次々とウィルに直撃し、それが視界を遮っている間に……空中に図形を描きながら。



「七星流・護りの型・其の陸・六芒星ろくぼうせい!!」



 三角形と逆三角形を組み合わせ、○で囲った図形を自身の前に描きったと同時にウィルとリュウセイは再び会いまみえる。



「グルゥオオオオオオオオ!!!!」



 ウィルが双剣を力いっぱい振り、リュウセイを切ろうとする。

だが、リュウセイはそれを読み、護りの型・其の陸・六芒星を配置していた。

六芒星が光輝き、ウィルの剣激を受ける。

もちろん、リュウセイの魔法ではウィルの攻撃を完全に防ぐことは出来ない。

現にリュウセイの六芒星はもう罅が入ってしまっている。

稼げた時間はほんの数瞬。

しかし、数瞬あればウィルの攻撃を見切るのには十分すぎた。

止められたウィルの剣線からその軌道を予測し、それを避けるようにしながらリュウセイはウィルの懐へ飛び込んだ。


 パキィィ………ン


 六芒星が割れ、リュウセイの頭の上を剣が通過していく。



「七星流・弐の型・双星・ともえ!!!」



 リュウセイは双星で産み出す魔力の刃をもう一本増やし、三つの刀でウィルをこれでもかというほど撫で切りにしていく。

甲高い音が連続的に耐えることなく鳴り響いた。



「グ……オオオオオオオオオオオ!!」



 ウィルは鬱陶しそうに叫ぶと攻撃され続けながらリュウセイに向かってその剣を振り下ろした。



「七星流・護りの型・其の弐・回星!!」



 そんなウィルの二連激をリュウセイは紙一重で避け、振り下ろす途中の手首を刀の柄頭で思いっきり殴り付ける。



「ガッ!?」



 打撃は少し痛みがあったのか、ウィルは驚きの声を上げる。

殴り付けられた手が外側へと流れていく。

リュウセイは……止まらない。



「七星流・陸の型・天満星あまみつほし!!!」



 連続して放たれる突き。

雷を纏うそれはあまりの速さに点の攻撃であるはずなのに面の攻撃に見えてしまう。

視界を埋め尽くす程の雷光。

途切れない突き。

態勢を崩したウィルに向かって千を越える突きがこれでもか、というくらいに決まった。

型の最後、リュウセイは肆の型・極星を使ってウィルを吹き飛ばす。


 双星・巴、回星、天満星、極星。


 四つの型を全て、余すところなく食らったウィルは果たして……。



「グォォォォォォォオオオオオオオ!!!」



 無傷。


 無傷だった。

あれほどの猛攻を受けたにも関わらず、ウィルには傷ひとつついていない。

痛みを与えた回星も、痛みだけ……傷は無い。



「あれだけやって傷ひとつねぇってのは……流石に堪えるな」



 自嘲するような笑みを浮かべた後、リュウセイは再び小竜景光を構える。

魔力を足場に空中で唸るウィル。

遠目からでも分かる。

その身体に内包された魔力の大きさが。



――魔力は俺より多いな……。

改造ってのはそんなに魔力が跳ね上がるもんなのか……。

だが、カイル程じゃねぇな。

あいつもあいつでふざけた魔力量だぜ全く……。



 頭の中で一瞬兄の姿を思い浮かべたリュウセイ。

しかし、それがいけなかった。

リュウセイの思考が一瞬戦闘から離れてしまったために、リュウセイはウィルの魔力が大きく膨れ上がったのに気が付くのが僅かながら遅れた。

ウィルの鞭の射程圏外であったための慢心も手伝ったのだろう。

距離が離れていたのだ。

だが、膨れ上がった魔力で発動された【身体強化】はそんな距離をものともしなかった。


 一歩。


 強く踏み切った、たったそれだけで、彼はリュウセイを切りつける最適の間合いにまで接近したのだ。



「なっ!!!?」



 リュウセイは驚いて身体に雷を流そうとするも一瞬程の僅かな時間、足りなかった。


 ゆっくりと流れる時間。


 ウィルがリュウセイを肩から斜めに大きく切りつけていく。

刃が肌に触れ、皮を破り、肉を引き裂いていく。

筋繊維の一本一本がぶちぶちと音を上げ、どろりとした血潮が噴水のようにリュウセイの身体から溢れ出る。


 ふらり


 リュウセイがよろめく。

翼が空を押そうと弱々しく羽ばたくが、意味はない。

何かを掴みとろうとするように手を伸ばしたリュウセイ。

その手の先に映るのは血に染まったウィルだった。


 そいつの満足気な顔を視界に収めながら……リュウセイはゆっくりと落ちていった。





――――――――――――――――――――







「プロミネンス!!!!」



 カイルの蹴りと共に同心円状に炎が放たれる。

熱を持つそれは真っ直ぐにダンゾウへと向かっていった。


 しかし、ダンゾウはそれを容易く回避する。

魔力を足場にし、上空へと飛び上がったダンゾウ。

手に握られた短刀が紫の色の炎で揺らめいていた。



「【毒焔】―激痛の刃」



 一気にカイルに接近し、その短刀を振りかぶる。

その短刀をカイルはあろうことか左手で掴み取った。



「コロナ!!!!」



 カイルの右手から楕円形をした高密度の魔法が具現化する。

たぎる炎は獣のように荒々しく、狂暴に渦巻く。

左手で掴んだ短刀を引き、ダンゾウを引き寄せながら、カイルは右手を振り抜いた。


 だが、ダンゾウはすぐさま短刀を手放し、カイルのコロナを避ける。



「無謀。魔具があるからといって【毒焔】を纏う刃物を掴むなど……理解に苦しむ。

少しでも粗があれば、毒に感染、その先に待つのは死」



 カイルの無茶をそんな風に批評したダンゾウは、コロナを避けるとすぐさま手に【毒焔】を纏わせ、素早い動きで顔面を狙った拳を繰り出す。



「っ!

俺はジャックの作った魔具を信じてるんだよっ!!!

それにっ、魔法も纏わせてんだ!!!

ちょっとやそっとじゃ、そんな毒は通さねぇよ!!」



 カイルはまたも拳で受ける。

受けたと同時に、ダンゾウは手を戻し、再び拳を打つ。

カイルが受けてはまた打つ。

それは殴ることよりも当てることを重視した拳法。

そう、当てさえすればいいのだ。

ダンゾウにとってはどんな小さな攻撃でも、必殺の一撃となる。

故にダンゾウの攻撃は軽いが、早い。

いや、そもそも攻撃も当てなくてもいいのだ。

カイルがもし、ダンゾウの拳を避けたとしたら、ダンゾウはそのままさらに強く、広範囲に広がる【毒焔】を発動し、カイルを毒へと誘うだろう。

カイルもそれを分かっているため、その拳を流さずに受け止める。



「【毒焔】【エッジスライサー】―激痛の鎌」



 ダンゾウは懐から農作業に使うような鎌を取り出し、【能力】を発動させてからカイルに切りかかる。

カイルはそれを手の甲で受け止めた。


 ギャリギャリと音を上げる二つの魔具。

ダンゾウは少し驚いた……ような顔をする。



「その魔具は【フリーバルーン】の【能力】だと推測……いや、確かにそれは【フリーバルーン】。

ならば何故【エッジスライサー】で切れない……?」



 その答えは二つの【能力】だ。

【硬化】と【フリーバルーン】を併せ持つフェルプスはダンゾウの【エッジスライサー】を防ぎきったのだ。

帝国が実用に至らなかった二つの【能力】を秘めた魔具は見せかけではない。



「知るかよ!!!!」



 そんな凄い魔具のことをカイルは忘れてしまったようで、さらにフェルプスに魔力を込めて無意識のうちに【硬化】を強くし、炎の出力を上げる。

競り合っていた鎌を弾くのではなく、それを握るダンゾウの手を殴って弾き、反対側の手も蹴って弾く。

ダンゾウは万歳をするような形となり、カイルは隙が生まれた丹田と鳩尾に狙いを定めた。



「フレイム……バースト!!!!!」



 右手を上に左手を下にして、一息に振るわれる拳。

しかし、それはダンゾウの身体には届かない。

寸前のところでダンゾウは体軸を逸らし、カイルの拳の軌道から逃れたのだ。

当たり所を見失った炎が円柱の形を成してどこまでも伸びていき、ダンゾウはそれに魔具を乗せた。



「【魔力喰いマジックイーター】―爆熱の鉤」



 それは先日、マリンとフィーナを撤退に追いやった魔具。

それは無駄に流れるカイルの魔法から魔力を吸収していく。



「っく! っのやろぉ!!!


 フレア!!!!」



 カイルは流れる魔法をすぐに止め、フレアを放つ。

一瞬にしてカイルから炎が巻き起こり、爆発する。

ダンゾウはそれを避けつつ、さらに魔力を吸収した。



「一体何個魔具持ってんだよ……」



 呆れたようにカイルは呟く。

球、クナイ、鋼糸、鎌、鎖鎌、短刀。

カイルが見ただけでこれ程の魔具を使ってきた。

現物は見ていない、というかカイルが燃やしたのだが、【空蝉】の魔具もあったことは確かだ。



「それが我の戦法。

【毒焔】【発育】―胞子揮発の手裏剣」



 ダンゾウは懐から手裏剣を取りだし、投げる。

だが、それはカイルに向かっていない。

まるで見当違いの方向へと飛んでいった。



「へっ、どこに投げてんだよ!」



 カイルが飛んでいく手裏剣を鼻で笑い、炎をたぎらせ、ダンゾウに向かって突撃しようとしたその時、ダンゾウは顔の前で右手の人差し指と中指を立てて、魔具の起動呪文を口にする。



「散」



 その言葉と共に手裏剣が炸裂する。

手裏剣は炸裂すると、纏っていた【毒焔】と粉のようなもの……キノコの胞子をカイルの周囲に撒き散らした。

【毒焔】はそうでもないがキノコの胞子の量は尋常ではない。

濃霧のように展開される胞子はそれに紛れる【毒焔】を覆い隠した。


 その胞子によって隠された毒に慌てたカイルは身体全体を炎の魔法で覆い、毒からその身を守ろうとる。

だが、カイルがその身を守ろうと炎を灯したその瞬間……


 カイルを火種にした強烈な爆発が起こった。



「可燃性を持つ毒と細かい粉末状のキノコの胞子。

その中で炎を出せば、巻き起こるのは粉塵爆発。

【毒焔】の効果で何倍にも強化された……な」



 爆風と熱波がダンゾウの顔を撫でる。

フィーナとマリンが受けた爆発など比べ物にならない。

直撃すれば、実験塔をへし折ってしまうかと思うほどの威力だ。

この爆発を食らってはもはや生存など不可能。

その……はずだった。



「…………………だらぁぁあっ!!!」



 爆風を吹き飛ばすように中心で爆発が起こる。

その中から現れたのはカイル。

服はボロボロで、所々に火傷が見られるが、命に関わるほどの傷ではなさそうだ。



「っはぁ……っはぁ……!!

くそっ、ビビらせやがって……!!」


「……アレを受けてその程度とは」



 ダンゾウは驚いたような顔をする。

それも当然、あの攻撃の爆心地にいてはダンゾウでさえただでは済まない。

無事だったのはカイルの馬鹿げた魔力量のお陰だ。

あの時、カイルはフレアを放ったのだ。

とっさの行動ゆえ、普段より多く魔力を込めて発動したフレアは粉塵爆発によるダメージをほぼ相殺したのだ。



「……ふざけた魔力量。

それだけなら既に第一〜三部隊長レベルと言ったところか」



 ダンゾウの最大火力とも言える攻撃を純粋な魔法のみで防ぎ、まだフェルプスに炎を灯し、戦う意志を見せるカイルにダンゾウは呟く。



「言っただろ?

魔力の多さと打たれ強さ、一撃の破壊力には自信があるってなぁ!!」



 フェルプスの炎を大きくして、カイルはダンゾウに突っ込む。



「だが、粗い。いくら魔力量が多くとも、それに伴う強さが不足。


 認可、我の得た新たな【能力】でお前を葬ってやる」



 ダンゾウはカイルと同じ様に拳から【毒焔】ではない普通の炎を具現化する。

どうやら手甲型の魔具を仕込んでいたらしい。



「新しい【能力】……?」


「それが分かる頃にはお前は我に敗北」



 ダンゾウは身体を傾け、極端な前傾姿勢になりながら空中を走る。

その体勢はかなり低い。

高さで言えばカイルの腰にも満たない程だ。

ダンゾウはそのままカイルに向かって走り、腹に向けて拳を打ち出す。


 低い位置からの攻撃はかなり避け辛い。

カイルもその例に漏れることなく、受けるのではなく、身体を大きく横にそらして避ける方法をとった。



「惰弱」


「っく!」



 ダンゾウは拳をすぐに収め、反対側の手でカイルを殴り付ける。

カイルの防御をくぐった攻撃だが、その威力は耐えられないものではない。

そう思って反撃しようとした時、カイルの目の前にダンゾウの顔があった。



「ぃいっ!?」



 その状態から放たれる拳をカイルは何とか防ぐ。

しかし、ダンゾウの立ち位置は変わらない。

顔と顔を付き合わせる程の近距離で、ダンゾウは黙々と拳を放ち続ける。



「近過ぎるだろ!!」



 防御の合間にカイルも反撃するが、難なくかわされてしまう。

そして途切れないダンゾウのラッシュ。

近距離過ぎる故にあまり威力の乗った拳ではないものの、じわじわと消耗させられている感覚をカイルは感じていた。



「っのやろう!フ レア!!!!!」



 業を煮やしたカイルがフレアを放つ。

手足のフェルプスに過大な魔力が込められ、具現化された炎が爆発を起こした。



――これで距離は稼げたはず。もう一回仕切り直しだ。



 そう思ったカイルだが、目の前にあるのは相変わらずターバンで顔を隠したダンゾウの姿だった。



「はぁっ!?」



 何事もなかったかのようにダンゾウは殴り続ける。

カイルはそれを受けないように防御するしか出来ない。



「何で普通に殴ってきてんだよ!」


「答える義理はない」


「くっ!」



 小出しの拳はあまり脅威とは言えないけれど、その手から放たれる炎がいつ【毒焔】に変化するか気を払ってなければならないため、カイルは神経をすり減らしつつ防御を続ける。



「っつーか、新しい【能力】とやらを使って俺を倒すんじゃなかったのかよ!!」


「その通り、我に二言は無い」


「ってことはお前もザフラみてぇに改造してんだな!!」


「だからどうした」


「そのワリにはモンスターらしい部分がねぇじゃねぇか!」


「見えずとも、改造することは可能」


「あーそうかよ!!」



――キリがねぇ!!

近過ぎて攻撃し辛いし、フレアは何か効かなかったし……あー、もうまどろっこしい!!

二、三十発くらい受けるのなんてどうだっていい!!!


 近くても特大のコロナをぶちこめばそれなりにダメージになるだろ!!



 カイルはダンゾウの拳を防ぐのを止めて、右手に魔力を集中させた。

もちろんダンゾウの集中砲火は受けるが、そんなことは構わないとばかりに魔力を込める。

そして、今まで見たなかで一番の大きさのコロナが具現化した。



「コロナァァ!!!!!!!!!」


「っぐ!!!!」



 そのコロナはダンゾウを捉えた。

当たる寸前まで近距離でカイルを殴り続けたため、殴る勢いこそ弱かったものの、その手に纏った炎の力は半端なものではなく、流線形の炎に引きずられるようにダンゾウは吹き飛ばされていく。



「みた……か……!!?」



 ダンゾウに向かって啖呵を切ろうとしたカイルの動きが止まる。


 カイルはぐらり、と空中でふらつき、徐々に地面へ落下していった。

ふらふらと傷付いた鳥のような落ち方で地面に落ちたカイルは、荒い呼吸を繰り返し、膝を付く。



――なん……だ……コレ……?

身体中が……熱いし……痛ぇ……!!!!



「【擬態】」



 カイルが苦しんでいる中、短い声が聞こえる。

バラックの影から姿を現したのはダンゾウだった。



「それが我の新しい【能力】」



 ダンゾウの服は焼け落ち、その胸板が露になっている。

そして、心臓の位置には何かのモンスターの皮が縫い付けられていた。



「【毒焔】と【擬態】を併用し、尚且つ魔法を具現化し、お前と拳を合わせるのには骨が折れた」



 ダンゾウの過剰とも言える接近戦はカイルに【毒焔】を吸わせるためだった。

いくらなんでも【毒焔】と【擬態】と魔法を併用して使うのはダンゾウであっても困難だ。

故に【毒焔】の範囲を縮小するしかなく、その範囲で戦うしかなかったのだ。



「フレアは……どうやって……」


「何発か食らうのは元より承知。

最低限の防御の魔法を具現化し、受けたのみ。

……最後の一撃は我も見くびっていた。

一撃の破壊力が自慢だというのも、虚言ではない」



 ダンゾウはカイルの側まで歩く。

先程殴りあっていたのと同じ距離まで近付いても、カイルは動けない。



「お前が吸い込んだのは神経毒。

身体の動きが停止。そして……」



 ダンゾウから紫色の炎が溢れ出る。

それはカイルの顔にまとわりつき、ゆっくりと吸収されていった。

毒が、さらにカイルを蝕んでいく。



「これで、終了。

苦しみ、もがき、己の無力さを嘆きながらここで死ぬがいい」



 ダンゾウはそう言ってカイルに背を向ける。

後に残ったのは複数の毒を受けて、顔色を悪くし、目の焦点が定まっていないカイルのみ。



「ま……て…………俺……と……た……た………か…………え……」



 ダンゾウはそれに取り合わずに去っていった。


 カイルはしばらくダンゾウを追おうと手を伸ばしていたが、やがて力尽き、地面へと倒れこむ。


 それでも何度かダンゾウを追いかけようともがくカイル。

だが、数センチ進んでは倒れ、数センチ進んでは倒れ、を繰り返して……やがて……ピクリとも動かなくなったのだった……。





 

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