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CAIL~英雄の歩んだ軌跡~  作者: こしあん
第二章~絶望の帝国実験場~
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第五十四話―流れ星に願いを

 







「やめてっ!!! やめてよぉっ!!!!!」



――あぁ、またあの夢だ……。



「何を言うておるのじゃ、小娘?

貴様は反乱軍、我等は帝国軍。両者の間にあるのは戦いのみぞ。

いや、ことここに至ってしまえば……虐殺という関係もなきにしもあらず、かの」



 私が初めて自分の無力さを、浅はかさを、短慮を自覚した時……



「やめてよっ…………!!

みんなにこれいじょうひどいことしないで………!!!」



 反乱軍……撤退戦。

ザフラおねえちゃんが倒され、戦線は崩壊。

何故か蘇る味方と戦わなければならなかった異常な状況。

既に反乱軍に勝機はなかった。


 あの日、私は自惚れていたんだ。

おじいちゃんの役に立てる。

私には【未来予知】がある。

だから、帝国軍が二分されたことを知っても、私は黙っていた。

残りの反乱軍でも、どうにかなると思ったから。


 結果がこれだ。


 どれだけ予知を重ねても、どれだけ敵の作戦を知ろうと、圧倒的な地力の差は埋められない。

この戦いに……勝ち目なんてなかったんだ。


 言うなれば……私はここで捕まる“運命”だった。


 物事には変えられるものと、変えられないものがある。

絶対的な決定事項の前には人間なんてものは抗うことが出来ない。

“運命”には……勝てない。


 昔も……今も……。


 皆がどれほど無惨に殺されても、何の力も持たない私にはどうすることも出来ない。


 この時、初めて………気付いた。


 私が何も知らない、何も出来ない、ただの子供だってことに。

闇に溺れて、おじいちゃんに凭れて、隠されていた私の弱さに……気付いた。



「ふん、ただ止めて下さいでは到底止める気にはならぬな。

止めて欲しくば、対価を差し出せ。


 妾が納得できるような……な」



 ジャンヌは笑う。

闇を優雅に纏い、貴族のような風格を見せる。


 ここで、私が最善策を選べたのは、自分の闇の稀有さを自覚していたからだろう。

むしろ……正しく出来ていたのはそれだけだ。



「スミレは……わたし……は、やみぞくせい……が、使える……ます……。


 帝国のために……使う……ので、どうか……みんなを……ころさないでください……!!!」



 ここから全てが始まった。

 

 絶望にまみれた二年間が。


 それでも私は心のどこかで思っていたんだ。

まだ、大丈夫。

おじいちゃんが……助けに来てくれるって。


 でもおじいちゃんが死んだと聞かされて、それも潰えた。


 希望がなくなった。


 残ったのは血にまみれた“未来”

絶望に満ちた現実。


 閉ざされた部屋でいつも泣いてた。


 ただ一つある天窓からは空も眺められない。

灰色。

それだけしか、無い。

それでも……私は灰色を眺めていた。

泣きながら……がむしゃらに。


 あぁ、そうだ。

あの頃の私は……空を見上げようとしていたんだった。

最近では無意識の内の行為だったけれど、初めは……それに意味があった。


 流れ星。


 決して見えないそれにすがろうとしていたんだ。

おじいちゃんの言う通りに。

全てを切り裂く力があると信じて。

すがって、すがって……それだけ。


 それだけ。


 なんて、バカバカしいんだろう……――

 












 スミレは、目を覚ます。

何度も見てきた小汚いバラックの天井が目に入る。

そして感じる倦怠感、吐き気、頭痛……。

熱もあるようだ。身体の節々も痛い。

【毒焔】が、スミレの身体を蝕んでいた。


 

「あ、起きました? 気分はどうですか?」



 ユナが声をかける。

しかし、スミレはそれを意に介さずに上半身を持ち上げた。


 ぱさり


 頭の上に乗せてあった水で湿ったタオルが落ちる。

それはユナたちが看病をしていた証だった。

スミレはぼんやりとそのタオルを見つめた後、部屋を見渡す。


 心配そうに自分を見るユナ。


 外を警戒しながら壁に凭れるリュウセイ。


 どうやら、今この場所にいるのは二人だけのようだ。



「……どうして」



 口から出るのは疑問の言葉。

ただ、先程のように取り乱すことはない。

毒のせいで取り乱すことが苦しいのか、一旦眠ったせいで落ち着いたのかは分からない。

分からないが、スミレは全てを諦めた光の無い瞳で、二人を見る。



「どうして……命を捨てるような真似を……するの」



 繰り返される言葉。

投げやりにその言葉は放たれる。

答えても、答えなくても関係ない、と。

そんな風に言っているように聞こえる。



「お前を助けるためだって……さっき言ったろ」


「違う……違う。そんなこと……出来ない」



 弱々しい言葉。それでいて……悲哀の込められた言葉。



「やってみなければ分からないとか、頑張れば何とかなるとか……そういう次元の話じゃない。


 皆……死ぬ。死ぬんだよ?


 ダンゾウに……帝国に挑んでも……無駄に命を捨てるだけ。

そういう……“運命”。


 本当によく考えたの? 私がここまでやった意味を」



 スミレは俯く。

その手の先は弱々しくベッドシーツを掴んでいた。



「何百……何千と“未来”を見てきた。

その全てを分岐させてきた。


 全員でダンゾウに挑んだ“未来”もあった。

考えられる可能性は全て試した。


 その全てが失敗した。


 無惨に無様に、殺されて終わり。

勝てないの。

そういう……“未来”なの……

そういう……“運命”なの……


 それでも、一つだけ方法があった。

あなた達の命が助かるただ一つの方法があったの。


 皆、生き残れて……全部丸く収まる方法が……あった……のに。


 それなのに……どうして……それを選んでくれないの……!」



 ぽたり


 大粒の涙が一滴、ベッドに落ちる。

スミレは、もうどうしようも出来ないという思いでいっぱいだった。

万策尽きた。

お仕舞いなのだ。

たった一つの生き残るルートが潰えた時点で待ち受けるのは大きく口を開けた絶望だけ。

それが……怖くて怖くて仕方がない。

あの悪夢のような“未来”が現実となるのが……怖くて仕方がないのだ。



「……俺達は、死ぬつもりなんてない。

お前も救って、俺達も生き残る。そのつもりでここに残った」


「……っ! それが……勘違いだって言ってるの!」



 大粒の涙を瞳の縁に溜め込んだスミレがリュウセイを睨む。



「あなたは私の言うことを何にも理解してない!

戦うこと自体がダメ……!!

そういう風に決まってるの!!


 何回も何回も何回も……!!


 私は皆が死ぬところを見てきた……!

どれだけ、考えても、どれだけ、試しても、どれだけ、戦っても、みんな、みんなみんなみんな、殺された!!


 それがどういう意味なのかちゃんと考えて!!


 私がどんな思いで“未来”を選んだのか……ちゃんと考えてっ!!!」



 弱々しい叫びだった。

毒により衰弱したスミレは叫ぶどころか声を出すことさえ辛い。

それでもスミレは叫ばずにいられない。

彼女にとって、この策は……自分を犠牲にして反乱軍を逃がす策は、それほどまでの想いが……彼女なりの覚悟が込められていた。

自分の全てを懸けて臨み、全てを棄てて望んだ策。

だから、彼女は叫ぶのだ。

それに意味などなくても、スミレは叫ぶ。



「お前さ……さっき死にたいっつったよな」



 会話も何もかもを無視して、リュウセイはスミレに投げ掛ける。


 死にたい。


 それは先程のスミレが倒れる間際に言った言葉だ。



「……だから何?」



 投げやりな言葉。イラついた口調でリュウセイを睨み続ける。



「実験塔でも言ったでしょ?

私はもう疲れたの……!! 重すぎるの………!!!!


 皆……皆、私のさじ加減一つで死んでいく……それがどれほど重くて、どれだけ苦痛か……


 決められた……変えられない運命に抗い続けることが……どれほど……心をすり減らしていくか……


 それが現実になってしまった時、どれほど恐ろしいか……


 私の〝選択〟で皆の命を奪うことが……どれだけ罪悪感に駆られるか……


 あなたには分からないでしょうね。


 〝仮面〟を纏わなければ平常心も保てない。

心を押し殺して、感情を閉じ込めて、機械のように命を選び続ける。

無駄だと分かっていても運命に抗い続ける毎日。

親しかった人が……死んでいく日々。

そんなのはもう……イヤ。


 私はこれで終わりにしたかった。これで自由になりたかったの。

皆の命を助けて……死んで……自由に……」





 嘘の中に本当のことを混ぜるとどれが本当なのか分からなくなる。




 誰が言い始めたのかは分からない。

だが、それをスミレは実行したのだ。

帝国軍と……反乱軍を騙すために。


 あの日……始めてリュウセイとスミレが出会ったあの日。

スミレの話したことにどれだけの真実があり、どれだけの嘘があったのだろうか。

少なくとも……自由のためにと言ったことは真実だった。


 しかし、その内容までは真実ではない。


 彼女はあの時……死んで自由になりたいと、そんな意味で、その言葉を言ったのだ。


 分厚い仮面の元で、その真実は歪められ、スミレの思惑通りにリュウセイ達は受け取ってくれた。


 その時点で仕込みはほぼ終わり。

ザフラを見捨て、虚実を織り混ぜてリュウセイ達を騙し、狂った振りをして、切りかかって、自分を敵だと……信じ込ませた。

後は拐われて……裏切る振りをして……死ぬだけだった。


 それはもう……叶わない願いになってしまったが。



「決めつけてんじゃねぇ」



 唸るような声を出す。

それは怒りだ。スミレに対する怒りだ。

諦観した考え方、自分を犠牲にする策、それらが……気に入らなかった。


 彼はスミレを大切に想っている。


 情の深さは自分が思っているよりも深い。

そんなスミレが自分を犠牲にして自分を助けようとしている。

それは彼にとって……今、この実験場で戦っている全員にとって……許せないことだった。

全員で生き残るから、意味があるのだ。

結果的に死ぬことはあるかもしれないけれど、犠牲が前提での戦いなど願い下げだ。


 リュウセイは壁から離れ、スミレの前に立つ。




「ハッ! 俺らが絶対に負けるなんて……勝手に決めつけてんじゃねぇよ。


 いいか、一度しか言わねぇからよく聞け。

スミレ、お前が一人でどうこうできる未来なんてのは知れてるんだよ。

お前はどこまでいったところでたかが十一歳のガキで、まだまだ弱い。

闇属性をもっていようが……お前はちっぽけなんだ。


 だからお前がどれだけ俺達が負けるとこを、死ぬところを視てきたところでそんなのは関係ねぇ。

お前一人で変えられるような簡単な“未来”じゃなかったってだけの話だ。


 だからそんなもんは俺達が負ける理由にゃならねぇ。


 俺達はお前の言う“未来”を知った。

つまり俺達だって“未来”を変えられるってことだ。


 一人じゃどうにも出来ないことでも、俺が……反乱軍がいる。

もうお前の役目は終わりだ。独りの戦いは終わりなんだよ。

お前は十分……頑張った。


 だから死ぬなんて言うな。

 

 後は俺達がなんとかしてやるから。

“運命”なんてちっぽけなもんは切り裂いて……

“未来”を切り開いてやるからよ。


 だからお前は……」








 流れ星にでも願ってな。








 ドォォォン!!!!!


 バラックの外で大きな音がした。

その中心には人間らしき人影。

くすんだ金髪に改造された身体。

腰には青と黄の二対の剣。

モンスターのように歯を剥き出しにして唸る姿は人間とはかけ離れていた。

ウィルが……やって来た。

スミレを、殺しに。


 リュウセイはスミレ達に何も語らず、バラックを出て、ウィルの前に立つ。

魔力がリュウセイの身体を包み、黄色の光を放つ。


 その後に現れるのは翼。

黄色い鱗に覆われ、蝙蝠のような骨格に薄絹のような翼膜。

先端には角のようなものもついている。

それはまさに……竜の翼。



「こいよツギハギ。

そのバカみてぇな身体……真っ二つにぶった切ってやるからよぉ!!!」


「グルゥゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」



 ウィルの双剣は水と雷を纏い、リュウセイの小竜景光は雷を纏う。

荒れ狂う水流のような水の魔法。

薄く刀の表面を覆う洗練された稲妻のような雷の魔法。

それらが爆風を、巻き起こしながら激突する。


 ウィルの本能による剣術と七星流の刀術による太刀の応酬が数秒の間に幾度となく繰り返される。



「うおおおおおおおおおお!!!!」


「グオオオオオオオオオオ!!!!」



 雄叫びを上げる二頭の獣は魔法の余波を撒き散らしながら、帝国実験場を縦横無尽に駆け回っていった。













「分からない……!!」



 スミレは涙を流し続けていた。


――何が……流れ星……!!

そんなのに願って救われるなら苦労なんてしない。

こんなに辛い気持ちになんてならない……!




「うぅ……」



 ダメだ………もう、お仕舞いなんだ……みんな、みんな………!!!



「スミレちゃん」



 手遅れ。

動き出した現実は止まらない。

あの時私が油断しなければ………。

安心して笑わなかったから……今頃私は………



「スミレちゃん」



 はは、本当に終わり。皆殺される。

私の……私のせいで………!!



「スミレちゃん」


「あ……」



 抱き締め……られた……。

そうだ……ユナさんも……いたんだった……。

優しく……陶器をかかえるように……抱き締められた。



「落ち着いてください……。

そんなに……辛い顔をしないでください」



 落ち着け? 辛い顔をするな……?



「無理よ……! 皆殺される……!!

“未来”は変えられない……!!

そんな中でどうやって落ち着けって……」


「変えられますよ」



 ユナさんはそう言った。

でも、そんなのは言葉だけ、気持ちの上だけ、そんなことで……現実は変えられない。



「今からスミレちゃんの目の前で変えて見せてあげます」


「ぇ……?」



 今から? 私の前で? “未来”を変える?

ユナさんは……何を言ってるの……?



「実験塔でわたしがあなたに感じた思い。

それがやっと分かったんです」



 あ……それは……。


 私が気になっていたこと、もしかしたら現実なら何かが違うかもしれないと思っていたこと。

知ることはないと……思っていたこと……。



「あの時は……まだ分かりませんでした。

あなたが敵か味方か分からなかったからです。

あなたの気持ちも、覚悟も知らなかったから……何となくしか、分かりませんでした。


 でも今は……!


 スミレちゃん。よく聞いてください。


 わたしとあなたは……とてもよく似ています。


 守るべき人、助けないといけない人達への想いが強すぎて、自分を苦しめてしまうところも、闇属性に振り回されているところも、たった独りで戦うところも……


 本当にそっくりです。


 わたしはスミレちゃんの気持ちが痛いぐらい分かります。

あまりにも重いものを背負わないといけなくて、投げ出したくても投げ出せなくて、心を磨り減らしてやらなきゃいけないことをする……。


 わたしも…………何回も死にたいと思いました……。

ここで死ねたらどれだけ楽だろうって……思いました。


 それでも捨てられないものがあるから、成し遂げないといけないことがあるから……板挟みでさらに心は削られていくんですよね。


 分かります……!!

痛いほど………分かるんです………っ!!


 誰にも……頼れない戦いは……っ…辛いですよね……!!!」



 どうして……どうしてユナさんが泣いてるの……

どうしてそんなに……悲しそうな声を……


 ユナさんの言葉は不思議と私の中に入ってくる。

まるで、私のことを全て見透かしているみたいに話される言葉に、私は自然と聞き入っていた。



「スミレちゃん……あなたはもう、独りでいなくてもいいんです」



 どくんっ。


 心臓の跳ねる音が聞こえた。

それは……その言葉は……私が心の底から願って、自分から捨てた願い。

あるはずのない未来の話。



「もう頑張らなくてもいいんです……。

もう……独りにこだわる必要はないんです。

もう……自分の想いを裏切らなくてもいいんです。


 一緒に戦いましょう。

幸せで、笑っていられる……そんな〝未来〟を掴むために。


 今度は皆で。


 あなたには……素敵な仲間がたくさんいるんですから」



 甘い、甘い言葉……。

私の心の奥の奥を直接鷲掴んでくるような……私の想いをそのまま言葉にしたような言葉。

でも、でもっ……!!



「それでも、皆……殺されちゃう。私が大好きな皆が………!!!」


「かもしれませんね」



 そうだ、皆死んじゃうんだ。

どれだけ私が頑張っても……それは変えられない。

ユナさんの言葉は私の心を捉えたけど、でもそれだけ。

現実の壁には……届かないんだ……!!



「でも、そうじゃないかもしれませんよ?」


「そんなこと……!!」



 分からない、という言葉が出ない。

毒に冒されているのに……叫び過ぎてしまった……。

頭が……クラクラする……。



「そうです。分からないんです。

まだ誰にも確かな未来は分かりません。


 例えスミレちゃんがどれだけ“未来”を見てきたとしても……こんな未来を、見たことはありますか?


 わたしが自分の思いを伝えて、ディアスさんたちが戦って、リュウセイさんがあんなことを言う“未来”を見たことはありますか?」



 それは……



「ないですよね。だったらまだ分からないじゃないですか。


 それに……わたしは信じてます」



 信じるって……一体何を?



「カイルさんが、リュウセイさんが、ジャックさんや、フィーナさんや、マリンさんや、ディアスさんや、クレアさんや、ザフラさんや、エルちゃんが……生きることを。


 勝ってくれるって……信じてます」



 そんなのは……夢物語……。

ただの希望的観測……。


 でも……でも……


 信じても、いいのかな……?

ううん……違う……私は信じたいんだ。


 ずっとずっと……願ってた……。

皆と一緒にいたい……これからも皆と一緒に生きたいって……。


 でも、その可能性は微塵も見えなくて……

だから私は自分を捨てて……皆を助けようとした……。

願いも感情も全部かなぐり捨てて、私は皆を生かす“未来”を選んだ。


 今のこの現実が……私の選んだ“未来”じゃないなら……変えられる……未来なら……。

手遅れかもしれない。

どうにもならないかもしれない。


 でも……独りでいる必要がないなら……



「いいの……?

私は……皆と一緒にいることを……願ってもいいの……?」


「もちろんです。皆さんもそれを願ってますから」


「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………生き………………………………たい」


「はい」


「………皆と一緒にいたいっ……!!!

死にたくない!!!!


 私も一緒に、これからの〝未来〟を皆と一緒に生きていたい!!!!!!!!!」



 気がつけば、ユナさんみたいな大粒の涙が、私の頬を流れていた。

さめざめと泣く私を、ユナさんは泣きながら抱き締めてくれた。


 皆死んじゃうかもしれない。


 でも、私はもう独りじゃなくていい。

独りで……戦わなくていい。


 でも皆でぶつかれば、ひょっとしたら変わるかもしれない。

希望的観測、夢物語。

そんなことは分かってる。


 でも、どうにもならないなら……そんなものでも構わない。


 リュウセイの言ったように、私の戦いは終わったんだ……。


 今の私は戦えない。


 祈ることしか、願うことしか出来ない。

それでも、この瞬間、私は幸せだった。


 何もかも報われなくて、絶望しかなかったけれど、久し振りに……自分の感情をさらけ出せた……。


 それが、今は………心地いい………――



 心を閉ざした少女は流れ出る涙と共にその心を開く。

長い長い絶望、まだ開放されたわけではないけれど、少女は憑き物が落ちたような顔で泣いていた。








 戦いは……二人が涙を流している間に明確な形を作り始める。


 ディアス・ザフラ・反乱軍vs実験場帝国兵総員


 マリン・フィーナ・ジャック・クレアvsエレナ・実験体百十八体


 リュウセイvsウィル


 カイルvsダンゾウ



 この四つの戦線に決着が着くとき、戦いは終わる。

どちらの未来に転ぶかは……今のところ、誰の知るところでもない………。

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