第五十三話―解毒剤を求めて
「ねぇ、ジャック……さっきの放送……」
マリンは併走するジャックに語りかける。ジャックとフィーナとマリンの三人は、スミレの【毒焔】に対する解毒剤、ないしはそれに類するものを奪取するため、実験塔にやってきている。
ダンゾウの部屋、エレナの部屋跡、スミレの部屋……一通りの場所は回ったが、それらしいものは見当たらなかった。
現在はジャックの記憶を頼りにその他重要であった部屋を漁りつつ、下層へ向かっている最中だ。
「あぁ………きっとあいつらや……!!」
次の部屋のドアを開けつつ、嬉しそうにジャックは笑う。入った部屋は誰かの執務室のようだ。
「でも、何で急に戦う気になったんやろか……?」
机の引き出しを開け、ばさばさと中身を全て投げ散らかす。書類は見たところ実験に関するもので、毒に関するものではないようだ。
「それはあれでしょ、盗聴機」
「盗聴機?」
「クレアがエルに付けてたわよ」
「はい!?」
驚きのあまり、ジャックは手に持っていた引き出しを自分の小指の上に落とした。
結構な重量の物が入っていたようで……ドン、という重い音がジャックの小指から聞こえた。
引き出しの全重量を受け止めたジャックは悶絶し、ぴょんぴょんと部屋の中を飛び回る。
「~~~!!!」
「んー、チャンスはいくらでもあったんじゃない?
あの人かなりの頻度で抱き付いてたし」
身ぶり手振りでジャックの言いたいことをマリンは察する、というよりは完全に話の流れからの推測だろう。
身ぶり手振りも何もジャックは飛び回っているだけなのだから。
「カイルってやっぱり、ダンゾウと戦いに行ったと思う? マリン?」
「行ったでしょ、十中八九、間違いなくね」
「~~~~~!!!!」
「そりゃ、あの子が話を聞くわけないもの」
「トップを倒せば終わり、とでも考えてるのよ」
「「話を聞かなかった罰は全部終わった後でゆっくりね……」」
ふふふふふふ、と黒い笑みを浮かべる二人。
そんな二人にジャックは酷い寒気を覚える。
カイルの臨終を、心から願うジャックであった。
「あー、ダメだわ。ここも無さそう」
フィーナは最後の引き出しをぶちまけ、ぽいっと空になったそれを捨て、ため息を吐く。
「そ、じゃあ次よ」
「「ジャック、先導よろしく」」
「………ふぁい」
二人に首根っこを捕まれたジャックは若干涙目だ。
「言うても、残ってるんは地下くらいやと思うで?」
「地下?」
「あぁ、こっから下は基本、一般兵の居住区みたいなもんでな。解毒剤とかは無いと思う」
「じゃあ、地下には何が?」
「モンスターの飼育場」
「それ、毒関係あるの?」
「気性の荒いやつには毒打ってたから……あるかなー、って」
「そこにも無かったら?」
「ワイが居らんかった間に部屋の配置替えでもしたんやろ。上の階からもっかい探しなおしや。もしくは他の管理塔とかやろか?」
「「地下にあることを願っておくわ」」
二人は心底嫌そうだ。
そして、そうこうしている内に、三人は地下の飼育場への扉へ到達する。
「これ、封化石の扉じゃない」
「あぁ、それは中のモンスターが万が一暴れた時に防御壁の代わりにするために封化石にしてん。
モンスターは檻の中で閉じ込めてるけど、実験するときは出すから、その為にな……」
「「ふぅん」」
ぎぃ、と二人は躊躇いもなく扉を開いた。
「いきなり!? 中にモンスター居るって言うたやん!!」
「檻に居るなら問題ないでしょ」
「そうやけども……」
ばたん、扉を閉める。
「ん?なんかおかしいな………」
周りを見渡すと檻ばかりの景色が広がっていた。
五〜十メートル四方の様々な大きさの檻が三段に、一直線に並べられ、見渡す限りに広がっている。
しかし、その檻の中身はどれもこれもが空であった。
「いないわね」
「こんなに檻があるのに……どういうことかしら?」
二人は檻のなかを観察していく。
モンスターを捕まえていただろう枷や、抜け落ちた羽根、剥がれた鱗などは落ちているものの、肝心のモンスターの姿はどこにも無かった。
「もしかしてエレナが実験で……」
神妙な顔でジャックが思案する。
確かにそれはありそうだが、それにしてもモンスターが全くいないというのは問題である。
自分がいた頃にはここの檻が全てモンスターで埋まっていたのだから……。
フィーナとマリンの二人もどうしたものかと考え始めた時……
「ギャォォオオォォオオオオオォォォオォオォオォオオオオオォォォオォォオォオオオオオオオォォオ!!!!!!!!!!!!!!!!」
劈くような叫声。同時に三人は戦闘体勢に入る。
放し飼いにされていたモンスターか、それとも自分達を待ち構えていたの敵か。
しかし、いくら待っても何も来ない。それなのに、叫び声はまだ続いている。
「ギャァオオォォオ…………ォオオオオ!!!!!!!
ギャ…ォオオオオォォオォオォオ…………」
よくよく聞いてみればそれは何かに対する敵対心からの叫びではなかった。
むしろ全くの逆。
全てに怒り。全てに哀しみ。上げる………断末魔のような……。
「趣味の悪そうな実験ね」
「この声……檻の向こう側から聞こえない?」
マリンは入ってきた扉と対面の位置にある檻の向こう側に聞き耳を立てながら言う。
「あぁ、ワイも向こう側から聞こえてくると思う。
飼育場はこの細長い通路が何列もあるような場所やねん。
こっちから奥に行ける。何かあるとしたら多分……」
ジャックは先導し、檻と檻の隙間にある扉へ二人を導く。
当然のように封化石。
今度は慎重に開ける。少し開いた瞬間、叫び声がいっそう大きく聞こえてきた。
断末魔のような切ない叫びが耳に響く。
三人は、意を決して踏みいった。
そこにあったのはまるでモンスターの屠殺場。
血が床にこびりつき、肉片、鱗、羽根が散乱している。
そして、よく見ると檻に入っているものがいる。
それは、モンスターではなく、人だった。
ウィルのように……改造され、鎖で縛られている。
その惨劇の根元は、通路の真ん中に堂々と居座っていた。
手術台のような台を二つ用意し、一つには人間の男が、もう一つにはトカゲ型のモンスターが乗せられていた。
両者とも拘束具を嵌められ、身動き一つ取れないようだ。
もっとも、モンスターの方は既に息絶えているようだが。
だが、叫び声は続いている。
人間の……叫び声が。
身体を切り刻まれ、改造を施され、自らを支配しようと暴れ狂う魔力によって痛めつけられる……人間の叫びが。
「……よう、お前ら、昨日はようダンゾウから逃げ切れたもんやなぁ。
ほんま、逃げ足だけは一級品やなぁ、えぇ?
ジャックゥ………!!」
エレナだ。
半月型に歪んだ口。狂気を宿した瞳。
顔に、手に、何のものとも知れない血がへばりついている。
「お前っ………!! 何やっとんねん!!」
「見てわからんのか?
魔具作りに決まっとるやろ」
自分の言葉の異常さに、何の疑問も抱いていない。
ただ、本当に魔具を作っているだけ、そんな意識程度しか今のエレナは持っていなかった。
「っ、エレナ……!!!」
「さて、ちょうど魔具も出来たことやし、試作といこうか……!!」
エレナは暴れる人間の鎖を解いた。
気付けば、叫び声は断末魔のようなものから、段々と獣の暴れるような声へと変化していた。
暴れ叫んでいた人間は自らを縛るものがなくなった瞬間に跳ね起きる。
それは、ぐるるる、とモンスターのような唸り声を上げていた。
「こいつは内臓を改造してある。二つの【能力】を持っとるわ。
さぁ、ウチの魔具の力、とくと味わえ!!!」
「グゥオオオオオオオオオオォォオォオ!!」
涎を垂れ流し、目は限界まで見開かれた人間が獣のような雄叫びを上げつつ、本能のままに、この中で一番大きな魔力を持つフィーナとマリンにがむしゃらに向かっていく。
その様子に、もはや人間らしさなど皆無であった。
「「チェンジ」」
ぱぁん、と一回ハイタッチ。
フィーナの髪が黄色に
マリンの髪が赤色に、それぞれ変化する。
敵が迫っているというのに二人は全く焦った様子を見せない。
「「合成魔法・擂焔鎗」」
そしてポーチから魔具を取り出した二人は同時に指揮棒を振り上げた。
二人の赤と黄色の魔力は混ざりあい、二人の頭上に1つの魔法を形作る。
それは……巨大な槍。
轟轟とうねる炎と鳴鳴と響く雷が混ざり合う。
圧倒的な熱量と、圧倒的な破壊力を秘めた槍。
雷炎鎚と比べるといささか炎の割合が高いようだ。
炎が槍の形の鋳型に流し込まれ、雷がその炎の中を駆け巡っている。
「「今、楽にしてあげる」」
襲いくる人間に向かって二人は言った。
優しいような、悲しいような、そんな表情が混じりあっていた。
そして、二人は振り上げた指揮棒を振り下ろした。
槍が、指揮棒の動きに合わせて射出される。
一瞬の出来事だった。
矢のごとく放たれた魔法の槍は向かってきていた人間が気付くことなく、その身を貫いた。
槍と人間がぶつかると同時に爆発とスパークが起こる。
爆音が、飼育場に轟いた。
巻き起こる風は熱を孕み、頬を撫でる風を熱波へと変える。
スパークによるフラッシュで視界が白で埋め尽くされる。
白い視界が開けると、そこには……もう何も残っていなかった。
「チッ、失敗か」
エレナの感想はそれだけだった。
人が一人跡形もなく焼失したというのに、だ。
なんの感慨も抱いていない。
なんの感傷にも浸らない。
失敗した、とそれだけだった。
「あんたみたいな奴……」
「あたし達は一番嫌いだわ」
憎々しげな様子の二人にエレナは鼻で笑って応えた。
「ふんっ、だからなんやねん。
ウチは別に好かれようと好かれまいと関係あらへん。
どーでもえーねん、そんなこと」
「エレナっ!!」
ジャックがエレナを諌めるように叫んだ。
それに対しても、エレナは冷ややかだ。
「お前の戯れ言なんざ聞かへんぞジャック。
お前みたいな裏切りモンに貸す耳なんざウチは持ってないねん」
「なんでやねん………!!! 頼むエレナ!!
ちょっとでもええからワイの言うこと聞いてくれ!!
間違ってんねん………!!!
お前がやってること……小人族が今までやってきたことは間違ってんねん!!
外の世界を経験したら……友達とか、仲間とか………好きな人とか……っ!!!
そういう人達がおったら……!!
全部分かるようになんねん!!!!
気付けるねん!!!
もうこれ以上間違わんとってくれ!!
これ以上……踏み外さんとってくれ……」
嘆願するような、ジャックの声。
再三に渡る説得が何かエレナの心に残ってくれれば……そうジャックは考える。
「失せろ」
が、エレナはやはり耳を貸さなかった。
「ジャック……もう……」
諦めなさいと、そう続けようとしていたのは明白であった。
しかし、ジャックはフィーナにそれ以上言わせなかった。
「大丈夫や、ワイは諦めへん。
アイリーンが……ワイを救ってくれたようにワイはエレナを救わなあかんねん。
何度拒絶されてもワイは絶対に折れへん。
あいつが更正するまで何回でも挑戦したる……!」
――何回でも何回でも挑戦し続けたる。
失敗しても失敗しても挑戦し続けたる。
……まるでスミレちゃんみたいやな。
スミレちゃんが今までやってきたこと、それは死ぬよりも辛かったハズや。
それに比べれば、妹に拒絶されるくらいはどうってことあらへん。
ワイは絶対にエレナを更正させたる……!!!
「ほざいとけ。ウチはお前なんかの……」
ドォォォン!!!!!
エレナの言葉は突然の轟音によって遮られた。
全員、驚きで目が大きく見開かれている。
ジャックは口も開いている。
ドリルだ。
まごうことなきドリルがエレナとジャック達の間に生えてきた。
機械的な音を鳴らすそれはどうやら地面を掘り進んで来たようだ。
そして、ドリルはゆっくりと地面に沈んでいく。
後に残ったのはドリルがぶち開けた穴。
そして、その穴から赤と青の光眼が垣間見えた。
「んジャァァックくぅぅうううんっ!!!」
「ほふわっ!!???」
その眼は獲物を捕捉すると一気に飛びかかった。
言わずもがな、クレアのことである。
「あぁ、もう限界だったのよぉっ!!
エルちゃんもジャック君たちに付いていっちゃうしぃっ!!
私のオトコノコ成分はカッツカツなのよぉっ!!!
だからもっと舐めさせて食べさせてかじらせてペロペロさせてぇええええ!!!!!」
「ギャーーーーーっ!!!!!」
「あぁ、悲鳴………いいわぁ、そそるわぁ。
もっとその顔を見せて私を興奮させてぇぇ!!!」
「イヤーーーーーーっ!!!」
「あぁ、可愛いわ可愛いわ可愛いわぁぁ!!
ショタッ子いいわぁ………。
オトコノコっていいわぁ………。
恥じらってる顔もいいわぁ………。
もう我慢できないっ、全部ジャック君のせいなんだからねっ!!!!
舐めてかじってペロペロして甘噛みしてクンカクンカしてスーハースーハーあぁ、ジャック君のにほひぃぃぃ!!!
あんなとこもこんなとこも全部全部よぉぉ!!!!!」
「ちょっ、まっ、クレアそこはアカン!!
アカンてアカっ、あっ!!
アーーーーーーーーッ!!!!!!!」
「貴方がジャック君の妹さんね」
クレアが至極真面目な顔つきでエレナを見つめる。
先程のことなどはまるで無かったかのようだ。
ジャックはフィーナとマリンの後ろでピクピクと痙攣している。
少々服がはだけているのはご愛嬌だろう。
この場の全員……エレナもだが……突然すぎる行動に呆気に取られている。
ドン引きだ。
「…………………………ああ……せや。
んーで、お前は確か………そーや、淫魔や。
隊長やったんとちゃうんか?
戦いもしやんと部下を見捨てて、こんなとこで何やってんねん」
「隊長やってるのと、強いっていうことは関係のないことよ。
私やジャック君はそこまで強くない。
それに私は彼らを見捨てた訳じゃない。
私達は解毒剤を探しに来たの。
どこにあるか、教えてくれるかしら?」
「くっくくく………」
エレナが喉の奥から声を出す。
その姿は笑いを堪えている……いや、もう、彼女は笑っていた。
「あはははははは! あー、おもろいわぁ!!!
そんなもん教えるわけないやろ。
敵にそんな馬鹿正直に聞いてどないすんねんこの変態淫摩。
つーか……
そんなもん、この実験場に無いけどな」
「「は?」」
フィーナとマリンが眉を上げながら聞き返す。
それは驚いているというよりは、怒っているようだった。
「そこの転がってるやつは知らんかったんやろうけど……この実験場には解毒剤の類は一切無い。
やから実験塔をどんだけ探しても無駄や。
ちなみにそいつがおった五年前からそうや。
そいつはアイリーンとか言う尻軽にかまけて聞いとらんかったかもしれへんけどな。
よー考えてみろや。
解毒する理由があらへん。
毒は強力であればあるほど良い。
その毒の効果を実験しとんのに、なんでわざわざその毒を消さなアカンねん。
アホらしいと思わんか?
モルモットの命なんて誰が気にかけんねん。
死なせとけばええねん。
あぁ、やけど今回は例外的にスミレ用の解毒剤は作ったみたいやけどな。
けど、スミレの裏切りが発覚した時点でそれも破棄、毒の詳細が書かれた書類もろともな…………ははははは!!!
解毒剤を求めてのお前らの突入。その全部が無駄や!!!」
エレナは可笑しそうに笑う。
その笑顔だけを切り取って見れば、ただの快活な小人族だ。
だが、その笑顔の理由、吐かれる言葉がエレナの狂気を浮き彫りにしていた。
「帝国兵の分はどうなのよ」
「はははははは………あぁ?」
「帝国兵の分の解毒剤はどうなのって聞いてるのよ」
「武器に毒を付けてるんだから誤って……ってこともあるでしょう?」
「お前何も聞いてなかったんか?
無いって言うてるやろ!
あんな使い捨て共の命なんてどうでもええわ!!」
その言葉と共に、フィーナとマリンの周りの温度が下がった。
氷点下の怒り。
氷のように冷たく、鋭い怒りを彼女達は放っていた。
「「あたし達……自分のことしか考えてない豚とか、平気で人を傷付けるような屑とか、弱い人間から全部奪い取っていくようなゴミがだいっ嫌いだけど……
あなたはその中でも最上級に嫌いよ。
……人の命を何だと思ってるのよ」」
「奇遇やなぁ、ウチもお前らなんかだいっ嫌いや。
綺麗事ばっか並べて自己満足か。反吐がでるわ。
なぁ……義賊気取りの睡蓮」
「「自己満足で結構。
あたし達は賞賛されたいとか、そーゆーものの為に睡蓮をやっていた訳じゃない。
気に入らない人間を潰して……被害者に還元しただけよ。
まぁ、あんたは還元できそうに無いけどね」」
「は、ウチを殺す気か? 殺れると思ってんのかアバズレども」
「逆に聞きたいわね」
「あんたあたし達から逃げられるとでも思ってるの?」
「あぁ、思っとるでぇ、何てったってウチにはこいつらがおるからな」
エレナが大きく手を広げる。
その手の先にあるのは無数の檻。
改造された……人間達。
「一~五番、来い」
鉄で出来た檻が吹き飛ばされた。
それも一つではなく、五つだ。
開け放たれた扉から現れる五の人影がエレナの近くに寄ってくる。
彼らは全員、目が白濁し、顎に力が入らないかのように大きく口を開き、無造作に舌を投げ出していた。
「あ、あれは………【洗脳】!? いや……【催眠】か!!!」
復活したジャックが驚きの声を上げる。
【洗脳】、それは長い時間をかけて、その者の精神を操り、対象を意思もない感情もない操り人形にする【能力】。
対する【催眠】は時間をかけずに対象に言うことを聞かせることができる【能力】だ。
【洗脳】ほど、複雑な命令を与えたり、永続性はないが、すぐに操れるという点では【洗脳】よりも使い勝手が良い。
「ははははははは!!! 正解や、ジャック。
こいつらはウチの命令を聞くようにダンゾウに【催眠】されとる。
もっちろん、こいつらだけやない。
ここの檻の中にいる奴等は全員【催眠】にかかってる……全員出てこい!!!!」
鉄檻を破壊する音があちらこちらから聞こえる。
鉄が震え、反響、共振し、後を引く音がうるさいくらいに鳴る。
そして、出てくるのは改造された人間達。
どいつもこいつも白濁した目にだらしなく口を開けた様相をしている。
「こいつらは言わば、失敗作。
モンスターとの融合に耐えきれへんかった奴等や。
初期の一種の【能力】を持つ奴等……
後期の二種の【能力】を持つ奴等……
暴走したそいつらがここに閉じ込められとる。
数は百十八。
こいつら全員相手に、お前ら生きてられると思うなや」
「こんなにエレナは改造してんのか………!!
つーか、これ……多すぎる……!!!」
エレナが初期型を作れるようになったのはスミレの助言が有ってから、だ。
そこから作り上げたにしてはあまりにも数が多い。
多すぎる。
魔具作りに特化した種族……だけでは言い表せない技量、才能がそこにはあった。
「いや、でも……ウィルがおらん……?」
周りをいくら見渡しても、同じ様に暴走したハズのウィルの姿が見当たらない。
「あいつは、特別や。保有する魔力が高すぎるから、ダンゾウでも長いこと【催眠】をかけてられへん。
あいつは前衛に駆り出されて、スミレが裏切った時、スミレを殺しに行く要員や。
そうやな……例えば、反乱軍を潰しに向かった一隊と連絡が付けへんくなった、とかそういう事態になったらあいつはすぐにウィルを放つやろうなぁ。
あいつはスミレが裏切るか裏切らんか……七:三くらいで見とったからな」
そう……例えば、カイルが目に入った一隊を全滅させたり、などしたら……すぐさまかの猛獣は解き放たれることになるだろう。
「まぁ、こうして反乱軍が敵対してるわけやし?
今は確実に放たれとるやろうなぁ」
「ちょい待てやエレナ!!
反乱軍が敵対したから言うてスミレちゃんが裏切ったとは限らへんやんか!!!」
「限るねんドアホ。ええか、これは奇襲やねん。
気付かれへんうちに近付いて皆殺す。
やのに、何でお前らは反撃してんねん。
あいつが拐われたその後、何か吹き込んだ確率が高いやろ。
いや、あいつやったら、自分を犠牲にしてお前らを逃がすように言うたかもな。
まぁ、そうなった時も殺せるようにしてあるけどなぁ!!」
「そんな………」
「スミレは死ぬ。
帝国を敵に回した恐怖をもう一回味わいながら……自分の無力さを嘆きながらなぁ!!」
「くそっ!!
どうしたらええねん!!!
スミレちゃんが………スミレちゃんが……!!」
「「落ち着きなさいジャック」」
「これが落ち着いて」
「「落ち着けちっちゃいの」」
「ちっ……!?」
二人の声が少し荒くなる。
エレナの言動に対する怒りがそろそろ限界まで来ているようだ。
「ウィルが向かってる?」
「それが一体何だっていうのよ」
「やってそんなんに狙われたらスミレちゃんが……!!」
「「こんな時の為に、残ってるやつがいるでしょうが」」
「あっ……! でもっ、あいつは前回………!!」
「ウィルに負けたって?」
「そりゃあ、あんた、スミレちゃんに攻撃されて、あいつが動揺してたからよ」
「「もう、あいつに迷いはない。
あのスミレちゃんフェチは全力で戦うことができる。
そうなった時のリュウセイを……止められるもんなら止めてみなさいよ。
死に物狂いで戦うあの子は……ちょっとやそっとじゃやられないわよ」」
二人は笑う。
それは存外、リュウセイの言った普通とは違う行動が的ハズレなもので無かったことに対する笑いともう一つ。
そんなリュウセイを相手にしなきゃならないウィルの不運を笑ったのだ。
「「スミレはリュウセイに任せて、帝国軍は反乱軍に任せて、ダンゾウは……カイルに任せて……あたしたちはあたしたちに出来ることをするのよ。
生き残るのは……勝つのはあたし達の方よ!!!」」