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CAIL~英雄の歩んだ軌跡~  作者: こしあん
第二章~絶望の帝国実験場~
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第五十二話―暴れ狂うは誰が為に

 






 空中を一筋の朱が--カイルが翔る。進行方向には視界に入った中で一番規模の大きい部隊。一番偉い奴がいそうなところ。



「っし、やってやるぜっ!!」



 ある程度の距離を縮めると、隊のど真ん中に向かって急降下。ひゅぅぅ、という風切り音がなり、さらに速度が上がる。

だが、帝国軍が一人一人識別できる地点まで接近したところで、カイルは異変に気付いた。


――なんだ?

なんか帝国兵が全員俺の方を向いてないか?

もしかして、突っ込んでいってるのバレてる?――



 残念なことにカイルはここで思考を止めてしまう。

まぁ、いいか、というお決まりの台詞を心の中で唱えたきり、思考を放棄してしまったのだ。

実にカイルらしい思考の放棄。カイルのこの短慮性は一対一の戦闘では有利に働くことがあるのかもしれない。

しかし、集団戦において思考の放棄は愚か以外の何者でもない。


 ゆえにカイルは、報いを受けることになる。



「【透徹】―落撃の砲」


「なっ、がぁっ!!!!」



 背後に急に現れた忍装束のその男はその手に持つ魔具をカイルの背中に向かって投げつける。


 それはまるで現代における砲丸の玉。

赤く輝く砲丸は吸い込まれるように翼の付け根に当たり、カイルはなすすべもなく、地面に叩き付けられる。

くしくもそこは、カイルが狙っていた帝国軍の中心だった。



「殺せ」



 今だに空中に立つ忍装束の男が冷たい、感情のこもってない声でそう命令した。心の隙間に滑り込んでくるような--恐怖を孕んだ命令が練度の低い帝国兵を無理矢理に統率する。


 落下した獲物を待ち構えていた帝国兵はカイルに群がっていく。

当然のように全員が、剣や槍のような刃物の付いた武器を持ち、毒々しい液体を滴らせていた。


――くそっ………!!

油断……した……っ!!

身体が変だ、身体ん中が何か変だ……!!

いや……そんなことよりまず、この、寄ってくる帝国兵を何とかしねぇと……!!

流石に毒を食らったらマズい!!



「フレッ………!!」



 なっ……!?

魔力が上手く使え……!?――



「オオオオオオオオオオオオオオ!!!!」



 帝国兵は雄叫びをあげながらカイルに向かって襲い掛かる。飛行能力が麻痺し、【透徹】を受けたカイルは絶好の的。反撃を恐れる道理はなかった。


 全員による一斉攻撃、粗雑な連携だが、逃げれるような目立った隙は見当たらない。

そして、一度でも攻撃を受ければ……毒の餌食だ。


――このやろう!!

俺の魔力だろう………がっ!!

ちゃんと……動けぇぇっ!!!!!!――



「フレッ………アァァ!!!!!!!」



 ドォン、と腹に響く鈍い音と共にカイルを中心にした爆発が起こる。両手両足のフェルプスに膨大な魔力を流し込んだことによる過剰な魔力の具現化によって起こされた爆発だ。


 当然、カイルを攻撃するために近くに寄っていた帝国兵はその爆発を浴びることになる。

面白いように帝国兵は吹き飛んでいき、カイルの回りには無人地帯が出来る。

だが、カイルはその状況の中でうずくまることしか出来ないでいた。



――ぐぁぁぁぁ…………ぁっ……!!!

か、身体が……痛ぇ………!!

なんだこれ………身体の中がぐちゃぐちゃにかき混ぜられたみてぇ……だ――



「殺せ」



 響く命令。たたらを踏んでいた帝国兵は再び動き出す。

今度こそ絶体絶命。

もう一度同じことをしようと思えば--出来ないことも無いだろうが、より酷い状態になることは目に見えている。


――やべぇ……!!


 痛みに悶える中、カイルが薄目を開けて見えたのは、大きく剣を振りかぶる帝国兵達の姿だった。

























「グルルルルルルルルルルルルルルルォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!」



 瞬間、大気を割るような叫び声が実験場に響き渡る。大地が割れ、朦朧と揺らめく炎を纏い、帝国兵を木の葉のように吹き飛ばしながら、破壊者が姿を現した。



 全身を覆う深青色の鱗。

 頭から尻尾にかけて生えるトサカ。

 猛獣のような爪と牙。

 鎧を着用し、両手に大きなランスを二本。



 そして、それが出てきた穴からまた新たに二人が出てくる。



 一人は黒髪。

 赤と青のオッドアイ。

 たわわに実る大きな胸。

 妖艶な薫り・・を放っている。



 一人は桃髪。

 巨大な体躯。

 左手には巨大なハンマー。

 右手は………巨大な蟲の腕。



 反乱軍、隊長格の三人。

ディアス、クレア、ザフラであった。



「お、お前ら……」



――なんで……こんなところに?

逃げたんじゃ、なかったのか……?



「私たちね、エルちゃんに盗聴機を付けてたの。

……スミレちゃんの本心が聴けるかもしれないと思ってね。


 だから全部……聴かせて貰ったわ」



 カイルの方を見てクレアは言う。

事実を告げる言葉の裏には、ありありと悔しさの感情が透けていた。

それはクレアだけではなく、他の二人にも当然のごとく当てはまった。



仲間・・が、命を賭して、我々の身を守るために、一計を案じていた」



 口からは抑えきれなくなった炎が漏れて、目は鋭く、手には凄まじい力が込められ、手の内のランスがぎりぎりと音を上げる。


 その怒りは、誰に向けられているのだろうか。



「我々は、そんな大切な仲間・・を疑い、見捨てようとした。


 決して許されることではない。

だからこれは、罪滅ぼしなどという殊勝な行為ではない。

これは俺が……己の道理を、自らの存在意義を守るための下らない自己保身の戦いだ。


 ここで戦わねば、俺は俺ではいられなくなる……!!!


 故に俺はっ!!! ここで戦う!!!!」




 グルゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!




 轟き、響く、竜の如き咆哮。

それはまるで反撃の合図のように大きく大気を揺らした。


 オオオオオオオ!!!!


 と、ディアスの咆哮に呼応するかのように反乱軍の人間がわらわらと小さな穴を壊しながら這い出てくる。

そして、あっという間に、帝国軍の群れの中心に反乱軍の総員が揃い踏む。

全員が全員、目をギラギラと光らせ、闘争心に満ち溢れていた。





――ったく、素直じゃねぇ奴等だな。






「カイル君、大丈夫かしら?」



 クレアが仰向けになっているカイルの元へ近寄り、膝を折って尋ねる。



「身体ん中が痛ぇ」


「中? ……ああ、【透徹】を受けたのね。

身体の中の魔力が暴走してるわ。あなた、魔法を使ったわね? こんな状態で……はぁ、無茶するわ」


「治せるか?」


「舐めないでちょうだい。薬も何もないけど、【透徹】くらいなら何とかなるわ」



 クレアがカイルの首の下に手を入れ、肩を持ちながら胸の前で抱える。

そして、そのままカイルを自分の胸に強く押し付けた。

ぽよん、という擬音と共にそのたわわな胸の奥深くにカイルの頭は埋められた。

カイルは突然の行動で一瞬焦るがその後訪れた治療に、緊張を解いた。


―――何だか、スーーッとする匂いだ……


 クレアが放っているのは鎮静フェロモン。

淫魔族の能力で、生成し、放たれる薫りが【透徹】で暴走したカイルの魔力を落ち着かせていく。




「全員、来たんだな」



 顔を少しずらして、周りを見渡す。

血気に満ち満ち、勇に溢れる戦士達の姿がカイルの頬を緩ませた。



「当たり前でしょ、私達を誰だと思ってるのかしら?」


「変態集団、かな」


「怒るわよ?」



 ぴん、とカイルのおでこにデコピンをする。

カイルはそれを、微笑んだまま受け止める。



「何笑ってるのよ」


「嬉しくてさ」


「え?」


「ちゃんと、お前らもスミレを好きでいてくれて、良かった。

じゃねーと、あいつも報われねーもんな」



 リュウセイのものとは違う、屈託のない笑顔をカイルは浮かべる。

純粋にスミレを想った笑顔に、ズキリ、と感じる所はある。

だが、クレアはささやかな笑みを浮かべた。



「当たり前じゃない。

私たちはあの子のことが大好きなんだから。










 ね、ザフラ」



 クレアはザフラに対してもささやかな笑みを向けた。

それに対してザフラが答えようとした時、高周波の音が鳴り響いた。



 キィーーーーン


『実験場内に散開した帝国兵に告ぐ。

南地区Bー8に反乱軍が出現。

ただちに殲滅せよ』



 上空の男が放送機を使い、指令を飛ばすのを眺めていたディアスが唸る。


 

「ダンゾウ………!!

あいつだけは………!!!」


「あいつが……ダンゾウなのか?」


「あぁ、そうだ。クレアの治療が終わったら、ザフラと俺とカイルの三人で奴を叩くぞ」



 ディアスはカイルの方を見ないまま、敵意をダンゾウの方へと鋭く向けていた。

それに対してカイルは………



「悪い、ディアス。


 あいつは…………俺一人でやらせてくれないか?」


「何?」



 ディアスは初めてカイルの方を向く。



「あいつは危険だと、スミレが言っていただろう。

ダメだ、三人でや「信じてくれ」



 カイルが、ディアスの言葉を遮る。

すぐに彼は言い返そうとした。


 そんな、ボロボロにやられたお前が何を言う。

絶対に許さん。

三人で確実に奴を倒す。


 そんな安全策が口を付いて出そうになる。

だが、彼はそうしなかった。

なぜか。

一言で言うならば、気付いたからだ。

この問答が先程と何ら変わらないことに。


 隊の人間の安全の為、助かる確率が高い選択を選ぼうとする自分に、何の根拠もなく、スミレを信じろと言ったカイル。


 今、ディアスは強いデジャブを感じている。

安全策を唱える自分と信じろ、というカイル……。


 沈黙が、二人の間で落ちる。


 短い時間が何倍にも引き伸ばされたような感覚。

ディアスはカイルの目を見た。

その目は反らされることなくディアスを見据え、覚悟の込められた瞳は一寸の迷いもない。


 無言。


 そして、ディアスは拗ねた子供のようにカイルから目を反らし、帝国兵を睨む。



「勝算はあるんだろうな」


「負けるとこが想像できないくらいだぜ」


「なら……いい。好きにしろ」



 その答えに、カイルは満足そうな笑顔を見せる。



「治療、終わったわよ」


「ん」



 クレアの胸から解放されたカイルはフェルプスから炎を出したり消したり……を繰り返し、魔力の調子を確認する。



「大丈夫みたいだ、ありがとな」


「どういたしまして」



 クレアは膝を伸ばして立ち上がる。

カイルは未だに空に立ち続けるダンゾウを見上げた。



「もう不意打ちなんてマネさせねーからな」



 その言葉と共にカイルは足を曲げ、そのバネを使って上空へと跳躍した。

そして翼をはためかせ、その跳躍した勢いのまま、カイルはダンゾウの元へと身体を進めていくのだった。














「貴方が折れるなんて……珍しいこともあるものね、ディアス」


「……言っていただろう。

普段とは違う、突飛な行動でもしない限り、ダンゾウは倒せない、と。


 だから行かせたのだ。深い意味はない」


「建前は、ね」


「………」


「じゃあ、そろそろ始めましょうか。




 全員、聞きなさい!!

見ての通り、敵の武器には毒が塗り込まれているわ。

絶対に一撃も食らっちゃ駄目よ!


 こっちの陣形は四人一組の方形陣。

各陣、味方の邪魔にならないように散開しつつ帝国兵を撃破。

戦えない人間は私と一緒に解毒剤を取りに飛空挺で実験塔に向かうわ!


 南はディアス、東はザフラが担当する!

巻き込まれるかもしれないから近付かないでね。


 以上、攻撃開始!!!!

反乱軍の底力を見せてやりなさい!!!」



 おうっ!!、という返事と共に、あらかじめ決められていたかのように反乱軍の戦士達は方形陣を組み、帝国軍に突撃していく。


 それを見たディアスはふぅ、とため息を吐いた。



「やはり、俺はゲンスイさんのようにはなれん。

暫定的にまとめ役に収まっていたが、クレアの方がよほど有能だ。


 俺は人の上に立つような柄ではなかった。

だから間違えたのは仕方がないというつもりは毛頭ないが……。


 だが、今だけはそんなしがらみの何もかもを忘れて、己が闘争心の赴くままに、一度の戦火に身を投じ、狂い暴れてやろうぞ!!」



 グオオオオオオオ!!!!!

ディアスがランスを爆発させながら帝国軍の隊列に深く食い込んでいく。

凄まじい勢いで敵を葬るディアス。

それはまさに、二年前の“爆竜”と呼ばれた姿だった。



「そうねぇ、アタシも……戦いなんて久し振りだし、右手もこんなんになっちゃったけど……


 今は、とにかく我を忘れて暴れたいわ」



 ぶぅん、と左手のハンマーと右手の鎌を振る。

そして、ザフラも帝国兵に突っ込んでいく。

その両腕の圧倒的な破壊力に帝国兵は為す術もない。

ただ紙吹雪が舞うように吹き飛ばされるだけだ。



「さて、じゃあ私達も行きましょうか」



 クレアは残った反乱軍の人間にそう言う。


 反乱軍vs帝国軍。

脱出と、命を懸けた戦いが……始まった。





――――――――――――――――――――







「一人か?」


「あぁ、そうだぜ」



 ダンゾウと、カイルが、空中で向かい合っている。

方や中空に魔力の足場を作り、方や翼で空を打って、戦闘の産声を上げた戦場の空で……言葉を交わす。



「このままでお前に待つのは絶対の死。

なのに、お前は何故戦いを望むか。


 無意味。

あのままスミレに従って逃げて・・・さえ入れば、助かる可能性が微弱なりとも存在」



 カイルはダンゾウの言葉に違和感を感じた。

バカなカイルでさえ気付く、大きな違和感。



「何でお前、俺たちが逃げること知ってんだよ。


 そのことは……俺たちしか知らないはずじゃないのか?」


「我が手放しでスミレを信用するとでも思ったか?


 何の考えもなしに脱出に不可欠な〝部隊長の証〟を渡すとでも?


 何と子供じみた希望。


 全て折り込み済み。


 スミレが裏切ろうと、そうでなかろうと、どちらでも対処は可能」


「……どういうことだよ。

スミレは逃げれば俺たちが助かるって言ってたぞ」


「それは未来のスミレが直接見て確認した未来に非ず。

我が教えた情報に基づく偽物の未来。


 我はスミレが裏切った場合、嘘の情報を教えてから殺すと決定。


『反乱軍は全員逃亡』」



 とな。


 つまり、スミレが命を張ってまで渇望した“未来”はまやかしだったのだ。

仲間に裏切られたと思われても、どれほど苦しくても、耐えていたスミレの頑張りは……全て無駄だった。


 カイルは、怒りで頭がどうにかなってしまいそうだった。

今すぐにアイツをぶん殴りたい。

拳が血が出るほど握られ、無意識の内に炎が漏れ出ている。



「どれだけあいつの想いを踏みにじる気だ……!!!!


 お前はあいつからどれだけの“未来”を奪えば気が済むんだよ!!!!!!」


「全て。スミレは帝国軍の所有する人間。


 その全ては帝国へ帰属」



――あぁ、ダメだ。

もうこれ以上は耐えられねぇ。

当たり前みたいにスミレを使いやがって。

当たり前みたいにスミレから全部奪おうとしやがって。

こいつは………ダンゾウだけは………!!



「絶対に許さねぇ!!!!」



 怒りのままに、カイルは飛び出す。

両手両足から炎を吹き出し、大袈裟なくらい振りかぶった拳でダンゾウを殴り付ける。

しかし、そんな単調な攻撃が通るハズもなくあっさりと避けられる。



「我を相手に接近戦とは……愚か」


「るせぇ!!!」



 蹴り上げ、そして避けられる。


 

「【毒焔】―」



 ダンゾウの手が紫色の炎を纏う。

しかし、ダンゾウがそれを発動させるより先にカイルは魔法を発動させた。



「フレア!!!!」



 ドォン! と腹に響く音と共に爆発が起こる。

ダンゾウは素早くそれを察知し、後方へ回避した。

再び向かい合う形となったカイルとダンゾウ。

カイルはにいっ、と笑みを浮かべた。



「“近付いてフレア”


 これでお前を倒してやる」



 作戦も何もあったものではない。

だが、それでもカイルなりに考えた結果であり、ダンゾウに対する【毒焔】に対する策なのだ。



「……爆発で、【毒焔】と我を吹き飛ばし、毒を吸わないようにする作戦。


 浅はか。すぐに魔力を枯渇させ、死は確定」


「魔力の多さと、打たれ強さ、あと一撃の破壊力には自信があんだよ!!」



 再びカイルがダンゾウに向かっていく。

今度は真っ直ぐ突っ込んでいくのではなく、翼を生かして右往左往、縦横無尽に翻弄しつつの接近だ。

魔力を足場にしているダンゾウでは再現できない曲線的な動き。

空の利はカイルにあった。



「フレイムバースト!!!!!」



 回り込んでからの背後からの一撃、いや二撃は確実にダンゾウに当たった。

横に勢いよく伸びていく炎柱はダンゾウの肉を焼いていく。

完全に決まったかに見えたその時、カイルの背後から声が聞こえた。

 


「【空蝉】―残身の朴」



 現れたのはダンゾウ。

ゆらゆらと陽炎があるかのように輪郭がボヤけている。

完全に背後を取っていた。

ダンゾウの手が【毒焔】を纏い、カイルを射ぬくように突き出され………



「フレア!!!!」



 再び起こる爆発。

ダンゾウも予想は出来ていたようですぐに退避した。



――今のは……なんだ?

確実にダンゾウを殴った感触だったのに……

いつの間にか、人の形をした木にすり変わってやがった。



 カイルが先程殴ったものはダンゾウが背後に現れたと同時にダンゾウと同じ形をした木の人形になっていた。

ダンゾウが背後に現れた時、すぐにフレアを使ったので今はもう炭になっているが。

ダンゾウが使ったのは【空蝉】という【能力】だ。

簡単に言えば、変わり身の術、である。



――【空蝉】、か。

なんか厄介そうな【能力】だなぁ。それにフィーねぇ達の話からすると他にも【能力】のついた魔具を持ってそうだ。



「【増殖】【毒焔】―多重侵食の苦無」



 ダンゾウが手の内から二本のクナイを放つ。

当然のように【毒焔】がまとわりつき、そしてその数は瞬きすると百程にまで膨れ上がり、紫色の壁のようになってカイルに襲いかかる。


――【増殖】を持つ魔具に【毒焔】を纏わせて投げたのか……!!



「コロナ・ショット!!!」



 右手に大きな炎を纏わせ、腰を捻り、反動をつけ、地面と水平な拳を繰り出し、纏っていた炎をショットガンのように飛ばす。


 それは、クナイ群にぶつかると次々と打ち落としていく。

全てを撃墜させ、カイルはダンゾウの姿を探すが、正面にいない。



「【幻覚】【毒焔】―幻影激痛の鋼糸」


「っ!! 下か!!」



 カイルの下にいたダンゾウがクナイを放つように腕を振る。

しかし、その手からは何も放たれることはない、ように見える。


――【幻覚】!!

魔力探知だ……見るな、感じろ……!!

カルト山での修行を思い出せ!!


 カイルは目を閉じ、感じる魔力を頼りにしてダンゾウの放った鋼糸を避け、接近していく。右手に大きな炎を纏わせ、流線形を為し……



「コロナ!!!!」



 ダンゾウに向かい拳を振るう。



「単調。本当に勝つ気でいるのか?」



 ダンゾウはフレアを警戒しすぐに距離を取ろうとする。

予想通りの行動にカイルは笑みを浮かべた。



「そっちこそ、行動が同じだぞ!!


 クリスタルバレット!!!」


「っ!」



 カイルはポケットに忍ばせてあったクリスタルを取りだし、魔力を込め、ダンゾウに向けて砕く。

変換された魔力が指向性を持ち、ダンゾウに直撃する。

少し焦げるような匂いがするが、大してダメージは与えれていないようだ。


 

「驚愕。まさか思考する頭が存在していたとは」


「おい」



 敵にまでバカにされるカイル。

本当に普段の行いの悪さが伺える。



「しかし--痛み分けだ」


「ぐっ!」



 カイルの頬が紫色に染まっていく。

ダンゾウは鋼糸をただ投げたのではない。


 操っていたのだ。


 クリスタルバレットを食らいながらも、ダンゾウは鋼糸を操り、カイルの頬にかすり傷を与えることに成功した。


 【毒焔】を操るダンゾウにとって、そのかすり傷が十分致命傷になりうるのだ。



「それが……どうした」



 カイルはおもむろに腕の魔具を外し、爪を自分の頬に当てる。



「っつ!!」



 そして深く切り裂いた。

頬から大量の血がボタボタと流れ、そして淡くカイルの頬が光ったかと思うと、毒々しい色の炎がカイルの頬から放出される。

カイルは魔力を操り、体内から【毒焔】を締め出したのだ。



「毒抜き成功……てな」


「二度目の驚愕」


「野生で育ったんだ。毒抜きくらいできなきゃ死んでるぜ」



 カイルは不敵に笑う。



「さぁ、ダンゾウ………まだまだ戦いはこれからだぜ!!!」

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