表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
CAIL~英雄の歩んだ軌跡~  作者: こしあん
第二章~絶望の帝国実験場~
51/157

第五十話―分岐する未来

 








「おい、何しやがる……」



 スミレを抱え込んだリュウセイが力無く言う。

理由なんてとっくに分かっているのに、聞かずにはいられなかったのだ。



「これ以上喋らせても混乱を煽るだけだ。それに……もう見てられん」



 ディアスはリュウセイの目を見て言う。

その覚悟を秘めた強い瞳にリュウセイは思わず目を反らし、スミレの方へと視線を落とした。


 

「ディアス……どうするの?」



 クレアがディアスに尋ねる。



「……一度、スミレの言ったことを検証する必要がある。話はそれからだ」


「そう……ね。ごめんなさい。【絶縁の刃】が通用しない可能性を考えて無かったわ」


「気にするな。我々の誰も……予想していなかったのだ」



 重々しい口調でディアスは言う。



「それよりジャック、その部隊長専用とか言う魔具を見てくれないか。


 本当にここの位置を帝国に知らせているのか……お前なら分かるだろう」



 言われたジャックはその場から動かずに、悲しそうな顔をする。



「そんな丁寧に見んでも……あれがどっかに魔力を飛ばしてることくらいすぐ分かるわ。


 どうすんねん。

いつ攻めてこられてもおかしくないで?

とりあえず壊した方がええんとちゃう?」



 未だにスミレの手の内で明滅を繰り返す魔具。

リュウセイはその魔具をそっとスミレの手から抜き取った。



「あ、あのっ、ひとつ……いいのですか?」



 エルがおずおず、という風に声を上げる。



「どうした?」


「それ……部隊長専用の魔具って……もしかして、部隊長の証……ではないのですか?


 もしそうなら……情報も正しいのなら、その魔具を使って結界を抜けられないのかな、と思ったのです……」



 その言葉を聞いてジャックが動いた。

そうだ、確かに言っていた。

この実験場を抜ける方法は結界管理魔具を破壊するだけではなく、部隊長の証となる魔具を使えば抜けられる、と。

リュウセイはジャックにその魔具を手渡す。



「…………!! エルの言う通りや!!!


 これ使えるで!!!」


 リュウセイから魔具を受けとると、ものの数秒でジャックは声を上げた。

ジャックのその声に反乱軍のメンバーがざわつく。



「術式も簡単や。これならすぐにでも使える。


 ここから脱出出来るで!!」



 ディアスはほっ、とため息を吐いた。


――一時はどうなるかと思ったが、脱出に関しては何とかなりそうだな。


 あれが脱出の鍵である以上、まだ破壊することは出来ん。

なら……帝国の奴等が攻めてくる前に、一刻も早く新しい仲間を集めて脱出するべきだな―――



「ではこれより、この帝国実験場からの脱出を開始する。


 手筈通りとはいかないが……スケイル、お前が外の仲間を集めてくるんだ。急げ!! 時間は無いぞ!!!」



 ディアスが号令をかける。いつも通りのその様子に反乱軍は少しだけ落ち着きを取り戻した。



「隊長……スミレは……どうするんですか……?」



 命令を受けたスケイルがディアスに訊ねる。


 来たか……。

とディアスは思った。

出来ればこのまま誰もそのことを尋ねずにいて欲しかった。

わざわざ全員に伝える必要はない。

最良は誰にも気付かれずに実行することだった。

そう……彼の心はもう決まっていた。

ザフラにばかり押し付けてはいられないのだ。




 決断しなければ、いけないのだ。



「スミレはここに置いていく。



























 もう二度と……会うことは無いだろう」



 殺す、とは言わなかった。


 だが、それでも……


 















 ディアスが、スミレを〝裏切り者〟と見た瞬間だった。



「!!! ………っ」



 声をあげようとしたジャックは無理矢理その声を呑む。

何も決められない自分に、覚悟を決めたディアスの決断に何かを言う権利などないと考えたのだ。



 そんな諦めをジャックがしたその時、黄色い髪の毛がジャックの前を通りすぎていった。


――リュウセイがまた、ディアスに食って掛かるんか……。

やけど……リュウセイやって……ほんまは……―――


 そうぼんやりと考えるジャック。





 次の瞬間、大きな打撃音が鳴り、赤い炎が燃えあがった。



「……え?」



 誰も予想していなかった。

てっきり、リュウセイがディアスに突っかかっていったのだと思っていた。


 当のリュウセイは未だにスミレを抱えており、そして彼自身も驚いていた。


 誰もが驚く視線の先には、


















 カイルが立っていた。


 その両手にフェルプスを展開し、溢れんばかりの巨大な炎。

そして、カイルは怒っていた。

リュウセイのように眉間に皺を寄せ、凄まじい剣幕でディアスを睨む。


 一方のディアスもこの攻撃は予想外だったようで、吹き飛ばされたまま壁に凭れかかっていた。


 全員、驚きで動けない。

クレアもエルもザフラも、ユナもジャックも、マリンもフィーナも、リュウセイもだ。




「何の真似だ………?」



 驚きの感情に満たされたままディアスは思うがままに口を開いた。



「それはこっちの台詞だ。見損なったぞディアス……!!!!」



 カイルはさらに怒りを増し、彼が放つ炎がさらに大きくなる。

緑の瞳がディアスを睨み、その迫力にディアスも一瞬気圧された。



「何でそんな答えが出るんだよ……!!!












 仲間じゃ、なかったのかよ!!!!」



 その言葉で、ディアスやここにいる人は理解した。

このタイミングで怒るならそこしかないのだが、余りにも予想外の暴力にその考えが少しだけ頭から離れていたのだ。


 そしてディアスは立ち上がり、カイルがしているのと同じように睨み付けた。



「スミレはもう……仲間ではない。それはスミレ自身が言ったことだ」

 


 ディアスが冷たくそう言い放つ。

リュウセイは、その言葉に胸が苦しくなる。



――仲間じゃない……

ハッ……! 確かに言ったな。スミレにとって反乱軍はもう……何の価値もねぇ存在なのか……


 俺の知ってる“スミレ”は……もう、いねぇのか……。



「なんでそんな答えが出るのか、と聞いたな。

今までの話を聞いてなかったのか?


 スミレは我々を裏切ったのだ。

自分のために我々全員を殺す気でいる。


 帝国軍にこの場所を知らせ、引き込み、我々全員を……殺すつもりだ」



――あぁ、そうだな。言い逃れは出来ねぇ。

魔具は確かにこの場所を知らせていた。

スミレはそれを……知っていたんだ……。

















「そんなことどうだっていいんだよ!!!」



――……は? おい、何言ってんだ……。

スミレが俺達を殺そうとしたことが……どうだっていいだと?



「それは聞き捨てならんな……!!


 お前は我々の命がどうなっても良いと言うのか!!!!」


「そういう話じゃねぇ!!!!


 いいか、よく聞けよ!!!
























 俺は正直スミレが何言ってんのか全然分かんなかった!!!!」



――……は?



「……は?」


「……カイルさん……」


「「あの子は……ハァ……」」


「マジか……」



――おつむが足りねぇなんてレベルじゃねぇぞ……。

どんな頭してんだあんのバカは……。




「でも!!!!


 スミレが辛そうな顔してるのは、俺にだって分かったぞ!!!!!」



――……………



「辛そうな顔だと……?

一体いつそんな顔をしていたというのだ?」


「してたじゃねーか!!


 ずっと!!!!


 ずっとずっとずっと!!!!!

















 無表情・・・で、苦しそうだったじゃねぇか!!!!!!!!!!」



――………っ!!!



「あの顔は……一度見たことがある」



 カイルはユナの方を向く。



「初めてユナに会って、初めて街に行ったときだ」



 ユナはすぐに思い当たった。

あの日、カイルのことを疑っていると言った日のことを思い出した。



「人を信用出来ない、俺を信じれない、って言ったユナが……スミレとおんなじ顔をしてた……!!」



 あの時のユナもスミレとは違うが“仮面”を付けていた。

悲しげな微笑み。

無理して笑うユナは痛々しく、街に着いた当初、ユナはカイルとあまり言葉を交わさず、無表情だったのだ。


 そのときのユナと、先程のスミレの姿が、カイルには重なって見えたのだ。



「無表情で、無理して笑って……苦しそうで…………!!

さっきのスミレと、一体どこが違うってんだ!!!!


 同じだろーが!!!

何で分かってやんないんだよ!!!


 苦しんでる仲間がいたら助けるのが仲間だろ!!!!」



 炎が、カイルの感情と比例するように勢いを増す。

ごうごう、と。

炎がうねり上がる。

その中心に立つカイルは鋭い目でディアスを睨む。



「……っ!

だが、お前の勘違いだという可能性もある。


 どうしてそこまでスミレを信じる!!

お前は今日、数分前に初めてスミレと会っただけだろう!!

何故だ!! 答えろカイル!!!!」



 ディアスはそう吠える。

彼だって、スミレを信じたい気持ちはあるのだ。


 彼は現実と自身の感情を秤にかけて、現実の方を重くとっただけなのだ。

仲間を守るために、被害がでないように、隊長として判断を下しただけなのだ。




 カイルは顔をある方向へと向けた。



「リュウセイが……信じてるからだ」



 炎が収まる。

リュウセイの方を見るカイルの目は、何の揺らぎも見せない。

何があっても揺るがない強い信頼。

それがありありと、浮かんでいる。



「俺はリュウセイを信じてる。


 だから俺は、あいつが信じるスミレを信じる」



 言葉も、迷いはない。

己の感覚への信頼と、かけがえのない家族への信頼。

この二つがあるからこそ、彼はこれほどまでに純粋にスミレを信じれるのだ。



「……なら……聞いてみるか?

リュウセイが本当にスミレのことを信じているのかどうかを」



 少しディアスは余裕を取り戻した。

ディアスは、気付いていたからだ。

リュウセイが揺れていることに……。




 全員の目が、リュウセイとその腕の中のスミレに注がれる。



――ハッ……! 何だよ……!!

何で俺に決断を委ねようとしてやがる。


 ……くそっ……!


 俺だって信じてぇんだよ……!!

でも、現実はどうだ。

スミレは俺を殺そうとしたし、利用した。



 仮に俺がここでスミレのことを信じてるって言えばどうなる?

まず間違いなく、ディアス達と言い争いになる。

そうこうしてる内に帝国軍がやってきて、全員殺されるだろうな。


 仮にここで俺が信じてねぇって言えばどうなる?

きっとカイルは手を引いてこの腐れ実験場からおさらばできるだろう。


 スミレを見捨ててな。


 だが……ここにいる反乱軍は全員助かる。


 助かるんだ。



 ……俺が迷ってるから……ディアスもこんなこと聞いてきたんだろうな……。

カイルを納得させて、スムーズに脱出ができるように……


 ハッ! 迷ってる?

バカ言え、俺は本当は心の奥では思ってたじゃねぇか。


 スミレがもう……“スミレ”じゃなねぇーことをよぉ。



 何が“最善”か



 考えりゃあ、カイル以外誰だって分かる。


 そもそも、俺は何でスミレをこんなに盲信してんだよ。

ジジイの孫だから?

ジジイに洗脳紛いのことをされたから?


 ハッ! 下らねぇ。

結局俺が信じてるのはジジイじゃねぇか。

何が俺はスミレのことを知ってる、だ。

ジジイから聞いた情報を疑いもしない俺が、本当にスミレのことを分かってるって言えんのかよ。


 だったら、答えはもう決まってるだろ……


 “最善”を選べば……



『リュウセイが信じてるからだ』



 ……ハッ! 俺よりテメーの方がよっぽど盲信だぜ、カイル。

俺はこんなに揺れてるし、もう結論を出そうとしてる。


 ……出そうとしてる?

何を考えてんだ。

もう出てるだろう、結論なんて。

何も……迷わなくていいだろ。



 選べば良いだけ


 話せば良いだけ



 それだけだ……それだけなのに……









 何でスミレの最後の笑顔が頭から離れねぇんだよ…………っ!!!!



「どうした……リュウセイ? 答えられんのか?」



 るせぇ。


 もうちょっと考えさせやがれ。

あー、もうっクソッ……!!


 俺は何を信じたらいいんだよ……!!






 いや、違う。



 何が信じられるかじゃない……



 俺は……何なら信じられるかだ。


 






















「俺は………信じる」


「……何をだ」



 信じられるもの、俺が信じれるものは……



「カイルだ」



 双子のクソ兄貴。

あいつはいつも考えなしで、バカで空気は読めねぇけど……



「カイルの言葉を、俺は信じる。

カイルが言った……スミレの感情を……俺は信じる」



 嘘は……言えねぇやつだ。



「ジジイを信じる」



 ロリコンクソジジイ。

変態で、ロリコンで、貧乳好きのエロジジイ。

だけど……



師匠・・の言葉を、俺は信じる。

あいつの語った……“スミレ”を、俺は信じる」



 孫を想う気持ちは本物だ。


 それから………




















「スミレを信じる」



 ジジイに言われた“スミレ”じゃねぇ。

カイルの言うスミレでも、他の誰の言うスミレでもねぇ……



「俺は……俺自身が見たスミレを……信じる!!」



 切りかかってきて、無表情で、歪に笑ったスミレを信じる。


 あの最後の笑顔を……俺は信じる!!



「何を……っ!!

お前は今の状況が分かっているのか!!

いつ帝国が攻めてくるのか分からない!!


 もう迷ってる時間はないんだ!!!


 全員が助かる“最善”があるのに、なぜお前はそれを選ばない!!」



 ディアスは焦って必死に俺を説得しようとする。


 あぁ、少し落ち着いた。

目の前であんなに慌ててるディアスを見たからか、自分の考えを口にしたからか……。


 考えろ。


 スミレは仲間だ。敵じゃない。

俺はそう信じると決めた。


 あいつの行動の真意を考えろ。

敵っていう先入観を取っ払って考えるんだ。


 味方だ。

あいつは味方だ……!!


 スミレのこの行動に一体どんな利がある?


 スミレにじゃねぇ、俺たち(・・・が、だ。


 初めから考えろ。


 この実験場に来て何があった?

きっかけはザフラが見つかったことか。

ザフラは腕を改造された。

死ぬかもしれなかった。

スミレはザフラが死んでもいいと思った……?

……いや、違う。


 あいつはそんなやつじゃない。


 そうだ……そもそも……あいつは“未来”が見えるんだ。

ザフラが生きてることだって分かる……。


 ……あいつには【未来予知】がある。

俺がスミレなら…………っ!!!!!



 そうか……そういう……こと……か。


 ちょっと考えりゃあ分かるじゃねぇか。

何で誰も気がつかないんだ……?


 ハッ! ははは……


 そうだ……誰も気付いちゃいねぇ。

それがもう……証拠じゃねぇか!!!


 あの“笑顔”はそういうことじゃねぇか!!!

 

 



「ハッ!!!!!!」





 分かった。

全部、全部分かった。

もう迷わねぇ。


 俺はスミレを信じる!!!




「笑えるぜ全く……簡単すぎてな」


「何だと……?」


「なぁ、ディアス……ちょっと冷静になろうぜ」



 いつになく頭がスッキリする。

見えなかったことが、隠されてたことが鮮明に見えてくる。


 

「俺達はスミレの“未来”通りに動かされてたんだよ。


 スミレの立場に立って考えりゃあすぐに分かる。


 もし、スミレが本当に裏切ってんなら……なんでわざわざこんなところまで来て、あんな話をしたんだよ。


 おかしいじゃねぇか。

俺らを本気で殺したいなら、部屋でじっと待って、帝国軍がやってくるのを待てばいい。


 そうしなかったのは、ここに来て、やらなきゃなんねぇことがあったんだ。





 俺達をここから逃がす為に、その部隊長の証を……ここに届けるっていうな」


 

 ジャックが持つそれを指差す。

全員の視線がそっちへと向かう。



「そう言える根拠ならあるぜ。


 このことに誰も気付いちゃいないってことだ。

こんな単純なことにこんだけの人間がいて、誰も気付かねぇ訳がねぇ。

おかしいだろ?

脱出で悩んでる俺達の所に都合よく脱出に不可欠な魔具を持ってくるなんて。


 普通は気付くのに、気付かなかった。

気付かされなかったんだよ。


 ザフラの腕のこと、あの無感情な話し方、煽るような内容、狂ったような笑い、迷い無い斬撃……それが俺達に衝撃を与えて、思考を曇らせていたんだ。


 敵だ、裏切り者だって、思わせてな」



 あいつは……あの“仮面”の下にどれ程の決意を持っていたんだろうか。

俺にゃ……想像もつかねぇ……。



「……だが、何故敵だと思わせる必要があるのだ。

脱出の為なら、我らに全ての事情を話せば良かったではないか」


「話したら、どうする?

全部の事情を知ってなお、お前はスミレを見棄ててここから逃げれんのかよ」


「っ!!!」


「無理だよなぁ……。

スミレは毒を受けてる。


 逃げてる最中にきっと死ぬ。

死なせねぇためには、帝国と戦って直接解毒剤をぶんどるか、何の毒か調べて、解毒剤を作るかしかねぇ」


「それをすればいいではないか……」


「あぁ、そうだよ……!!

俺だってそう思ったさ!!!

でもよ………!!!



















 その過程で、俺達が死ぬ“未来”を見たら、お前ならどうするよ?」



 そうだよなぁ、スミレ。

だから、お前はあんなに辛そうにしながら頑張ってたんだよな……



「何度も何度も何度も【未来予知】して、それが全部……破滅に繋がってたら……お前ならどうするよ!!!!




 自分を犠牲にして俺達が助かる“未来”があるならどうするんだよっ!!!!!!


 答えろよ!!!

なぁ、ディアスッ!!!!!!!!!!!」



 何も変わっちゃいなかったんだ………

あいつは本当に反乱軍が大好きで、誰よりも反乱軍を愛していたんだ。

仲間を大切に想って、本当に優しい“スミレ”のままだったんだ。


 あんなに分厚い二重の“仮面”で心を隠して、俺達を欺き、自分を騙して……俺達を……ここから逃がそうとしたんだ……。


 だからあいつは、最後に笑ったんだ―――



「………っ……!!」



 ディアスは答えられない。

ディアスがその立場に立ったとき、とる行動は一つだったからだ。



「答えられねぇなら、それが答えだろ」



 リュウセイはそう言ってスミレを抱える腕に力を込めた。

未だ起きないスミレだが、その寝顔は柔らかな気がした。



「では、お前はどうするというのだ!?

確かにお前の言うことは筋が通っているかも知れん!!


 本当にそうかもしれん!!

だが、それでお前はどうするというのだ!!」



――そんなもん



「助けるに決まってんだろ」



 言わせてんじゃねぇよ。



「死ぬんだぞ……」



――スミレが何百何千と見ただろう“未来”。

希望はなかっただろうし、全滅だってありえるだろう。


 どんなことをしても駄目だし、何をやっても俺達は負けて死ぬ。


 それが“未来”だ。


 



「ハッ! だからどうした」



 それに……



「これを知って逃げるくらいなら、ここで犬死にする方が万倍マシだぜ」



 一人だって、やってやるさ。

命が尽きるまで戦って戦って、気の済むまで暴れてやんよ。



「おいリュウセイ。何一人でやるつもりでいてんだよ。


 俺だっているんだぜ?」



 あぁ、そうだな。

お前がディアスにキレなかったら、俺はこのまま逃げてたかもしれねぇ。

スミレの想いにも気が付かなかったかもしれねぇ。



「足引っ張んじゃねぇぞバカイル」


「お前が言うか、このチビホシ」



 拳を合わせる。

普段はこんなことぜってーやんねぇけど、今回くらいはしゃーねーよな。



「「ほんっとーに、バカね。

全く……こんなバカ共の姉なんてやってたら命がいくらあっても足りないわ」」


「いーんだぜ? このまま逃げても」


「「バカ言わないでくれる?

ここで逃げるほど、臆病者じゃないつもりよ」」



 ふーん、姉貴なら、逃げるかもとか思ったのによ。

実験塔の時も反対したし。



「「それはそれよ、今回は命懸けるだけの価値があるじゃない」」



 ハッ! 言ってくれる。

流石俺の姉貴たちだぜ。



「わたし、本当にいつか死んじゃうんじゃないでしょうか……」


「……いや、別にお前は逃げててもいいんだぞ」



 それに、いても戦えねぇだろ。



「戦いませんよ……。逃げないだけです。

戦えなくても、出来ることはあると思うんです」



 ………そうかよ。

ま、仲間がいるってのはいいことだ。



「はぁーっ、ったく……ワイが見込んだ奴等はほんまにブッ飛んだ奴等やで。


 ……でも、不思議とイヤな感じはせーへんな」


「いいのかよ、別に無理して来なくていいんだぜ?」



 お前は向こうに仲間がいるだろ。

それに隊長なんだ。

残りの奴等みたいに悩まなくていいのか?



「ワイは反乱軍魔具職人部隊隊長やったけど、今は……お前らの仲間や。

なんも迷うことあらへん。

ワイは仲間についていくし、やりたいようにやる。

その為なら命やって懸けたるわ」


「薄情な隊長だな。

あいつらはお前を求めてるんじゃないのか」


「ワイまだ子供やしぃー、そんなこと求められても困るわー」



 うぜぇ。



「お前らはどーするよ」



 反乱軍の奴等に身体を向けた。

どいつもこいつも、面白れぇくらいに俯きやがる。

うじうじしやがって……こんな奴等が仲間だったら、反乱なんざ成功する気がしねぇな。



「ぼくは……逃げたくないのです……」



 エルだ。

女物の服を着せられてるが、顔付きは……違う。

覚悟を決めた……顔だ。



「エルっ!!」


「止めないで欲しいのです。


 ぼくは、さっき……ちょっとだけスミレちゃんを疑ってしまったのです。

今、すごくイヤな気分になっているのです。


 このまま逃げたら……このイヤな感じは多分一生消えないのです。


 ぼくは絶対にそんなのはイヤなのです!!


 ぼくは……スミレちゃんに謝りたいのです!!!」



 他の反乱軍の奴等も、こんぐらいの仁義っつーか気概ってもんを持ってて欲しいもんだな。


 

「っ……!!

だが……まだスミレが味方だと決まった訳ではないんだぞ!!


 不確定なまま死ににいくような真似は止めるんだ!!」


「ハッ! 随分と小せぇ男になったもんだなぁ、ディアス。

不確定だからなんだ。

俺達は自分の信じたことをやるんだ。


 安全だとか、最善だとか、どうでもいいんだよ。


 俺たちは俺たちの信じた道を行く。


 不確定だろうが絶望だろうが、死が待ってようが、関係ねぇ。


 俺達は、自分の信念を裏切らねぇようにするだけだ」



 もうそういう話じゃねぇんだよ。

不確定だからなんて話は俺達には通用しねぇ。


 そういう、“逃げ”に俺達は逃げるつもりはねぇんだ。




















「「これ以上の話し合いは時間の無駄ね。

この飛空挺は置いてくから、あんたたちが好きに使いなさい。


 それでさっさと実験場から逃げれば?」」



 膠着していた場に、バッサリと切り込む声。

この姉貴たちの一言でこの場は解散となり、俺達は飛空挺を離れた。










 結局、あいつらが来ることはなかった――




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ