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CAIL~英雄の歩んだ軌跡~  作者: こしあん
第一章~集結~
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第五話―VSウィル

 







 

――もう少しっ……もう少しで信号弾が射たれた場所に着きますっ!



 ユナは放送があってから走り続けていた。ユナのいた場所から信号弾の射たれた場所は少々遠い。その距離を一刻も早く縮めようとひたすら走る。おそらく部隊長のウィルはその場に到達しているだろう。その辺の帝国兵ならカイルの敵ではない。

だが、部隊長となれば話は別だ。

魔具を持たない今のカイルに勝ち目などあるワケがないことを、ユナは分かっていた。



――死んでないですよね……カイルさんっ……!!



 最悪の想像が頭をよぎるが、それを振り払うようにがむしゃらに脚を回す。三度目の曲がり角を左に曲がるとユナの視界がついにカイルを捉えた。



「カイルさんっ!!!」



 しかし、ユナの声はカイルに届いた様子はない。仰向けに倒れ、彼に四本もの鞭が迫っている。最悪の想像が今まさに現実になろうとしていて背筋が凍った。


 けれど、ユナは走り続けるのを止めない。迫り来る鞭に対して微塵も恐れを抱かない。初めての信頼出来る仲間を失うことの方が何倍も恐ろしかった。


 闇という魔力のせいで孤独だったユナ。

孤独を感じるたびに自らの属性を憎んだ。

そんなユナの闇を微塵も恐れず、帝国にもなびかず、敵に回したカイルが殺されようとしている。



 どれだけ疎ましいと思っていた力も


 カイルを守れるならその力を使うことを躊躇う必要はない。



黒の境界線シュバルツ・グレンツェ!!」



 ユナの腕輪が黒い光を放つ。

辺り一面に広がる黒の輝きと共に腕輪から〝闇〟が具現化される。



 それは



 光を全て吸収しているかのような黒


 空間を塗り潰し、侵食している黒


 ただただひたすらに……黒


 そう表現するしかなかった。

腕輪から具現化されたのは黒以外何色にも染まらないモノ。


 炎のように火花をあげるわけでもなく


 雷のように放電するわけでもなく


 水のように流れるわけでもなく


 風のようにゆらめくわけでもなく


 地のように固まるわけでもなく


 闇のようにただ気が付くとそこに存在した。


 ユナの腕輪から出た闇は薄く、大きく拡散し、膜のようにカイルの前方に広がって、境界線のようにウィルとカイルの間に存在した。


 ウィルの鞭がユナの魔法に当たると、鞭が跳ね返される。ウィルは、いきなりの闇属性の魔法に困惑した様子を見せたが、切り替えは早いようで第二撃を打ち込んでくる。

が、その第二撃もあっさりと跳ね返される。苦い顔をして何度も何度も鞭を振るうが、その魔法は破れることはなかった。


 その間にユナはカイルを鞭の間合いから引き離す。脇の下に手を入れ、地面に引きずらせながら距離をとる。ユナの細腕でカイルを引きずるのは難があったが、時間をかけ、ゆっくりと引き離した。



「カイルさんっ!! 大丈夫ですかっ!?」



 ユナは必死にカイルに呼び掛ける。

もしかして、間に合わなかった?

そう考えたが、ぶんぶんと頭を振り何度も呼び掛ける。



「カイルさんっ!! カイルさんっっ!!!」


「ゆ……な……?」


「っ!! カイルさんっ!! 良かった……です……」



 ユナの必死の呼び掛けに僅かに目を開け、その名を口にする。その声を聞いたユナは不意に一滴の涙をこぼしてしまう。涙がカイルの頬に当たり、地面に垂れていく。

カイルは自らの頬に伝う涙を目で追い、地面に落ちたのを見届けると不思議そうにユナを見上げた。



「無茶なことして……死んじゃったら意味ないじゃないですかぁ……」


「…………悪い。ちょっと強烈なのもらって意識飛んでただけだから……大丈夫。それよりアイツは……?」


「ウィルなら、今、鞭で魔法を壊そうとしてーーあれ? さっきまであそこに居たんですけど……」



 ユナが防御膜の方を見るとさっきまでいたはずのウィルがいない。首をかしげるユナだが、カイルはすぐに意識を無理矢理覚醒させ、周囲を警戒する。



「横だっ!!!」



 カイルの言葉と同時にカイル達の横の家が倒壊しその中から四本の鞭が飛び出す。カイルは倒れた体勢から直ぐに起き上がり、横からの攻撃に呆然としていたユナを胸の前で抱き抱えると、思いっきり上へ飛ぶ。翼が何度も空を押して、二人分の重さを空へと押し上げる。

そうして鞭の追撃をなんとかかわし、間合いの外まで上昇した。



「アイツ……闇の壁を大回りして俺らに攻撃してきたのか……」


「あ……あああのあのあのあの……カ、カ、カ……カイルさん!??」


「ん? どうした?」


「こ、こここの体勢は……恥ずかしいです」



 ユナは真っ白い顔をりんごのように赤く染め上げている。しかも噛み噛みだ。思い出して欲しい。


 とっさのこととは言え、カイルはユナを胸の前で抱き抱えてそのまま飛び上がったのだ。

そう、いわゆるお姫様だっこである。

ユナは顔をうつむかせ、身体をできる限り小さくしている。


 今まで人との関わりが極端に無かったユナだったが、こういう恋のシチュエーションには年頃の乙女らしく憧れていた。どうせ、自分にはそんなことは一生無いだろうと諦めて、妄想だけに留めていた。ピンチのわたしを白馬に乗った王子様が助けてくれないかな、好きな人と一緒に街を手を繋ぎながら歩けたらどれ程幸せだろうな、普段の生活もきっとドキドキして、でもそれが嬉しいんだろうな、そして落ち込んでいるわたしをそっと抱き締めてくれないかな……


 そんな妄想するくらいは許してくれますよね?


 そんな風に自分以外の誰かに……妄想するたびに頭の中で言っていた。

しかし、妄想というものは頭の中で描く分には幸せで、自分も甘酸っぱい行動をとるのだが、いざ現実になると上手く行動することが出来ないのが真理である。


 ユナも頭の中ではお姫様だっこのシチュエーションを考えたことはあるものの実際やられてみると、恥ずかしすぎて何も出来なくなっているのが現状である。



「恥ずかしい? 何が?」



――カイルさんはこっち方面の常識もないんですかっ!!!?



 改めてカイルの非常識を確認したユナである。



「も、もういいですっ……そ、それよりこれからどうするんですか?」


「時間を稼ごうと思ってる」


「な、何のためにですか?」


「ウィルに勝つためにだ」


「時間を稼げば……勝てるんですか?」



 ユナは疑問に思う。部隊長相手に時間を稼ぐだけで勝てるのか、と。

しかし、カイルは嘘をつけるような人間ではないし、勝算のある確信を持っている言い方である。



「カイルさん、一応言っておきますけど私、さっきのでほとんど魔力を使い果たしてしまいました。

私の力をあてにしてもダメですよ?」



 ユナは元々魔力が少ないのだ。先程の防御膜も、ユナの魔力をほとんど込めたからこその防御力である。なけなしの魔力を全て魔法に具現化したから、ユナの魔法でもウィルの攻撃を防げたのだ。



「大丈夫だ……。あと何分か時間を稼げばなんとかなる……かも」


「それは……どうしてですか?」


「俺の放送聞いたろ? 俺と一緒に話してた奴が魔具を探してくれてる」



 途端にユナの顔が陰る。ユナは今でこそカイルを完全に信用しているが、カイル以外に対して警戒心を持たないということではない。そんなユナにとっては味方とは言い難い人間に勝利の可能性を託しているカイルが心配になり、理性が再び表に表れてしまう。



「他人を信じては……いけませーー」


「いいんだよ」



 カイルはユナの言葉を遮り、その瞳を真っ直ぐ見つめた。



「人を信じてもいいんだ。もう……そんな生き方しなくていい。俺が証明してやる。ウィルを倒してな」



 カイルは間合いに入らないように注意しながら屋根の屋上に降り立ち、ユナをそっと降ろす。心なしかユナの顔が少し赤かったようにみえた。


 しかし、カイルはユナを見ることなく、記憶の中を掘り起こす。言葉とは裏腹にカイルは焦っていた。ジャックを疑うわけではないが、魔具を持ってくるまでの時間稼ぎを上手くやれるか不安だったのである。



――なんかないのか? アイツの間合いに入らない遠距離攻撃。俺は持ってなかったのかよ……!!

あとほんの少し時間を稼げばいいんだ。その時間だけでも通じる技を……俺は持ってなかったのか……っ!!


 どうやったらーー


『まあいのそとからこうげきできんだよっ!!!』



 っ!? なっ、なんだ!? 頭の中に声が……!



『うるっさいわねー、そんなのカイルが魔力コントロール下手なだけでしょ? そんなんでいちいちムキになんないの』


 この声……もしかしてねぇの声か?


『リュウセイのばかがいっちょうまえに刀なんか持つからやり辛いんだよっ! 負けっぱなしはゴメンだ! ちょっとぐらい教えてくれたっていいじゃんかこのバカねぇ!!』


 っ!! バカっ、やめろっ!!!


『へぇー……そんなこと言うんだぁ~。カイルが、あたしに、バカですってぇ?

いいわよ。そんなに知りたいんなら教えてあげるわよ……。その身体にたたき込んであげるから……覚悟しなさい?』


 背筋が一瞬凍った気がしたけど、多分気のせいだ……っ! これはただの記憶。ビビることなんてない、ビビることなんて……


『これなら魔力コントロールが下手でも出来るし、簡単よねぇ♪ 魔力のロスは大きいけど……ま、アンタや●●●くらいバカ魔力があれば使えるでしょ。

さぁ、身体で覚えなさいっ!!』


 ウッ……ナゼか腹の辺りがスゲー痛い。ちょっとは手加減しろよバカねぇ

でも、これなら……



「逃げるのが好きなヤツらだな……言っているだろう、逃しはしない、と。闇属性持ちがこの街にいるのは気付いてたが……まさかこんなゴミと行動を共にしていたとは。余計な手間を取らせおって」



 ちょうど二十メートル離れた距離にある倒壊した家から、ウィルが憎々しげに罵る。



「言ってろよ。ユナの魔法すら突破出来ない‘負け犬’に、なに言われたって何とも思わねーな」


「口だけは達者だな。そんな戯れ言は、この四本の鞭を攻略してから言うがいいっ!!」



 ウィルはカイルの方向に大きくジャンプし、空中で四本の鞭を振るう。正確無比な四本の鞭がタイミングを少しずつズラしてカイルに向かってくる。カイルは慌てず、クリスタルをコイントスでもするかのように親指で弾いた。


 左手を前に右手を腰にあて、拳とクリスタルとウィル、それらが一直線上に重なったとき、クリスタルに思いっきり魔力を込めた。

赤い光が放たれ、具現化しきれず、漏れだした魔力が陽炎のように揺らめく。

そしてそのはち切れんばかりの魔力を内包し、炎へと変換している最中のクリスタルを……カイルは右の拳で一思いに打ち抜く!



「クリスタルバレット!!!」



 カイルの拳に砕けるクリスタル。すると砕けたクリスタルが爆炎を放ち、ウィルに向かって伸びていくではないか!


 先程とは比べ物にならない威力の炎、空中のウィルは避けることも出来ず、四本の鞭で防御するが、その防御をいとも容易く突き破って、爆炎がウィルを捉える。



「ぬああぁあっ!!!!!」



 まともに食らったウィルは屋上に落ちていく。

そのまま屋上にぶつかるかと思われたが、空中でなんとか一回転して、着地する。服が焦げて、その下の体も少し火傷している。ダメージとしては十分効果があったようだ。



「魔法の密度が薄すぎるんだな。魔力コントロールは上手くても、それじゃあ俺の攻撃は防げないぜ」


「だまれっ!! っ……ハァ……! 貴様の攻撃なぞ………私には効かんっ」


「そうかよ。ならもう一発だっ!!!


 クリスタルバレット!!!」



 クリスタルを弾き、再び砕く。溢れる爆炎は真っ直ぐに伸びていくが、ウィルはその炎が飛んでくるや否や、大きく横に飛んで回避する。



「フッ……そんな、直線的な攻撃が……私に……二度も……通じると……思うなよ……」


「ど、どうするんですか、カイルさん? ま、まだクリスタルはあるんですよね?」



 ユナが声を小さくし、不安そうに確認する。



「ないな。クリスタルはもうない」


「なっ!? じゃあどうするんですか!??」



 ユナは焦る。クリスタルも魔具すらないこの状況では勝ち目などあるはずがないのに。

先程の技は確かに高威力だったが、その代償にクリスタルを一つ消費してしまう。



――魔具が届く可能性はないでしょう……きっと人の良いカイルさんのことですから口車に乗せられて、囮にされたんです。どうしましょう……このままじゃ、カイルさんが殺されて……わたしは捕まってしまいます。

正体・・を明かす訳にはいきません。

でも……このまま逃げるなんて……。



 実はカイルは無闇にクリスタルを使いきったわけではない。聞こえていたのだ。いや、今も聞こえている。


 タッタッ、と地面を蹴る音が。

聞こえもしないはずの小さなその音が、最初のクリスタルバレットを放ったときから聞こえていたのだ。



「クリスタルを砕き、その爆発のエネルギーを攻撃に使うとは予想外だったが……ハッ。

墓穴を掘ったな。もう貴様に戦う手段はーー」


「待たせたな!!! カイル!!!!」



 ウィルの言葉を遮り、ジャックが屋上に駆け上がってきた。先程から聞こえていた足音の主は手を大きく上に突き上げた。カイルに見せ付けるように持ち上げられたその手には二つのピンポン玉サイズの物が握られていた。



――えっ!?? まさか本当に魔具を??

でも……あれが魔具??



「受け取れやぁあああ!!!!」



 その二つのピンポン玉を、ジャックはカイルに向かって投げつけた。パシッ、と効果音を出してそれを受け取るカイル。



――魔具ってどうやって使うんだっけ?



 受け取った瞬間にその考えに至ってしまったカイル。冷や汗が、流れる。



「おい、ジャック……これどうやっーー」


「細かい説明はないっ!! クリスタルと同じ要領で思いっきり魔力を注ぎ込めっ!!」


「聞けよ人の話!! まぁ、いっか……逆転開始だ!!!」



 カイルはいつも通りに炎を出そうとするが、溢れ出る炎はいつも通りでは済まなかった。カイルが包まれるだけでは飽きたらず、炎は両手から球状に広がっている。大きさはウィルの出す鞭が霞んで見えるほど……とだけ言っておこう。



「すげぇ……」



 カイルは感嘆の声を漏らす。

まさか魔具一つでここまで変わるものだとは思いもしなかった。

原石で戦っていた無謀さを改めて思い知らされる。



「すごいです……」


「なんだ……あの炎は……」



 ユナ、ウィルがカイルの炎を見てそれぞれ驚く。ユナは口を手で押さえて、ウィルは目を見開いている。ジャックだけが得心して、満足気な笑みを浮かべていた。



「カイル! それやったらただでかいだけや!

なんも威力なんかあらへんで! 魔力の密度上げてもっと小さくせぇ!!」



 ジャックの言葉に、カイルは密度上げるってどうやるんだっけ? と考えたが、身体で覚えていたのか、意識するとすぐに小さくなった。いつも通りの大きさになるが、その炎はクリスタルで出していた炎とは別物だった。


 その証拠に、先程までなんともなかったのにユナ達は少し汗ばんでいる。魔力の密度があがったため、その炎が現実に近い性質を持ったのだ。



――いける……!



 グッ……と魔具を握りしめ、カイルは闘志を漲らせた。



「さぁ、ウィル……決着つけようぜ」



 カイルはウィルの方を向き、戦闘体勢に入る。ウィルはカイルを驚きの表情で見ていたが、もうその顔にその表情はない。

その顔に浮かぶのは、余裕でも、歪みでもなく、焦りだった。



「舐めるなよ……これで勝った気になるのは大間違いだ。見せてやる、前回の大反乱で猛威を振るったわが秘技……。



 三股の鞭トライデント・ウィップ



 ウィルの鞭が三股になり、合計六本の鞭が攻撃体勢に入る。


 カイルとウィルが睨み合う。先に動いたのは再びカイル。初めと同じく真っ正面からの突撃、ウィルは六本の鞭を自由自在に操り、カイルを狙うが、その全てがカイルの炎に砕かれる。向かってくる鞭を次から次へと殴り飛ばし、砕いていくその様にウィルは驚愕する。

そしてカイルは止まらない。あっと言う間にウィルの目の前に到着した。



 腰を大きく捻り、足を地面に根を張るように固定し、両手とも腰の位置に置いて、溜める。

勝敗を決する一撃を。必殺の威力を持つ一撃を。

カイルの勝利を決める一撃を今! 解き放つ!



「よーく、覚えとけ。有翼族のカイルって名前を。

そして伝えろ! 帝王に!!!

厄介なヤツが敵になったってなぁ!!!!」



 腰の捻りの勢いと共に、右手が鳩尾を、左手が丹田を正確に打ち抜く。打撃と同時にウィルは衝撃の方向へ吹き飛んでいくが、カイルの攻撃はまだ止まない。拳のインパクトと同時に、纏わせている炎が荒々しく燃え上がって地面に対して平行に炎柱が延びる。

前方向に延びる炎柱が、吹き飛ぶウィルを追撃する。



「フレイムバースト!!!!」



 炎柱が服を焼き払いその下の肉が焦げる音がする。ウィルは大きく後ろに吹っ飛び、四つ程、家を跨いでその次の屋根に激突する。

上半身の胴体部分の服は焼けて跡形もない。露になった体も鳩尾とへその下の丹田の部分を中心に黒く焦げている。


 火傷による痛みか、殴られた衝撃かは不明だが、ウィルは白目を剥き、指先がピクピクと動き、完全に気絶していた。



 そう、カイルは勝ったのだ。帝国の部隊長相手を相手取り、見事勝利を掴み取ってみせた。








「ふぃ~~~、なんかすげぇ疲れた……」



 カイルは数秒前の戦闘など、どこ吹く風で呟くとその場にへたりこんでしまう。

その顔は疲労を写していたが、どことなく嬉しそうだった。



「カイルさん……凄いんですね……。部隊長のウィルをあんなにもあっさり倒すなんて…」


「まぁ、当然やろ。アイツは珍しい二属性デュアルやけど、魔力の密度がうっすいねん。他の部隊長に比べたら最ッ弱やしな」



 ユナとジャックがそれぞれの感想を述べつつカイルに歩み寄る。思い思いの感情はあるだろうが、今は二人とも笑顔だった。



「カイルさん……あの……」



 ユナが下を向きつつ、手を腰の前で組む。



――何を話せばいいんでしょう。昨日のことは謝らないといけませんし……、でも、お説教もしないと。

でも。やっぱり、






「ありがとうございました!!!」



 これが一番ですっ!!!



「気にすんなっ。これから二人で旅をするんだから……さ。楽にいこうぜ!!」


「はいっ!!」



 二人は笑い合う、ユナの顔からは疑いの理性が消え純粋な彼女自身の笑顔が光る。



「ちょぉい、待ちぃカイル。二人やと?

何言うてんねん。三人やろうが」


「「えっ?」」


「何を驚いとんねん。ワイも付いてくって言うてんねんからもっと喜びーや」


「いや……でもそのっ……」



 ユナの心に一瞬消えたハズの理性が現れそうになる。魔具を持ってきたジャックを少しは信じてもいいかな、と思ったが、流石に旅を共にするとなると疑いの心が出てくる。

それでも少しは信じたい気持ちもあったので、結果としてユナは上手く喋れなくなってしまった。



「大丈夫や。ワイは役に立つ。


 ワイは〝魔具職人〟や。


 カイルのその魔具もさっき即興で作ったやつや。腕は見ての通り、後でちゃんとした魔具にする。

な? 頼むわ。あんたらとおるとワイも心置きなく魔具が作れんねん」


「いやっ……あの…そーゆう……訳じゃ……」


「ん? ならどーいう訳や?」


「え、ええっと……」


「それはだなジャック、お前が俺達の仲間っていう証明をしてもらわないと、ダメだってことだよ」



 カイルがジャックを見て、満面の笑みを浮かべる。それを見たジャックの顔は引きつり、口が片方だけ不自然につり上がった。



「ちょぉ……カイル……お前……」


「何をしたらいいのか……分かるよな?」



 カイルが益々笑顔になる。益々ジャックも引きつるが………



「あーーーーっ!!! もう!!!

分かったわ!! やればいいんやろやればっ!!」



 叫んだジャックはウィルの倒れているところまで屋根を伝って進む。未だ意識の戻らないウィルの所に到着するとウィルの腕時計を弄り始めた。



キィーーーーッン



『ワイは小人族ドワーフのジャック・ドンドンやっ! この街の下っ端帝国兵ども!

お前らの隊長なんてワイとカイルでボッコボコにしたったわっ! ザマーみさらせっ!!


 んで、ワイは絶対にお前ら帝国兵の為に魔具は作らんからなっ! ワイはカイルに付いていく! 覚えとけよっ! 

前回の大反乱の(・・・・・・・)魔具職人部隊隊長(・・・・・・・・)、ジャック・ドンドンはもっかい帝国の敵になったからなっ!!!!』



 ジャックが放送を終え、ウィルの武器を拝借して戻ってくる。一芝居うってやった、良い仕事した、そんな顔である。先程の自棄になって叫んだのは誰だかすっかり忘れているようだ。



「これでええか?」


「は……はいっ! これから……よろしくお願いしますジャックさん!!」



 カイルと同じくあっさりと帝国を敵に回したジャックをユナはカイル同様に信じることにした。ジャックに向ける笑顔も心からの笑顔だ。



「全く難儀なもんやなー……闇属性なんてもんは」


「ってかジャック、魔具職人部隊隊長ってなんだよ? 初耳だぞ?」



 カイルはジャックの放送での疑問を口にする。前回の大反乱とは今から約五年前に始まり、二年前に終わった三年間にも及ぶ大規模なものだ。当時のリーダーの男は帝王に匹敵する強さを持っていたと言われていたが、その男も二年前、反乱に失敗したことで死んだとされている。

そしてこの反乱の終わりと同時に帝国には逆らえないという不文律が生まれ当時の幹部は全員捕まったとされていたのだが……



「フッフッフ……驚いたかっ!!


 まぁ、これから仲間になるやし、ワイの過去話も交えつつ話したるわ。


 そもそも小人族(ドワーフ)っちゅう種族は生粋の魔具職人の種族や。ひたすらに有能な魔具を作る。それだけを生き甲斐とする種族やから、種族選別の時もあっさり帝国についた。

ワイも帝国の設立当初はただただ武器を作っとればええから、満足しててんけど……まぁ、あるきっかけがあって、帝国の為に武器を作るのが嫌になってん。


 それからワイは自分で認めた奴にしか魔具は作らんことにした。自分で自分に誓ったんや。そこで出会ったんが、前回の反乱軍の奴等でな。

まぁー、気持ちのええ連中やったよ。

自分の望んだ相手に魔具を作れて調子乗ってたら、いつの間にか魔具職人部隊隊長になってましたとさ。


 ちゃんちゃん」



 何故か、昔話風に話を終えるジャック。昔話なのだろうが、もう少し真面目に話せないものなのだろうか。

しかも話の至るところが省略されていた。



「ジャックさん……話まとめすぎじゃないですか?」


「そないなこと言われてもカイルに詳しい話なんてして理解出来るんか?」


「あ、多分無理ですね」


「やんなっ! いやー、ユナちゃんとは気が合いそうやわ!!」



 ジャックの言葉にピクッと体を震わせるユナ。



「私……今年で十八歳なんですけど〝ちゃん〟付けなんですか……」



 あからさまに落ち込んでいる。ユナは美形なのだが、雰囲気が幼いうえに身長もやや小さめで、胸のあたりはなだらかな丘のようなので、子供扱いされやすいのだ。



「うっそ!! ワイとおんなじ年齢タメなん!!?

てっきり十四歳くらいやと……」


「ぅぅ……良いですよ……どーせわたしは胸も小さいし、身長も小さいですよ……」



 ユナが消え入りそうな声で拗ね始める。



「一言目はともかく、身長が小さいってワイの前で言う……?」


「ともかくって言いましたね!? ひどいですっ!!」


「しまった! ユナちゃんが貧乳やってことを気負わんようにしたつもりやったのに!!」


「~~~~!!!」



 ジャックの貧乳という言葉に顔を真っ赤にして今度こそ拗ねてしまう。

地面にのの字を書き、ズーンという効果音が聞こえそうだ。貧乳……貧乳……と呟く声が聞こえるが、これもきっと気のせいだろう。



「そない落ち込みなや……。ってか、カイル静かやな。何やってんねんおま……って寝とるっ!!?」



 カイルは屋上に大の字で寝転がり、スースーと口から寝息を立てて寝ている。


 実を言うと、ジャックの話の途中から寝ていた。


 普段ならなんとかギリギリ起きていただろうが、戦闘の後のためグッスリだった。



「ったく、こんなんでこの先大丈夫かいな」



 新たな仲間の方を見るとユナはのの字を地面に書き続け、カイルはグッスリ。




 ジャックは頭が痛くなった。













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