第四十二話―ジャックとアイリーン
「失敗……ね」
マリンがはぁ、と息をこぼした。
「すいません……」
「ユナちゃんのせいやない。あれは……あーするしか無かったんや……」
気落ちするユナにジャックは慰めの声をかける。ジャックの声にも、あまり元気はなかったが。
「では……本当にスミレは……?」
「裏切ってねぇ!!」
だんっ! リュウセイが机を手のひらで叩く。
「「いちいち叫ばないの。あんたがスミレちゃんを信頼してるのはもう十分過ぎるくらい分かったから。ちょっと静かにしときなさい」」
遅ればせながら場所はリビングルーム。
行われているのは、その後ちゃんと合流することができたジャックらによる報告である。
この場に居るのはカイルたち六人とディアスたち三人の計九名だ。ザフラはまだ眠っている。
「本当のところはどうなの? ジャック君、見てきたことを教えてくれるかしら」
「……ょやった……」
「え?」
「ザフラが言ってたんと全く一緒やった……スミレちゃんは……変わっとった……」
ジャックは俯き、顔を上げないままぼそぼそと呟く。ジャックはクレアの顔をまともに見れなかった。
「では……スミレは本当に……うら「裏切ってねぇ」
ディアスの言葉にリュウセイが被せる。怒気を孕んだ声と目がディアスに向けられる。その様子を見たマリンとフィーナは再び深く息を落とした。
「あ、あの……ジャックさん……」
ユナがおずおずと言った感じに声を上げる。
「ん? どうしたんユナちゃん?」
「大丈夫……ですか?」
「……は?」
きょとん、とした表情をするジャック。一方のユナの顔は真剣そのものだ。
「エレナ……って人。ジャックさんの妹なんですよね」
「あ、ぁぁ……そういうことか……。まぁ、大丈夫……かな?」
疑問系で答えるが、それは間違いなく反対のことを意味していた。
「大丈夫じゃないんですね……」
「……正直、いっぱいいっぱいや。スミレちゃんのことにエレナのこと、脱出も仲間集めるのも考えなアカン。
手ぇ回さなアカンことが多すぎて、どうにかなってまいそうや」
「はぁーっ、ったく……ねぇジャック。
そういうことをユナちゃんは言ってるんじゃないの」
「あんたの心は大丈夫なのかって聞いてるのよ。
……帰ってきてから、ずっと酷い顔してるわよ」
「……そんなに酷い顔してるか?」
「「そりゃもう」」
二人は頷く。実際、ジャックの異変は誰でも分かる程、大きなものだった。気落ちの度合いが普通ではない。今まで誰も聞かなかったのはタイミングを計っていただけにすぎない。
「聞かせなさいよ」
「あんたの話を」
「「何もかも全部ね」」
強い口調で二人は言う。
だが、逆にその言い方がジャックにはありがたかった。
自分が楽になる為に話すのではなく、強制されたから話すのだ。
そんな理由ではあったけど、そんな理由が、ジャックには必要だった。
事情を知ってるディアスとクレアの方を見ると、二人とも黙って頷いていた。
――いつかは話そう思っとったけど……まさかこのタイミングになるとはな……
マリンさんもフィーナさんも、ワイのことを分かって、強制するように言うてくれた。ワイが話しやすいようにしてくれた。
やから……話そう。これは知ってもらわなアカンことや――
「……あれは……今から五年前くらいの話や。ゲンスイが反乱軍を創って、そんでワイがまだ……帝国軍におったころの話、どうしようもないほどアホで、間抜け晒しとった……ワイの話や――」
――――――――――――――――――――
「っひょーー、豪華やなぁ! ここがワイの部屋か!?」
「せや。ここがお前の部屋や。後で魔具作るための機材も持ってこさせるから、ま、しばらくはゆっくりしとけや」
「おうっ! んなら図面でも引いとくわ!!」
「空き時間まで魔具のことか。ホンマにお前は魔具バカやなぁ。こら、お前の代で〝遥かなる魔具の高み〟へ行けるかも知れんな」
「まっかせとけや親父! ワイが最っ強の魔具を作ったるわ!!
〝ドンドン〟の願いやって、ワイが全部叶えたるっ!!」
「はっはっは、それは頼もしいな。しっかり励むんやぞ?
俺はこれから、ここの隊長さんと話があるからな。
これから一年、ここで過ごすんや。小人族らしく、頑張れや」
「おうっ!!」
そう言ってジャックの父は部屋から出ていく。
ジャックは早速、持ってきた荷物の中からペンと紙を取りだし、机に向かって図面を引き始めた。
この部屋は豪華な装飾が施され、一国の城にいるような心地のする快適な部屋だ。
だが、天窓は一つしかなく、そこから明かりが入ってくることもない。
それはジャックのいるこの場所が常に光の差すことがない、常闇の地であり、腐乱臭が広がり、死体の山がそびえる地、帝国実験場だからである。
そして、この部屋は、後にスミレが使うことになる部屋でもあった。
――ふふふふふ~ん。さぁーて、今日はどないな魔具をつくろっかなぁ?
いやぁ、毎度のことやけどこの……図面を引くときはたまらんなぁ。何回やってもワクワクが止まらへん。
どんな形状の魔具にするか?
ワイはこの話題だけで五時間は悩めるわ。形状言うても色々あるからな。
オーソドックスな腕輪タイプ。
ちょっと玄人向けなハルバード。
難易度が鬼畜なマリオネット。
もちろんこれだけやないけどな。
刀にナックルに斧、双剣、杖、槍、棒、鎌、モーニングスター、槌、剣、大剣、鎖鎌、ベルト、鎧、カギヅメ、弓、ブーメラン、クロスボウ……
楽しいなぁ! 無限にもある選択肢の中からたった一つを選ぶこの快感!!
やっぱり、魔具作りは最高やな!!
「おにぃ~~ちゃん♪」
「ん、おぉーエレナか」
入って来たんはエレナ。ワイのかわええ妹や。
まだ伸びきってない身体は八十センチくらい。
子供っぽいショートボブやけど、まぁ、子供やからな、似合っとるわ。
「えへへぇ~、来ちゃった♪」
「なんや、もう寂しくなったんか?」
「やって~、あんな広い部屋におれって言われてもー、やることなんかないやんかぁ~」
「いや、図面引くとかあるやろ」
ちょうど今ワイがやってるみたいにな。
「一人でやるより二人の方が楽しいやんっ」
エレナは満面の笑みで図面のセットを見せ付ける。
あー、なるほど、そういうことか、せやったらしゃーないな。
「しゃーないなぁ。ほら、机半分空けたるから」
「やった♪」
一人でやるよりは二人でやった方がええし、エレナもまだ小さいけど技術はもう里の奴等と変わらん。
おって助かることはあっても、邪魔になることはないやろ………
「や~~~か~~らぁ~~!!
ここは絶対〝紅蓮石〟と〝ヴォルロクス〟を使うべきやろ!!」
「ち~~がぁ~~~ぅーーー!!
ここはずぅえ~~~~~~~~ったい!!
〝ドラゴンの胃石〟と〝フレイムドラゴン〟を使うべきっ!!!」
「いやいや、何があっても〝紅蓮石〟と〝ヴォルロクス〟やっ!!
ええか、よく聞けよ。
ヴォルロクスは火山の火口、つまり溶岩の中で生活する火属性では有名な魚型モンスターや。
んで、こいつはよく紅蓮石を食べて魔力を補充する習性があんねん。
ゆえにヴォルロクスと紅蓮石の相性はバツグン!
さらにさらにヴォルロクスの【能力】は【魔力喰い】
魔力を吸収し、自分のものとする【能力】や。
戦闘においてこれほど役に立つもんがあるか?
いや、ないやろ」
「いやいや、何があっても絶対に〝ドラゴンの胃石〟と〝フレイムドラゴン〟!!
よく聞きやお兄ちゃん。
ドラゴンって言うんはあらゆるモンスターの中でも最上位に位置するモンスターやで?
ヴォルロクスみたいな魚とは格が違うねん格が。
それにドラゴンの胃石はドラゴンの体内で生成される魔力鉱石や。
ゆえに、その相性はカンペキ!!
ヴォルロクスと紅蓮石なんかよりずっと相性がええねん!!
さらにさらにドラゴンの代名詞とも言われる【息吹】。
圧倒的な破壊力を秘めたこの光線にまさる攻撃がある?
いや、ないわ」
「なんでもかんでも強いモンスターの素材くっつけたらええわけやないねん!!
ワイの再現率やったらエレナが再現した【息吹】くらい簡単に切り裂けるくらいの【魔力喰い】を作れるわ!!」
「お兄ちゃんこそ!!
全部が全部再現しきれるわけやないねんで!?
せやったら元のモンスターがどれだけ強いかっていうのは大切なことやん!!
【能力】ばっかに気をとられてそんなこともわっかんないの!?」
「なんやと!!」
「なんや!!」
むむむむむむむむ……
エレナはなんっも分かってないな!!
なんでもかんでも強いモンスターくっつけるだけでええ魔具が作れるんやったら苦労せぇへんやろ!!
「もういい! 一人で作るわっ! 絶対に吠え面かかせたる!!」
「おぅおぅ、帰れ帰れ。ワイはエレナなんかには絶対に負けへんからなっ!!」
「「ふんっ!!!」」
ばたん! と、乱暴にドアを開けてエレナは部屋から出ていった。
やっと静かになったわ。せいせいする。
さて、途中やった図面でも引き直すかな。
ふむ……いや、待てよ……何かビビッと来たで。消耗型の魔具っつーんはどうやろか?
弓の魔具の矢を全部魔具に出来たらかなり凄いもんが出来るんやないか?
いやいや、そんなちっちゃいもんやなくて……槍とか……いや、銛やな。
銛型の消耗型の魔具。
長く使い続けるんやなくて、一回こっきり投げたら終いの魔具。
モンスターとの戦いで使えそうやな。
銛の先端には返しを付けて抜けへんようにするやろ?
そんで……【幻覚】系統の【能力】をつけたら簡単に幻を見せれるんやないか?
火属性の魔具やったらさらに身体も焼ける……何本も何本も投げ付けたらモンスター討伐がグッと楽になりそうやな。
「よし、書こ」
そうと決めたら善は急げや。アイデアが浮かんだら消えへんうちにすぐに図面におこすんがワイのポリシーや。
ふんふふんふふーん。
あ、素材はどないしよ。
ヴォルロクスは【魔力喰い】やからアカ……いや、アリか。
せやな。
消耗型の魔具やねんから色んな種類の作ったらええやん。
【幻覚】、【麻痺】、【毒】系統の種類のも使えそうやな。
先にじゃあ、基本の形を書いといて……それから自由にモンスターと魔力鉱石を組み替えていけば……おぉーっ!!
えぇやんえぇやん!!
手間はかからず性能はいい!!
これは使えるな。後で親父にも見てもらわな。
じゃあ見せるためにさっさと図面引くかなー……
お、ここはこうした方が良さそうやな……
あ、この装飾かっこええやん。
はぁ……この位置の火のクリスタル……ええわぁ……
んー、ちょい修正いれなアカンな……
あーーっ!! 術式ミスっとる!!
ふう、もうちょいやな………
っし!! 出来たで!!!
「おう、出来たか」
「はひょいっ!!」
って親父か! いきなり声かけんなや!
変な声出てもうたやないか!!
なんやねん、はひょいっ!! って!!!!
「親父……」
「集中してるようやったから見させてもろたわ。
数による物量攻めの魔具……ええもん見せてもろたわ」
いつから見とってん………。はぁ。
「んーで、何かあったん?」
確か、ここの隊長さんと話があるんやなかったか?
えーと……ダンノスケ? ダンダン? ……違うな……まーえっか。
親父がここに来たってことは何かワイに用事がある時のはずやねんけど……ワイ何かやったか?
「あぁ、これからこの帝国実験場を見て回ることになったからな、お前も次期族長としてついて来い。これも仕事や」
「あいよ」
悪いことしたわけやなかってんな。ちょっと身構えてもうたわ。
――――――――――――――――――――
「ここが実験塔中層部、魔力増強実験の場でございます。グロック様、ジャック様」
「おう、ご苦労さん」
ここは色んな実験やってんねんなぁ。
今ワイらが来てる場所は魔力を無理矢理に人体に流してより強力な魔力を得るための実験施設や。
結構な設備やけど、あんま成果は出てへんみたいやな。
多くの人間が流される魔力に耐えきれずに〝壊れる〟んやって。
稀に耐えたやつは【洗脳】とか精神操作系の【能力】を使って隊長さんの私兵にするんやと。
普通の帝国兵と違って隊長さんと同じような忍装束を来てる人がそうらしい。
案内してくれる人もそうみたいやな。
「どうや、ジャック?」
「どうって言われてもなー」
人体に関してはそこまで詳しい訳やないねんけどなー……
「まぁ、強いて言うならあれやな、効率が悪いわ」
「ほぉ」
「一回成功例が出たからって設備の改造を止めてもうてるやん?
もったいないわ。過去のデータとか参照にしたらいくらでも改良の余地があるやろうに……なんでせえへんの?」
「それは、この施設の力の入れてる所が違うからでございます。この実験場は、色んな実験を行っております。
ですが、一番力を入れているのは魔力ではなくて【能力】なのでございます。
ですから、モンスターの【能力】臨床実験、亜人族の【能力】開発に力をいれておりますので、この魔力増強実験にはあまり力を入れていないのです」
「ふーん、でもパッと見ただけやけど、ワイでも改良出来る箇所は何個か見つけたで?
そんなんもする余裕ないん?」
「いえ、実験班の話からすると改良の余地なし、との報告でしたので、手を付けておりません。
ですので、改良の余地はないと存じます」
「いやいや、ワイでも分かる箇所があるって、改良の余地がないことなんかあらへんよ」
「しかし……」
「じゃあジャック。お前後でこの設備の図面持っていかせるから改良案書いて俺のとこに持ってこい。
出来る言うんやったらやってみせぇ」
「あいよ。んじゃ過去のデータも一緒に持ってきてくれ。それがあったら、もっと分かりやすいから」
「だ、そうだ」
「畏まりました」
あ、しもた。
仕事増やしてもうたやん。やってもうたー……。
別にこんなん放っておいて魔具作っとけばよかったわ………
案内さんがデータを取りに移動する。
ワイと親父は連れ添って適当に見て回ることにした。
「流石やな、ジャック。〝ドンドン〟に並ぶかもしれないとまで噂されることはあるやんけ。
俺も鼻が高いわ」
「まっ、ワイくらいになればこれくらいは当然やなっ!!」
ドンドンかぁ……ワイのご先祖様と比べられたらまだまだ若輩やけど、いつか絶対ドンドンの子孫のジャック、やなくてジャックの祖先ドンドンって言わせたるからな!!
「そこでや。そんな優秀なお前に見合い話がきとる」
「うぇ?」
みあい? なんのこっちゃ?
「結婚したいっちゅーこっちゃ。お前はもう十三やからな。まぁ、前からその話はあったんやが……まだ若い言うて突っぱねとったんや。
やけど、そろそろ真剣に考えなアカン時期や。
既に小人族随一の腕前となっとるお前に里のモンも期待しとんねん。その腕にあやかろうと女どもが必死になっとるわ」
「うわぁ……なんそれ……」
「今のお前やったらよりどりみどりやぞ? どないすんねん?」
「どないすんねん言われてもな……ワイ、今まで魔具のことしかやってきてへんから……女やとか急に言われても分からん。正直女とかあんまキョーミないしな。魔具の方が魅力的やで」
親父が急に立ち止まった。手で大きく天を仰いでやってもうた……みたいな顔になっとる。
ワイ……何かやったか?
「やらかしたな……俺の英才教育が仇となったか……魔具に関しては問題なく一流やっちゅうのに……どないしたもんか……」
何かぶつぶつ言うとるで。
おー、あそこの魔力増強実験失敗しそうやなー……お、あそこの奴は成功しそうや。
「ジャック」
「んあ?」
「今晩、お前のトコに女送るからとりあえず抱け。抱いとけばなんか変わるやろ」
「あいよ」
あ、また安請け合いしてもーた……また魔具作りの時間がなくなるやんか……――
――――――――――――――――――――
「入るぞ」
その日の夜、親父は宣言通り女を連れてきた。
「帝国の成立当初、帝国に歯向かい、ここに捕まった奴や。もう無くなったどっかの国の貴族らしいわ。胸よし、顔よし、好きに抱けや」
親父はそう言い残して部屋から出ていった。
残されたのはワイと一人の女。
白味がかった桃色の髪。
胸の辺りまで伸びる髪はまるで光を反射する水面のように清らかな光を放つ。
薄い眉にワイを睨む鋭い目は濃い緑。
肌は白く、口も薄い。
全体的なイメージでいうとまさに〝気の強い貴族様〟やな。
親父の言うように〝顔よし〟なんやと思う。
それから胸。でかい。〝胸よし〟以上。
髪型に合うようにデザインされた白いドレスで胸がさらに際立ち、ドレスに着られることもなく、着こなすその様は威厳があった。
それから、首には首輪型の魔具。
【弛緩】の【能力】がついてるあれは魔力の低いやつに対してはまさに隷属の首輪ってとこか。
「ふん、性欲にまみれ、人としての道理さえ失った豚め。こうして街を移動する度に街の娘どもを手にかけてきたのだろう。
ゴミめ。人間のクズが。
同じ空気を吸うのも汚らわしい。
少しでも私の身体に触れてみろ。貴様の喉笛を噛みきってやる」
「あー、多分そーいうの無理やと思うで、その首輪をつけられたら、あんたみたいな魔力の低い奴は攻撃しようと思っても筋肉に力が入れへんくなる。
普段の筋肉は問題なく作用するけどな」
「関係ない。近寄るな豚」
「話が通じへん……」
「私はアイリーン・フェニキア・オストラシズム。
フェニキア家長女にしてオストラシズム皇国の公爵家の一つ。
いずれ、必ず皇国を復興させ、生きていることを後悔するほどの苦痛を与えてやる。
腹を裂き、皮を剥ぎ、目を抉り、腸を引きずり出し、鼻を潰し、肉を削ぎ、耳を落とし、歯を壊し、口を焼き、ありとあらゆる拷問の限りを尽くして、今まで死んでいった者どもの恨み、憎しみを味あわせてやる。
さぁ、名乗れ。その名を私の胸に刻み、今までの豚どもと同じように血祭りにあげてやる」
「それ聞いて名乗るやつおるんか……?」
「名乗らないつもりか、快楽を貪り、臆病なことこの上無いな。
誇りの欠片もない下劣な豚よ。貴様など、名も知らぬまま滅してくれる」
「どっちでもアカンやん……」
なんや、知らんけどワイすっごい恨まれてるなぁ……、この子抱かれる度にこの台詞言うてんのか?
めんどくさいやつやな……
「ジャック・ドンドン。ワイの名前や」
名乗るくらいやったらええやろ。
ってか名乗らんかったらずっと罵られそうやわ……。
「一度決めた考えを曲げるなど、軟弱な豚だな。
殺戮兵器を作りし、小人族の軟弱ジャック。
しかとこの胸に刻み込んだ。然るべき裁きの日まで、私の影に怯えるがいい」
あ、名乗っても罵るねんな。
「まぁ、ワイもどうでもええねんけど……仕事やからな……とりあえず……抱くで」
「仕事だと言い張る豚など始めてだ。内心は醜悪な性欲の嵐のクセに。表面だけ善人ぶって、満足か。
私の身体は蹂躙されども、私の魂は決して屈しないぞ。死ね。死んでしまえ。この豚め」
物凄い罵ってくるな……ワイは早く済ませて魔具作りたいっちゅーのに……
「くっ!! 触るなっ!! 卑猥な豚め!!
私は決して屈しないぞ!!
私はアイリーン・フェニキア・オストラシズム!!
その高貴なる魂は貴様などに――」
こうして、ワイは初めて女を抱いた。
「っしゃあ!! もうええやろ! さぁ魔具作るぞー!!」
親父から大体平均は一時間程度って聞いてたからな、ワイもそれに倣って一時間ピッタリ抱いたわ。
にしても、初めの方はアイリーンもごちゃごちゃ言うてたのに途中から急に静かになったな……どうでもええけど。
今はとにかく魔具や! 改良案も終わってるし、さぁ思う存分作るで!!
「おい、貴様……一体何の真似だ……!」
おおう、良いところで邪魔してきよるなぁ……っいうかうーん……
「何の真似って……何が?」
「とぼけるな!!!!!」
怒鳴られた……。すごい迫力や………ちょっと怖いかも。ちょっとだけ。
「何故、一時間もの間私を〝抱き〟続けた!?」
「いや、初めに抱くで……って言うたやん」
「そうではないだろう!?
何故ずっと〝抱き締め〟ていたのかと聞いている!!」
「親父が平均は大体一時間やぞって、言うてたから」
「だからそれは……」
静かに……なった?
急に考え込むみたいに頭抱えて……
今のうちに魔具作ってええかなー。
「おい、貴様」
また止められた……
「抱く、とはどういう意味だ?」
???
一体何を聞きたいんか分からんぞ?
「さっきみたいに、手を後ろに回して身体と身体を密着させることやろ?」
「……では抱き締める」
「?? おんなじ意味やろ?」
「……ハグ」
「何か違いでもあんの?」
「……こういうことか……」
なんや勝手に納得したな。
「なー、ワイもう魔具作っていいー?」
「好きにしろ。無知な豚」
「いよっしゃぁ!!」
やっとや……!
やっと魔具に取りかかれるで……!!
フヘヘヘヘヘヘヘ、次はどれにしよっかなー………〝ヴォルロクス〟と〝紅蓮石〟でとりあえず一本作ったからぁ……フヘヘヘヘヘヘヘ、笑いが止まらんで……――
――この夜が始まりやった。
ワイに対して毒舌の限りを尽くすアイリーン。
ワイも魔具作ってたからアイリーンのことは気にも止めてなかった。
親父に言われるがまま、毎晩アイリーンを〝抱き〟続けた。
一時間くらいな。
それだけの存在やった。
今は……まだ――