表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
CAIL~英雄の歩んだ軌跡~  作者: こしあん
第二章~絶望の帝国実験場~
30/157

第二十九話―帝国実験場へ飛べ!

 






 


「味方を集めましょう」


「味方ー? 何でだよ?」



 フィーナの魔法によって製作された木のテーブルを囲んで六人が座る。

最初の発言は、ユナの料理を食べ終えて、一息ついた所でのマリンのものだ。それに続く気の抜けた返事はカイルである。


 ちなみにここは飛空挺の中ではない。

一応飛空挺の中は生活空間が完備されており、そこで食事をするのも可能なのだが、カイルとリュウセイが捕ってきた食糧が大きすぎて入口でつっかえてしまったため、やむなく外での食事となったのだ。



「何でって……カイルさん……六人で帝国を相手するつもりだったんですか?」


「え? そーじゃねーの?」



 ユナの呆れた質問にカイルは再び気の抜けた返事を返した。



「あんたは……相っ変わらず頭が悪いわね。


 無理に決まってるでしょ。

たった六人じゃ、部隊長は相手に出来ても雑魚がわらわら出てきたら物量で負けちゃうわよ」


「いや……そこで部隊長は相手に出来るって明言するのもおかしいことのはずやねんけどなぁ……」



 ジャックは頬をひきつらせた。

だがその六人の中にジャックも入っていることには気づいていない。



「ハッ! 仮にも相手は一国の軍隊……それを相手にするにゃあ、例え相手がどんだけ弱くても、それなりにまとまった人数を揃えなきゃいけねぇってことか」


「そういうことよ、前回の……ジャックも参加した反乱軍以上に人数は集めた方がいいと思うわ」


「そやなぁー……ワイらん時は人数が少なかったからなぁ……今の自分らほどではないにせよ、少数精鋭みたいな反乱軍やったわ」



 実際ゲンスイが率いた反乱軍の数は五万人だと言われている。帝国軍百万人に比べればかなり心もとない数字だ。


 逆に言えばそれだけの人数で過去最大規模の反乱であったのだ。

反乱軍の個人個人の能力の高さが伺える。

あるいは指揮官が優秀だったのか……きっとどちらも理由に含まれるだろう。


 だが、それではダメなのだ。


 反乱に負けることは死に直結する。前回の反乱を踏襲し、欠点を直して、万全の体制で反乱に臨まなければならない。


 ならば、やるべきことは人数集めであった。

最低ラインは五万人。せめてゲンスイ達と同じところに立たねば反乱など到底成功しない。


 反乱の火蓋は……既に落とされているのだ。



「でも……帝国に逆らおうなんて人……今の世の中にいるんですか?」



 ユナの疑問は正しい。グラエキア大陸に住む人々はもうほとんど悟ってしまっている。


 帝王には……帝国には………勝てないと。

反乱など無意味だとそう悟ってしまっている。



「ジャックの時はどうやって集めたんだ?」


「ワイらん時はなぁー……勝手に集まった……ような気もするなぁ……。始まりはゲンスイらしいねん。


 詳しくは知らんねんけど、帝国兵がスミレちゃんに暴力を振るおうとして……そんで、キレたゲンスイがその帝国兵を切り捨ててー……その勢いのまま当時の部隊長も切ったらしい」



 その時のゲンスイの憤激は凄まじいものだったと言われている。

戦い方こそ“人間”じみていたが、一人称が〝我輩〟になるなど、ほんの少しゲンスイの中の“鬼”が表面に出てくる程であったと伝えられている。



「スミレって誰のこと?」


「あぁ、フィーナさんとマリンさんにはまだ言うてなかったっけか? スミレちゃんはゲンスイの孫でちっちゃい女の子や。


 そんでから闇属性を使えた……らしい」



 ジャックの答えは曖昧であった。

ジャック自身、未だ認めたくはない部分なのだろう。


 スミレが闇属性を持ち、作戦を考えていたなど……



「らしいって……同じ反乱軍だったんじゃないの?」


「それを知ったんが最近やからなぁ……。ゲンスイを疑うわけやないんやけど、どうしても信じがたい部分やわ」


「まぁ、スミレちゃんのことは一旦置いておきましょうよ。それで、それからどうなったんですか?」


「えっとな……そこからは勝手に集まったらしい。

当時はまだ反乱の気運が一部でくすぶってたから、部隊長をあっさり切り捨てたゲンスイに希望を見出だして、気がついたら人が勝手に集まってたとか……」



 五年前の時点で、既に反乱の気概を持つものは少なかった。

だが、腕に覚えのある者はまだ……帝国に対する反抗心を有していたのだ。


 圧倒的な強さを誇るゲンスイの下でなら……戦える。

そう判断した各地の戦士がゲンスイの下に集まったのが、前回の反乱軍の始まりだ。


 そこから、反乱軍の成立を聞き、帝国に虐げられる〝許されざる種族〟や人間達がゲンスイの下に集まり、非戦闘員を含めて五万人という規模の反乱軍が誕生したのである。



「ふーん……でもあのじいさんならよー……そんな勝手に希望を見出だされても迷惑じゃっ、とか言ってさ、集まってきた人達のことを無視しそうだけどな」


「そう言えばそうですね……どうしてなのでしょう?」


「ジャックは何でか知ってる?」


「さぁ……そこまでは……どっかのロリに頼まれたから……とか有り得そうやけどな」


「何よその理由」


「あのですね、ゲンスイさんって実は重度の……その……」


「ロリコンやねん」


「あと、あれだ……ひんにゅ「カイルさん?」あ、いや……何でもない……です」



 急に黒々としたオーラを放つユナに怯えるカイル。

この辺の力関係はもう決定したと言っていい。

ユナに対する禁句はもはやジャックとカイルにとっては若干のトラウマである。












「ハッ! 流石にそんな理由でジジイは反乱なんざ起こしてねぇよ」



 リュウセイが訳知り顔で笑う。口元に軽く笑みを浮かべ、ロリだなんだと話していたジャック達をバカにしているようだ。


 そのリュウセイの顔を見ていると腹が立ってくるのは何故なのだろうか。



「なんやリュウセイ。お前ゲンスイからなんか聞いてんのか」


「あぁ、聞いてるぜ。世間に出てる話はジャックの話で合ってる。

でも実際はな……スミレは帝国兵に暴力なんて振るわれてねぇんだ。


 ジジイが暴れたのはスミレの闇属性が帝国に露見したからだ。

あのジジイはスミレの闇属性の危険性にゃ気づいてなかった。知らなかったとか言ってたな……。

ただの珍しい属性くらいにしか考えてなかったんだ。

それが間違いだと気付いたのはスミレを見る帝国兵の目がおかしかったから……なんだとよ。


 ユナも経験あると思うが……奴等は闇属性を金の塊として見やがる。自分のミスに気付いたジジイは露見してすぐにその街の帝国兵を全員切り捨てて、その情報が出回らないようにした。結果として情報は漏れず、その思惑は成功したって訳だ。


 これでジジイが反乱軍の総大将に担ぎ上げられても文句を言わなかった理由がつくだろ?


 ジジイは許せなかったんだよ。


 スミレが生き辛い社会が……それを作った帝国がな」



 ちなみにゲンスイが切り捨てた帝国兵の中に、部隊長はいた。

しかし、ゲンスイはそれをものともせず、有象無象の帝国兵と一緒くたにして、切ったのだ。



「だから反乱を起こして……国を変えようとしたのね……」


「でもそんな理由で国を敵に回そうと思うかしら?」


「あのジジイにとっちゃそれで十分なのさ、たった一人の孫の為に躊躇ためらいなく……何にだって剣を振れる。それがあのジジイだよ」



 そう締め括るリュウセイ。


 話が一段落ついたのを見てユナがお茶を入れてきます、と席を立った。


 すぐに戻ってきたユナが全員にお茶を配る。

この辺の気づかいは流石ユナ……と言ったところか。

少し湯気が立ち上る湯呑みを口にしたユナによって再び会話が始まる。



「んっ……くぅ……。ふぅ。さっきの話からするとジャックさん達の反乱軍っていうのは勝手に集まったんですよね?」


「せやなー」


「うーん……それじゃああんまり参考にならなかったかも知れないですね……」


「何でだ? 別に参考にすりゃあいーじゃん」


「ハッ! もっとよく考えやがれバカイル。

ジャックん時と今じゃ状況がまるで違うんだよ」


「そうね……国民の意識が完全に非戦、非反乱に向いちゃってる。その上〝許されざる種族〟もほとんど粛清されちゃってるもの」


「あたし達だって部隊長を合計三人倒して見せたけど、誰も寄ってこないのがその証ね。

もうこの時代に帝国に逆らおうとする人はいないのかも知れないわ」


「つまり………俺達はこれから何をすればいいんだ?」



 さっきから疑問符しかでないカイルだ。

そんな光景も見飽きるほど見てきたので五人に呆れの感情は浮かばない。精々またか……と、軽く息を吐く程度だ。



「つまりワイらは前回の反乱と違う形で人数を集めなアカンってことや。一人一人声を掛けるとか、なんやらしてな」


「で、どの手段でやるのかってことを今から話し合うんですよ」



 何とかカイルにも意図は伝わったようだ。

この常識なし、考えなしに何かを理解させるのはとても労力を使う。


 理解させる係|(主にユナ)の気苦労は増えるばかりだ。



「ハッ! んじゃあ、どうやって集めるか……話し合ってみるとするか」


「ワイは情報屋を使えばいいと思うな。あいつらの情報網を使って情報を広めてもらうねん。〝再び反乱が始まった、有志を求む〟とかなんとか言ってな。


 そしたら腕に覚えのあるやつはワイらの元に集まってくる。部隊長が倒れたことも合わせればこっちにくるやつは増えるやろ。


 それから実績を上げればええと思う。

集まった腕に覚えのあるやつらとワイらで帝国の拠点とかを潰していく。

そしたらこの反乱にかける人達も出てきてさらに人数が膨れ上がると思うねんけど……どうやろか?」


「う~ん……でもそれだと……集まる人の人となりは分からないんじゃないですか?」


「人となりが何か関係があるのかよ?」


「わたしはこれまでずっと帝国から逃げてきたから言えるんですけど……ヒトって思ったよりも信用できないんですよ。

ジャックさんの言うように情報屋を使って不特定多数の方に呼び掛けるのもアリだとは思うしいい案だとも思います。


 でもわたしは……どうしても〝裏切り〟を気にしちゃいます。

集まってきた人たちのなかに帝国のスパイが紛れてるかもしれない。


 そうなったときに……裏切られてしまった時に……人数の少ないわたし達はすぐにやられちゃうと思うんです」



 ユナの言葉には形容し難い“重み”があった。

その長年の経験と体験から紡がれるその言葉の重みをこの場にいる全員がゆっくりと咀嚼そしゃくする。














「ハッ! なら、あまり現実的な案じゃねぇが一人一人確実に声をかけてくってのがあるな。

時間はかかるが、裏切りの可能性はグッと減る。


 この案のメリットは仲間になるやつの人となりを知れること。

こうして仲間になったやつとの結束は固いこと。確実に即戦力を集められること。帝国に悟られにくいってところか」


「デメリットはなんだ?」


「時間がかかりすぎること……ですね。

正直これは年単位の計画になりそうです」


「うへぇ……そんなにかかるのか」


「当たり前じゃない。最低五万の人を説得するのよ?

年単位じゃなきゃやってられないわ……」


「うーん……時間をかけて安全策で行くか……時間をかけずに強行策で行くかってところですかね?」


「ハッ! 俺は人集めに年単位も時間をかけるなんてゴメンだぜ?」


「ワイも強行策の方かな。一人一人確実に声をかけるのが面倒ってのもあるけど、声をかけても裏切りは出てくると思うねん。

せやったら始めからある程度の裏切りは見越して強行策でもいいと思う」


「わたしは安全策で行きたいです。

反乱をする以上、時間をかけて、確実に成功させるべきだと思うんです。命にも関わることなんで慎重に行った方がいいです」


「俺はどっちでもいいかな~……よくわかんねぇし」


「こんのバカイル……」


「なんで分からないんですか……」


「もう驚かんぞ……もう驚かんからな……」


ねぇ達はどっちがいいんだ?」



 華麗にスルースキルを発動させるカイル。

理解できなくても皆が何とかしてくれる、とでも考えているのだろう。



「どっち……っていうか……」


「もう一つ案があるわ」


「あー、そっか。まだ案を出し切って無かったんか」


「んーで、どんな案なんだよ?」


「そう急かさないでよ。そうねぇ……まず、この案は裏切られる心配が少ないの」


「かつ、時間もかからない」



 それって一番いいんじゃないのだろうか?

と全員が思考した時を見計らって、二人は口を開いた。

















「「ただし、一番危険だけどね」」



 ウインクをして、自分達の口にした言葉を軽く見せようとする。

だが、逆にその仕草がカイルやリュウセイにその案の危険度を高く見せてしまったのはもう仕方がないと言える。


 しかしそれでも……



「ハッ! 危険なんざどこにだって転がってるだろ。

時間もかからずに裏切りもないんならその案でいいんじゃないのか?」



 リュウセイにとっては問題がないようだ。カイルも不敵な笑みを浮かべている。

 


「うーん、聞いてみいひんことには何とも言われへんかな……」


「そうね……じゃあ説明するわ」



 ここで、一拍ためるフィーナとマリン。

そして少しの間を置いてから、話を続けた。














「「皆はさ、〝帝国実験場〟って聞いたことある?」」


「あぁ、あんの胸糞悪いとこか、知ってるで」


「いや、俺は聞いたことねぇな。ジジイもそんな話はしてなかった」


「俺も知らねー」


「わたしも知らないです。名前から大体何をやってるところなのか分かりますけど……具体的に何やってるところなんですか?」


「それはもう〝実験〟と名の付くもの全てよ」


「魔具の開発実験。

モンスターや亜人族の【能力】臨床実験。新魔法開発実験。モンスターの使役実験。薬物実験。人工的な二属性保有者ダブル発現実験。魔力実験。2つの【能力】の同時発現実験。遺伝子改変実験。精神的、肉体的な拷問による心理実験。


 そして、これらの実験にほとんど共通して行われてるのが……」


「〝許されざる種族〟もしくは帝国不服従者を使った人体実験……やろ?」


「あら、よく知ってるわね」


「帝国におったとき、魔具の開発実験に付き合わされてな……今思い出しても腹が立つわ……あん時の魔具を作ることに何の疑いも持ってなかった自分とあの実験の醜悪さに……」



 ジャックは眉間にシワを寄せる。手は固く握られ、今にも血が流れてしまいそうな程だ。



「ま、いーじゃーねーか。昔の話なんだろ?

気にすることないって。それよりその実験場がどう味方を集めることに繋がるんだ?」


「ハッ! そうだな。まさかそいつらが実験動物扱いされてる恨みを利用して味方に引き込むのか?

それなら、俺は反対たぜ。


 敵の敵は味方じゃねぇ。都合の良い第三者だ」


「分かってるわよ、そんなこと。



 ………仲間に引き込むのはね……前回の反乱軍のメンバー」


「つまり……昔のジャックの仲間達よ」


「なっ!! なんやて!?

それは一体どういうことや!?」



 ジャックが身を乗り出して、マリンに詰め寄る。

それをどうどう、という風にマリンが諌めてからフィーナが続きを話し始めた。



「帝国実験場はあたし達も盗みに入ろうと目星を付けてたの。あそこは悪行の温床だからね」


「その時に色々調べたんだけど、どうも反乱軍の最後の戦い……撤退戦で僅かにでも息のあった者を実験場に入れたらしいの」





















「「非戦闘員を含めた逃走組も一緒にね」」



「なっ………!!」


「なんやって!!?」



 リュウセイとジャックが酷く狼狽する。

リュウセイは驚愕の言葉を発した姿勢から動けずにいて、ジャックは机に手を乗せたまま目を泳がせ、思考の海を遊泳する。



「おい、ジャック……逃走組ってよぉ……」


「あぁ……スミレちゃんが……おるはずや……!!


 なんてこった……スミレちゃんは二年前からずっと……帝国に捕まってたんか!!」


「はいはい、落ち着いて二人とも……」


「これが落ち着いてられるかよ! 姉貴達は俺らの気持ちが……」


「いいから一旦落ち着きなさい」



 マリンが鋭く声を放ち、水精霊ウンディーネ指揮棒タクトを振るった。


 マリンは、錯乱気味になる二人に水の魔法を浴びせかけることで強制的に黙らせた。

しかも【温度変化】で水をできる限り冷たくするというオマケ付きだ。身体の所々が凍りつき、二人の熱くなった頭は即座に活動を止めた。



「全く……ジャックが狼狽えるのは分かるけど、何であんたも……あっ、そうか……スミレちゃんってあんたの師匠の孫だったのよね」


「あ、あああ。そ、そそそ、そうだだ」


「マ、マママリンさんん……も、ももうれい……冷静になったんで……ああ暖めて貰えません……?」


「さて、じゃあ皆に聞くわね。もう案は出揃ったでしょう?」


「「無視!?」」


「安全に一人一人声をかけていくか」


「ある程度のリスクを飲み込んで情報屋か」


「危険を覚悟で帝国実験場か」


「「どうする?」」



 フィーナとマリンが四人を見やる。少しだけ笑みを浮かべながら質問した二人を、同じように笑みを浮かべながら四人は答えた。














「「「「帝国実験場で!!」」」」












 ハックショイ!! と二人のくしゃみが遅れて聞こえたものの、四人の意思は固いようだ。



「あら、全員一致とは頼もしいわね」


「今更危険を避ける理由がないからなー」


「そ、そそそそやで、危険なんて今さらや!!

か、カイル火! 火出せ!! 火!! ほんまに凍える!!」


「き、き客観的にに見てもそれがががが一番だろ?

ってか、あ、姉貴達だって色々言ってたけど、ははじ、始めからそのつもりりだったじゃねえか。

カイル!! 早く!! 火!!」


「わたしもそれが一番だと思いますよ? ジャックさんやゲンスイさんのお仲間なら、信用も出来ると思いますし……」





――もしかしたら……皆さん・・・もそこに捕まってるかもしれないですからね―――





「なら決定ね! じゃあ早速行きましょ!」


「ほらっ! そこ!

暖まってないでさっさと乗り込む!!」



 カイルの炎で暖を取っていた二人を、フィーナとマリンが飛空挺の中に引っ張っていく。



「あぁ! 待って! まだ暖まってないいい!!」


「は、離せよマリンね……うぎぁぁあ! 冷てぇっ!!」



 口答えしたリュウセイはさらに氷をあびせかけられ、身を震わせることになる。

大人しくなった二人を連れてさっさと飛空挺の中にフィーナとマリンが入っていった。



「カイルさん」


「んー?」


「フィーナさんもマリンさんもわたし達といた時はあんな……暴力的というか強引というか……そんな人じゃ無かったんですけど……」


「………猫被ってただけ、あっちが素だ」


「そうですか……」



 はぁ、とため息を吐きながら、だがどこか楽しそうにユナは飛空挺に乗り込み、それに続けてカイルも乗り込んだ。



「カイル! 火!! 早くっ!!」


「頼むって! 早くしてーな!」


「はいはい、分かったから急かすなって……ほい」


「「生き返るぜ(わぁ)……」」


「じゃあ帝国実験場まで」


「「飛ばすわよ!!」」



 風を切り、大空へと飛空挺が飛び立つ。


 次なる目的地は帝国実験場!!






――――――――――――――――――――





 少々、時間は錯誤する……。

カイル達が帝国実験場へ向かう日から1週間は前のこと。


 ちょっと広めの部屋に絢爛豪華な衣装に黒のチョーカーを着用した紫の髪の少女が居た。

この部屋に一つしかない窓から見ることの出来ない・・・・・・・・・空を見上げている。


 ここは帝国実験場、スミレの部屋である。


 スミレがおもむろに目を閉じると……黒のチョーカーが薄光を放ち、スミレの身体を闇が包み込む。
























 ………………………どれくらいの時間が経っただろう。

スミレを守るように存在している闇が徐々に薄くなり……消えた。


 闇の中から出てきたスミレは大粒の汗を次から次へと流し、ひどく疲れているように見えた。

いや、疲れも見えるがそれよりも混乱の様子が強く現れている。

汗と一緒に瞳から涙が流れ、高価そうな服が汗と涙で汚れるが、まるで気にしていない。






 一体……何を視た・・のだろうか。






「そんな………っ!! このままじゃ………ジャックおにいちゃんも……その仲間の人も……反乱軍の皆も………



 みんなみんな……殺されちゃう……!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ