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CAIL~英雄の歩んだ軌跡~  作者: こしあん
第一章~集結~
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第三話―小人族のジャック

世界設定の補足です。基本的に文化とかは現代と変わらず、時間の進み方も一緒、モンスターとは別に猫とか犬とかいるし、科学もある程度魔法で代用して使われている……。と言う感じです。ちなみに1マム=一円と言う認識で構いません。それでは本編をどうぞ。

 

 

 

 

 

――さぁーって……どーしたもんかなー。



 カイルは街の裏道を進む。周囲を見渡せばまだ朝だというのに娼館が立ち並び、ピンク色の空気が流れている。

ここヨークタウンは別名『女の終着点』と呼ばれている街だ。帝国軍に拐われたり、税を納められなくなった家の女達が身を売って、最終的に流れ着く街である。


 この街は元々、奴隷商売で発展した街だ。帝国が大陸を支配して数年は各地で反乱が相次ぎ多くの種族が〝許されざる種族〟とみなされた。そういった人たちが捕らえられて集まってできたのがヨークタウンであった。近年ではいまだに残る奴隷流通ルートを利用して女たちが集まるという仕組みになっている。


 そしてこの街は、帝国軍の絶好の遊び場でもある。

なぜなら、この街は帝国軍であるというだけで、殆どの娼館がタダになるからだ。そんな街の裏道を歩いているカイルは、周りの空気に流されることなく一人で進む。


 周りの人……殆どが帝国兵だが、そいつらは皆、当然のように何人もの女を連れ歩いていた。カイルはそんなことに全くといっていいほど気がついていないのだが。

と、その時、



「おーう、にーちゃん。こんなとこで女の子も連れずになにしとんのん?」



 いきなり声をかけられた。振り向くと誰もいない。



――あれ? 気のせいだったか?


 カイルが首を傾げるとその声はまた聞こえてきた。



「下や下っ! もうちょい下見んかい!!」



 下? カイルがそのまま首を下に向けると、そこには小さな子供がいた。


 身長は一メートルあるかないかといった所だろうか。薄暗い赤色の髪はセットされているようでライオンのように逆立っている。金色の大きな目に、低い鼻、口はへの字に曲がり、片方の頬を膨らませている。顔全体でみたら可もなく不可もなく、と言った所だろう。


 白いシャツに薄水色のオーバーオールを着ているが至る所がほつれ、汚れている。靴は厚底で、少しでも身長を高く見せようという微笑ましい気概がみられる。


 腰に巻いたベルトには様々な道具がピカピカにされた状態でかかっていた。トンカチに魔ばし、やすり、砥石、巾着などである。銀の腕輪を両腕にはめ、腕を組んでその少年は続ける。



「ないわぁ……いくら小さいからって、気付けへんやなんて絶対にありえへわぁ。自分非常識やで?」


「はぁ……よく言われる」



――ユナからよく言われてるセリフだな。


『カイルさんは常識というものがないんですかっ!』



 この場にいないユナの怒鳴り声を想像してカイルは少し可笑しくなった。



「自覚ありかっ! ったくよけいにタチ悪いなぁ……まぁ、もうええわ。ワイはジャック・ドンドン言うねん。こんなナリでも十八歳や。種族は見たまんま小人族ドワーフ。自分は何て言うんや?」



 怒りながら、年齢と種族を伝えるジャック。カイルもそれに習い、同じように答える。



「俺か? 俺はカイル。歳はわかんねぇ。種族はゆ……人族(ヒューマン)



 危うく有翼族と答えそうになる。昨日のユナの忠告をすんでのところで思い出し、人族(ヒューマン)と答えた。年は本当に不詳なのでそのままの回答だ。



「歳分からんとか、ほんま自分なんやねん」


「そー言うなってジャック。知らねぇもんは知らねぇんだ。あと気になってたんだけどお前の腰の道具ってなんなんだ?」



 実は一目見たときからジャックの小さな身長より、その腰の道具に興味があったカイルはついつい尋ねる。



「自分ほんま何も知らんねんなぁ……なんでワイはこんなんに声をかけてもうたんや?」


「いーじゃねーかよー、教えてくれよー。

あー、ついでに知ってるならクリスタルと魔力の関係とかも説明してくれ」



 袖すり合うも多少の縁とばかりにカイルは昨日ユナに聞きそびれたことも尋ねる。ちなみにクリスタルと魔力の関係などはこの大陸に住んでいれば、子供でも分かる知識なのだが、森で暮らしてきたカイルは残念ながらその知識はなかった。



「ガキか(おのれ)はっ! なんでそんなことも知らんねんっ! 今どきワイみたいなガキでもそんぐらい分かっとるわ!!」



――なんやコイツ。常識ってもんがまるであらへんで……ってか勢いでワイみたいなガキなんて言ってもうたっ! これじゃワイがガキみたいやんけっ!



「じゃあその辺のガキに聞いたら良いのか?」



 あん? なんやおかしいで? 花街と奴隷商売で栄えたこの街にはガキなんておらん。おってももっと地下や。こんな表にゃおらん。入ろうとしても検問で引っ掛かるはずやし、産まれる子供も全部売られる……。


 検問で調べられることも知らんってことはコイツもしかして不法入街か……? おもろいやんけ……とワイは口を歪める。


 さて……んならカマかけてみよかー。



「この街がどーゆーとこかも分かってないんか? 自分、まさか夜の内にこっそりこの街に入って来ましたとか言うんやないやろな?」



 カイルが勢いよく目を逸らす。ハイ、確定やがな。こんなわっかりやすいバカ初めて見たわ。



「ちょぉ……自分まさか……」


「い、良い天気ですね、ジャックさん」


「あぁ、そうやなぁ、こんな日はボインのお姉ちゃんと一緒にレッツパーリー……って何でやねん!!

誤魔化し方ド下手かっ! もー確定やがなっ! 帝国軍の方ー。こちらに不法入街の輩がいますよー」



 とりあえずノリツッコんどく。まさかほんまに不法入街やなんて思ってなかったけど……今どきそんなやつおんねんなぁ……。おもろいからしばらくからかったろーっと。そやなーこれからどーしよー、不法入街の目的聞いてー、まぁクリスタルについて教えたってもええかなー……それから後はなぁ――



「ちょっ、バカ何やってんだ!」


「冗談やって、こんなことで帝国軍が来るわけないやん。あいつら娼館のオネェちゃんとイチャコラするために――」


「おい、不法入街ってのはてめぇか?」


「いやいや、ちゃいますよ。不法入国はこちらの金髪のガキですわ」


「そうか、ご苦労、これは情報料だ」


「えっ!? こんなにくれはるんですかっ!? ほんまおおきにー。ありがとーございますー。ではお仕事頑張ってくださいっ!!」


「え? ……はぁあぁああっ!? ちょっ、お前本気で何してくれてんだ!!」



 ヤバいわぁー、マジで呼んでもうたー。まぁ、こんな雑魚一匹ならワイでもなんとかなるんやけど……。


 でも謎や……なんでワイに金なんか渡す? それに情報料やと? どーゆう意味やねん。これはなんか裏がありそうやな……。



「闇属性持ちがこの街に不法入街したってウィル様が仰ってたが、まさか本当だとはな」



 なっ、なんやて!? 闇属性持ち!? コイツそないレアな存在やったんか!? それに……ウィルやと……? あんの二属性デュアル今この街におんのかいな……面倒やなぁ。



 ウィルとは二属性保有者デュアルで帝国軍の第九部隊長を任されている人物だ。帝国軍は第一〜九までの部隊があり、帝国軍人の全てがそれらの部隊に属している。



 第四~九までの部隊の帝国兵は荒くれで犯罪紛いの集団だ。

が、第一~三までの部隊は間違いなく“軍”であり、完璧に統率がとれている。その強さの理由は部隊長にあると言われている。第一〜三の三人の部隊長は他の部隊長とは桁違いに強く、帝王に次いで最強とまで呼ばれている。別に強さが番号に比例するというワケではないのだが、かの三部隊長が別格なのだ。

特に、一番隊の部隊長は残る二人と比べても抜きん出ていると言われている。


 だからと言って、ウィルが弱いかと言われるとそうではない。部隊長を任される男が弱いハズがないのだ。ウィルは二属性の特性を生かすため、双剣を使う。


 片方は雷。

 片方は水。


 その二つの連撃が幾度となく反乱者を仕止めてきた。


 あるときは水で。

 あるときは雷で。


 二つの属性を使い分け、敵を確実に殺す。それがウィルという男だ。



 そんなことを知るハズもないカイルだが、目の前の帝国兵の言葉に反応を示す。



「闇属性持ちだから……狙うのか」



 カイルは肩を震わせ、怒る。昨日のユナの話を聞いて、正直理解が及ばない部分もあったが、実際に闇属性に対する視線を体験してみると、少しはユナの気持ちが分かる。


 闇属性持ちと聞くなり目の色を変えてくるこの兵士は、もはやカイルを見ていなかった。その瞳に映るのはカイルを捕らえた後の莫大な金であり。カイルを見ようとすらしない。勘違いでカイルを闇属性と思い込んでいるこの男を通して、沸々とこみ上げるものがある。


――こんな風に、あいつは過ごしてきたのかよ。闇属性を嗅ぎ付ける度にこんな目に……



「当たり前だろうが! テメーを捕まえりゃあ十億マムだ! さっさと捕まりやがれ!!」



 その瞬間、カイルはキレた。


 ユナが受けた苦しみの大きさが欠片でも感じ取れた今。カイルを抑えるものはなかった。その感情の高ぶりのせいで、クリスタルが入っているポケットから炎が漏れだしている。



「お前らが! 帝国が!!

闇属性ユナをそんな風に扱うから……あいつは八年も苦しんだんだぞ!!」



 カイルはポケットから炎を放つ赤色のクリスタルを取り出す。


 右足で思いっきり地面を蹴り、炎を宿した拳で思いっきり帝国兵を殴り飛ばす。

強烈な打撃音と共に帝国兵は空を飛び、壁に激突して意識を失う。幸い、それを気にする者はいなかった。この街では帝国軍とは軍ではなく、女と遊ぶ為の肩書きでしかない。もとより帝国兵に仲間意識など存在しない。金に目が眩んだ兵士など、カイルの相手すら務まらなかった。



「ほぉー、自分やるやんけ。強いなぁ」



 ぱち、ぱち、ぱち、と乾いた拍手の音と共に近づいてくるジャックを、カイルは睨む。



「おぉー、コワッ。でも堪忍なー。ほんまに呼ぶつもりはなかってん」


「……どうだか」


「あっれぇー、怒らせてもうた……。しゃーないなぁ……ほれっ」



 ジャックがカイルに何かを投げ、カイルは苦もなくそれ受けとる。カイルの手の中には赤色のクリスタルがあった。



「片手だけしか炎だされへんのはカッコ悪いやろ?

つーか原石で戦うとか。魔力は多いのに……。もったいない奴やなぁ……」


「お前……これ一体どこで?」


「そんなん知りたいんか? そんなことより……今の自分に必要なこと聞いた方がええんとちゃう?







 クリスタルってなんやのか……とかな」



 ジャックの目が少し光った気がした。何か品定めをするような、見極めるような視線をカイルに向ける。カイルはそれに気付いているものの、それほど気にするものでもないと思って、気になることの方を重要視する。



「教えてくれんのかよ」


「まぁな、過失とはいえ呼んでもうたし。ええよ、教えたるわ」



 言いながら、ジャックは転がっている帝国兵の元へ行くと、自分の背丈の倍近くあるその男を片手で担ぎ、道の隅に投げる。



「うっし、処理完了っと」



 パンパン、と手を打ち、帝国軍の処理を終えるジャック。



「お前……ちっこいのに結構力持ちなんだな」


「まぁ、小人族ドワーフやからな。豪快な力と繊細な手捌きがウリやねん」



 むん、と力こぶを作るものの、たいして大きくはなかった。



小人族ドワーフってそんなもんなのか」


「そんなもんや、まぁそんなんはどーでもええねん。


 クリスタルについてやろ? 自分が知りたいんは」


「おう、教えてくれ」


「あいよ、教えたる。魔力については理解してんのか?」



 カイルはうーん……と考える仕草を三十秒程とって--答えた。



「えーっと……

 人間には潜在的に魔力の属性が決まっていて、基本属性である火、水、雷、風、地。魔力の色がそれぞれ赤、青、黄、緑、茶。


 それとは別の特殊属性である闇、色は黒。そんなところか?」



 それだけ言うのにそんな考えるなや! と、ジャックは心のなかで叫んだが、話が進まない故、忸怩たる思いで抑える。



「ま、まぁそんだけ分かっとれば十分や。まだ魔力については分かってないことも多いんやけどな、魔力は心臓に宿る……とか隠された属性がある……とか言われとるけど実際の所は分かってないねん。


 話がそれたな……。

 クリスタルにも色があんねん。赤、青、黄、緑、茶……そして黒。

それぞれの色に合った魔力を注ぐとその属性の代表物が具現化される。


 赤のクリスタルに火の属性を注ぐと火が


 青のクリスタルに水の属性を注ぐと水が


 黄のクリスタルに雷の属性を注ぐと雷が


 緑のクリスタルに風の属性を注ぐと風が


 茶のクリスタルに地の属性を注ぐと大地が


 黒のクリスタルに闇の属性を注ぐと闇が


 それぞれ具現化される。なーんも加工されてないクリスタルを“原石”って呼んどるわ」


「ふーん」


「んでやな、クリスタルは加工することができるねん、モンスターの革やら筋繊維やら魔力鉱物やら……」


「モンスターと魔力鉱物について説明を求めます、ジャック先生」



 カイルがジャックに質問する。こんな口調になったのはジャックなら持ち上げた方が教えてくれ易いかな……というカイルなりの考えあってのことである。


 そしてその考えは当たっていた。明らかに上機嫌になったジャックがカイルに説明する。



「よかろう、わが生徒カイル君。では……ウォッホン……。


 あー、モンスターとは猫や犬などの動物とは異なり、体内に魔力を持つ生物のことだ。ある程度知恵がありー、戦闘能力が高いものが多い。

そしてモンスターは個々に能力を持っている。

まぁ大した魔力を持っていないモンスターはせいぜい【身体強化】が良いところだろう。それでも一般人にとっては十分脅威だがな」


「亜人族の【形態変化】みたいなものですかー?」


「その通りだ、カイル君。では、ここで問題だ。亜人族の能力には【形態変化】の他に何がある?」


「へ? あー……それは……」



 あれ、ユナそんなこと言ってたかな? などとカイルは考えるが、記憶のどこを探しても答えは出なかった



「分からないようだな。よかろう、ついでに教えてやる。

亜人族がもつ能力は


 モンスターと同じ【身体強化】

 生物を石化させる【蛇眼】

 物体を浮かせる【念道力】

 人の心を読む【読心】などがある。


 ここはテストにでるからよく覚えておくよーにっ!」



 ビシィッ、とジャックは人差し指でカイルを指差し、メガネをあげるフリをする。自分が先生なら言ったであろうセリフを得意気な表情を浮かべ言い切った。


――なんのテストだよ……


 カイルは心の中で呟く。



「そしてモンスターの中でも有する魔力が高い個体はそれだけ強く、厄介な能力を持っている場合が多いのだ。有名どころでは


 竜種の【息吹ブレス

 マウンテンタートルの【堅化】

 鎌鼬カマイタチの【カマイタチ】などが挙げられる。

どいつも出会ったら即逃げる位やばい奴等だ。だが、加工素材としては超一級品である」


「強いモンスターほど、いい素材になるのか」


「そう思ってくれて構わんよ。一流の職人は作成した魔具にモンスターの【能力】を再現させることも出来る。モンスターの素材は魔力を流すことにも長けているのでどのようなモンスターでも一応加工には使える。


 まぁつまり、モンスターの素材はだな……


 良質なモノほど、より早く魔力を流し、より特殊な能力を発動できる。



 そして魔力鉱物とは、魔力を含んだ鉱物のことだ。

ルビー、アメジスト、エメラルド……などがよく使われる凡庸性の高いものだ。

それらは多種多様に存在し、それぞれがクリスタルと同じく属性を有している。その属性の色が鉱物にも表れる。

魔力鉱物の特徴としては


 クリスタルの魔法具現化率を上げる点

 魔力を蓄えることが出来る点


 などが挙げられる。


 後者の特性を利用して、魔法を使えない者にも手軽に魔法が使える充電式の魔具にしたり……まぁ、主に生活用品に使われる技術だ。あ、ちなみに魔具とはクリスタルを加工して出来たものの総称だぞ? 


 より少ない魔力で

 より大きな魔法を


 そのようなことができる。


 つまりだ……クリスタルを加工するということの利点は原石をそのまま使うのに比べて、




 より早く魔法が発動し

 より大きな魔法を生む




 基本はこういうことだよ、カイル君」


「なるほどなぁー……」




 ジャックから聞く説明と言うので正直理解できるか不安だったカイルだが思いの外、ジャックの説明は分かりやすかった。


 まぁ、それを口に出すと、ジャックが調子に乗りそうなのでそんなことはしないのだが。


 ジャックは両手を腰につけ、胸を張っている。どーだ、見直しただろうみたいなオーラを目で表現し、カイルに送る。

やはり誉めない方が良さそうだ。



「ジャックって一族の中じゃ大きい方なのか?」



 カイルは露骨に話を逸らしにかかった。



「わたしはだなー、カイル君。なかなかに大きい方だよ。基本的に小人族ドワーフは一メートルを超えることはない。小さいものは五十センチほどしかないな。

だからモテないんだ……ドワーフという種族は……


 ってなに言わせてんねんっ! おっどろいたわぁ! ってかワイを敬えっ、先生やぞっ!?」


「あんたを先生と思ったことなんて一回もない」



 調子に乗ったジャックを落としにかかる。

上げて落とすというテクニックだが、本人にその意識はない。

だが、楽しそうに笑っている。



「反抗期やぁ! くっそー、先生に歯向かうなんて……お前なんかもう生徒やないっ!!」


 ジャックは腕を組みそっぽを向く。ジャックなりには怒りを表現しているのだろうが、その様子はどこからどうみても拗ねてしまった子供である。



「まぁ、とりあえずありがとな、参考になったぜ」


「“まぁ”ってなんやねん“まぁ”って! 一言余計やわほんまに……」



 相変わらず拗ねた子供のポーズは続けたままのジャックだが頭は冷静に働いていた。



――こいつは一体なんなんや? あまりにも常識が抜けとる。やけど、箱入りかって言われるとそうでもない。原石で出す魔法で帝国兵を倒せる実力ももっとる。どっかの魔境で原始生活でも送っとったんか?


 それに、帝国軍の言うことを信じるなら闇属性持ちらしい……やけどさっき見た属性は火。


 闇と火の二属性保有者デュアルなんか聞いたこともない……。つまりこいつは闇属性持ちと一緒に行動しとるってことか? 一人とは限らん……複数の人間がこの街に浸入したんか?



 目的はなんや? あるとしたら……ウィル……か? まさか帝国に歯向かうつもりなんか? ここ最近反乱軍やるっつー馬鹿はでてない。帝国に皆、屈しおった。ほんまに肝っ玉の小さい奴等やで……。

昔はもっと、ギラギラした連中が多かったのに。


 こいつが反乱するってんならきっと後ろにでっかい軍がおるんやろう。そうなったら久々にでかい反乱になるんとちゃうか? それやったら燃えるなぁ。帝国を潰す連中が現れたんなら、ワイの腕もまだ、役に立つってことやな。



 ジャックは心の中で笑う。


 だが、ジャックは盛大に勘違いをしていた。カイルの後ろにはなにもないし、反乱軍など存在しない。



「そーいやぁ、さっきの軍人が闇属性持ちとか言うとったけど……自分まさか二属性デュアルってわけでもないやろ? ってーことは何か? 闇属性とか使って、複数人で自分はこの街に浸入したんか?」



 当たり障りなく、しかし確実に自分の望む答えを聞き出すために、ジャックはカイルに問いかける。それに対して珍しくカイルは返答をはぐらかした。



「んー、それについてはまだ言えねぇな」



――言われへんとはますます反乱軍の匂いが濃くなってきたなぁ。ええで、ええで……久しぶりの反乱や。もうこの時代の人間は腐ってもうたと思うとったけど、案外まだ残っとったみたいやな。帝国に歯向かう、ええ根性しとる奴が。



 ジャックの勘違いはさらに続く。



「ところでジャックー。街中に置いてあるアレってどうやって使うんだ?」



 背後の放送機に指を向けるカイル。カイルが放送機について知っていたのは正午を知らせる放送があったからである。



「あぁー、それならさっきの軍人の右手についてある時計あるやろ? それの裏の赤いボタン押して、時計に向かって喋ったら、街中に繋がる放送になるわ。何か問題があったときのために全員が常備してんねん。

でもまぁ、そんなん勝手に使ったら一発で監獄行きやけどな」


 で、そんなん聞いて自分どないすんの?

とジャックが聞こうとしたその時、




 キィーーーーッン



 街中に広がる耳障りな音。この音は放送前に今から放送をするから注意して聞くように、と付けられた機能だ。



――ほ、放送? こ、このタイミングで!? い、一体誰が……



 答えはなんとなく……いや百%分かっていたジャックだがギギギ……という効果音をつけてゆっくりと先程処理した男の方を見る。


 カイルが男の腕から時計を外し、口元に時計を持っていっていた。



『これで--おお、本当に声が町中に響いてるな』


『ちょっ!!! 自分!! 自分なにやっとんのか分かっとんのか!!??』



 ジャックがカイルにツッコむ。全力でカイルのもとに走り、時計を奪おうとするが手を高く挙げられてしまう。カイルはジャックの身長では届かない位置に時計を固定し放送を続ける。



『わぁーってるって心配すんな』


『なんも分かってないやろ自分!!  なんでこんな放送しとんねんっ!!

ってワイの声も流れとるがなっ!!?」



 ジャックが頭を抱える。放送を流してしまった時点で投獄は確定なのだ。マイクは高性能のようでしっかりジャックの声を拾う。



『あー、残念だなお前、共犯者みてーだぞ』


『やめいそんな言い方っ!!  あっ、そんなっ!!

レディ達がワイを避けていくっ !!?』



 周囲の帝国軍人の取り巻きの女達は明らかにカイル達を避ける。

そして軍の者は歩みを止め、睨み付ける。この街にいる奴等は、自分のことしか考えていない。

が、このような事態は初めてなのか、剣を手にかけて成り行きを見守る。



『なぁー、もう俺喋っていーか?』


『ワイに聞くなやっ!! 言いたいことあるなら喋ったらえーやんけ!!

あー、もうワイは 知らんからなー、自分が殺されかけても絶対に助けたらんからなー』



 半ば自棄になったジャックがカイルに吐き捨てるように言う。



『助けなんか、要らねーよ』



 スゥゥ……とカイルが大きく息を吸う。



『よぉおーっく聞きやがれ、帝王!!!

俺はカイルっ! お前が許されざる種族とかにしやがった有翼族のカイルだっ! 俺は……お前が気に食わねぇ! お前の身勝手に付き合ってられるか! 俺たちはお前の遊び道具じゃねぇ! 何処にいんのかは知らねーけど、待ってろよ!


 ぶん殴って! 吹っ飛ばして! お前を帝王じゃなくしてやる!!

この有翼族のカイルを敵に回したことを! 精々後悔することだな!!!』



 高らかにカイルは宣言する。

時間が止まったかのように周囲は動かない。

風の音さえも聞こえない完全なる無音の時間。

それすら意に介さず……カイルは思う。



――ちゃんと届いたかな……ユナに。



 確かに彼は帝国に宣戦布告をしたが、それは仮の理由だ。この放送はユナだけに向けられたもの。



 どんなことがあっても、ユナの味方でいる。



 その宣言のための宣戦布告なのだ。

そしてその宣言は……確かにユナに届いていた。












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