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CAIL~英雄の歩んだ軌跡~  作者: こしあん
第一章~集結~
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第二十三話―修行の成果

 






――急がなきゃ……早く……カイルさんとリュウセイさんを連れてこないと……。


 さっきの部隊長の『睡蓮を捜せ』っていう発言で騒然とし始めた広場から闇属性を使って逃げ出すことに成功しました。

帝国兵のすぐ横をすり抜ける時は本当にヒヤヒヤしました……。

もう今は闇属性のカムフラージュも解いて、ただ走るだけの作業です。


 それにしても、あのアジハドって人……。わたしの闇属性を探知していた?

今のわたしの魔力はほとんど一般の人と変わらないはずなのに……


 恐ろしく感じます。闇属性を探知されるようになっちゃったら……これから先、行く街行く街で帝国に追われることになってしまいます。

そんなことになったら……いつか……カイルさん達がわたしのことを邪魔に想うんじゃないでしょうか?

そんなことはないって思いたいですけど、ずっとそんなことが続いたら……もしかすると……。


 止めましょう……もう……疑うのは止めにするって決めたんです。

信じれるなら……信じ続けます。



「そんなに急いでぇ……どこへ行こうって言うんだいぃぃ、お嬢ちゃあん……? ヒック」



 えっ!? この声は……まさかっ!? どうしてこんなところに!?


 屋根の上から声が聞こえて、その方向を見やると、第七部隊長のアジハドが胡座をかいて座っていました。大量に提げられた瓢箪ひょうたんの一つを右手で掴んで豪快に飲んでいます。飲み干して空になったその瓢箪をくるくると回しながらアジハドは同じ言葉を繰り返しました。



「そんなにぃ……急いで……何処へいくんだぁ?

もーしかしてぇ……街の外にいるお仲間にぃ、助けを求めにいくってぇのかぁ?」



 バレてる……!! まずいです……っ。

わたしじゃ部隊長には勝てません……どうにか……どうにかして逃げないと……



「闇の【能力】を使われたら厄介なんでなぁ……嬢ちゃんのがぁ…どんなのかは知らねぇけど、多少の怪我はぁ……覚悟してもらおうかぁ」



 闇の【能力】……確かにそれを使えば、この場から逃げられます。でも今の状態・・のわたしの魔力量じゃ、一回しか使えないし……何よりまだ帝国に知られる訳には……。



「さってぇ……と」



 億劫そうにアジハドが立ち上がって手の中の瓢箪を腰に提げ直します。

緩慢な動きですけれど、彼からは殺気と言うか、敵意と言うか、そう言ったものが漏れ出ています。

ちょっとの油断でも命取りになる……そう思わせるほどの濃密な圧力。

そんな彼をじっと見つめ続けていると、ほんの一瞬だけ、瞬きをしてしまいます。

時間にして一秒もないほどに短い時間。

そんな意識しなければ気付かないような刹那の時間のうちに……


 彼はもうわたしの目の前に立っていました。

猫科の動物特有の大きな手と、鋭い爪が私に向かってきます。



「っ!! “クレイエピタフ”!!」



 とっさにジャックさんから貰った土属性魔具の起動呪文を叫びます。この魔具はある特定の言葉に反応して魔法を発動させる術式が描かれています。本来これは熟練の職人でも失敗する技術のハズなんですけど……ジャックさんってやっぱり実は凄いんですね。


 わたしとアジハドの間に一気に土の壁が生成されます。壁っていうかコレ……城壁ですか?

道路が丸々埋まってます。


 様々な鉱物も同時に生成しているようで、思ってたよりも堅そうです。でも、この魔法は一回だけしか使えないみたいで、魔力鉱石から魔力が貯まってる証の淡い光が消えました。


 今のうちに逃げないと……!


 そう考えて壁に背中を向けたまさにその瞬間、強烈な破壊音がうねりをあげてわたしに襲いかかってきました。


 砕片が顔の横を通って、遠くの方へと飛んでいき、濃密な魔力のプレッシャーを背中に感じます。


 そん……な……あの壁が……一瞬で壊されるなんて……


 振り返れない。振り返って、対面してしまうとその圧力に呑まれてしまいそうで。これが……ウィルとは違う。本当の……実力のある部隊長……っ!!



「中々の堅さだったけどなぁ。残念。“部隊長クラス”にもなると、あんな壁、ちょぉっと力を込めりゃあ、誰だってぇ……壊せる」



 汗が顎を伝ってぽたり、ぽたり、と地面に落ちていきます。これが本物の部隊長。ウィルなんかとは……比べ物にならないじゃないですか……。


 これじゃあカイルさん達でも勝てるかどうか。

それ以前に……どうやってカイルさん達に知らせたらいいんですか……っ。

【能力】は使えない、逃げ切れるとも思えない。

戦うなんて以ての外です。一体どうしたら……?



「うぃ~~……言っとくけどなぁ、おれぁ考え終わるのを待っててやるほどぉ……お人好しじゃあねぇぞ?」


「えっ?」



 さっきみたいに、気が付けば目の前にアジハドの拳が迫ってきています。

しまった……! 

考えるのに夢中でこの人に注意を向けるのを忘れてしまってました!!

そんな後悔が間に合うはずもなくて、大きな拳がわたしの身体を捉えます。



「ぅあ……っ!!」



 簡単に吹き飛ばされたわたしの身体が宙を舞い、道に投げ出されてしまいます。ズリズリと地面とわたしの身体が音を出して、殴られた箇所が鈍い痛みを伝えてきます。

その痛みが身体の動作を妨害して、立ち上がることも出来ない………!

鋭く、一瞬の痛みならまだ耐えられたかもしれない。

でもこんなに長く響いてくる痛みに対してわたしは抵抗する術を持ち合わせていませんでした。


 お腹を押さえてうずくまるわたしにアジハドが近づいてきます。逃げたいのに……お腹に感じる鈍痛がそれを許してくれない。せめてもの抵抗に顔をあげてみると、アジハドの酔っ払った顔がそこにありました。

思わず睨み付けるけれどお腹がものすごく痛くて顔が歪んでしまいました。



「っかしぃーなぁ? 一発で眠らせるぅ、ハズだったんだが……? お嬢ちゃん、意外と頑丈だねぇ。可哀想にぃ。……まぁ、辛ぇんなら、さっさと眠っちまいなぁ!!」



 三度目となるパンチもわたしは残像すら捉えることが出来ませんでした。身体に刻まれたそのパンチの脅威に思わず目を瞑ってしまいます。


















 だけど、いつまでたってもわたしの意識が飛ぶことはありませんでした。不思議に思ったけれど、お腹の痛みが身体を苛んで、目を開けるのも辛いです……。



「おい、コラいつまで寝てやがんだ。さっさと起きやがれ、戦えねーだろーが」

 


 え? あれ? この声って……?


 痛いのを我慢してそろそろ……と目を開けると、リュウセイさんの顔が目の前にありました。



「……なんでリュウセイさんがこんなところにいるんですか? 修行をサボったんですか?」


「助けてもらったのに随分な口調だなテメー。魔力探知ででかい魔力感じて戻ってきただけだ。それからそんな軽口叩ける元気があるならさっさとここから逃げやがれ」



 いや、もう限界なんですって、虚勢でもいいから強がらないと痛さにやられてしまいそうになるんです。


 ごめんなさい、ちょっと嘘つきました。

痛いのは痛いんですけどリュウセイさんの姿を見て安心してしまったんです。

危ない状況には変わりがないんですけれど、もう危険を脱してしまったかのような心持ちです。


 いえ、リュウセイさんだけではありません。少し顔を動かすと、カイルさんがわたしに向かってきていた拳を受け止めていました。



「この状況……二回目だよなユナっ!」



 そうですね、実力に差はあるものの、わたしとカイルさんが出会ったあの森でカイルさんはこうやってわたしを助けてくれました。


 カイルさんは笑っていました。この状況でなんで? だなんて思うような感性は一緒に旅をした一ヶ月の間にどこかへ飛んでいっちゃいました。



「んんん~~? 同じ顔がぁ……二つぅ? 酔ってんのかぁ、おれ? 酔ってるなぁ?」


「ハッ! 安心しろや酔っ払い。ちゃんと二人いるぜ。俺は有翼族のリュウセイ。カイルの双子の弟で--お前ら帝国の敵だよ。第七部隊長アジハド」


「同じく有翼族の「なるほどぉ……カイルとリュウセイ……ねぇ……双子がいたとはぁ……初めて知ったなぁ……」



 アジハドが拳を引いて二人と距離を取ります。

リュウセイさんは小竜景光に手をかけ、カイルさんは落ち込んでいます。それはもう物凄く。


 ……名乗れなかったことがそんなに悔しかったんですか!?


 リュウセイさんに小突かれて、やっとフェルプスを展開しました。



「まぁ、二人だろうが……一人だろうが……退屈だけはさせないでくれよぉ……!」



 彼が初めて背中の大剣、バスターソードに手をかけます。

その剣を握るか握らないか、それほどの微妙な時間、アジハドはわたしの時と同様に特攻を仕掛けてきました。

そして、大きく振られる横凪ぎの剣を翼を生やしたリュウセイさんがしっかりと小竜景光で受け止めて、カイルさんが一瞬できたアジハドの隙を突いて思いっきり跳び蹴りを浴びせます。

もちろん、フェルプスからは荒れ狂う炎が吹き出しています。



「うるぁあ!!!」



 気迫の籠った掛け声と共に、カイルさんの足がアジハドの胴にめり込んで、炎を撒き散らしながらわたしと同じように吹き飛ばされていきます。



「凄い……」



 この二人……ここまで強かったんですか?

一週間前、ゲンスイさんの元で修行していた時とはまるで別人……。


 ……いえ、違います。

二人はカルト山を出てから起きているほとんどの時間を修行に費やしていました。わたしが知らないだけで、彼らは死に物狂いで修行をしていたんでしょう。


 わたしは……立ち直ることばっかりで何にもやっていなかったというのに、この二人は常に自分を磨いていたんですね……。



「っあぁあ~~っ!! 効いたぜオイ!

まさかここまで強ええとは驚いた! 精々ウィルの野郎に毛が生えただけだと思ってたのによぉ!!

ひっさし振りに酔いが醒めたぞコノヤロウ!!」



 わたしが否定的な考えをしていると、カイルさんに蹴り飛ばされたアジハドが跳ね起きました。

先程までの酔い潰れた雰囲気はかんぜんに無くなっていて、本当に『醒めた』という言葉がぴったりでした。



「改めて名乗らせて貰おうか、俺は第七部隊長アジハド。

第一~三までの部隊長を除けば、こと戦闘において……俺が最強だ。

種族は獣人族(ビースト)。虎とライオンの混血。ライガーの獣人族(ビースト)だ」



 部、部隊長最強っ!? そ、そんな……っ!

ど、どうしましょう……。いえ、どうするかって言われたらそれは勿論逃げるんですけどわたしがどうしよう……って思ったのはその言葉を聞いてカイルさんとリュウセイさんが物凄く嬉しそうに目を輝かせたことをどうしようっていうことなんです。

どうしようって思ったものの、わたしにはどうしようもないんですけど。


 それにしても、虎とライオンの混血ですか。

言われてみると身体の模様は虎ですが、尻尾はライオンのものですね。



「部隊長最強……いいねぇ、やりがいがあるじゃねぇか」


「最強かぁ……それって一番強いってことだよな?」


「ダハハハ!! いいねぇ、楽しめそうだ!

行くぜぇ! しっかり付いてこいよお前ら!!」



 その言葉を皮切りに戦いが始まりました。

二人とも翼を広げて空中から地上から攻撃を繰り出します。

うわー、カイルさんとリュウセイさんの顔が凄い楽しそうです。

そんな二人の対処にどうしようかと悩んでいたわたしですが……。



「放っときましょう」



 だって危ないですもん。

巻き込まれる前に逃げないと。

イタタタ……お腹がまだ痛みます。

早く逃げないと……


 そうやって痛む身体を引き摺って、あっちへふらふらこっちへふらふらしながら、わたしは二人を放っておいてその場から逃げることを選びました。





――――――――――――――――――――






――ハッ! やっと逃げやがったか。

腹の辺りに一発食らってるようだったが……まぁ、大丈夫だろう。動けるんなら死にゃしねぇ。


 本題はこっちだぜ。

こいつには……聞かなきゃなんねぇことがある。剣と刀、剣と拳が交錯するその合間に俺は語りかけた。



「おい、お前。一つ、俺の質問に答えろ」


「ん? なんだ? いいぜぇ、質問によっちゃ答えてやってもなぁ」



 語りかけつつもしっかりと刀でしっかりと攻撃する。ひとしきり打ち合ってから、俺は心の奥で燻る激情の種を刺激した。

何か切っ掛けがあれば直ぐにでも暴れだすような、少し触れると爆発するようなその種を、慎重に慎重に心の奥から引き出した。






「一週間前、カルト山で前反乱軍総大将で“斬影”と呼ばれた男を殺した奴は誰だ?」






 ドクンドクン、と鼓動が痛いくらいに脈を打つ。

知りたくて知りたくて仕方がない情報の答えを、俺の内に確かに存在する激情の起爆剤がアジハドの口から出てくるのを待つ。



「ふーむ……確かに俺はそれを知ってる」


「答えろ」


「なんでそんなことを聞く?」


「質問してるのは俺だ」


「いーぃ、殺気だ。まっ、いいぜ教えてやる。ただし……






 俺に勝てたらなぁ!!」


「上等だっ!


 七星流・よんの型・極星きょくせい!」



 こいつに勝ちゃあジジイを殺したやつが分かる。

ハッ! 分かりやすい! 是が非でも勝って、情報をふんだくってやる。


 肆の型は七星流のなかでは唯一と言っていい、一撃の重さに重点を置いた技だ。

両手で刀を握り、俺の最高スピードでの突貫。

横凪ぎの一振りを大袈裟なくらい大きく引いて繰り出す。

そして、相手に当たる直前で俺自身を相手に背中を向けるほど回転させその遠心力を刀に乗せる。

甲高い、刀と剣がぶつかり合う音がする。

俺は回転と突貫の勢いを殺すため、左足に力を込め、左を軸に回転を続け、滑りながら移動する。

極星はここが決定的に隙になりやすいんだが、俺が離れたのを見計らって、カイルがアジハドに仕掛ける。



「フレア!!」



 無理矢理に接近したカイルから炎が立ち上る。

その火山の噴火のような荒々しい炎が両手両足から巻き起こり、接近して近くにいるアジハドを巻き込む。


 あの野郎、魔力制御が苦手だからってあれはねーだろ。自分の生み出した魔法で燃えることはねぇが、自分の魔法で焼けた空気を吸えばただじゃすまねぇぞ。


 まぁ、いい。このまま畳み掛けてやる。



「七星流・弐の型・双星」



 魔力を練って作り上げた刃を、カイルから立ち上る円柱へいくつもいくも投げ掛けていく。


 すると、焼け昇る円柱から低い声が聞こえてきた。



「【身体強化】発動」



 バスターソードを大きく振り回し、カイルの炎も俺の双星もいっしょくたに吹き飛ばされた。

近くに居たカイルはバスターソードの軌道上にいやがったから、フェルプスを使って受け止めたが、まるでカイルがいないかのようにアジハドはバスターソードを振り抜いた。

カイルが弾丸のような速さで飛ばされていく光景を、俺は見ていることしかできなかった。


 なんだあの速さ……それにパワー。さっきまでの野郎とは別モンじゃねえかよ。


 内心での焦りに蓋をして、アジハドを見据える。

あの急なパワーアップの秘密を探らねぇとヤバイぞ……



「だあぁあるぁぁああ!!」



 カイルが叫びながら戻ってくる。右手には高密度の魔法が具現化されてる。あれはコロナだな。


 落ち着け……一旦カイルをあのまま突撃させるんだ。俺は魔力探知に集中して、あのパワーアップの秘密を探らねぇと。



「コロナ!!」


「おっせぇ!!」



 奴のバスターソードに魔力が集められる。俺はてっきり魔法を具現化させているのかと思ったが、それは勘違いで、奴が使っていたのは【能力】の方だった。


 【能力】が発動した瞬間、奴から感じる圧力が上がる。再び振るわれるバスターソードがカイルの身体を捉える。いや、しっかりと左手のフェルプスで受けてやがる。二度目となるカイルの低空飛行を俺は流し目で見届けてからアジハドに向き合う。


 恐らく……あのバスターソードの【能力】は【身体強化】だな。

俺やカイルの【形態変化】や獣人族の特性が副次的に身体能力を向上させているのに対して、【身体強化】は魔力を注げば注ぐほど、身体能力を向上させる。

ただ、戦闘中にそれを使う奴はそうはいない。

それは魔法との併用が難しいからだ。


 魔具の二つの機能である魔法の具現化とモンスターの【能力】再現。その二つを無意識的に発動できなきゃ戦闘には使えようもない。

だから普通は要所要所の技で【能力】を使うか、頑張って一つの決め技として併用するかするのが関の山だ。【能力】を魔法より優先して使用するなんてことはあり得ない。


 【能力】再現は完全にモンスターの【能力】を再現している訳じゃねえ。それを優先して使用するくらいなら魔法の方が絶対に強え。

だが、コイツはあろうことか【能力】を優先して使ってやがるんだ。


 ハッ! 上等……獣人族の特性と魔具で身体能力が有り得ないくらいに跳ね上がっていようが、タネが分かりゃあ……なんとでもなる。



「おいっ!! リュウセイっ……!」



 また戻ってきた。打たれ強い奴だ。



「タネは……わかったか……!?」



 こいつは驚いた。あのカイルが……あのバカで考えなし、常識なしのあのカイルが……。

俺が奴のパワーアップの仕組みを見破るための時間稼ぎをしてたってのか。



「あぁ、分かった。ついでに勝機も見えた」



 身体能力で圧倒的に差がある以上、長期戦はマズイ。

長引けば長引くほどこちらが余計に疲弊して勝機が遠退いていく。

やるなら、短期決戦だ。そんで確実にあいつの息の根を止める方法が……俺には……いや……俺達にはある。



「おい、カイル、あの湖での技であいつの動きを一瞬止めろ。一瞬でいい、隙が出来りゃ七星流最強の型、ななの型でケリつけてやる」


「え? いいのか? お前も巻き込んで全部吹き飛ばすぞ?」


「悪ぃ、やっぱ却下だ」



 そーいや、カイルもズタボロになってやがったな……チッ。この案はダメか……ならどうするか……



「待ってやるほど甘くねぇって、言わなかったか?」


「それは、初耳だなぁ!!」



 ユナにでも言ったんじゃねぇか?

どっちにしろ、俺は油断なんかしちゃいねぇけどな。

迫り来るバスターソードをしゃがみこんで避けて、後退する。



「リュウセイ!! 俺はコイツの動きを一瞬でいいから止めりゃいいんだよな!!」


「おう!! そうだ! 一瞬止めたら俺が片付けてやる!!」


「本人を前に作戦会議たぁ随分余裕だなぁ!」



 言うが早いが、カイルがアジハドに向かっていく。



「ハッ! しゃーねぇ、どうやるのか知らねぇが信じてやるよ! しくじんじゃねぇぞバカイル!」



 カイルが突っ込んで行く。そんで呆気なく横凪ぎの剣を受けて吹き飛んでいった。



「何やってんだバカイル!!」



 何が一瞬でいいからだ! 全然止めれてねぇじゃねぇか!! クッソ!! あのバカイル……



「リュウセイ!!お前は待機しとけ! ぜってーに隙を作ってやるから!!」



 すぐに戻ってくるカイルが俺に叱咤する。そして同じように吹き飛ばされてく。


 間髪入れずに戻ってきたカイルが俺の方をちらりと見やる。既に三回吹き飛ばされたあのアホは身体の至るところに傷ができていて、満身創痍と言った感じだった。

そしてあいつの口が動く。声は届かないが、明白な口の形。





        しんじろ。





 あぁ、クソッタレ……こんなときばっかり双子ってことを自覚させられる。

嫌っていうぐらいあいつのことが分かっちまう。


 ハッ! 今回だけだ。だから……






「しくじるんじゃねぇぞ! カイル!!」






   七星流・漆の型・臥竜天星がりゅうてんせい


 俺が唯一……完全習得には至っていない七星流最強の技。


 技は出せるが…俺がやると凄まじい反動が伴う。

ジジイは俺がこのやり方をするのを嫌がってたな。


 だが……やるしかない。


 大きく息を吸い込んで、身体の調子を整える。

まずは、前準備だ。

この技は肆の型・極星の発展系だ。

まぁ、発展系っつーか、極星を七連続で放つだけなんだがな。


 だが、それが難しい。

さっきも極星を使ったが、あれは威力がある分、一発放つと隙ができる。

その隙を無くして七連撃するっつーんだから無理矢理にでも力の方向をねじ曲げるような身体能力がいる。

ジジイは簡単そうにやってのけたが、俺の身体じゃまだ普通の状態じゃ放てない。

ならどうするか……。



 俺の属性である“雷”を俺の身体自身に流して、無理矢理に身体能力を上げる。



 神経回路に雷を流すことで尋常じゃない反応速度が得られるっつー使い方もあるが、俺のはそれとは別だ。

人間ってやつは無意識の内に自分の力をセーブしてるらしい。なんでかってのは知らねぇが俺はこういう風に解釈してる。


 脳が身体の各部位に微弱な電気を使って指令を出すってのは一般に知られてることだ。

だが脳が出せる電気ってのは微弱すぎて、身体が本来出せる全部の力が出せないんじゃないか?

そう考えた。

だから俺は身体に雷を流して脳が出す電気を強くするのさ……!!


 雷自体は俺の魔力で制御してるから俺の身体を傷つけることは無いが、普段使わない力を使う反動や、魔法を神経に流したことによる神経にかかる負荷ダメージは避けようも無い。

終わった後、俺がどうなるかは分からねぇ。


 ここまでの反動がある技なんだ。

俺も覚悟決めるから、しっかり隙を作れよ?



 バチバチ……バチッ……バチバチバチっ!



 っくぅ……全身に針を突き立てられたようだ。

久々に使うが……慣れるようなもんじゃねぇな。

だが、今は痛みに悶えてる暇はねぇ。

俺は目を離しちゃなんねぇんだ。

あいつが作る隙を、一瞬でも見逃しちゃならねぇ。

吹き飛ばされ続けているあいつの作る時間を……俺は待つ。



「っっるぁぁあ!! まだだ!!

まだ俺は倒せてねぇぞ!? アジハド!」


「しっつけぇな!! いい加減くたばりやがれ!!」



 宙を舞い、カイルの身体の骨が破壊されていく。

それでもカイルは諦めない。

何か狙ってるのかは知らねぇが……


吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても吹き飛ばされても


 立ち上がり、立ち向かう。


 血ヘド吐きながら、何度も何度もアジハドに相対していく。

単調な作業と化してしまっているその光景だが、カイルの眼は……まるで光を失っちゃいなかった。


 そして、業を煮やしたアジハドがカイルの命を苅りにかかる。

単調に、真っ直ぐ突進するしか能のない目の前の男に対して、大上段から勢いよくバスターソードを叩きつけようとする――



「これで……終わりだぁッ!!」



 振りかぶるアジハドを前に、カイルが微かに……笑みを浮かべた。



「待ってたぜ…!! 上からの攻撃をよ!!」



 真上から迫り来る壁のような大剣をカイルは両の手で挟み込む。

真剣白羽取り。

あらゆる剣術に伝わる技術にして、上段からの一振りに対しては成功すれば圧倒的に有利な状況へと持っていける技。



「うっぐぐぐぅぁぁあ!!!!」



 アジハドの尋常ならざる膂力で振るわれた剣を受け止めるのは自殺行為に近い。

普通なら受け止める段階で押し潰される。

だがカイルは自身の出せる限界の力をだして、その剣を受ける。

地面に亀裂が入り、カイルが地面にめり込んでいくが、その手だけは離さない。

上からの力で身体が押し潰される痛みを受けているカイル。

だが、カイルは絶対に折れない、屈しない。

自分を信頼して待っててくれている弟の為に。




 そうして出来たのは待ち望んだ“隙”だった。




「上出来だぜバカイル。動くなよ?

お前まで切りかねねぇからな……!!」


「クッ!!だが、これさえ耐えりゃ俺を止める術はねえぞ!!

しくじった段階でお前らは負ける!!」


「安心しろ、リュウセイはそんなヘマはしねーよ!」



――雷が俺の身体を迸り、世界が時間を止める。

一秒が何分にも引き伸ばされて、自分とアジハドしか眼に映らない。

これで……終わりだ。











「七星流・漆の型・臥竜天星」



 























 キン、と小竜景光を鞘に戻す。

振り返るまでもない。

後ろにはアジハドが倒れているだろう。



「ぎぃいぃぃいぃいやぁぁぁぁぁああああぁあぁああぁぁァァアアアァアァァアあぁぁぁあぁぁあァアアあぁああぁぁぁぁぁああああァァアアアァアァァアあぁぁぁぁぁァアあァアアあ!!!」


「えっ? そっち!?」



 今叫んだのはアジハドじゃねぇぞ?

俺だ。

反動が来やがった……!! ぐぁぁぁあ!!

身体が……痛ぇなんてもんじゃねぇ!!

焼ける!! 燃える!! 爛れる!!

本当に身体に雷が流れてるような、神経を弦に焼きごてで演奏されてるような……


 だが、今はこの痛みを押さえつけても聞かなきゃなんねぇ……。



「おいっ……! アジハド……っつぅぁ!!

約束……だ……ろぉおぁぁあっ!!」



 ギリギリ生かしてあるんだ……なんとしても……答えて貰うぜ…!!



「第……一…………た……ちょう……………ル…」



 チッ! 最後まで聞き取れなかった……。

だが、分かったことがある。

ジジイを殺ったやつは……第1部隊長だ。

あんのチビ……そんなに上のやつだったのか……。

これだけでも収穫だ。

だから……いまは……――



「ううぅううぅうぁぁああぁぁァァアアアァアァァアぁぁあぁあぁあ!!!いいいいいぃぃぃっっっってぇえええええぇぇえええええぇぇぇぇぇええぇエエエェェエェェエえ!!!」


「あー、俺ももう限界かも……」



 二人はカラクムルの路上で仲良く倒れる。


 再び起き上がれるようになるまで、しばらくかかりそうだ……



 

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