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CAIL~英雄の歩んだ軌跡~  作者: こしあん
第一章~集結~
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第十九話―義賊・睡蓮

 








「〝睡蓮〟だーっ!!!」


「街に〝睡蓮〟が現れたぞーーっっ!!」


「なにぃっ! どこだっ! どこに現れた!?」


「今、西地区の辺りにいるって噂よ!」


「ちげーよ! どこから盗まれたって聞いてんだ!」


「二代目の自営団団長んとこだ!!」


「なんだとぉっ!! あんの町長のドラ息子か!」


「なんで盗みに入られたんだ!?」


「横領だとよ! あのガキ俺らの金を自分の懐に入れてやがったんだ!! どころか帝国の役人とも繋がってたらしいぞ!」


「ぁんだとぉっ!? 町長の息子だからって二代目を任せてからまだ一年だぞ!?」


「着任当初から横領してたみたいなの!!

もうそこら中に不正の会計簿がばらまかれてるわ!」


「くそっ! 横領に気づかねぇなんて俺たちもどうかしてるぜっ!」


「町長が死んで収入が減ったとか言ってたのは嘘なんだな!!」


「二代目以外にもチョロまかしてたやつが色々揉み消してたらしいぞっ!」


「「「ふぅうざけんなぁああ!!」」」




 孤児院から一歩外に出てた世界は阿鼻叫喚の様相を呈してた。いつもは睡眠を貪っている住人達が皆起き上がって道に出て、口々に『何処に〝睡蓮〟が入った?』『なんで入られた?』『なにぃっ、横領だと!!』『二代目許すまじ!』等の言葉を口にしている。


 疑問、怒号、罵詈雑言の大嵐、静まりかえった夜の街は遥か彼方へと消え失せ、暴動でも起こっているかのような大騒ぎである。

大量のビラがカラクムルの空に撒かれ、起きてきた人はそれを見るか、知人に聞くかで状況を確認している。



「えーっと……なぁミシェル?」


「なぁに?」


「なんでワイらを起こしたんや?」


「これは大事件なのよ? この街に居る以上は知っておくべきことなのよ」



 ジャックの質問にそう答える。当たり前のことでしょう? なんで今さら聞くのよ? そんな風にジャックを追撃する。


 ミシェルと院長に起こされたリュウセイ、カイル、ユナ、ジャックはあくびを堪えながらも目の前の状況を眺める。ユナは子供達を起こさないようにミシェルによってそっと起こされた。



「ふわぁ~~ぁ……。なぁ、なんで盗賊が入ったってだけでこんなに人が騒いでんだ?」


「ハッ! 知るかよ。なぁ、院長さん、なんで街の奴等はこんなに騒ぎ立ててるんだ? 知ってたら教えてくれよ?」



 先程、初めて会ったというのにリュウセイは自分の口調を直さず、ガラの悪い話し方だ。いや、さん付けをしただけでもまだマシだと言うべきなのか……。



「分かりました。いきなりの質問ですが皆さん、〝睡蓮〟をご存知ですか?」


「んー、聞いたことはありますわ。睡蓮は二人組の大泥棒。あこぎな稼ぎ方をしとる商人や、帝国の権威を利用して財を築いた軍人、奴隷商人の財産を根こそぎ奪っていき、盗んだ金品を貧しい人達のいる地域にバラまいていくっていう、さすらいの〝義賊〟


 なんでも帝国兵五十人を蹴散らして金目の物を強奪したり、入られた屋敷が人の住めない化け物屋敷になっていたり、部隊長からも盗んでみせたり……という伝説がある盗賊……。


 それが〝義賊・睡蓮〟ですやろ?」


「ジャックさん、それだけじゃないんですよ?


 睡蓮は貧しい人に対してお金を施し、数々の武勇が伝わっていますが、今、街の皆さんが騒いでいるのは別の理由なんです。


 睡蓮が盗みに入って、お金をバラまく時、お金以外にもバラまく物があるんです。それは盗みに入った対象の不正や弱み、非人道的行為の証拠です。具体的には奴隷の取引目録であったり、詐欺の物証、果ては知られたくないような恥ずかしい秘密……まとめて全部周知させたらしいです。


 つまり、睡蓮が盗みに入るときは、犯罪の告発でもあるんです。それが誰にも知られていないような犯罪でも、証拠を掴んで市井の人達に知らせる。

彼らに盗みに入られた人はお金も地位も何もかもが奪われてしまうんです。自業自得なんですけどね」



 ジャックの説明にユナが補足を加える。納得の頷きをするリュウセイに対して、カイルはジャックの説明すら、理解出来ていないようだった。



「その通りです。ユナさん。そして今回盗みに入られたのは、二代目の自営団団長なのです」


「ハッ! 成る程な……」


「そう……睡蓮が誰も気が付かなかった二代目自営団団長の横領を暴露したのよっ!!」



 そう言ってミシェルは足元に落ちている紙を手に取る。そこかしこに落ちているその紙は、このカラクムルの街全体にバラまかれたようだ。



「これを見てっ!!」



 ミシェルが四人の前にその紙を広げる。簡素なビラには、荒々しい文字が書かれていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



      睡蓮参上!!



 カラクムルに住んでるテメーら!!

俺は睡蓮の参謀、事務担当の〝ゴードン〟だ。


 今回俺らが発見したのはなぁ……二代目自営団団長の横領だ。自営団ってーのは街をよりよくしていくはずの組織だよなぁ?

ハッ! 聞いて呆れるっ。そんな組織のトップが横領なんてしてやがった。


 初代が凄かったからってその息子も凄ぇとは限らねぇってこった。ま、隠蔽の才能はあったみてぇだけどな。


 ハッ! 詳しいことは下に載せてある会計簿でも見とけ。んでどうするかはテメーらで考えやがれ。吊し上げようと追放しようとテメーらの自由だ。


 俺らは今回カラクムルの西地区のスラムで奪った金をバラまくけどよ、もしあんまり生活に困ってねぇやつがもし金を拾ったら、そんときゃ孤児院とかそんなとこに回してやんな。どーするかは拾ったやつの自由だけどな。



 んじゃ、あばよ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 

「なんか、リュウセイみたいな喋り方してんな。“ゴードン”ってやつ」


「ハッ! 一緒にしてんじゃねぇよバカイル」


「ほら、そっくりじゃんか」


「院長さん、これで孤児院の経営も少しは楽になりますね」


「そうですね。しばらくは代表が決まらずに自営団も安定しないと思いますが、それさえ乗り切れば、孤児院も安心して過ごせるくらいには安定した寄付が得られると思います」


「流石、睡蓮ね!! あの方達はいつでも民衆の味方なの! さぁ、西地区に急ぐわよ!!」




 ミシェルは目をキラキラと輝かせて、年相応の喜びを見せる。この一週間で一番の笑顔だ。その笑顔を煌めかせ、ジャックの手を取り、西地区に向けて駆け出そうとする。



「ちょっ! お前! なんでワイまで連れて行こうとするねん!」


「レディーを一人でこんな時間に西地区のスラムに行かせる気なの? まさか、そんなことしないわよね?」


「いやお前が行かんからったらええ話やろ。なんでわざわざスラムに行こうとすんねん。今から行っても、多分撒かれた金は手に入らへんで?」


「お金はいいのよ! でも、今行ったら睡蓮に会えるかもしれないじゃない!」

 

「はぁ?」


「いい? 睡蓮は悪を挫いて弱きを助ける凄い人たちなのよ!? 盗むだけじゃなくて私たちにまでお金を配る善人の鏡みたいな人じゃない!」


「いや、だからなんやねん。善人の鏡やからってなんでわざわざ会いに行かなあかんねん」


「ごっちゃごちゃうるさいわね! 話してる時間がもったいないわ!! 先に行ってくる!!」


「あっ! おい待たんかいっ!!」



 ミシェルはジャックの手を放し、スラムの方へ駆け出していく。



「ジャックさん」



 院長がジャックに声をかける。



「あの子にとって睡蓮はヒーローなんです」


「は、はぁ……」


「この街には噂しか届いてませんでしたが、悪を倒してあの子たちと同じような立場の子を助けている睡蓮に対して、あの子は過剰に尊敬していまっているのです。もちろん悪いことだとは言いません。


 四年前、孤児院に来る前にあの子は奴隷として売られかけていました。そこを助けたのが、睡蓮の方らしいのです。同じように奴隷として売られかけていた方に連れられて……ミシェルはここにやってきました。


 そして、ミシェルは自分を助けてくれた睡蓮の方に多大な尊敬の念を寄せています。いえ、あそこまでいってしまうと、もう恋の範疇のような気もします」


「恋っ!? いくら助けられた言うても顔も知らん相手に恋してるんですか?」


「はい、そうなんです。今回、この街に睡蓮が現れて、あの子はどうしても一目見てみたくなったのだと思います」

 

「な、なるほど……」



 ミシェルが奴隷として売られかけていたことに驚いた二人だが、今の状態を見る限り、それに対する心配はいらないと判断する。

ミシェルの睡蓮に対する思いが恋なのかは分からないが、闇雲に飛び出していった気持ちも……まぁ何となく理解できた。



「そうですか……なら仕方ありませんね。ジャックさん、ミーちゃんを頼みます」



 院長の話を聞いてユナがジャックに対して軽く頭を下げる。ミシェルの気持ちと過去を聞いてユナなりに判断した結果なのだろう。



「えっ、なんでそないなことになんの? スラムが危ないんやったらワイよりカイルとかリュウセイの方が良くない?」


「あぁ、そこまでスラムは危ない場所ではありませんよ。ただ、一人で夜の街を歩くのが危ないというだけで、ジャックさんでも大丈夫だと思います」


「あの……院長さん? なんでワイがミシェルを追いかけるノリになってるんですか?」


「だってリュウセイさんとカイルさんは院長さんの話の途中で孤児院に帰って寝ちゃったんですもん」


「起こせっ! 今すぐあの二人を起こすんやっ!」


「それではユナさん、私達も寝ましょうか」


「そうですね、後はジャックさんがなんとかしてくれます」


「え、嘘やん。そんなにワイの考えはあかんの? ここまで無視されちゃうの?


 ってあぁぁ!! 言ってる側から帰ってもうてるし………」



 残されたジャックは結局ミシェルを追いかける羽目となり、朝までミシェルの睡蓮捜索に付き合ってしまったのだった。







――――――――――――――――――――






 翌日の朝……徹夜明けのジャックとミシェルが少し遅れて朝食を取っている。ミシェルの方は箸を握ったまま、完全に船を漕いでいる。



「それで、見つかったんですか?」


「いーんやー……結局見つからんかったわー……魔具作りに集中してるときは一徹二徹もヨユーやねんけど………人探しはなー……どんな奴かも分からへんし、もうお手上げやわ」


「途中で帰ってくればよかったじゃないですか」


「ミシェルが『絶対に見つけるのよっ!』っつって帰ろうとせーへんかってん……」


「でも、ジャックさんも朝まで付き合うなんて……意外と優しいところもあったんですね」


「……いや、やらせたんは自分やからな?」



 ジャックが顔を上げると、ユナの姿はなく、代わりに食器を洗う音が台所から聞こえてくる。


 虚しく響く自分の台詞にやるせなさに感じて、ジャックは船を漕いでいるミシェルにちょっかいをかけることにした。ゆっくりと寝ているミシェルの顔に手を近付けて……




「ていっ」



 鼻をつまむ。



「きゃっ!」



 とても地味なジャックのイタズラだった。



「はぁ……やってみたものの案外オモロくなかったな……」


「そんな理由で鼻をつままないでっ!」


「こっちは徹夜で疲れてんねん。耳元で大声だすなや……」


「ふんっ! 情けないわね!!

……そう言えばあとの二人はどうしたのよ?

リュウセイさんと……カイルさんって言ってたっけ?」


「あいつらは街の外に出掛けたでー」


「出掛けたって……まだ朝よ? 何しにわざわざ外に出ていくのよ?」


「修行と今晩の食料調達」


「その二つがどうやったら一緒になるのかが分からないわ……」



 頭に疑問符を浮かべた後、もういいわ、とばかりに肩を竦めるミシェル。少し冷めてしまった手をつけてなかった朝御飯を食べ始める。

今日の朝は焼き魚(?)とご飯と味噌汁。極々一般的な料理である。



「ミーちゃぁーん、おかえりぃ~」



 もぐもぐ、時々ぎゃーぎゃーとジャックとミシェルが箸を動かしていると、フランが孤児院の奥の部屋から出てくる。白いウサ耳をぴょこぴょこと動かして、彼女はミシェルの隣の席に座った。



「ただいま、フー。随分と嬉しそうね」


「だって、睡蓮が犬猿会に盗みに入って孤児院の生活も安定するんでしょう? 嬉しいに決まってるよー」


「それもそうね。しばらくは無理でしょうけど、それを乗り越えたら今よりはマシになるわ」


「それに、私、昨日の睡蓮の広告見たんだけど、もしかしたら孤児院に直接寄付しに来てくれる人もいるかも知れないでしょ?」



 目をキラキラと輝かせ、耳をぴん、と空高く伸ばし、丸い尻尾を稼動する最大範囲で高速にうごかしている。フランの出来る一番の喜び表現でミシェルに詰め寄っていくフラン。ミシェルは話を聞きつつも、魚の骨を丁寧に取り除いている。



「うーん、悪いけどそれはないと思うで?」



 自分に向けられた質問でもないのに、ジャックがそう応える。頬杖を付きながら、目は半分ほどしか開かれてない。



「ぅえっ!? な、なんで……ですか……?」



 ジャックに話しかけられたフランが急にオドオドとし始める。ミシェルと話していた時の物言いは無くなり、昨日『珍味櫓』に来たときのようなどこか自信なさげな話し方だ。



「もー、フランったら。……別に初めて会った訳でもないんだし、いつも通りの話し方でいいじゃない」


「ゥ、ウサギは警戒心が強い……生き物なの……」


「はいはい、そーゆーことにしておいてあげる。それと、フラン?

私も寄付をしに来てくれる人はいないと思うわよ?」


「ミーちゃんも……そう思うの?」


「だって、西地区の夜のスラムにお金が困ってない人が居るわけないじゃない。あそこは、私たちよりも貧しい人たちが暮らす場所なのよ?」


「あっ……そっかぁ……」


「まぁ、そんな落ち込みなや。孤児院の暮らしは確実に楽になっていくねんから」


「そうよ。全然落ち込むことないのよ? 睡蓮のおかげで、全部上手く回ってるんだから」


「うぅ……分かった……」



 睡蓮のおかげで、を強調してミシェルは親友の頭を撫でる。彼女は初めこそ恥ずかし気にしていたが、抵抗虚しく緩んだ表情で耳を折りたたんでいた。











「ふわぁ~ぁぁ……あかん……眠いわ……一旦寝るから布団貸してくれへん?」



 ジャックは眠気を堪えきれずに大きなあくびをして、ミシェルに問いかける。人探しの徹夜はやはり堪えたようだ。

だが……



「無理よ」


「はぁっ!? なんでやねん!?」


「ぁ、あの……今日はですね……一週間に一度の……その……“大掃除”の日なんですょぅ……。なので、今…お布団は全部洗濯して、庭に干してるんですぅ……」


「やんわり湿った布団で良ければ貸すわよ?」


「貸さんでええ。もうええわ……庭で寝てくる…」



 立ち上がってフラフラと歩き出す。そしてそのまま床に倒れ込んでしまった。余程疲れていたのだろうか? 庭にすらたどり着けなかった。


 まぁ、そんなジャックに安眠が訪れる事などはないのだが……



「あー! にーちゃ、こんなとこで寝てんぜー!」


「ジャックさん!! ここは今から僕達〝少年少女清掃隊〟が掃除するんだよ!?」


「こんな所で寝ちゃだめなんだよー」


「とーお!!!」



 少年少女清掃隊の面々が入ってきてジャックを見るなり指を指して囲み、起こそうとする。四人いるうちの最後の台詞を言った六歳くらいの男の子が、寝ているジャックに飛び乗る。大ジャンプして、飛び乗る。



「ぐぇっ!」



 少年の足元から悲痛な声が上がる。それでも完全に意識が覚醒しないジャックに四人は顔を見合せ、攻撃を開始する。



「にーちゃ、ごめんねっ!」


「掃除の邪魔だよっ!」


「こんなところで寝ちゃだめなんだよっ!」


「とーおっ!!」



 四人が一斉にジャックに飛び乗る。さっきよりもさらに悲痛な言葉が聞こえると、渋々、嫌々と言った感じにジャックが起き上がる。すぐさま四人は部屋からジャックを追い出して、掃除を開始する。






 ジャックは寝床を探して孤児院を徘徊するも、“大掃除”の日の孤児院には安息の地などはどこにもなかったらしい。







――――――――――――――――――――







 時を同じくして、リュウセイとカイル。


 二人は別行動をして、個別に修行と食料調達を行っている。まずはカイルから見てみよう……。


 このカラクムルの街の周辺には草原がいつまでも広がるばかりでモンスターは見当たらないのだが、カイルが飛行を二時間ほど続けると大きな湖に到着する。

広さは小さな集落がすっぽりと収まるくらいと言ったところか。もちろん、湖の中にはモンスターがいる。



「さって……今日はどんなやつを捕るかな」



 湖畔に立ち、腕を組んで考え込むカイル。腕と足にはフェルプスを展開して、いつでも攻撃が出来る体勢だ。



「ま、なるようになるか。試したい技もあるし」



 そう言って、水の中に飛び込んでいくカイル。翼を顕現させて水を掻き、ある程度の深さまで潜ると、胸の前で手を少し離して合わせ、その手と手の間に魔法を具現化させる。


 〝コロナ〟の比ではない魔力を込められた魔法が、カイルの手と手の間に現れる。

しかし、その大きさは豆のように極めて小さい。

一刻毎に魔力がどんどん込められ、魔力密度がとんでもないことになる。



――もうちょっと込めたら止めとくか。何が起こるか分かんねーし。水ももう熱くなってきてる。少なくとも、この炎の球は百度は軽く越えてるな……。


















 っし、やるか………――



 豆ほどの大きさだった魔法球がさらに小さくなる。目視することすら難しく、光の粒子が一粒、水中を漂っている感じだ。


 カイルは次の瞬間膨大なエネルギーが蓄積されたその炎の球の魔力密度を高める作業を止めた。



 魔力密度を高める方法は、出来た魔法を魔力を使って圧縮することである。魔法の表面を魔力でコーティングして、無理矢理に圧縮すると魔力密度が高くなるのだ。


 そして、コーティングをするから、魔法に自分の魔力を纏わせているから、自分の魔法で自分が傷つく事はない。

雷の属性を操る者が自らの魔法で感電しないのはこのような理由だ。


 そして、魔力密度を高めるのにはそれ相応の技術と魔力が必要だ。

魔力密度が高くなるにつれて、中の魔法は魔力の膜を突き破ろうとする力のベクトルを持つ。

少しでも魔力コーティングが甘ければ、その部分から魔法が漏れだすか、暴発して不発に終わる。


 なので、魔法を戦闘に使う者は自分が完全に制御出来る範囲でしか戦わない。

トイフェルやゲンスイの使うような魔法はとてつもない魔力密度だったが、あれも彼らの魔力の量と技術を鑑みれば出来て当然くらいの魔力密度なのだ。


 そして、カイルが作っていた炎の球は明らかにカイルの制御範囲を越えていた。

生成するのに時間がかかりすぎるし、魔力密度を高めることに意識を向けすぎて、前方に飛ばすことも出来ないだろう。


 そして、カイルはその自分の手に余る魔法の球の魔力密度を高める作業を止めたのだ。

それはつまり、魔力で魔法を押さえつける作業を止めることであり、内包されていた魔法の魔力膜を破ろうとする巨大な力を妨げる障害が無くなることを意味する。







 その瞬間、炎の魔法は暴発し、カイルを巻き込んで湖の水を天に向かって噴きあげた。



 

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