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CAIL~英雄の歩んだ軌跡~  作者: こしあん
第五章〜ノゾムセカイ〜
156/157

第百五十二話ー貴方と居られる、未来を願って

(9/10)

 




「ハッ! 【魔眼・イヴリス】--対天使にのみ、効果を発揮する【能力】だったか」


「ウン。並の天使ナラ発動するダケで消滅するんだケド……流石ハ、ト言っタ所だろウネ。通常の天使程度の出力に減衰スルに留まってルヤ」


「十分だ。助かったぜ。つーかお前、その腕」


「ああコレ? 良いでショ。付けテ貰っタんダー」


「んなホイホイ付けられるモンじゃねぇだろ……」



 ゲンスイを殺した男と、リュウセイが気安く語り合っている。話してる内容は理解できないが、間一髪。シュウとマリアが神の座に戻ることは阻止できたらしい。

 カイルは膝を突いた身体を持ち上げ、立ち上がる。



「おいリュウセイ」


「分かってんよ。クソ兄貴の相手は任せろ。だからテメェはユナから魔力を受け取って、さっさと世界を救ってこい」



 阿吽の呼吸で伝わる会話。口の悪い弟はそれだけを言い残し、シュウへと意識を向ける。



「色々と問いただしたいけど、一先ず脇に置いておくわ。協力してくれるってことでいいのよね?」


「そうダネ」


「あー……スミレ。こいつはだな……」


「お爺ちゃんを殺したことは、一旦、置いておくわ。今は……世界崩壊を防ぐことに全力を注ぐ」


「キミも戦うつもりカイ?」


「【時間】を稼ぐのに、私以上の適任がいる?」


「アハハ。ソレは確か二」



 三人の剣士が、シュウの前に並び立つ。


 【龍醒(ロア)】を着流しのように纏う龍人。

 【魔眼】を発動させた、ただ一人の神の天敵。

 【時間】を司り、二対の黒刀を構える少女。


 今、この世界における最高峰の剣士たちが天使の行く手を阻まんと刀を握る。


 研ぎ澄まされた鋭い魔力。肌を突き刺すような武威をその身に受ける。あぁ、自分の仲間はなんと頼もしいのだろう。



「世界の方は任せとけ!」



 もう不安はない。あとは自分が世界をどうにかするだけだ。

そう決意したカイルは、泣き笑いのような顔をしたユナに向き合った--。



------------------



 思えば。


 カイルという男は、最初からそうだった。


 決めてしまえば一直線。目指すもののためならば、過程の困難さは目に入らない。


 がむしゃらに。ひたむきに。愚直なまでに真っ直ぐに。走れてしまう。


 だから、ユナは分かってしまう。


 神の座に永遠に独りで囚われてしまう危険があろうと、カイルは世界を救いに行こうとすることを。


 だけど、ユナは知っている。


 カイルという男は、どんな困難な道のりでも、何度倒れても立ち上がって、笑って帰ってくる男なのだということを。



「ユナ」


「--はい。カイルさん。魔力はわたしに任せてください」



 かぷり。ダーインスレイヴに噛みつき、魔力を吸い上げる。


 五百年前の怪物--悪夢(ナイトメア)

 現代に蘇った悪夢--ハクシャク。

 

 それら全てを累ね合わせた魔力はこの世界の全てを覆い尽くすに足るだろう。牙を通り、全身を満たす昏い魔力がユナの身体を蹂躙していく。


 陰鬱で、陰惨で、凄惨な、悪そのものとも呼ぶべき魔力。


 本能がその魔力を受け入れることを忌避し、今すぐ牙を引き抜いて、この身を犯す魔力を吐き出してしまいたいと。そんなことすら思ってしまう。


 澱んだ泥を無理やりに飲み込まされるような不快。

 無理矢理に身体を犯されているかのような嫌悪。

 魂が穢され、汚濁されていくような絶望。


 ハクシャクという巨悪を構成していた魔力は、ただそれだけでユナの心を蝕む。



--負けません……! 逃げません! 

 


 だが、ユナは耐える。歯を食いしばり、目を固く瞑って。だって--


 カイルなら逃げない。

 カイルなら折れない。

 カイルなら諦めない。

 

 ずっと。一番傍で見てきたのだ。

カイルという男が立ち上がるところを。全てに打ち克つところを。

だからわたしも、わたしだってと、ユナは醜悪な魔力を身の内に貯め込む。

 












 ……あぁ、そっか。自分はカイルに、焦がれていたのか。


 ユナは、薄靄がかかった意識の中でそう自覚した。



 憧れでは無い……恋、でもない。

 体の中で燻るこの感情は熱い火の玉のようで。手前勝手に燃え上がり、胸を焼き、身を犯す悪から守ってくれている。

 

 これは恋ではない。


 だって、ずっとずっと燃えている。


 恋ならいつか冷めるハズ。だからこれは恋ではない。いつからか在ったこの火の玉は絶えず熱を上げ、自分に戦う力をくれる。


 絶えない想いが恋ではないなら、この焦がれる感情は何というのだろうか。


 なぜか、その感情に名前をつけることが躊躇われて、ユナは無心で魔力を吸い上げ続けることにした。


 どれだけの汚濁に身を浸そうと、胸から広がるこの熱が楔となって、自分を引きとどめてくれている。この熱があれば、この想いがあれば、どんなに辛いことでも耐えられる。


 金髪の少年の顔が目蓋の裏に浮かぶ。エメラルドのような緑の澄んだ目。疑問符を浮かべるあどけない顔。力強く、自分を呼んでくれる声。

……それはどこまでも暖かく、力をくれる魔法。


 死さえ欲したあの処刑台での絶望に比べれば、悪夢の残滓が齎す嫌悪など、どうということはない。

もっと昏く、澱んだ場所から、自分は既に救われているのだ。


 あの太陽のような男に。既に--

 

 ちゅぽん。ダーインスレイブから全ての魔力を吸い尽くす。この身に溢れる魔力がどれほどの量なのか、自分でもよく分からない。目は開いているはずなのに。目の前がチカチカして、よく見えない。


 だけど、問題は無い。

 手を広げ、目の前の空間に飛び込む。きっとカイルはそこにいるから。


 ほら、受け止めてくれた。こんなにも満たされた気持ちになるのは、カイルしかいない。少しだけ、このまま抱き留めていて欲しいけれど。そうは言っていられない事態なのは分かっている。


 身体に触れる感触だけを頼りに、首筋に牙を差し込んだ。

















 魔力を送る。


--無事でいられますように
















 魔力を送る。


--また、会えますように















 魔力を送る。


--帰ってきてくれますように















 魔力を送る。


--誰一人、欠けることのない未来を想って


 





















 吸い尽くしたダーインスレイブの魔力だけでなく、ユナ自身の魔力も送る。

那由多の如き魔力からすれば、ほんの一雫の量でしかないけれど。





















--貴方と居られる、未来を願って


 魔力を……送る。
















 牙を離し、目を開ける。

 

 カイルがいる。


 遠いところに行ってしまうカイル。

 もう二度と会えないかもしれない。

 止めたかったかと問われれば、その答えは『いいえ』だ。


 だって、カイルは約束は必ず守ってくれる。

 心配は要らないし、さよならは言わない。

 いってらっしゃいの言葉で送り出そうと、ユナは口を--

 


「ありがとうユナ! すぐに行って、すぐに帰ってくる! 大丈夫! 二度とお前を一人になんてさせねーから!!」



 開こうとして、閉口した。

 その約束は、ユナの直前の決意を全て台無しにする破壊力を秘めていて。胸の中で燻っていた火が、全身を駆け抜ける。


 ダメだ。それは、ダメだ。耐えられない。自覚した炎は留まることを知らず、髪の先から足の先まで余す所なく焦がしてしまう。



--いつだって、居て欲しい時に居てくれて。



 抑えつけようとして、胸に手を当てる。止まれ、出るな。いってらっしゃいを言えばいい。それ以外の言葉は、ワガママだ。死地に赴くカイルに、どうしてその言葉が言えるのか。



--いつだって、欲しい時に欲しい言葉をくれる。



 (きず)になる。カイルにとっても自分にとっても。言ってしまえば後戻りはできないのだ。世界を救うという大業の前に、憂いは残すべきではない。自分の役目は、背中を押すことだと、分かっているのに。



--だから、いつだって……































「貴方が大好きです、カイルさん」



 言ってしまった。火が口にまで登ってきてしまった。言うまいと、自覚しまいとしていた想いが、溢れてしまった。

自分の顔が、一拍遅れて赤面していくのが分かる。熱い。全身が炎に包まれているみたいに熱い。

訂正したい。やり直したい。違うと、そうじゃないんだと口を開くより先に--



「?? ああ! 俺も大好きだ! いってくる!」



 恐らく、検討違いな大好きが返ってきて、カイルは飛んでいってしまった。

落胆か、安堵か、喜びか、もやもやとした不完全燃焼の想いで脱力してしまい、ユナはへたり込んだ。



「……ばか」

 

 

 だけど、"らしい"なとも思ってしまう自分は。

 

 きっともう、どうしようもないのだろう。



--------------------------

 


 ユナがくれた魔力が全身を走っている。

 止まっていられない。この熱を身体の中に留めては置けない。今なら、首を切られようが、心臓を潰されようが、粉微塵にされようが瞬く間に再生するだろう。それほどの魔力の奔流が、全身を突き破ろうと迸っている!


 翼を動かす。


 前へ翔る。


 一塊の弾丸のように真っ直ぐ。


 世界を救いに! 前へ!



「待て! 待つんだ! 僕の愛する弟のカイル!」


「ハッ! 行かせるモンかよクソ兄貴!」


「私たちの未来はカイルさんに託す。だから、ここは絶対に通さないわ」


「アハッ! 弱体化してもコレだなンテ、ホント規格外にモ程がアル! 胸が躍るネ!」



 三人がかりで、シュウが抑えられている。神の天敵、悪魔の【能力】で弱体化しているからいいものの、トイがいなければ今頃世界はシュウの思うがままになっていただろう。


 どうしてアイツが味方になったのかは分からないけれど、今がチャンスなのは間違いない。カイルは三人を信じて飛翔するが、



「……キミさえっ、居なければ!!!」


「なっ、トイ!!!!」



 リュウセイとスミレの刃を受けながら、シュウの放つ刃がトイの首を狙った。悪魔(トイフェル)さえいなければと、憎しみに歪んだ顔をしたシュウの一撃。トイを殺せば、守護天使の力を再発現させ、カイルを止める(すくえる)と、きっとあの兄は思っている。


 それは正しいけど、正しくない。


 シュウの刃が振り下ろされていたならば、それは現実になっていただろう。

だが、カイルは知っている。自分より先に駆けていった、ここぞという隙を見逃さない稀代の大悪党の存在を!



 青い髪が揺れる。斬撃が、割り込んできた人物の首元で止まる。

割り込む隙を窺っていた長女(マリン)は、間一髪。シュウの振り下ろす刃とトイの間に自らの体を滑り込ませた。



「どうして、どうしてだ……っ!?」


「--前に進むと、決めたから。大丈夫、未来は怖くないわ、お兄ちゃん」



 シュウは家族を斬ることができない。世界よりも大切な家族を、傷つけることができない。

だからマリンは自らを盾とした。魔力などとうに空っぽだけれど、自分という存在こそが、シュウに対する絶対的な盾となることを知っていたから。


 そして、意識を失っていた彼女を起こし、事情を説明したのは--



「よー止めた! ええぞ! いてかましたれ! トイ!」


「ドアホ! 戻らんかいエレナ! 巻き込まれるで!」



 トイを治し、戦える腕を与えたエレナ。

 そしてその兄、ジャック。ぎゃーぎゃーと喚きながら現れた、長きに渡って断絶していた二人の兄妹だ。



「そもそも! なんでお前はまだ人間を--!」

 

「人間やって魔具や! アイツが望んで、ウチも望んだ! ウチは一生アイツと一緒におるって決めたんや! 口出しすんなジャック!」


「どういうことやトイフェルゴルァ!!! お兄ちゃんはそんなこと許した覚えはないで!」



 運命に翻弄され、環境によって別たれた兄妹。その隔絶は海よりも深く、埋まることなどないかと思われた。だが、今はどうだ。憎まれ口も、罵り合いもするだろうが、彼らのやり取りは未来を思わせるものだ。


 その未来を奪わせてはいけない。

どれほど悲しい出来事も無かったことにはできないし、悲劇の果てに紡がれた幸福もある。これから紡がれていく幸福こそ、自分たちがノゾムミライなのだ!


 笑い合える。支え合える。だから生きていける。


 そのことをカイルは--マリンは、身をもって知っているから。



「お父さんがいない。お母さんもいない。フィーナもいない。そんな世界だけど、生きていけるわ。私たちは、一人じゃないもの」


「っ! ダメだ! 認められない! 僕の愛する家族がいない世界なんて--!」


「ごちゃごちゃ……うるせぇ!! 俺たちゃとっくに! そんな世界で生きてんだよ!!!」



 リュウセイが隙だらけのシュウを蹴り飛ばす。瞬間、目の前が開き、神の座への道を阻むものは何一つなくなった。



「悲しいさ! 辛ぇさ! だけど生きてんだ! だから戦ってきたんだ! 生きるために! 明日のために戦ってきたんだ! メソメソ後ろを向く為なんかじゃねぇッ!!!」


「っ! マリア!!! 僕の愛する弟のカイルを止めてくれッ!!」



 リュウセイの叫びは、シュウに届かない。シュウはまだ、あの炎の夜に囚われている。父と母を失ったあの日のまま、時間が止まってしまっているのだ。シュウにとって、それほどまでに家族の存在は大きく、死別は受け入れ難いものだった。

そして、受け入れられないまま、ここまで来てしまった。

生き返るからと止めていた時間のまま、ここに来てしまった。


 だからシュウは抗う。否定しようとする。


 カイルが神の座に至ることは、家族が生き返らないと突きつけられることだから。


 それは、炎の夜に止まった時計の針を動かすことだから。


 家族を喪うということだから。



 シュウの呼びかけに応え、マリアが手を伸ばす。

変異(パンドラ)を操る変異(パンドラ)--否、神の権能を操れる元神。その力でカイルの【再生】を操り、過剰再生で動きを止めることなど容易い。動きを止められたところで【再生】できるが、この身に宿る魔力は神の再生のために、少しでも多く残しておきたい。


 だが、何故だ。マリアを見ていると、そんな考えより、腹が立つという感情が先走る。


 伸ばした手は震えている。眦は歪み、今にも溜まった雫が落ちてしまいそうだ。そんな風体で、マリアは強く言葉を放つ。



「儂はシュウと共に永劫を生きると決めたのじゃ! 儂が……儂が! その責を負わねばならぬ! 還らねばならぬ! ここで其方に神の座に行かれる訳にはいかぬのじゃっ!」


「……っ! ふざけんな! 決めたとかなんだ! だったらそんな泣きそうな顔してんじゃねー!」

 

 

 神の座は、マリアにとっては拭い去れないトラウマだ。万の時を過ごした牢獄なのだ。自分が在るべき場所とは言え、臆してしまうのは当然と言える。


 だから、きっと--



「嘘吐くなよ! お前はここで! 皆と生きていたいんだろ!」



 マリアはきっと、この世界で生きたがっている。トラウマそのものである神の座に還りたくない。まだまだ世界の中で笑っていたい。どれほど言葉を取り繕おうと、それが偽れない本心なのだろう。


 

「だ……ダメじゃ! ダメなのじゃ! 主に世界は救わせぬ! それは--儂の咎なのじゃあ!」



 その本心さえ覆い隠す、神の責。自分が壊してしまった世界に対する罪悪感が、マリアに幸福を許さない。怖くても、嫌でも、トラウマでも、それが神のすべきコトだから。

神の座に還ることが大逆を犯した自分に対する罰だと思い込み、それ以外の選択肢をマリアに選ばせない。


 

「こんの、頭でっかち!」


「許せ! カイル!」



 カイルを襲う、過剰再生による意識増殖。意識が増える。自分が自分が増えていって止めどなくて。


 気が狂いそうなほどの自我。脳味噌に五人も六人もの自分が生まれ続け、喚き続ける。どれが自分なのかも分からない。どの気持ちが自分なのかが分からない。再生しなければ、乱立した自己に圧倒され、本当の自分を見失ってしまいそうになる。


 だが、カイルは、



「止゛ま、ら゛ねえ!!」



 それでも、前だけを見て、飛ぶ。



「ば、馬鹿者! 再生せぬか! 死にたいのか!」



 一滴たりとも魔力を無駄にしない。


 増え続ける自我を放置する。気が狂いそうな現状を受け入れる。その暴挙に、カイルを廃人にするわけにもいかないマリアはたまらず、過剰再生を止めた。

マリアの横をカイルが抜ける。過剰再生が効かない以上、マリアにカイルを止める術はない。



「は、早う再生するのじゃ! バカじゃバカじゃ思うたが、主は真性の大バカか!」



 マリアの忠告もカイルは聞かない。この魔力は、世界を救うためにある。自分のためじゃない。常人ならば数秒で廃人になる攻撃も、意に介さない。


 何故なら--



「俺は!!! もう誰も!!! 失いたくないんだよ!!!!」



 脳から、身体から、魂から



「二度と負けねぇ!!! 二度と倒れねぇ!!!」



 カイルの身体を満たす増殖する自己が



「俺は!!! 全部を救うために!!! ここに来たんだ!!!!!」



 全員、同じ言葉を叫んでいるからだ。


 自己がいくら増えようと、全く同じ思考をすることはまずない。

だが、自分の行動だけが悲劇を回避できるという局面に置かれた時、カイルという男は必ず(・・・・・・・・・・)悲劇を回避するために(・・・・・・・・・・)死力を尽くす(・・・・・・)


 それだけは、揺るがない。


 

 思えば。


 カイルという男は、最初からそうだった。


 決めてしまえば一直線。目指すもののためならば、過程の困難さは目に入らない。


 がむしゃらに。ひたむきに。愚直なまでに真っ直ぐに。走れてしまう。


 だからカイルはここに居るのだ。


 だからカイルはここまで来たのだ。


 だからカイルは全ての自分を伴って突き抜けていく。



 力を込める。翼を動かす。ただ! ひたすら! 真っ直ぐに!




「あぁ、そうだ! 行けカイル! クソ兄貴より、バカ兄貴の方が、まだマシだからな!」



 不敵に笑う弟の横を駆け抜ける。



「ちゃっちゃと世界、救ってきなさい! ユナちゃんを待たせるんじゃないわよ! カイル!」


 

 屈託なく笑う姉の上を翔け抜ける。



「--カイル!!」



 絶望に歪んだ兄を横目に飛び抜ける。



 そうだ。たった三人残った家族たち。世界と天秤になんてかけるまでもなく、カイルも家族が大好きだ。


 だから、シュウを犠牲にした世界なんて真っ平で。


 そのためなら自分は何度でも理不尽に抗おう!



「行ってくるぜ! 皆!」



 飛び込む勢いそのままに振り返り、自分が背負った世界を眺めながら。一人にしないと約束した少女に向けて。


 笑いながら、カイルは神の座に飛び込んだ。




--------------------------




 そして、世界は救われた。


 白い炎が世界の全てを覆い尽くすと、何事もなかったかのような罅のない青空が広がっていて。

 


 カイルが帰ってこないまま--十年の時が流れた。












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