第百四十四話ー破壊の王
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生物の存在を否定する灼熱の世界。一面に広がる溶岩は、世界の脈動を受けて雄大に胎動する。赤熱する液体が放つ薄光も発光媒体に合わせて揺らめき、火口内を妖しく飾り立てていた。
死のみが大手を振って闊歩する世界最大の活火山--『キルウェア火山』。
その死の世界の中で、死装束を纏わず、世界の理に反抗する生命が二つ、存在した。
「フレイム--バースト!!」
死装束の代わりに朱色の羽毛と、【再生】の白炎を身に纏ったカイル。身の丈ほどもある翼を翻し--呆れるほどの愚直な攻撃を繰り返す。
真っ直ぐに、フェイントも駆け引きも無い突撃。
魔力と咆哮を火口内に残響させ、不死鳥の化身は相対する敵対者のみを視界に捉える。
『挐壊』
その拳の先、カイルの敵対者たる存在--この世の万物の天敵である存在--打倒すべき絶対悪として君臨する帝王も、カイルの拳撃に合わせて拳を繰り出す。
漆黒の全身鎧。光さえも取り込み『黒』以外の色彩を発しない帝王は存在そのものを黒--あるいは闇で塗り潰した様に見える。
かの帝王が無性的な声を発すると同時に、そしてカイルが両拳から炎を噴き上がらせると同時に、両者の拳が激突する。
瞬間、激突した拳を中心にした数メートル範囲の空間--溶岩も、空気も、塵も、果ては光や音でさえもが、消え--否、破壊される。
帝王の有する最恐最悪の【チカラ】。【破壊】の闇属性。
触れたものを何一つの例外なく“破壊”する、最強の矛である最強の盾。矛盾無き絶対の【チカラ】。攻撃の余波が空間を満たすだけで、跡には何も残らない。
【再生】するカイルを除いて。
周囲の変貌など歯牙にも掛けないカイルは、帝王に向けて蹴りを放つ。
『まだ分からないか。彼我の実力差が。何をどれほど積み重ねようと、お前の拳が二度と【破壊】を貫くことはない』
「一回は当たっただろーが! だったら二回目も殴れる! 三回目も四回目も! そんでお前を……ぶっ飛ばせる!!」
『……考えることを知らんのか。力任せにも程がある』
「力任せが……俺の戦り方だぁああああ!!!」
脳を通さず脊髄で言葉を発し、戦うカイルへの評価は、帝王の下したもので相違ないだろう。考えることをしない、破壊される自身を考慮しない--底抜けの考えなし。
だが、そんなカイルだからこそ、カイルは帝王と戦える。立ち向かっていけるのだ。マトモな感性の人間であったなら、どうにかして策をめぐらし、【破壊】の鎧を貫こうと思考を働かせるだろう。
しかし、そのような策など存在しないのだ。【破壊】の【チカラ】は無差別に、無条件に、絶対的な優位性を持って、触れる万物を破壊する。概念すら破壊する帝王の闇の前には、どのような策も無為に成り果てる。
その【チカラ】に唯一対抗できるのが、【再生】なのだ。【破壊】されたそばから【再生】し、破壊されながら攻撃するという力技の中の力技でしか、【破壊】を攻略する手立ては無い。
そして、それができるのは……痛みも恐怖も厭わない底抜けのバカだけなのだ。
カイルの脚が帝王の黒鎧に触れた途端、【破壊】による崩壊と【再生】による回復がしのぎを削る。傍目から見れば、カイルの脚が鎧と触れ合っているだけに見える光景だが、その実、彼らのみが立ち入れる人外の応酬が行われているのだ。
帝王の破壊力をカイルの再生力が上回れば、カイルの攻撃は再び帝王に届く。下回れば、帝王は蚊が止まった程度の感覚さえ覚えない。
--そして、カイルは現状、帝王の【破壊】の鎧を貫けないでいた。
『駕壊』
「うぐっ!?」
掌を前方に向けた帝王が闇を放出、カイルの顔面の右半分が消失するが、直後に再生。怯むことなく拳を引き絞り、放った。帝王は迫るそれを避けず、鎧で受けてカイルの腹を【破壊】で穿つ。
「--打たれ強さ、がぁ! 俺の取り柄だ!」
不屈の精神力で穿たれた腹を放置し、カイルは頭突きで反撃。【再生】は【破壊】を貫けない。
『砕け散るがいい』
隙だらけのカイルの鳩尾に拳がめり込む。帝王の【破壊】は肉体に浸透し、カイルは粉々に爆散し--
「--それから、魔力の多さと!」
破片を白炎で繋ぎ、再生。潤沢な魔力による【再生】、カイルの外的損傷は瞬く間に無かったことになる。再生しきったカイルの拳の中には、凝縮された輝く炎が握られていて、
「一撃の……強さだ!!」
ビッグバンとして解き放たれる。ジャックより与えられた魔具ファフニールの炎に、【再生】の白炎を織り交ぜた尽きぬ炎が、帝王の身体に襲い掛かる!
『【破壊】は砕けぬ』
……が、帝王は襲いかかる熱波を悉く破壊し、事なきを得る。絶対的な防御。【再生】する不滅の炎であろうと、【破壊】力が上回ればいい話。
上回ったということはつまり、カイルの馬鹿みたいな膨大な魔力を……帝王はさらに上回るのだ。
『【破壊】は万物を世界に還す』
ビッグバンを隠れ蓑に殴りかかろうとしていたカイルは、帝王の闇の直撃を受ける。体細胞が崩壊し、粉微塵に破壊されていく自身の身体。奇襲の失敗を悟ったカイルは翼を前面に叩きつけて後退、距離を取る。
『攻撃に対する絶対防御……尽きぬ魔力……強大な破壊の力。……似ているな、不死鳥』
「俺とお前がか? まー確かに似てるな。真似してんじゃねーよ。俺の取り柄だぞ!」
『酷似した優等性。なれば戦闘法をこそ、推して知るべし。故に雌雄を決するのは--』
「強い方に、決まってんだろ!」
【破壊】による攻撃に対する絶対防御。
【再生】による攻撃に対する完全耐性。
底知れない、抜きんでた魔力。
【破壊】による絶対破壊の殺傷力。
【再生】に依拠した超火力の自殺特攻。
確かに、それぞれの長所を並べてみれば、帝王とカイルは似ている。【破壊】と【再生】。相反する両極の【チカラ】であるのに……過程こそ異なれど、同系統の利点を持っている。
そして、長所が似ているのなら、辿り着く戦闘法もまた同じ。
肉を切らせて骨を断つ。相手の攻撃を受け、必殺の一撃を叩き込む諸刃の戦法。
ただし、肉を切ろうとした相手をも破壊したり、切られた肉が再生したり、という各々の特性が、戦法から諸刃を消し去っているが。とにかく。帝王とカイルは似ている。相手の攻撃を避けることを考えない。一度受けて、そこから相手をぶちのめすことを考える。
両者の違いを述べるとするのなら、帝王は防御そのものが攻撃に転じ得る、というところだろう。
「コロナ!」
流線形の炎を右拳に灯したカイルは、渾身の力を以って帝王の腹を殴りつける。着弾と同時に轟音が響き、迸る炎塊にその身を焼かれる--そんな通常訪れるべき当然の結果が、黒鎧の前に破壊される。
「んっ、の、ぉぉおおおおおお!!!」
白炎が噴き上がり、再生と破壊が繰り返される。不壊の黒鎧を貫かんと、再生の拳が押し込められていく。
--この一撃は絶対、届かせる。
まずは一発。真正面から破壊を貫いてみせる。鎧の奥、兜に隠れたすました顔に一発いれる。いつまでも余裕ぶっこいたままいられると思うなよ。と、燻る衝動を炎にくべて、カイルは右腕を前に突き出す--
『雌雄を決するは--魔力の寡多だ』
--無情に響く破砕音。虚しい音波が空間を走る。帝王が【破壊】の手を伸ばしただけで、万物はいとも容易く砕け散る。
それが例え、今までカイルを支えてきた魔具であっても。
『お前の【再生】が【破壊】を貫けるか、否か。その一点のみに於いて、勝敗は分かたれる。貫く有因は魔力量を除いて他に無い』
【破壊】を貫くのは【再生】のみ。そして、【再生】が作用するのは使用者であるカイル本人のみなのだ。魔具を通して発現した炎の魔法はカイルの一部として認識されるが、魔具ファフニールは認識されない。呆気なく、いとも簡単に破壊されてしまう--されてしまった。
【再生】が混ぜられた炎が【破壊】を抜ければ、素手より勝る攻撃力を生み出すことは語るまでもないだろう。魔法の炎は炎でありながら純然な炎ではない。炎の特性としての熱を持ちながら、拳に纏わせることで岩をも砕く武器にもなる。
だが、魔具が無ければ火の魔力は炎と成り得ない。海の如く潤沢な魔力も、濾過する魔具が存在しなければ無為に近しい。
魔具が破壊されたことは、カイルの戦闘力の大きな減退を意味する。
『破壊の闇は世界を覆う絶望そのもの。一個人が世界に敵う道理も無い。故にお前に勝利の目は存在しない。
例え【破壊】を貫いたとして--』
鎧を覆う黒の闇が唐突に消える。闇に押し留められていたカイルの拳が、抑えを失って迸り、鎧を強く打ち付ける。
だが、それだけだ。【身体変化】で岩をも砕く肉体になったものの、帝王の鎧は砕けない。魔法を失った剥き出しの拳だけでは帝王に届かない。
『--魔法を失った拳に、鎧を破壊する力は無い』
帝王はカイルにそれを理解させるため、ワザと【破壊】を弱めた。勝利を疑わないカイルに真なる絶望を与えるために。【破壊】を超えたとしても己の打倒など叶わないことを悟らせるために。傲慢な行いにあることには違いない。しかし、かの人物の傲慢は絶対的強さに裏打ちされた王者の余裕そのもの。
理不尽な最強--これが、魔王とよばれた帝王の強さ。
『終わりだ、不死身の化鳥。存在の一片すら残すことなく、【再生】すら叶わぬほどに、万物の終着たる死を--与えてやろう。
安穏たる死に--堕ちるがいい』
帝王の右腕に蔓延る闇。黒より昏く、闇より深い深淵の混沌。世の理さえも破壊する神の【チカラ】。煙の如く、水の如く、薄靄の如く揺らめく暗黒--その矛先が、拳を突き出し、無防備になったカイルに向けられ--、
「コォオオロナァァアアアア!!!」
『--ッ!』
矛が伸びきる前に、帝王の身体が後方へ吹っ飛ぶ。紅炎が帝王を押し飛ばし続け、その勢いはキラウエア火山の岩壁に帝王の身体がめり込んだことでようやく止まる。粉塵舞い上がる火口内で、カイルは両腕に付けられた魔具を打ち鳴らし、満足気に鼻を鳴らした。
「っし! まずは一発!」
破壊されたカイルの魔具ファフニール。帝王の闇に触れ、跡形も無くなった鋼の腕甲は厳然としてカイルの腕を覆っていた。
「コイツはユナの赤い剣と同じだ。ファフニールは--俺でできてる」
魔具の素材は、モンスターに留まらない。人間すらも素材となり得ることは、ユナのダーインスレイヴ、エレナの改造人間が証明している。カイルのファフニールにはカイルの肉体……正確には神経系が使用されており--【再生】の権能を備えている!
つまりそれは、ファフニールは文字通りの意味で壊れないということ。対帝王用にチューンナップされた武器だということ!
「オマケだ食らえ--!」
カイルは右手の上にビッグバンを精製していく。恒星の熱量を備える球に【再生】を混ぜ込み、破壊耐性を備えさせる。魔力を注ぎ、炎を注ぎ、人の顔ほどの大きさとなった破裂寸前の光球を自分と、火口に埋まった帝王との間に置き、
「ビッグバン・カノン!」
撃ち抜く! 破壊的なエネルギーは指向性を付与され、溶岩に風圧の跡を刻みながら真っ直ぐ、帝王に向かって放たれる。火口内の岩壁に風穴を開け、突き抜ける熱線。生命の存在を許さない一線は間違いなく帝王に当たっている。
しかし、カイルは戦闘態勢を解かない。この世のどんな生命体を消し飛ばす熱線など今更。自分たちの立つこの溶岩世界でさえ、命の存在が許されないのだ。帝王が生きている確信を持ち、カイルは白炎の中を直進してくる黒点に拳を構え--
「おいおいバレッバレだぜ帝王! カノンの中を突き進んでくんのは良い奇襲だけどな! お前の黒い魔力で位置が丸分かりなんだよ! オラァ!」
『全く以ってその通り。そんな見え透いた子供騙しにすら引っ掛かるお前こそ、真性の阿呆に相違あるまい』
「へぶ!?」
カイルが殴りつけたのは、【破壊】の光線。帝王の幻。本物の帝王は【破壊】の鎧で溶岩の中を進み、下方から奇襲を仕掛けた。隙だらけのカイルの顔面に黒拳が叩き込まれ、カイルは空中に錐揉みしながら飛ばされていく。
「----っ!」
拳を天に向け、放射状に炎を噴射。勢いを殺し、朱色の翼と朱金の尾羽で姿勢を制御し、対空。顔を伝う鼻血を【再生】の白炎で拭い、下方の帝王に目を向ける。
闇の魔力を足場に溶岩に立つ帝王の黒鎧に傷は見えない。できたら中で鼻血くらいは流していて欲しいとは思うが、希望的観測だろうか。カイルは次の攻撃に備え、足裏に炎を貯めていく。
『埒があかんな。"終焉"はもう直ぐそこまで来ているというのに』
「ざまーみろ。俺が--俺たちがいる限り、"終焉"なんて起こさせねー。この大陸は俺たちが守るんだ! もう悲劇なんて起こさせない! お前の野望は! ここで終わりだ!」
頭を下に、足場を上にした突撃の構え。膝を降り、衝撃に備え--足元に貯めていた火炎を爆発させる!
爆発の推進力で空を泳ぎ、放たれた弾丸のように一直線。カイルは帝王に向かって飛んでいく。
「コロナ・ツインズ!」
両手に具現化した流線の炎。まずは右手を帝王に向けて振り抜く--躱される。右拳は溶岩を撃ち、衝撃で突撃の勢いが殺される。そのまま、カイルは体を器用に捻り、炎を纏わせた踵を帝王に向けて落とす。
「プロミネンス・サテライト!」
マグマ溜まりに届くかというほどの深い穴が穿たれ、溶岩が波打つが、帝王に攻撃は当たらない。溶岩の飛沫も鎧に当たった瞬間、破壊されてしまう。
帝王に正対するカイルは左手に灯されたままのコロナを帝王に向け--!
「コロ--」
『業壊』
帝王にその拳を止められてしまう。炎も魔具も破壊され、【再生】が始まるが、始まった途端に破壊され、カイルはがっちりと帝王に捕らえられる。
「なっ--! 放しやがれっ! こんのっ!」
『一つ、誤解があるようだ不死鳥。"終焉"は帝国が自発的に起こすものではない』
「放っ……は?」
『帝国は"終焉"を望み、助長するように動いてきたが……もはやその必要もない。時間の問題だ。貴様らが帝国を打倒しようとしまいと--世界の"終焉"は避けられない』
ぼこり。静寂を示すように溶岩の気泡の弾ける音が火口に響く。カイルはバカだ。今回の作戦の内容なんて殆ど理解していない。彼が分かっていることは、『帝国が"終焉"作戦により、大陸を破壊しようとしていること』『元凶である帝王を倒すこと』のみであると断言して構わないだろう。そんな根本しか脳に入っていないカイルだが、その根本を破壊するような物言いは看過することはできなかった。
「……どういうことだよ。"終焉"作戦でお前らは大陸を壊すって、俺はそう聞いた気がするんだけどな」
『誰に聞いた?』
「シュウ兄と、ミカゲっていうおっさん--」
あと、マリアって真っ白いヤツ。
カイルの口がそのように動くと、カイルの拳を握る帝王の握力が強まった。握られた拳の分だけカイルの拳が縮まり、白炎がソレを元に戻そうと懸命に噴き上がる。帝王の表情は読めない。見えもしないのだから当然だ。
けれどカイルは、確かな感情の変化を肌で感じ取った。
『何を思ってアレがそのように伝えたのかは推し量れないが、間違いを正そう』
「へぇ、教えてくれんのか。俺に分かるように頼む……ぜ!」
【再生】を一時的に解除し、拳が【破壊】されることでカイルは拘束から逃れることに成功。不意打ち気味に鳩尾に蹴りを見舞う。
『"終焉"が齎すのは"世界"の破壊。大陸などどいう次元に収まるものではない』
--が、手応えは薄く、微動だにしない帝王は滔々と言葉を紡ぐ。
『"終焉"は帝国が起源ではなく、帝国誕生以前から発生し、進行していた現象だ』
カイルは帝王の言葉を一応耳に留める努力をする。少し理解が追いつかないが、自分たちの戦う目的の根幹に関わる事柄。不幸を二度と生み出させないためにも、傾聴する。
それと同時にカイルは思う。この言葉は一体誰に向けられているのだろうか、と。状況的に自分に向けられていると考えるのが妥当だろう。しかし、カイルにはそう感じ取れなかった。
帝王の鎧は一部の隙もなく、闇と鎧に覆われているため、目線も表情も読めない。兜の先は自分に向けられているのに、眼は自分を捉えていないと感じる。
まるで、虚空にでも語りかけているような--。
『"終焉"により帝国は生まれ、"終焉"のために帝国は存在した。だが、帝国が存在せずとも"終焉"は迎えられる。もはや止まることなどない。全ては人間の"咎"故に』
帝王は右拳を引き、闇を集中させる。渦を巻き、螺旋を描き、拳周辺の空間が黒に塗り潰されていく。楕円形を形成した闇は尚、中心に向かって流れを発生させていた。
それは、何もかもを飲み込む"渦"。
湧き出る闇すらも引き摺り込み、押し潰す無限に続く【破壊】の黒渦。
カイルはこれまでとは一線を画す攻撃に警戒を覚えるが、攻撃の為の"溜め"はこちらにとっても好機。即興で生み出せるビッグバンで効果が無いのなら、時間をかけてより強力なビッグバンを作り出すまで。距離を取り、炎を燃やし、白炎をくべて、身長ほどもある巨大な光球を作り上げる。大きさが増しても、密度は今までと変わらない。限界を振り切った圧縮率の炎は内部で蠢き、今か今かと決壊の機会を伺い、荒れ狂う嵐だ。
カイルはそんな今までで最高の大きさのビッグバンを--握り込んだ。
身長ほどもあったビッグバンを更に圧縮。拳の中に抑え込む。二段階の圧縮は炎を更に昇華させ、握り混んだ拳から、火明かりとは思えぬ眩い光が閃光となって噴き出している。
「原因は帝国じゃなくて、俺たちにあるってのか?」
『然り』
「--分かんねぇ。全ッ然分かんねぇ。"終焉"って、結局どういう理屈で起こってんだよ。人間が原因って……どういう意味だ!」
『言ったところで、理解することなど出来はせん。因果の誤解は既に解けた。知りたいのなら、博識なお仲間に聴くが良い』
「あぁ--そうかよ!」
お互いの攻撃が完成する。空を蹴り、翼を打ち、両者は互いに向かって直進し、拳を振りかぶる。
『……言ったところで、理解など出来ぬ』
黒渦と超新星爆発。
黒の引力と白の爆発。相反する形質のそれらは拳に宿り--
『全ては、産み出したものを認識しようとしなかった罰に過ぎないのだ』
激突した。
「ビッグバン・シリウス!」
『聻壊!』
二段階の魔力の抑圧の一段階目を解き放たれる。押さえつけられていた炎が爆発し、通常のビッグバンの密度を保った高熱の炎が、一段階目の範囲内で荒れ狂う。それは、これまでのビッグバンとはワケが違う。密閉された空間内で解き放たれたビッグバンは、シェルター内でミサイルを爆発させるようなもの。広範囲に広がる爆発エネルギーが一定区間内で猛威を振るう!
バキッ! 破砕音が耳に届く。一矢報いた確かな手応え。
カイルがそれを自覚した瞬間、黒渦がカイルの腹部に突き刺さった--!
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後背部に感じる赤熱する岩の感触。岸壁に沈む肉体。身体は痛むが、それは意識から除外する。視界の先、火口の中には渾身の一撃を受けて佇む仇敵の姿。激突した拳の鎧が吹き飛び、防具が【破壊】の闇属性のみになっている。恐らくあの右拳には相応の傷を与えられたことだろう。
--それは上等だ。上等なんだ。
カイルと違い、あちらに回復の術は無い。損傷を与えれば与えるだけ、カイルが有利になる。【破壊】を貫くのが至難の技だとて、長期戦になればなるほど、帝王は傷や疲労を蓄積する。一方カイルは【再生】で傷も疲労も残さない。故にカイルの方が、相性的には優っている--ハズだった。
--クソっ。なんで--なんでだ!?
【再生】の白炎がカイルの腹上を這い回る。聻壊により受けた傷を元に戻さんと、燃え上がる。
……けれど、
--どうして傷が、治らない!?
【再生】の白炎がその傷を癒すことは無い。
絶対強者。魔王。--恐怖、力、絶望。それら全てを体現する破壊の帝王が……カイルの中のナニかを、壊してしまった。
迫る。来る。闇よりも恐ろしい絶望の足音が……すぐ、そこまで来ていた。