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CAIL~英雄の歩んだ軌跡~  作者: こしあん
第五章〜ノゾムセカイ〜
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第百二十三話ーあの誓いを胸に抱いて

 





 反乱軍カルミアVS帝国。

その主戦場である要塞都市前は急激な状況の変化を迎えていた。

帝王の未来破壊による『暗黒の未来』が訪れてからーースミレの【未来予知】が封じられてから、帝国がこの戦いに本腰を入れてきたのだ。

戦場に、突如現れた帝国軍部隊長たち……


 第七部隊長、“獣王”アジハド

 第五部隊長、“煽動”エリュア

 第四部隊長、“怪人”グルノア・ロック


 アジハドとエリュアはかつてカイルたちによって倒され、命を落としている。

それでもこの場所に立っていられる理由は周囲の有象無象の帝国兵と同じ。

蘇ったのだ。ジャンヌの【魂】を司る闇属性によって。


 生前よりも力を上げた彼らは、戦場で猛威を振るう。


 そして、戦場に現れた異変は何も彼らだけではない。

進軍を開始したハクシャク率いる吸血鬼族(ヴァンパイア)や、大群で現れたエレナ作の改造人間や殺戮魔具。

そして、漆黒の龍の群れ。


 まごう事なき帝国の総力。

これまでの戦力など、鼻で笑えてしまうほどの超戦力が帝国側に現れたのである。



「ッ、ルオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


「っはァ! いーぃぜぇディアスゥ!!!

もっと激しく戦りあおうぜぇ!!!!」



 戦局の最前線で、ディアスとアジハドは苛烈な戦いを繰り広げていた。

アジハドの振るうバスターソードは、剣というよりはむしろ巨大な鉄塊のよう。

重厚で、鈍い輝きを放ち、巨人族(ジャイアント)でさえ、振るうのも困難であるだろう鉄塊。

アジハドはそのバスターソードをまるで普通の剣のように振り回す。


 その秘密は、【身体強化】。

アジハドのバスターソードの【能力】である。

元々トップクラスの身体能力を誇る虎とライオンの獣人族(ビースト)

それらの混血、ライガーの獣人族(ビースト)であるアジハドの力が【能力】によってさらに跳ね上がるのだーー!



炎舞(えんぶ)!」



 一方、ディアスは二本のランスを用いる戦闘スタイルだ。

彼の武器の柄の部分には鎖が仕込んであり、【伸縮】によって射出、回収が可能となっている。


 ディアスは二本の鎖付きランスを巧みに操り、射出したランスを縦横無尽に駆け巡らせる。

ランスの尻の部分から伸び、ディアスの手元にある柄に繋がる鎖が、空間を埋めて鎖の結界を形作る。

なおかつ鎖からは炎が吹き出しており、敵を寄せ付けない。



「おおおっ、らァ!」


「ぬぅ……ぉっ!」



 しかし、それも相手が常人であったならの話。

常人でないアジハドは、ディアスの炎の結界をバスターソードの一振りで打ち破って見せた。

桁外れの膂力で振るわれたバスターソードは暴風を生み、炎を吹き飛ばし、剣の自重で鎖をも吹き飛ばす。

結界を難なく突破したアジハドは、一気にディアスに肉薄する。



「ぁんだァ!? ディアスゥ!!

時間稼ぎのつもりかァ!!!?

んなことしたって、無駄だぜぇ!!」


「っ、く……っ!」



 アジハドの上段からの一振りを、ディアスは鎖が戻りきっていないランスの柄を交差させて受け止める。

激しい競り合い。ディアスの表情は苦悶に染まっていた。



「今の形勢をよぉく! その蛇みてぇな目で見てみろよ!!

空を見てみろ! 左方も! 右方も!

テメェら反乱軍の勝ち目なんざ、ありゃあしねぇんだよォ!!」



 空の増援はエリュア率いる飛行能力を有した改造人間たち、漆黒の天龍の群れ。

反乱軍カルミアは対応しようとするも、完全に後手に回ってしまっている。

飛空艇の甲板で暴れ回るエリュアを、止められる人材がいない。

黒天龍の鱗を貫ける武器がない。

一機、二機と、反乱軍の飛空艇が撃墜されていく。


 どの戦場を見ても、それは同じだった。

対応が後手に回り、部隊長や黒龍を止められる者がおらずに損害ばかりが増えていく。


 形勢は完全にひっくり返されてしまった。



「それでも! 時間稼ぎなんてぇ生温い戦い方をしやがるってのかァ!!?」


「グヌッ、ォオ!!?」



 前蹴り。アジハドの身体能力で放たれたその蹴りは鍛えられた竜人族(ドラゴニュート)を吹き飛ばすほどの威力だった。


 後方に吹き飛ばされ、体勢を崩したディアスにアジハドが接近する。



「だったら今よォ! ここで死んどけ!!」



 大きく横薙ぎに振るわれるバスターソード。

背後に飛んだのでは巨大な剣の間合いを抜けきれずに叩き斬られてしまう。

体勢が崩れながらもディアスは地面を蹴りつけ空に飛び、その剣撃を回避した。



「読めてるぜぇディアスゥ!!」



 けれども、アジハドはそのような回避を許そうとしない。

アジハドは横薙ぎの勢いを回転することで保ちつつ、強く地面を蹴った。

空中に逃げたディアスの呼吸の整わない間に、二段階の回転切りで追撃するーー!



「大・断・剣!!!」



 空気を圧し切ったような、鈍い風切り音。

山でさえ叩き切れるだろう剣圧が戦場を駆けた。


 けれど、その剣の軌道上にディアスの姿はなかった。

アジハドは目線を周囲に向ける。

飛行手段を持たない者が空中で身動きが取れるとしたら、魔力の足場を作って逃げる以外に考えられない。

ところが、いくら周辺を見渡してもディアスの姿は見えなかった。



「ッチィ! 上か!!」



 アジハドが反射的に顔を上に向け、バスターソードを構えるも、



「残念、下だ!!!」



 ディアスは、アジハドの予想に反して地上にいた。

彼はランスの先端を地面に突き刺し、鎖が巻かれる時に生まれる力を利用して、下方向に移動したのだ。


 かの竜人族(ドラゴニュート)は地面に足をつけ、二振りのランスを大きく後ろに引き、胸が膨らむほど大きく空気を吸い込んでーー



「煌炎竜撃砲!!!」



 溜まった空気を、火焔にして吐き出す!


 竜人族(ドラゴニュート)には、心臓の上部、喉の辺りにとある体内器官が存在する。

火炎袋と呼ばれる、異常な可燃性ーー爆炎性とも呼べる性質の特殊体液を貯蔵する体内器官が。

竜人族(ドラゴニュート)はその体液を体内で発火させ、爆発させることで炎を吐くことが出来るのだ!


 ディアスはその吐き出した炎に、ランスを突き出して放った魔法の炎を合わせる。

ディアスから放たれた火炎は荒々しく、アジハドに向かって爆進していく。

その威力は、その全容は、本物の竜種が放つ【息吹(ブレス)】と何ら遜色ない!


 

「っ、ずぁああああああああああああああ!!」



 アジハドはあっと言う間に炎の奔流に呑まれる。

雄叫びを上げて押し返そうとバスターソードを振るうも、その猛勢に逆らえない。

身体をジリジリと焼かれながら、アジハドは自陣の奥深くまで押し戻されていった。



「アジハド、お前の言う通りだ。俺は、俺の部下たちが撤退する時間稼ぎをしていた」



 火の中に放り込まれておきながら何の痛みも感じない死者の身体に、再度驚きを感じていたアジハドの前に、ディアスが立つ。



「だが、それも終わりだ。準備が整ったのでな」


「準備だぁ?」



 アジハドは戦闘中にも関わらず、腰の瓢箪を手に取り、酒を煽った。

トクトクトクと、アジハドの喉を酒が伝う。



「我々は、当然想定していた。

お前たち帝国がただでやられるワケがないと。

『暗黒の未来』における総力戦を、俺たちの総大将は見透かしていたのだ」



 一方でディアスはランスを構える。

長めの柄を背骨の辺りで交差させ、重心を低く。

横に大きく幅を取った、ディアス特有の迎撃の構え。



「教えてやろう、アジハド。お前たちが今まで本気でなかったようにーーこちらにも温存していた戦力があるのだ!」



 ディアスは笑う。獰猛に。この逆転された状況下において、負けの色を全く感じていない。

自信を込めて、戦いの高揚感に身体を委ねてディアスは口元を歪ませる。

その自信の根源を、アジハドは理解できない。

今なお味方が次々とやられているこの状況下で、どうしてディアスはそれほどまでに自信を保てるのか。

その理由は、すぐに分かることとなるーー。





-----------------------






「ハンッ! ダラシがないねぇ。カルミアの男どもは。ちゃんとイチモツ付いてんのかい?」


「うはは! 元男のお前にそんなこと言われても、笑い話にしかきこえねーってーの」


「あ゛ぁん?」



 反乱軍の戦闘員たちを次々に石化させていった、蛇眼族(メドゥーサ)のエリュア。

甲板にいた全てのカルミアの人員が石化してしまったその場所で、エリュアに話しかける人物がいた。

人の神経を逆撫でするようなおちょくった声に反応し、エリュアがドスの効いた声で振り返る。

しかし、そこには誰もいない。

甲板にはエリュアが石化させた反乱軍の石像が佇むだけだった。



「ひっさしぶりだなぁ、第五部隊長エリュア。

まさかお前が男だったなんて。オレっち聞いたときは腹がよじれるくらい爆笑しちまったぜ」


「誰だ! どこにいやがる!」


「ここだぜ、ここ」



 エリュアの視界の中の石像の影ーー顔部分から、ひょっこりと顔を出す一人の男。

その背丈は石像の顔面よりも小さく、まさしく手乗りサイズ。

蜻蛉(カゲロウ)のような薄羽をパタパタと羽ばたかせ、ゴーグルを装着した妖精族(フェアリー)

反乱軍カルミア諜報部隊部隊長にして、妖精女王サテラの側近。

パック・ルーテル・フェニアだ。



「なぁんだい。誰かと思えば……羽虫じゃないか」


「だったら、今からその羽虫に倒されることになるアンタは何なんだろうな?」



 パックは腰の武器を手に取る。

それは、小さな針。普通サイズの人間からすれば、裁縫道具と見間違える大きさの小さな武器だ。



「アタイを倒すだって?

っく! ハハハハハハハハハ!!!!

笑わせてくれるじゃあないか!

そんな身体で何ができるんだい!?

そもそも……羽虫ごとき、アタイがやるまでもない!


 来な! 黒龍!!!!」



 エリュアが一声そう呼ぶと、彼女の背後に空で戦っていた黒龍の内の一体が姿を現す。

パックたちが乗る飛空艇を、とぐろを巻くようにしている黒龍ーー元、天龍。

その鋭い爪は飛空挺に深く食い込み、グルルルと唸る口から見える牙は何物をも貫きそうだ。

そして、その背に乗るエリュア直属の部下ーー改造人間たち、およそ二十。

エリュアの指示で、彼らは甲板に降り立つ。



「龍種にこれだけの数の改造人間を相手にして、生きていられたら……相手してやるよ。


 ……殺せ」



 端的な命令。その命令に従い、黒龍は身を乗り出し、改造人間たちはパックに向かって突貫していく。




 が、



「っ、なにっ!?」



 瞬間、黒龍の首が落ちる(・・・)

改造人間たちの突貫が、止められる。



『ガァーッハッハァ! 雷龍ヴァルーダス!!!

華麗に美麗に推参なのである!!!!』



 黒龍を仕留めたのは……龍だった。

その龍は眩い黄金の鱗を持ち、周りのどの龍よりも長いヒゲを空に漂わせ、誰よりも喧しく、咆哮を上げた。



『うむう! ワガハイの仲間たち! 死してなお! 冒涜されるとは!

許し難い!! 許し難いのである!!!

この進化したニューカッチョいいワガハイが!!!

せめてもの情けとして!!!


 引導を渡してやるのである!!!!!!』



 彼は雷竜ヴァルーダス。

シャイレンドラの街に居た……実に二百年もの時を生きる老龍である。

龍醒(ロア)】を発動させ、黄金の鎧を纏ったモンスターの王。

その身体を迸る雷撃により、首を落とされた黒龍は隅々まで焼き尽くされた。


 そして、改造人間たちの突貫を止めたのは、



「隊長! 全員無事! クレアさんの元へ“跳び”ました!」


「コイツらは、俺らに任せてください!!」



 石像と入れ替わるようにして現れたパックの部下……反乱軍の兵士たち。

ここに来た手段は言わずもがな、ユナの転移(テレポート)だ。

パックがこっそり石像に付けておいたシールを媒介に、ユナが石化したカルミアの戦士たちを転移(テレポート)させたのだ。


 そうして、パックの前に道が開く。エリュアへと続く一本道が。



「さぁ、オレっちの相手してもらおうか、第五部隊長エリュア。

言っとくけど、負けるつもりはねぇし、誰も死なせるつもりもねぇ。


 もう悲劇は生み出させねぇって、誓ったかんな」





-----------------------





「やっと出てきやがったな、幹部格。

ゴミカス共を相手にするのは飽き始めてたトコだ。

テメェはちったぁマシな“硬さ”なんだろうなぁ?」



 背の丈およそ二メートル。

極限にまで鍛え上げられた筋肉質の体はまるで岩のようである。

……否、それは岩ではない。鋼だ。

その男の肉体は筋肉質ならぬ金属質。

肌色のはずの皮膚が……鈍色の鋼になっている。


 この男が、第四部隊長“怪人”グルノア・ロック。

【形質変化】と呼ばれる稀有な【能力】を持つ亜人族の男だ。

相対するは……



「残念ねぇ。アタシは全然硬くなんてないわよぅ。

女のようにしなやかで、柔らかいんだから」



 グルノアを上回る巨体の持ち主。巨人族(ジャイアント)

帝国の改造人間たちのように、彼の右腕はモンスターのものと挿げ替えられている。

赤黒い、煉獄を想起させるような蟷螂の刃。

左手には愛用の巨大鎚が握られている。


 彼は、補給部隊隊長ザフラ・アルファロメオ。


 反乱軍を蹴散らすグルノアの前に転移(テレポート)してきたザフラ。

二人の強者の睨みあいは……膠着状態を生んでいた。

その膠着状態を破ったのは……



「もう、悲劇は生み出させない」



 ザフラだった。



「誰も死なせないって、誓ったのよぅ。


 だから……グルノア・ロック。

アナタはここで……潰してあげるわぁ」



 ザフラは巨鎚を大きく振りかぶり……その鉄槌をグルノアに向かって叩きつけた。






-----------------------






『助太刀しよう、反乱軍カルミア。

マリンとフィーナから受けた義理を--果たしに来た』


『……………………』



 ザフラとグルノアの戦闘区域と近い場所で二頭の、鎧を纏った龍が多数の黒龍を前に立ちはだかっていた。


 中空域に浮かぶのは、蛇のように長い胴体を持つ海龍。

その海色の(たてがみ)を空にたなびかせ、清水のように澄んだ瞳が目の前の黒龍を射抜く。

その海龍--ヴェンティアの街でカイルたちによって帝国の手から解放された海龍ーーレヴィは蒼の鎧の【龍醒(ロア)】を発動させ、同色の翼で空を飛んでいた。



『やるぞ、ガイアス殿。あの黒龍たちは只人の手に余る。

この戦いでは誰も死なせてはいけないらしいからな。


 アレを倒すのは……我々の仕事だろう』



『…………………………………………』



 そして、地上。

一言も言葉を発しないガイアスと呼ばれた龍は……地龍。

かつて山龍と称されたその体躯はまさに山。

爬虫類のように四足で移動し、岩石のように堅牢で剛健な鱗が全身に張り付いている。

何よりも特徴的なのは、背中の(こぶ)だろう。

その(こぶ)こそ、地龍が山龍と呼ばれた所以であり、その大きさはそこらの山々よりも大きい。

のそり、のそりと鈍重な動きで進む地龍だが、一歩一歩の幅が余りにも大きい。

龍醒(ロア)】を発動していることも相まって、迫り来る威圧感は尋常ではない。



『………………………………………………………………………………………………………………………………』


『ガ、ガイアス殿?』



 寡黙を極めた地龍ガイアスに、レヴィが焦ったような声を上げる。

するとガイアスが前足を大きく振り上げる。

まるで馬が(いなな)くように、大きく振り上げた足。

ガイアスは……その足を大地に向かって叩きつけた!


 巨躯の体重が大地を穿ったことで、地面が揺らされ地震が起こる。

その揺れは敵味方問わずに襲いかかり、戦場に混乱をもたらした。

が、ガイアスの行動の意味はそこにはない。

ガイアスは前足から大地に向かって地属性の魔力を流し、大地を支配下に置いたのだ。


 ガイアスの足が大地を打った瞬間、黒龍たちの足元の大地が急激にせり上がる。

先端を尖らせたその槍状の大地は--前線にいた黒龍たちの半数を串刺しにした!


 圧倒的な破壊力。

攻撃という面ではイマイチパッとしないと言われる地属性だが、スケールが違えばその印象もガラリと変わる。

山サイズの地龍を串刺して宙吊りにさせる地属性の攻撃力を疑う者はいないだろう。


 そして、その規格外の攻撃を放って見せた当の本龍はと言うと……



『……………………………………………………………………………………ああ』


『反応が遅い……』

 


 今更ながらにレヴィの言葉に返事をするのだった。


 

--ーーー------------------



 反乱軍カルミアの戦力は、留まることを知らない。


 中央、ディアスが担当していた戦域に溢れ出た帝国の改造人間たち。

それを指揮するのは……ジャックの妹、エレナ。



「五番! 十三番! 空からあんのクソボケを挟撃せえ!

五十八番と八十五番は横から【エッジスライサー】や!!」



 そのエレナが怒号を上げて指示を飛ばす。

その顔は怒りと憎しみで染め尽くされ、彼女の檄は年分相応な迫力があった。

そのエレナの怒りの先には……



『荷電粒子砲よぉーーーっい!!』



 一機の機体があった。

それは人型を取っていて、全長およそ五メートル。

鋭く角ばったフォルムに、背中には二丁の長銃と短銃、腰にはブレードが二本差されている。

異世界というこの場所において、異彩を放つ科学の結晶。

『なぁーにが科学の結晶だコラァ!

このドワリオン・エクストラ初号機はそんな単語で表せるほど単純じゃねぇぞ!

魔法と科学の二つが合わさった……血と汗と涙と脳汁と努力夢希望魔法魔道科学の結晶だオラァ!!!』



 その二足歩行ロボット--ドワリオンは足に付けられたブースターで空へと舞い上がった!


 空から地上から挟撃しようとしていた改造人間たちの攻撃は空振りし、ロボットの真下に四体が密集する。



()ぇーーーーーーーーっ!!!』



 ドワリオンは背中の長銃を引き抜き、その銃口を真下に向けて引き金を引く!

その砲身から放たれるのは雷の奔流。雷そのもの。

見た目のイメージから荷電粒子砲と名付けられたその技は、天空から改造人間四体を丸焦げにする。



『敵四体沈黙! っしゃらあ!

いいねいいねいい感じだぜおいジャックゥ!』


『おうよミカゲ! ワイも何かテンション上がって来たでぇ!!!』



 ドワリオンが衝撃を膝で吸収し、着地。

この機体に乗っているのは……神影とジャック。

普段、戦線に出ることのない裏方の二人であった。



「ああぁあっ! クソッタレボケ!!

三十・三十一・三十二!! 【魔力喰い(マジックイーター)】でアレを止めぇ!!」



 片腕の先が狼の顔面になった人間が三体。

ドワリオンに向かっていく。



『お〜お〜、ブッチ切れてんなぁお前の妹』


『大丈夫や。何とかして見せる。

どんだけ時間かかっても、ワイはエレナを小人族(ドワーフ)の呪いから救ってみせるんや』


ドンドン(アレ)に崇める価値なんてねぇと思うんだけどなぁ……本人に会わせるが一番じゃね?

ま、妹を持つと苦労するのはどの世界でも共通みてぇだな。

気張れよジャック! 最低条件、忘れてねぇよな!!?』


『あったり前やろ!!』



 ドワリオンがやってくる三体を迎撃する。

三体同時攻撃を人間離れした駆動で回避し、ブースターを使った回し蹴りで、三体を同時に蹴り飛ばす!



『悲劇は生み出させへん! 誰も死なせへん!! そのための戦いや!!』


『よぉく言ったメインパイロット! 

そうだ! もう俺たちに負けはねぇ!

無双状態でこの戦争はおしまいだ!!


 最っ高のハッピーエンドロールを、拝みにいくとしようぜ!!!』





-----------------------





「クックック……戦況は五分と五分。

そう言ったところでしょうかねぇ……ルミナス姫?」



 そして、戦場の右方。

漆黒の鎧を纏った帝国兵たちとは毛色の違う者たち。

背中からは漆黒の翼を生やし、ドス黒い血のような赤目をギラギラと輝かせた……ハクシャク率いる純血の吸血鬼族(ヴァンパイア)の軍勢。

それは軍勢と呼ぶには余りにも小規模で、頼りない数ではあった。

しかして、その戦力は軍勢と呼ぶに相応しい。

完全吸血を行った……吸血鬼たち。

人としての領分を踏み越え、修羅の鬼へと堕ちていった化者共だ。



「五分と五分?

貴方の目は節穴ですか、ハクシャク。

百パーセント。混じり気なく、こちらが優勢ですよ」



 相対するのは、ユナ率いる混血純血入り混じったフィルムーア王国の元国民たち。

血による差別を超え、強いつながりで結ばれた誇り高い吸血鬼たちだ。

ジュリアス、クルミを始めとする吸血鬼族(ヴァンパイア)が……鮮血のような紅さを讃えた瞳を爛々と瞬かせる。

ゴンドゥルビッチを始めとする他種族の国民たちが、腕を鳴らす。


 この戦争にーー長く続いた差別の因果を断つために。



「クハハッ、異な事を仰るものですなぁ、姫。

百パーセント、そちらが優勢?

ククッ、クハハハハ! 世迷言も程々にしてもらいたい!」



 ハクシャクが嗤う。

その暗黒に塗り潰された瞳を歪ませ、大仰に額に手を当てて。

その声は、やはり悍ましい。

数多の魂の混ざった……混沌とした声が、聞く者の魂の琴線を擦るのだ。



「ククッ……、仮にそちらが優勢だとして、百パーセントはあり得ませんぞ、姫。

なぜなら……今、この場で貴女方は劣勢となるのですから」



 青白いハクシャクの身体に刻まれた……黒茨の刺青。

顔から手足ーー翼の先に至るまで、全身に刻まれた刺青から闇が溢れ出す。

無限かと思われるほどのハクシャクの魔力を変換して、吹き溢れる闇。

身体の表面を撫で、ハクシャクの足元を這いずる闇。

視界に入れるだけで気分が黒く染め上げられて、腹の底をかき乱されるような醜悪。闇。


 その姿は……かつて大陸を荒らし回った災厄“悪夢(ナイトメア)”と同じ。



「世迷言は……貴方の方ですよ、ハクシャク」



 ユナは、王剣を構えて薄ら笑みを浮かべる。

血を煮しめて作られた、初代国王ヴィルヘルムの剣。

見た目こそ禍々しいが、その来歴は清廉そのもの。

悪夢(ナイトメア)を封ずるために、ヴィルヘルムが身を削って作った剣だ。



「カルミア最高の戦力を、それぞれの戦場に送りました。

緊急脱出用の転移魔具も、一人一人に渡してあります」



 それを構えるユナは既に元の姿ーー吸血鬼の姿を取り戻している。

血のように紅い左目、夜のような漆黒の右目。

純白の片翼と闇色の片翼。

鋭い犬歯を口元から覗かせ、二人分の黒髪が風に揺れる。



「もう二度と悲劇なんて起こさせません。

もう二度と、この世界に悲しみなんて産ませません。

もう二度と……わたしの怠慢で誰かを失わせたりなんかさせません」



 ユナの手に嵌められた闇属性のブレスレット魔具、火属性の腕輪型魔具。

それらがそれぞれ光を放ち、結びつく。

そして、彼女の拳に灯るのは黒炎。

ハクシャクの醜悪な黒とは違う……澄んだ闇色。

見る者を惹きつける黒色の炎が、燃え盛る。



「その為なら、わたしは何度だって拳を……剣を構えましょう。

どんな敵だろうと、打ち倒してみせます。

目の前の敵に負けない。カイルさんと誓ったんです。

だから、ハクシャク……」



 膝を落とし、重心を低く。



悪夢(ナイトメア)と化した貴方を」



 逆手に持った王剣は身体の前に。



「初代様の血を引くわたしが」



 黒炎を灯した右拳は腰骨の位置に。



「ここで、この場所で、今度こそ」



 身体を捻り、正中線を隠して。



「わたしが。ルミナスとユリシアの意思を持つわたしが……」



 ユナは護身王拳の構えをとった。



「どーんと、倒します」



 ユナの首元に掛かった深紅のペンダントが空中に赤い軌跡を残す。

吸血鬼の王を決める戦いが……始まった。








-----------------------





「スケイル戦闘部隊、突出しすぎよ。戻ってアメリア諜報部隊と合流して帝国兵を迎え撃って」


「ルックス、カレリア治療部隊。

石化されたファイネル戦闘部隊がそちらに送られるわ。

マンドラゴラの対石化軟膏を準備しておいて」


「シャルックス補給部隊、左方戦況が芳しくない。

上空から地魔法による岩石を落とし、援護を行え」



 浮遊島、司令室本部は紛糾の様相を呈していた。

スミレ、サテラ、ヴァレインによる指示が休む間も無く飛ばされ、戦況をカルミアに有利になるように調節している。

先ほどまでは多くの幹部たちが側に居たが、皆転移したため、現在、この大きな半月状の円卓には彼ら三人しかいない。


 彼らも戦っているのだ。

目には見えづらい場所で、確かな信念を持って。

この場の者も同じ。確固たる誓いを胸に秘め、声を張り上げる。


 二度と悲劇を生み出させない。

 目の前の相手に負けない。

 誰も殺させない。


 全てのカルミア構成員が有するその誓いは、大きな士気を生み、思いもよらない力を生む。

物質的な損害は出ているものの、死者の類が一人も出ていないことがその証拠だろう。


 熱の篭る指示のせいか、室内の温度が上がって景色が歪む。

蜃気楼のように、光が捻じ曲げられたように。


 その歪みは……誰かの笑みのようであった。



 

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