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CAIL~英雄の歩んだ軌跡~  作者: こしあん
第五章〜ノゾムセカイ〜
125/157

第百二十一話ー視えない未来

すいません、完全に投稿するの忘れてました……orz

遅れて申し訳ないです。

 



 浮遊島。管制室兼、指令本部。

この部屋の壁面には、いくつもの画面に分割された映像が投影されていた。

リュウセイとトイフェルの戦闘圏を抜けてすぐ、帝国陣地に向けて二十にも及ぶラジコンサイズの飛空艇が放たれた。

それぞれの飛空艇の下部には【彗眼】の【能力】が搭載されており、その視界を、呼応する魔具によって共有することができる。

これにより、反乱軍カルミアは戦場を俯瞰視点で眺めることが可能になった。

現在、この部屋にいるのはスミレ、サテラ、ユナ、ジュリアス、パック、ザフラ。

そしてヴァレインの七名のみである。

壁側に弦がくるように置かれた半月型の机。

その円弧に、スミレを中心にして七名は座っていた。


 彼らが今見ているのはその内の一つの画面。

先行して敵陣に突撃していくディアスが乗る飛空艇に、要塞都市からの砲撃が加えられる映像だ。

次いで、後方を航行していた飛空艇四機にも砲撃。

それぞれに砲弾が着弾するのを確認すると、スミレは目の前にある放送マイクを口の前に持っていく。



『第二次作戦、順調。

浮遊島及び、援護艦No.16〜20、護衛艦No.13〜15は航行を止めてその場で空中浮揚。

遊撃艦No.6〜12はそのまま航行を続行し、混乱に乗じて攻撃開始』



 スミレは画面から目を離さない。

何も抵抗することなく、砲撃に晒された飛空艇五機は炎に包まれながら墜落していく。


 反乱軍カルミアの総数は約十万。

純粋な戦闘員だけで数えればおよそ七万と言ったところだ。

対する帝国は一般兵士のみで総勢百万。

その差を覆すには、普通の戦術ではどうしても間に合わない。


 だからスミレは策を講じた。誰も死なせないために。

絶対優位で戦闘を進めるために。


 無人の(・・・)飛空艇による神風特攻。

強い衝撃が与えられることによって爆発するように設計した爆弾魔具。

それを大量に搭載した飛空艇が帝国陣営に向かって飛来していく!

五機の内、四機はそのまま帝国軍の内部に墜落。

帝国兵士を巻き込み、その人体機能を停止させて……爆発。

爆炎のみならず、鉄片や飛空艇の破片、それらが爆発に乗り、撒き散らされて帝国軍を蹂躙する。


 そして、最後の一機。

ディアスたちが乗っていた飛空艇は要塞都市の、その防護壁に向かって墜落。

壁面に備え付けられていた対空装備を激突の衝撃で破壊しながら、最大火力で爆発した!


 その爆発は防護壁を粉砕し、要塞都市の対空装備を全て。叩き潰した。



「よっし! 大将の予知通り! 初っ端から敵さんは大打撃ってワケだな!」


「騒がないの、パック。成功するのは分かってたことよ。まだ、本番(・・)じゃないんだから」



 妖精族(フェアリー)特有の薄羽を羽ばたかせ、空を飛んで喜んでいたパックは自らの種族の女王のサテラに諌められ、静かに着席する。



「ディアスたちも無事に脱出できたみたいねぇ」



 別の画面の映像。

そこには帝国兵たちと接敵したディアスたちの姿。

つい先ほどまで飛空艇に乗り込んでいた彼らは全くの無傷で地上へと降り、帝国兵たちと白兵戦を繰り広げていた。

何故か。その種は簡単だ。

彼らは【転移(テレポート)】したのだ。

ユナの闇属性の【チカラ】、それを宿した魔具を利用して。

そう、スミレたちは闇属性の【能力】を物体に押し込め、闇の魔力が蓄えられていれば誰でも【チカラ】を使える魔具を作り出したのだ!


 開戦前、マリンがヴァジュラに対して使ったのも、その魔具である。

そのような技術を実現可能にしたのは、反乱軍カルミアに複数いる類稀なる魔具職人たちの才能の賜物ーーではない。

この闇属性の魔具に関しては、ドンドンやジャック、エルは一切関与していない。


 この魔具を作り出した立役者は……なんと、マリアである。

 

 神影やシュウにぴったり引っ付いていた髪も瞳も服も、何もかもが白色の幼女。

何のチカラも無い、ただの子供と思われていた彼女だが、そうではない。

神影は言った。マリアも変異(パンドラ)であると。

変異(パンドラ)である以上、マリアもただの人間ではないのだ。


 彼女の変異(パンドラ)は……【変異(パンドラ)を操作するチカラ】。


 彼女一人で成せることは何一つ無い。

だが、変異(パンドラ)が近くに居るのなら。

彼女は真価を発揮する。

まるで粘土をこねくり回すかのように。

その持ち主よりも自由に……彼女は他者の変異(パンドラ)を操る。

その【チカラ】が、ユナにはできなかった物に【能力】を宿すという離れ業を実現させたのだ。


 そうして完成した魔具により、ディアスたちは飛空艇から地上へと転移(テレポート)

誰一人の犠牲も出さない神風特攻が成功したのだ。


 

「……十分経過」



 スミレが手元の時計をみて、そう呟く。

その顔は“総大将モード”で、感情を極力排したものであった。

しかし、その声音に僅かな緊張が混ざっているのを、長くスミレと付き合ってきたザフラは聞き逃さない。



「大丈夫よぅ、スミレちゃん。ワタシたちなら、どんな状況でも切り抜けて見せるわぁ」


「……ええ、分かってる」



 スミレの懸念事項。それは【未来予知】の不発である。



ーーこの戦いの開戦から三十分後。

理由は分からないけれど、その瞬間から【未来予知】が一切通じなくなる。

どれほど未来を体験してみても、三十分を過ぎると周囲は暗闇に包まれてしまう。

一面の黒……『暗黒の未来』。

そこから先は、私の【未来予知】が通じない未知の世界。

何が起こるか分からない……『暗黒の未来』



 敵の戦術、奇襲、陣形、その全てを看破するスミレの【未来予知】。

それが今回の大一番に至って、機能しなくなった。

何をされたのかも分からない。


 魔法を切り裂く【絶縁の刃】を応用した魔具で結界を作っても防げなかった。

物理的に視界を封じられたワケでもないし、スミレが殺されたワケでもない。

周囲に敵影は無かったし、それは何度も【未来予知】で確認した。


 手段は不明だが、未来が見えなくなった。

そのことが、スミレを酷く不安にさせた。

産まれた時から【未来予知】はスミレに備わっていた。

どんな戦いでも、スミレは未来を見通し、万全の対策を立てて臨んでいた。

犠牲を最小限に。最適解を見つけ出そうと努力した。

トライアンドエラーを繰り返し、最適解を模索する。

スミレにとっての現実の世界の戦闘は、未来で見つけた最適解をなぞるものだった。


 今回は……それができない。


 ぶっつけ一回。一本勝負。

失敗したら、やり直しは効かない。

スミレ以外の余人にとってはそれが日常だ。

当たり前すぎる事実だ。

けれど、スミレは違うのだ。

表面上は取り繕って冷静を装っていても。

内心は今まで経験したことのない重圧に襲われている。

負ければ、全員が死ぬ。自分の判断でそうなるかもしれない。


 それ自体は、今まで何度も経験した。

が、それは所詮、舗装され、ガードレールのついた崖際を歩いているに過ぎない。

今回はそんなに甘くない。

今にも崩れそうな崖際を、眼下に虚無が広がる絶壁の上を、スミレは歩かなければならない。

判断を誤れば。足を踏み外せば……

奈落へと続く、一本道がスミレを待ち構えているだろう。



「っし! いい感じで大将の作戦がキマッてんな!」



 緊張と不安に潰されそうになっていたスミレを引き戻したのは、パックの歓声だった。

顔を上げて画面を見れば、帝国兵が次々と地面に空いた穴に落ちていく様子が見て取れた。

直径、深さ共におよそ十メートル。

恐らく、『敵を殺すこと』を指令として与えられている帝国兵たちは、一直線に敵へと向かい、その穴を迂回することなく落下していく。

絶え間なく落下する様子はまるで人間の滝。

深さ十メートルの穴はあっという間に埋まり、帝国兵たちは味方を踏みつけて進軍する。この落とし穴により、底付近にいる帝国兵は積み重なった帝国兵の重みにより全身の骨を砕かれ行動不可能に。

上部の帝国兵は頭上を走る味方に踏みつけられ、行動不可能に。

この落とし穴作戦は、無力化の難しい帝国兵を纏めて行動不可能に追い込めるのだ。


 これを発生させているのは、ディアスたち前線の戦闘部隊。

ワザと少数で敵陣内部に突貫し、折を見てエルたちが作った落とし穴を発生させる魔具を使い、落下途中で転移(テレポート)

帝国陣営を落とし穴だらけにしていく。


 これも、スミレの作戦。

見えない『暗黒の未来』に対抗するため、スミレは未来の分かる三十分間でできるだけ敵戦力を削ぐことを考えた。

神風特攻しかり、今回の落とし穴しかり、現在も上空で猛威を振るい続ける飛空艇しかり。



「……抵抗がなさすぎるな」



 威厳ある、渋みのある低音で呟いたのはヴァレイン。

反乱軍カルミアが、反乱後の国王にするため担ぎ出した、義侠心を胸に秘めた傑物だ。



「対空装備の整った要塞の壁の破壊を許したことや、こちら側の作戦の順調さ。

帝国側が防戦一方過ぎる」


「ふっふ! それが反乱軍カルミアの……いや、スミレ大将の【チカラ】なんだってーー」

 

「黙りなさい、パック。

ヴァレイン公爵の示唆は……正しいわ」



 サテラは手を口元に当て、ヴァレインの疑念について考えを巡らせる。

サテラも、一種族の長。

その頭の回転は……常人以上に速い。

サテラの横に座るスミレは、チラリと時計の針を見た。


 『暗黒の未来』まで、残り十分。



「私たちはスミレちゃんの【未来予知】のせいで、全てが上手くいく状況に慣れ過ぎてしまった。

今までスミレちゃんと一緒にいて、スムーズに作戦が進まないことはなかった。


 でも……本来それは異常(・・)なのよ」



 サテラは壁に映し出された画面を見渡す。

どの映像も反乱軍カルミアが優勢で、帝国を圧倒していた。



「スミレちゃんも……失敗したならともかく、作戦が成功した未来を変えようとは思わない。

スムーズに作戦が進むことに、違和感を覚えない。

自分の作戦が上手く嵌ったのだと、思い込む」



 スミレはなんの反論もせずにサテラの話に耳を傾ける。

目線は時計に向けたまま。

残り……五分。



「でも、今までの戦いと今回とは明らかに違う。

ヴァレイン公爵も仰ったように、抵抗が無さ過ぎるのよ。

これは作戦が上手く嵌ったんじゃない。




 帝国が……手を抜いてる……?」



 考えられる推論を、疑問の形で口に出す。

あまりにも単調な帝国軍の攻撃。

戦略も何もない、物量に任せた突撃。

サテラのその疑問は、画面に映る帝国兵の様子が証明していた。



「……そう、そうねぇ。言われてみれば確かにそうだわぁ。

相手には“軍師”テスタロッサがいるのよぅ?

こんな稚拙な作戦、彼女が行うワケがーー」


「……おい。おいおいおいおいっ! 

ちょっと待てよ! オレっちも今気づいたけどよぉ……っ!


 最初の攻撃の時以外、帝国の部隊長の姿を見てねーぞ!?」



 空気が凍った。

確かに、最初のヴァジュラとトイフェル以外、帝国の部隊長の姿を誰も見ていない。

その事実にこの場の全員が薄ら寒いものを感じ取り……


 ……カチ、カチ、カチ。


 時を刻む、一定のリズムで鳴る音。


 ……カチ、カチ、カチ……カチッ!


 緊張の中、大きく感じられる音。

緊迫した静寂に包まれたまま……長針が、タイムリミットを告げた。


 全員が、固唾を呑んで急激な状況の変化を待つ。

何が起こっても対処できるよう身構える。



「……は? どういうこった、コレ?

何が……何が起こったんだ!?!?」


「これは……?」


「“夜”が……来た?」



 急激な状況の変化は確かに訪れた。

だが、その変化はスミレたちの考えていたものとは毛色が全く異なっていた。


 上空全てが、漆黒に包まれる。暗雲とも呼べない、完全な黒。

空の全てが……闇に塗りつぶされたのだ。

まだ太陽も登りきっていない時分であると言うのに、その暖かな光は大地に届かない。

唐突に……“夜”が訪れた。


 そしてそれはこの付近だけの異常ではなかった。

“夜”は瞬く間に広がり、留まることを知らず、この大陸全土を覆い尽くしたのだ。



「この“夜”が……未来が見えなくなった原因?」



 スミレも困惑した様子で、全ての画面に映る漆黒の空を見る。

未だ、誰も混乱から抜け出せていない。

その混乱に畳み掛けるように、声が届いた。



『ルルルルルル……、御機嫌よう、反乱軍カルミアの方々……。

私は帝国軍第六部隊長、テスタロッサと申します……ルル』



 鈴の音でもかき鳴らしたかのように小さく、空気をすり抜けてくる声。

その声の主は、先ほども話題に上がっていた……“軍師”テスタロッサ・ストラテジーその人である。



『ルルルルルル、仮初の希望は如何でしたか?

捨て駒の帝国兵を処理できて……満足でしたか?

ルルルル……前座はこれにて終了です……。


 未来などに頼らない……帝国の全力を。

稚拙なカルミアのリーダーに見せてあげましょう……』






-----------------------





 前線で戦うディアスは、その変化を如実に感じ取った。

今までの戦いは、これまでディアスが経験してきた戦場とはどこか違っていた。

ディアスなりの感覚で言うならば……生温い。


 戦場特有の……殺気や闘気の入り混じった肌を刺すような空気。

焼け付く激情渦巻く……混沌とした場。

一歩踏み間違えば命を落とす極限の空間。

お互いの思想や信念を忘れさせるような狂気が感じられない。

だから、生温い。戦場ではない感じがする。


 それは相手が感情を有さない人形であるからだと、今この瞬間までディアスはそう考えていた。

しかし、それは誤りだった。

単に、相手に戦う気が無かっただけだったのだ。


 その証拠にテスタロッサの放送直後から、ディアスはハッキリと戦場の空気を感じ取っている。

全身の鱗が逆立つようなピリピリとした空気を感じている。



「各人! 油断するな! 今までの戦いは全て茶番のようなものだ! これからが……本物の戦争だ!!!」


「よぉく分ぁってんじゃあねぇの!!

正ぇえええ解だぁぜぇ!? ディイイイィィイィイアスゥウウゥウ!!!!」


「っ!!!!」



 味方のハズの帝国兵を木の葉のように撒き散らしながら、その男は現れた。

馬鹿でかい……剣とも言えないような無骨なツルギ。

その剣の形をした鉄塊のような武器を背に持った男が、突進してきた勢いのまま、ディアスを殴り飛ばした。

ライオンのような(たてがみ)に、トラ特有のタイガーパターン。


 吹き飛ばされたディアスが起き上がり、現れたその男を驚愕の瞳を込めて見つめた。



「なぜ……生きている!?









 第七部隊長アジハド!!」



 現れた男は、かつてカラクムルの街にて……カイルとリュウセイが二人掛かりで倒した男。

ライオンとトラの混血……ライガーの獣人族(ビースト)

魔法を使わない、卓越した身体能力で戦う超特化型の物理パワーファイター。


 死んだはずの、その男だった。

生前と異なる黒い瞳をギラつかせ、アジハドは腰に付けてある多くの瓢箪の一つを手に取り、中の酒を煽る。



「ング……ガァッハァ! 生きちゃあいねぇさ!!

俺ぁな! 死んだまま動いてるっつぅのが正しいらしい!

この周りのヤツらと同じってワケよ!!」



 ジャンヌ。【魂】の闇属性の使い手。

死した人間を蘇らせ、手駒とする魔女。

その女の手によって、アジハドは黄泉の淵から蘇ってきたのだ!



「だぁからよぉ、分かるよなぁ!?

蘇ったのは俺だけじゃあねぇってことがよォ!」



 ディアスたちの上空。戦場を荒らしていたカルミアの飛空艇の甲板に、一人の女が降り立った。



「あぁ、イイねぇ! 本物の女の身体ってぇのは。

イイねぇ! イイねぇ! 滾ってくるよ!

カルミアの早漏野郎ども! アタイの身体に欲情すんのは仕方ねぇんだけどよぉ……。


 アタイはそんなに……安くねぇぞ?」



 赤黒く輝く、女の目。見た者を石化させるその瞳は、かつての彼女と同じ【能力】。

蛇眼族(メドゥーサ)の【能力】、【蛇眼】。

ドレッドヘアの特徴的な……その女の名は、エリュア。

 

 マリンとフィーナが倒した、第五部隊長である。



「もぉちろん……生きてるヤツもいるよなぁ!」



 戦場の左方。帝国兵そのものによって埋め立てられた落とし穴の上に、巨体の男が立つ。

巨人族(ジャイアント)のザフラほどではないが、大きなガタイ。

上半身はほぼ裸。

なけなしの布切れなような服を身に纏い、下半身を完全に覆い隠す袴を履いていた。

そして、その剥き出しの上半身には無数の戦傷が刻まれている。


 近くにいたカルミアの兵士たちが必死になって攻撃を浴びせかけるも……その男の生身の体に傷一つ負わせることはできないでいた。



「クズどもが。テメェら如きゴミ虫がいくら束になったところでよぉ。

この鋼の肉体に、傷一つ付けることはできねぇんだよ!!!」



 その男の名は、グルノア・ロック。

“怪人”と恐れられる……帝国軍第四部隊長である。



「あぁ、そういやぁ、吸血鬼族(ヴァンパイア)とか言うのも来てたなぁ」



 戦場の右方。恐ろしいほどの魔力を秘めた……帝国兵とは別の毛色の人間たちが、ある男を先頭に行進していた。



「我々は最強種ーーこの世の全ての種族の頂点に君臨する種族。

吸血鬼族(ヴァンパイア)だ。

反乱軍にいる“混ざりモノ”どもを根絶やし!

純血の力を見せつけるのだ!!」



 彼らは吸血鬼族(ヴァンパイア)

純血主義に染まり、完全吸血に手を出し、ハクシャクに賛同した者たち。

それを率いるのは、ハクシャク。

悪夢(ナイトメア)を吸収し、精神の安定を取り戻した男。

身体のイバラの刺青から闇を噴出させている彼を中心に、禁忌の吸血鬼族(ヴァンパイア)が攻撃を開始した。



「部隊長以外にも、隠してた戦力はあるんだよなぁ!」



 土中から、要塞都市の壁の奥から、異形の兵士が現れた。

腕や脚、身体の一部分がモンスターのモノと挿げ替えられたり、付け足されたりした者たち。

ジャックの妹にして、もう一人の魔具作りの天才。

エレナ・ドンドン作の改造兵士たち。

増幅された魔力と、通常得ることのできない二重【能力】を携えて、奴らは進撃を開始する。



「さぁ、反乱軍カルミア……あの小人族(ドワーフ)の恥晒しをブッ潰すんや!!

殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!

ウチの作った魔具が最強やって、証明しい!」



 エレナが放ったのは改造兵士だけではない。

毒霧、爆弾、酸、沼……それら戦闘機能を搭載した自立型魔具をも、戦場に放ったのだ!



「あんの小人族(ドワーフ)の恥晒しを、ブッ殺せ!

反乱軍カルミアを! 根絶やすんや!!!」



 そして、改造兵士とともに戦場の各所に現れたモノがいる。

そのどれもが漆黒の身体を持ち、多くは人間など及びもつかない巨体を有していた。

それはかつてヴェンティアの街でカイルたちが遭遇したモノと同じ。

元は人間だが……到底人間とは呼べない存在。


 身体を覆う鱗や巨大な尻尾、太い手足。


 鋭い牙爪に縦に切れた瞳、低い唸り声。


 あるモノは鬣を、あるモノは長い胴体を、またあるモノは山のような体躯を。


 それらは龍と呼ばれる存在。

全てのモンスターの頂点に君臨する……モンスターの王!!!



「グルゥうぅウウゥアアぁアアあァぁぁぁぁあアアぁァアぁァぁぁあアアあアアアァアアァアアアァアアァアア!!!!!」



 地龍、天竜、海龍。

一堂に会することはまず見られないその三種の龍が、漆黒の身体で群れをなし、戦場に降臨した!



「ダンゾウとウィルのヤローは先にテメェらに回収されちまったが……これが“帝国”の総戦力だ」



 アジハドは腰に提げた瓢箪をもぎ取り、その中身を全て喉へと流し込む。



「ング……ング……ッカハァッ!!! あぁ、イイねぇこの張り詰めた空気……!! 酒がウメぇぜ……!!」



 口の端から酒を垂らし、アジハドはディアスに向かって肉食獣の如き獰猛な笑みを向ける。



「さぁ、俺らも始めようぜぇディアスゥ!!

蘇って進化した力を……見せてやるよぉ!!」



 アジハドは空になった瓢箪を放り投げる。

それは滑らかな曲線を描き、地面に落下していき、


 こぉん……。


 静かな音が、響く。

大きな音というワケではない。恐らくこの場にいるほとんどの者の耳に、その音は届いていないだろう。


 だが、その音をキッカケに……動き始めた。

止まっていたーー否、始まってすらいなかった戦場の幕が上がる。

殺気と闘気が飛び交い、一歩間違えれば命を落とす、焼け付く激情渦巻く混沌とした……“本物”の戦場の。


 その開戦の合図は、戦場の喧騒によって……瞬く間に呑み込まれた。

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