第百十七話ー剣聖と天使
不気味な静寂が訪れていた。
人。人。人。人。人。人。人。人。人。
どこを見渡しても、景色は人一色。
死屍累々の人の平原が広がっている。
だというのに、呻き声一つ、音一つ存在しない無音。
その光景を現出させた男――シュウは頭上に天使の輪を浮かべ、白い髪、白い眼で戦場だった場所を眺めていた。
そのシュウの近くにいる老齢の男こそ、前反乱軍総大将にして帝王と並び立つとまで噂された男、ゲンスイである。
帝国兵を相手に一騎当千の活躍を見せていた彼は今、驚愕から細い目を見開いていた。
二十万人弱を同時に無力化するというシュウの離れ業。
その仕組みを看破したゲンスイは、乾いた口で言葉を発した。
「酸素を……奪ったのじゃな。この戦場の全ての空気に魔力を流し、支配下に置いたという……訳なのじゃな。
しかし、解せぬ。そんな規模の魔力など……。お主は一体……っ」
シュウが天使化した後、戦場に流れた不自然に清涼で神聖な空気。
それはシュウの魔力だった。
天使であるシュウの魔力を肌で感じ取り、それを清らかだと感じた、それが真相だったのだ。
どうして魔力だと知覚できなかったのか。
それは、魔力があまりに広範に広がっていたせいだ。
あまりにも規模が巨大であったがゆえに、それが魔力ではない……雰囲気のようなものだと錯覚してしまったのだ。
「正解だよ。僕は僕とゲンスイさんの周囲以外の酸素を奪い、帝国兵を無力化した」
「だとしても、規模がおかしすぎるじゃろう。
そんな魔力、人間の出せる量を超えておる。
龍ですら、そんな魔力は出せないのじゃぞ」
ゲンスイはシュウには敵わないと悟ったのか、敵対するよりは友愛の姿勢を示した方がいいと思ったのか、刀を鞘に戻した。
それを受け、シュウは人当たりの良い笑みを浮かべる。
「ありがとうゲンスイさん。刀を納めてくれて。
そうだね。確かに僕は人間じゃない。
人間から生まれた……天使だよ」
「天使……?」
シュウもゲンスイの態度に倣い、剣を球体に戻し、神父服の内にしまう。
天使の輪も消し、髪の色も元に戻す。
ゲンスイはシュウの言った天使という言葉に首を傾げているが、シュウはそこには触れず、単刀直入に本題に入る。
「ゲンスイさん。貴方に、僕の弟を鍛えてあげて欲しい」
「断る。ロリーな妹であったなら考えたがの」
その単刀直入に切り込んだ本題は、ゲンスイの性癖によってバッサリと切られてしまった。
シュウにとってもその返答は予想外であったようで、目を丸くして驚いている。
「ワシは未来への希望の蕾をその小さな胸に内包した幼女にしか剣術は教えんと心に決めておるのじゃ。
女であるなら、ちっぱいという可能性で一考の余地はあったじゃろう!
じゃが男! かーっ、ぺっ!
全くこれっぽっちも教える気など起こらんわ!」
前反乱軍総大将、ゲンスイ。
彼は知略軍略に優れ、単騎での強さは帝王に比肩するとまで言われた傑物だ。
だが、彼はそれだけの人物ではなかった。
彼の英雄的な側面は誇張されて、彼を語る上で最も欠かせない要素がすっぽり抜け落ちて大陸に広まってしまっているのだ。
その要素とは、ロリコンであること。
貧乳フェチであること。
孫に向ける愛情が異常であること。
どれもこれも、ゲンスイを盲信している人々が聞いたら卒倒するほどの変態的な性癖である。
しかし、ゲンスイを語る上ではこの要素は欠かせない。
彼の近くにいる人間ならば誰しもがそう言うだろう。
「スミレほど素晴らしくウルトラプリチーな幼女を持って来いとまでは言わぬ。
むしろそんな幼女はこの世に存在しないのじゃからな。
まさにゴッドオブ幼女。この世の幼女の頂点に立つ幼女こそスミレなのじゃからな」
シュウに敵意はないことを認識したのか、先ほどまでの警戒はどこかへ行ってしまったようだ。
熱っぽい口調で、ゲンスイはスミレのことを饒舌に語る。
シュウはそれを聞かされ、悩ましげに手を顎に当てた。
「それは困ったね……リュウセイはとても可愛らしくて、悪ぶってる姿がいじらしいまさに末っ子に相応しいやんちゃな子で、でも弄られたらあんまり対応できない、構って弄り倒したくなる弟堂々のトップなんだけど……流石に妹枠まではカバーしてないなぁ」
「ほう……お主も中々に尖った趣味を持っておるようじゃのう」
満足気に頷くゲンスイ。
幼女貧乳主義スミレ絶対主義のジジイは、家族最愛主義のメガネに共感する部分があったようだ。
主に変態的な部分で。
「ワシはどぉーしても、幼女以外の生き物に剣を教えるということができんのじゃ。
じゃが、どうじゃ? お主、その弟とやらと一緒に反乱軍に入らんか?
お主ほどの変態なら、ワシら反乱軍の中でも個性に埋没することはないじゃろう」
シュウの変態性を確認したゲンスイが逆に、シュウに対してスカウトを掛ける。その誘い文句は最低だった。
笑顔のゲンスイに、シュウは苦笑いで返す。
「残念だけどそれはできない。
この反乱軍じゃ、帝国を覆せないから。
そんな反乱軍に……僕は力を貸すことはできない」
「言いおるわ、この変態メガネが」
カッカッ、とシュウの言葉を笑い飛ばすゲンスイ。
自分の反乱が意味のないものだと言われて、それを受け流すだけの器量をゲンスイは備えていた。
いや、ゲンスイも分かっていたのだ。
この反乱は限界を迎えていると。
撤退戦。この戦いで分かる通り、帝国と自分たちの間には埋められない戦力差がある。
いくら策を巡らして剣を振るっても、物量という暴力には敵わなかった。
「じゃがお主一人居れば、風属性の帝国兵以外は無力化できる。
それならば、勝てる目もあるのではないのか?」
ゲンスイは細い目を半眼にして、シュウを見やる。
この戦場で見せたシュウの力。
彼一人で帝国兵を倒せるのなら、後に残るのは帝王の首だけだ。
それならば、今の反乱軍でも帝国を倒せるのでは、とゲンスイは告げる。
しかしシュウはゲンスイの誘いに対し、明確に首を横に振った。
「無いよ。それだけは無い。確かに普通の帝国兵だけなら僕は無力化できるよ。
でも、それだけだ。帝王一人いるだけで、反乱は失敗する。
【破壊】の闇属性。その【能力】だけで、反乱の芽は摘まれてしまう」
「【破壊】の闇属性……じゃと?」
ゲンスイは目を見開く。
魔族、魔王、絶対強者……様々な呼び名で呼ばれる帝王ではあるが、その【能力】は謎に包まれているのだ。
それは、かの王と相対したもの、その【能力】を見たものは全て殺されているからに他ならない。
その帝王の【能力】の名前を聞かされて、ゲンスイが驚くのも仕方ないと言える。
「触れたもの全てを破壊する最凶の闇。
物質も、魔法も……限定的に概念さえも破壊するこの世界で間違いなく最強の【能力】。全ての守りを崩す最強の矛、全ての攻撃を破壊する最強の盾。
それら矛盾する二つを内包した闇を、常に鎧の形にして身に纏う魔族。
魔力切れなんてものは起こさない。
僕よりも無尽蔵の魔力で、帝王は全てを蹂躙してしまう」
「……随分と詳しいのじゃな」
ゲンスイの頭に浮かんだ第一の疑問が、それだった。
帝王の【能力】の情報など、どれほど求めても手に入らなかったブラックボックスだったのだ。
それは、当時の戦場の破壊痕から推察するしか無かった。
それを行ってさえも、何が起こったのか。
帝王の【能力】のその一端さえ分からなかったのだ。
反乱軍や、この大陸の人々が知りたくてやまない……帝王の秘密。
それを知るシュウに、ゲンスイは疑惑の目を向ける。
「知りたいかい? ……いや、うん、そうだね。
話すよ。全部。貴方はそうでもしないと納得しなさそうだ。もう数年しか、時間がない。正直に言うとちょっと僕も焦ってるんだ」
冷静沈着な風のシュウはそう言ってゲンスイに向き合った。
しかし、内心で彼が焦っているのは事実である。
初対面のゲンスイ相手に天使化を見せたことや、帝王の【能力】について話したこと。
また、これから話すと言っているのはこの世界の命運を左右する重大な情報なのだ。
これらのことからもシュウが内心で焦っていることが伺える。
シュウはゲンスイに向かって手を差し出した。
「僕たちの家に案内するよ。話はそこで」
「……少し待ってくれんかの。
ここにおるワシの部下たちを連れて行かせてくれんか。まだ何人か息のある者もおるかもしれぬ」
ゲンスイは性格的に難があるかもしれないが、れっきとした反乱軍のリーダーである。
仲間にはそれなりの信頼を持っているし、人情的にここで見捨てて行くワケにもいかない。
それ故の提案だったが、
「残念だけど、それは無理だ。
彼らには、自力でなんとか立ち上がって貰う」
シュウはその願いを一蹴する。
その瞳にはゲンスイ以外の反乱軍は写っていない。
冷徹な瞳だった。
「ならば、ワシは行かぬ。
ワシには部下たちの命を背負う責任があるのじゃ。
むざむざここで見捨てるような真似は絶対にできぬ」
対してゲンスイは頑なにそう主張した。
刀に手を乗せ、圧倒的実力差のシュウに反抗する意思さえ見せて。
この戦場には、ディアスやジャックと言った幹部も参加していた。
彼らを見捨てる選択など、ゲンスイには……
「……確かに、そう言いたくなるだろう。
でも、ゲンスイさん。貴方の本質は僕と似ているはずだよ」
「本質……じゃと?」
シュウは冷徹な瞳でゲンスイを射抜く。
瞳を通し、自分の言わんとしていることを伝えるために。
そしてその状態のまま、シュウは口を開いた。
「うん……そう。
貴方は僕と同じ。歪な愛情という行動理念でしか動けない。
僕にとって家族がそうであるように。
貴方にとってはスミレちゃんがそうであるように。
僕たちは……愛する人以外の人たちはどうだっていい」
「――」
ゲンスイは、二の句を告げない。
シュウの言った自分の本質を否定できない。
ゲンスイにとって、スミレは優先順位においては何よりも上位に置かれる事柄だ。
ゲンスイのそもそもの反乱の動機もスミレに依拠している。
スミレのために剣を振るい、スミレのために生きる。
だから……スミレが笑って暮らせるなら、スミレ以外の人間が死のうが生きようが関係がない。
たとえそれが、顔見知りであろうとも。
それをしないのは、そうしてしまうとスミレが悲しんでしまうから。
それだけの理由なのだ。
「このまま何もしなければ、この大陸は終わる。
何も手を打つことができずに、僕ら全ては消え去ってしまう。……誰一人の、例外なく」
スミレも死ぬ。
そう暗に告げてくるシュウに、ゲンスイは何の反応も返せない。
刀に置いていた手は、いつの間にか降ろされていた。
「だから僕は言い方を変える。
ゲンスイさん、貴方は僕と共にこなければならない。
そうしなければ、確実に世界は滅ぶ。
スミレちゃんと、ついでにその他を救うために……仲間を捨てて、僕に付いてくるんだ」
シュウはゲンスイに向かって手を差し出す。
ゲンスイは、頭の中で考えていた。
この突然現れた、天使と名乗る男。
この男の言っていることは世界が滅ぶだとか【破壊】の闇属性だとか、普通に聞けば信じるに足りない言葉が多い。
しかし、世迷言だと断言するにはシュウの存在はあまりにも異質過ぎた。
帝国兵二十万人弱を一瞬にして無力化した実力。
それでいてまだ余力を残しているという規格外さ。
それらはまるで……帝王のような異質さ。
このシュウという男はナニかを知っている。
帝国や帝王に関する重大なナニかを。
ゲンスイはそう確信する。
三百年生きた経験で、ゲンスイはシュウの異質さには異質たる理由があると考える。
そしてそれは帝王にも共通するのだと。
その共通の異質さを知るだけでも十分な価値はあるが、シュウの口振りではまだその先があるのだと言う。
この大陸の危機とも呼べる重大なナニかが。
そして、そのナニかについて対処しなければ……スミレが死ぬと言う。
ゲンスイの中でスミレと……この場所で倒れているだろう反乱軍の面々が天秤にかけられる。
その答えは……明白だった。
「……付いて行ってやろう。
いや、そうせざるを得ないのじゃろう?
ならば、ワシは行くしかあるまい」
「ありがとうゲンスイさん」
ゲンスイはシュウの差し出した手を掴む。
愛する人を守る……ただそれだけの思いで。
シュウは翼を広げる。鉛色の義翼と、純白の天使の翼を。
大地を蹴り上げ、空へと舞い上がるシュウとその手を掴んだゲンスイ。
上空へと舞い上がる中、ゲンスイは眼下の地獄に目を向けた。
――反乱軍は、これでお終いじゃのう。
スミレは大丈夫じゃろうか……いや、大丈夫じゃ。
ザフラやクレアも付いておるし、いざとなれば【未来予知】を使って切り抜けるじゃろう。
すまんの、スミレ。
しばしのお別れじゃ。
次に会う時には、必ず平和な世の中にしてみせるからの……。
かつて鬼と呼ばれた男、ゲンスイ。
彼の想いはただ一つ、スミレのために。
その苛烈過ぎる想いはいつかの未来で彼を鬼へと立ち戻らせたが、それはまた別の話。
今はただ、彼はシュウと共に空を飛ぶ。
スミレの生きる世界を守るために――。
――――――――――――――――――――
「家に帰って神影がゲンスイさんに説明したんだ。
変異のこと、“終焉”作戦のこと。
それら全てを知ったゲンスイさんはスミレちゃんを守るために、僕の愛する弟のリュウセイを鍛えることを承諾してくれた」
「……」
シュウは空になった鍋を水属性の魔具を利用して洗っていた。
長い長い話の間に鍋は煮え、話が終わる頃には食べ終わっていた。
シュウの話を聞いたリュウセイは岩に腰掛け、何も言わずに地面を眺めていた。
「ジジイの言ってた命の恩人ってのぁ、兄貴のことだったんだな」
リュウセイは足を伸ばし、手を岩に突っ張るようにして突き、空を見上げる。
少しだけ、ほんの少しだけ感傷に浸るリュウセイ。
彼は話を聞いて、特段どうしたかったという思いはなかった。
ただ単純に、興味。
その話を求めたのは、師匠のことについて知ってみたいという弟子の心情からだった。
「そうだね。帝国兵を倒したことが、ゲンスイさんの中ではそうだったのかもしれない。
それか、僕の愛する弟のリュウセイに本当のことを話すのが憚られて適当なことを言ったのかも」
「ハッ! どっちもじゃねーのか。
あのジジイは抜けてるように見えて、アレで色々考えてる節があったからな」
伸ばした足をさらに伸ばし、全身で伸びを取ってリュウセイは飛び上がるようにして立ち上がる。
肩と首をバキバキと鳴らし、固まった筋肉をほぐす。
「んぁーっ、っくはぁ! 兄貴、手合わせしようぜ。身体を動かしたくなってきた」
たが、興味から聞いた話とは言え、流石に何か思うところはあったのだろう。
ゲンスイでさえ、師匠でさえ死にかけた。
あの絶対的な力を持った師匠が。
今は地力は上回っているかもしれない。
今なら、ゲンスイにだって勝てるかもしれない。
だが技術について……自分はあの男に遠く及ばない。
――強くなりたい。
今まで何度も思ったその感情を、今再びリュウセイは高ぶらせる。
「そっか。うん、分かった。
でも、相手するのは僕じゃない。
次のモンスターの素材を回収して貰うよ」
「モンスター? この近くにいんのかよ。次の獲物は精霊シリーズっつったか?」
「そう。水精霊、雷精霊、火精霊、地精霊、風精霊の全五体。
彼らは少々特殊なモンスターでね……」
シュウは神父服の内側から、小さな小瓶を一つ取り出す。
その小瓶の中には薄水色の澄んだ液体。
宝石を液状にしたような美しい液体が小瓶の中に閉じ込められていた。
「精霊病って、知ってるかい?」
「確か……精霊の繁殖行動そのもの。
精霊のカケラが体内に入り込むことで発症する病。
カケラは宿主の魔力を吸い成長し、完全な成体になれば宿主の身体を突き破って出てくる……だっけか?」
「正解。そしてこれがその精霊のカケラだよ」
ちゃぷん、とシュウは小瓶を振る。
薄水色の液体が揺れ、心なしか脈動しているようにも見える。
シュウは瓶の蓋を開け、自分の手のひらに垂らし始めた。
「生物の体内でしか成長しないと思われている精霊だけど、本来精霊は魔力溜まりで自然発生するモンスターだ。
つまり、別にわざわざ体に取り込まずとも……」
「――――っ!」
シュウは、過大な魔力を精霊のカケラに注ぎ始めた。
それはリュウセイの【龍醒】を発動させた全魔力よりも多い。
たった一人で、どれほどまでの魔力を有しているのか。
しかもシュウはまだ天使化さえしていない。
自分の兄の、予想をはるかに超えた規格外さにリュウセイはただ絶句する。
精霊のカケラは、シュウのその過大に過大を重ねた魔力の暴力とも呼べるその餌を、全て喰らい尽くす。
その全てを余すところなく食し、地肉とし、成長の糧とする。
精霊のカケラはシュウの手を離れ、空を漂う。
今度こそ、心なしとかそういう認識ではなく、現実にカケラは脈動していた。
ドクンドクンと激しく脈打ち……否。
まるで鳥の雛が卵の殻を打ち破ろうとするように、カケラは躍動する。
カケラは薄水色の光を放ち、強く躍動し、カケラのガワが奇天烈に変形を始め、そして――、
「ギュヴゥヴァあぁア゛ゥ゛ゥ゛ア゛あ゛アァゥヴア゛ァアウァ゛ヴゥ゛ヴゥヴァあぁア゛ゥ゛ゥ゛ア゛あ゛アァヴゥヴァあぁア゛ゥ゛ゥ゛ア゛あ゛アァゥヴア゛ァゥヴア゛ァアヴゥヴァあぁア゛ゥ゛ゥ゛ア゛あ゛アァゥヴア゛ァ!!!!!!!!」
この世のものとは思えない、精霊という言葉からはおよそ連想し得ない叫び。
その産声と共に、カケラは水精霊としてこの場に顕現した。
その大きさはかつてユナが産み出したものよりも大きい。
あの時のユナは疲弊していたし、幼さゆえに魔力量もそれほどではなかった。
だが、今回は。
空前絶後の魔力量を誇るシュウの魔力を喰らったカケラは、空前絶後のバケモノと成り果てた。
全容が視界に収まりきらない。
まるで大地から天に伸びる滝のようだ。
荒らしい水のバケモノを前に、リュウセイは生唾を飲む。
「水精霊の核は元となる水精霊が強ければ強いほど、魔具の素材として有能なんだ。
もちろん、他の精霊にしても同じことが言える。
だから……精霊シリーズは僕が産み出して、それを僕の愛する弟のリュウセイに狩ってもらうよ」
なんでもないことのようにシュウは言う。
巨大なモンスターの前に晒されたリュウセイは――、
「ハッ! 上等だぜ!」
小竜景光を抜き放ち、凶暴な笑みを浮かべてみせる。
「モンスターが弱すぎて退屈し始めてたトコだ。
これくらいの相手がちょうどいい!」
翼を生やし、リュウセイは全身を変化させ、【龍醒】を発動させる。
準備は万端。闘争心は万全。
小さな龍人は、今日も強さを求めて刀を振るう――