第十二話ージャックのかくれんぼと動き出した帝国
「かくれんぼをするぞい」
――なんの脈絡もなく、ゲンスイが喋りだす。今朝のユナちゃんの事件で頭でも打ったんか? いや、でもコイツの場合は元々頭打ってるようなもんやし……これはこれでいつも通り……なんか?
「ぁあ? どういうこった?」
リュウセイはほんまに口が悪い。カイルが言うには小さい頃からこんなんやったらしいけど、ワイやったらこんな口悪いガキは陰湿にイジめるわ。んで、二度と生意気な口きけんようにしたるかなっ!!
「カイル君の魔力探知の訓練の一環じゃよ。ある程度は感じられるようになっておるから、今度は実践で使えるレベルに持っていかねばならん」
へぇ、ゲンスイも師匠らしいこと言うねんなぁ。カイルの師匠かどうかは知らんけど。
「俺んときはそんなことしなかったじゃねぇか」
「二人でかくれんぼは恥ずかしいじゃろう?」
なんやその理由? っていうかその言い方やと、お前ら三人だけやなくてワイとかユナちゃんも参加するみたいやんけ。ワイはリュウセイの魔具を作らなあかんっていうのに。それに結局このかくれんぼって何やんのかサッパリやな。あぁもう、まどろっこしい!
「んーで、何やんの? ワイは魔具作んのにリュウセイの戦い方を知っときたいねんけど? カイルのと違って刀タイプの魔具は個人の戦い方とかに合わせたやつを作らなあかんねん」
ゲンスイん時もそれはそれは大変やった。アイツは刀やったらなんでも使いこなすから、コレやっ! って一本が中々作られへんかったな。最終的に刀の長さは一般的な長さ、【能力】は【幻夢】を持たせて落ち着いたんやっけ、懐かしいなぁ。今でもそれを使ってくれてるんは職人冥利に尽きるってもんやな。
「俺の魔具作ってんのか?」
「あれ? ゆーてなかったか?」
「初耳だぞ?」
「そーやったっけ?」
アカン、思い出されへんわ。多分言ったと思うねんけど……まぁ、魔具作りに熱中してもしかしたら、ほんのちょっとだけ、言って無かった可能性はあるけどな。
「ハッ! ったく、しょーがねーやつだな……この魔具バカ」
「それは否定せぇへんな!」
魔具バカは小人族にとっては誉め言葉みたいなもんやでっ。
「では、そろそろ始めるかのぅ」
おぉう。そやった。かくれんぼやるとか言うてたな。意識から抜けてたわ。
「俺は何をすればいいんだ?」
「我ら四人がこのカルト山のどこかに隠れる。お主はそれを見つけるだけでよい」
「へ? そんだけ?」
「あぁ、それだけじゃ。では起きたときからスター トしてよいぞ?」
「それってどういう……」
ゲンスイが素早く、幻海の柄でカイルの頭を小突いた。カイルは【幻夢】の能力で完全に眠りについたな。
「えっ!? カイルさんっ!?」
「大丈夫や、これはただ寝てるだけ。その刀--〝幻海〟の【能力】によってな」
「【能力】……ですか?」
「【幻夢】というのじゃよユナちゃん。 強烈な幻覚を見せることが出来、今のように人を眠らせることも可能なんじゃ」
「ハッ! それで俺らは今から隠れたらいいのか?」
「かまわんが……それについて言っておくことがある。
今回のこのかくれんぼ、ただ隠れるのだけではなく、戦闘なども加えたい。そこでじゃ、ジャックよ。リュウセイに【擬態】の魔具を持たせてやってくれんか? リュウセイはその状態で戦い、ジャックは魔具を使って自身の周りにトラップを張ってくれ。
それぞれ実践での魔力探知、トラップ探知の為の魔力探知の修行となる。ユナちゃんは闇属性を使い全力で隠れてみてくれんかの。つまりかくれんぼはかくれんぼでも、カイルをいじめ抜くかくれんぼ、というわけじゃ」
「へぇ……ゲンスイもたまにはおもろいこと考えるやん」
トラップかぁ……反乱軍時代にはよーやったもんやなぁ。カイルの修行とはいえ、ちょっとは全力で張ってみるのもおもろいかもな。
「ハッ! 意外とおもしろそーだなぁ」
「大丈夫なんですか……それ?」
さって、トラップ仕掛けに最適な場所を探そかなっ!!!
――――――――――――――――――――
「中々の出来やな」
ふーっ、苦労したで。ここまでしっかりしたトラップ張るんは久々やなぁ。
一歩踏むごとに様々なトラップが侵入者を襲い、トラップの先にはまたトラップ。その先もまたトラップ。永遠のトラップ地獄やっ!
我ながら恐ろしいもんをつくってもうたな。フッ……。
それに場所もええな。この洞窟は入口が一つしか無かった。つーことはカイルが入って来ても上手いこと見つからんかったら魔具の続く限りトラップを張り続けられるっ!!
フハハハ!! カイルのイライラする顔が目に浮かぶでっ!!!
「さて、後はコレを何処に仕掛けるかな……」
手に持っている魔具を見る。これは溜めてある水属性の魔力分で具現化できる水を一気に放出する単純な仕掛けの魔具や。
けど……この魔具にゲンスイがありったけ魔力を込めよった。そのせいでコレは、発動させたら洞窟内を水が駆け巡って、中におるやつを全員外に放り出すくらいの威力を持つトンデモ魔具になってもうた。それにただの水やなくて洞窟内の砂とかも巻き込んで土石流になりそうや。
ま、こんなもん発動してもうたら、かくれんぼやなくなるし、発動条件厳しくしとこか。
え? それやったら仕掛けへんかったらええ? おいおい、ワイを誰やと思っとんねん。面白いこと大好きジャックさんやぞ? お茶目な精神はいついかなるときでも持ち合わせとるっちゅーねん。
えーっと、そやなー……ここの壁に埋めて……壁を全力で殴らんと発動せぇへんくらいの条件でええやろ。んで水が出る向きを殴った方向と逆にしとく。そしたら放出された水が反対側の壁を突き破って洞窟内を回って、土石流になってカイルを襲うやろ。
それにちょっとだけ発動から土石流が来るまでのタイムラグが有るんがミソやな。発動が不発かと思って、安心したときの土石流。
カイルはどんな顔するやろか? いやー、想像するだけで楽しいなぁ。
でもまぁ、発動することはないやろうけどなっ!
『ジャックおにいちゃんって面白いねっ! こんな仕掛け、スミレは思い付かないよっ!!』
スミレちゃんの言葉がふと頭をよぎる。あの子は純粋でワイの作るもんに興味津々って様子やった。こーゆう仕掛けを作ってたらずーっとワイの横で見てたっけな。色々あって荒んでたワイの心を癒してくれたんもあの子やったな……。
それにしても未だにワイは半信半疑や。あんな小さい子が闇属性持ちで、反乱軍の作戦を考えてたとは、どーも考えにくい。確か反乱が始まった時、あの子は六歳やったか? 反乱が終わった二年前で考えてもあの子は九歳や。そんな子が反乱軍の作戦を練れるんか? ましてや、何度も帝国を唸らせた奇策をそんなちっちゃい子が考え出せるんか? いや、無理やろ。
仮に百歩、いや、千歩、いやいや、万歩譲ってスミレちゃんが闇属性って言うんは認めてもええ。ワイはあの子が魔力を使うところを見たことないしな。
それにゲンスイの話を信じるなら、あの子が肌身放さず着けてた真っ黒なチョーカー、あれが闇属性の魔具らしい。あんなもんが魔具なわけないとユナちゃんに会うまでのワイやったら言うんやろうな。
けど、ワイはユナちゃんの魔具を見てもうた。あのブレスレットの仕組みはワイですら理解力出来ひんかった。あんなに小さいのに性能は〝幻海〟にも劣らん。その上軽い。〝フェルプス〟みたいに小さくしてるんか、と思ってもそうでもなかった。ただの闇の魔法を具現化させるための魔具やった。
やから、可能性としては充分にあり得る話なんは分かる。
それでも、ワイはあの子が闇属性やなんて認めたくない。ユナちゃんの経験を聞いて、あんな小さい子が裏切りとか、世間の“闇”に晒されるんはイヤや。っとコレじゃワイまでロリコンみたいやな。
あんのロリコンジジィ、自己紹介ん時もさらっとスミレちゃんが闇属性って言ってからはダンマリ決め込みよってからに。ワイが聞いてもはぐらかすなぁ、ユナちゃんが聞いたら……アレ? いけるんやないか?
きっとペラペラ喋ってくれるで。よし、このかくれんぼが終わったら頼んでみよか。あと、リュウセイも多分知ってんねんなー、あの時の反応からして絶対そうやで。
「スミレちゃん、元気にしてるかなぁ」
元気に……か。この時代、生きててくれるだけでもワイは嬉しいな。撤退戦の時のメンバーは信頼出来る奴等や。あいつらとなら、スミレちゃんは生きていけるハズや。
反乱軍の中の非戦闘員を生き延びさせる為の撤退戦。反乱軍の敗北を意味したこの撤退戦は戦闘員が追手の帝国兵を一手に受けて、他の者を逃がす作戦やった。
残った反乱軍はアレを期にバラバラになって、今はどうなってるんか分からん。別れの時は悲しかったな。あんな目に涙を溜めたスミレちゃん、見てられへんかった。うん、そやな。カイル達との旅もあんねん。スミレちゃんを探すのもええかもしれへん旅は長いねん。きっと見つかるやろう。
『ジャックおにいちゃん……絶対に……生き延びて? スミレ……嫌だよ? ジャックおにいちゃんやおじいちゃんや反乱軍の皆が死んじゃうのは嫌なの。……生きて……生きててね? 絶対……だよ……?
スミレの……一生のおねがいだから……死なないで……っ!!』
ワイは生き残ったで。あの戦線でかなりの反乱軍が命を落としたけど、ワイは生き延びた。何があったんかは分からん。トラップを仕掛けて何人かの帝国兵を蹴散らして、ワイはやられた。
目が覚めたとき、地獄に墜ちたんやと思った。周りは死体だらけやったから。
見渡す限りの死体、地平線まで続く死の大陸。味方と帝国の死体の大陸を踏み越えて、ワイは生き残れた。生き残れたんや。やから、会いに行こう。
スミレちゃんもきっと生きててくれるハズやから――
――――――――――――――――――――
「反乱軍撤退戦で生き残っタ、ジャックとやらハ、キミに会いたイとか思ってると思ウ?」
「………」
「ヤレヤレ、お姫様はボクなんかトハ、口も聞いてくれナイのカ」
第1部隊長トイフェルが部屋の中の少女へと話しかける。完璧に手入れされた紫色の髪は床まで届くほど長い。華やかな衣装に身を包み、豪華な装飾が施されたきらびやかな部屋に少女は正座をして、ただ一つある天窓から空を見上げる。トイフェルからは後ろ姿しか見ることが出来ないが、その姿だけでも美少女であることが伺える。
そして、その首元には、見るものを引き付ける漆黒のチョーカーが巻かれていた。
「キミが考えタ反乱軍撤退戦のシナリオは凄かったネ。逃げるハズの非戦闘員と護衛の為の僅かな戦闘員をさらに二分して、二手に別れてイタ帝国兵の一手をそノ【能力】と僅かな戦力で迎え撃ツ。
キミを愛しテやまないゲンスイもそノ作戦には気付かなかったんダロウ? ま、当然だけどネ。キミは帝国の追っ手が二手に別れルことをゲンスイに伝えていなかったんだカラ。彼は死ヌ最期の瞬間までキミが逃げ切っタと信じていたんだろうネ☆」
「……」
「ダケド、残念。キミは帝国兵の追撃を捌ききレズ、こうして帝国の道具となってしまっタ。フフ、未来が見えテモ出来ないことは在るんだネ。いや、こうなる未来をキミは初めから知っていたのカナ?」
「……」
「ヤレヤレ、ボクは相当嫌われているようだネ」
「……」
第一部隊長トイフェルを前にしてもなお沈黙を貫き続ける少女。その目は未だに窓の外へと向けられていた。
「ボクがココに来た理由……キミはもう予知してイルんだロウ?」
トイフェルがニヤァ、と不気味な笑みを浮かべる。子供のような無邪気な笑みのなかには不気味なほど純粋な残虐性が姿を潜めている。トイフェルが浮かべる歪な笑みを少女は見なかったが、その言葉に少し反応を示したように見えた。
「先日第九部隊長ウィルを倒しちゃっテくれタ三人組。
有翼族のカイル、闇属性の女、そして、前回の大反乱の幹部、魔具職人部隊隊長、ジャック・ドンドンの居場所をボクに教えてくれナイ?」
「カルト山、このままいけば一ヶ月後、貴方はその三人をそこで見つける」
トイフェルの問いに間髪入れずに少女は答える。淡々と必要な情報を述べた後、少女は再び口を閉ざした。あっさりと仲間の情報を売った彼女は何を思うのか、その姿からは推し量ることは出来ない。
「カルト山……何処だっケ? オーイ、誰カー、地図持ってきテー」
トイフェルが言葉を言い切る前にドアが開き、黒い忍装束に身を包んだ女が部屋に入って地図をトイフェルの前に広げる。
「ふーン、ルクセンとヨークタウンの間にアル二つに連なル山………カ。普通は帝国兵が調べそうナ場所だよネ? ココはもう帝国兵の手が入ってルノ?」
「そこは『迷わせ霧のカルト山』と呼ばれ、入った途端正体不明の霧が立ち込め、何人もの帝国兵が命を落としたため、帝国兵の立ち入りはここ数年ございません、トイフェル様」
トイフェルの質問に地図を広げた女が答える。丁寧な言葉遣いは、何年も有名な領主に仕えてきたような自然なもので、回答も的確に、短い言葉でまとめている。その答えを聞いたトイフェルは嬉しそうに歪な笑みを浮かべる。
「ナラ確定ダネ。ソノ場所にそいつラはいル。このママいってタラ、一ヶ月はかかるトコロだっタヨ。アリガトウ、スミレちゃん♪」
スミレと言われた少女は何も反応せず、窓の外を見つめ続ける。その瞳は何処を見ているのか……その答えは本人しか知らない。
「サ・テ・ト☆ スミレちゃんにはアリガトウの言葉を送ったケド……ソコの殺気を放ってるキミにはなんテ言葉を送ろウカ?」
そう言ってトイフェルは背後の忍び装束の女を睨み付ける。その女の手には明らかに毒物が染み込ませてある刃物が握られていた。
紫色の醜悪な液体が刃先から滴る。
女は対して驚いた素振りも見せない。気づかれて当たり前、とでも思っていたのだろうか。
「--流石、子供とは言え帝国の部隊長と言ったところか。
私は戦闘員ではないが、かつてスミレ様、ゲンスイ様に仕えさせて頂いた者だ。ゲンスイ様が死に、スミレ様までもこのような扱いを受けているのに、私はただお前たちに押さえ付けられ、家畜のような生活を送ることに耐えられない!
必死の思いで致死性の猛毒〝クヴァール〟を手に入れ、恥を忍んで帝国兵になりすまし、醜悪な実験に耐えてここまで登り詰めた!!
そして待っていたのだ!!
第一、第二、第三部隊長の誰かがここへやってくるのをな! 謀らずして第一部隊長である貴様がここへ来たことは嬉しい誤算だ!
刺し違えてでも貴様をここで殺す!!」
女は刃物を握りしめ、〝クヴァール〟を塗りたくったそれでトイフェルを刺そうとして襲いかかる。対するトイフェルは女を見たまま何かを考えるように額に拳を当てている。
「死ねぇええぇええ!!!」
女の覚悟の一刺しがトイフェルの肌にあわや届くか、というところで
「決めタ! 決めタヨ! キミに送る言葉ハ」
そこまで口にしたトイフェルの姿が突然女の前から消える。女が反射的に後ろを振り向いたところで……
「バイバイ♪」
女の耳にその言葉は届いた。
次に女が感じたのは、ズルッという何かがずり落ちる感触。視界が反転し、頭が床に打ち付けられる
そこまできて女は理解した。自分の身体が真っ二つに両断されたことに。脳という指示器官を失った彼女の下半身は鈍い音を立てて床へ崩れ落ちた。切り口から止めどなく血が流れ、彼女の上半身から流れる血も相まって、部屋を血で濡らしてゆく。立ち込める血の臭い、自分の血が口や鼻からも溢れて、もはや苦しいという感情さえ感じなくなった女が見たのは死にゆく自分を歪な笑顔で見つめるトイフェルだった。刀どころか魔具も持ってないように見えるトイフェルに対して
「こ……の……あく……ま…め………」
そう言い捨て、女の目から光が消えた。部屋の中には無惨にも両断された女とトイフェル、そしてスミレの三人が残される。スミレは相変わらず窓の外を見上げていた。
「全く動じていナイ所を見るト、キミはコレを予知してたみたいダネ。それトモ、同胞の死を見すぎテ感覚がおかシクなっちゃったカナ?」
「……」
「マァ、いいサ。今更一人死んだっテ、キミが捕まってカラ殺さレタ人数に比べれば大したコトないんだシ」
「……」
「最後の質問ダヨ。コノ三人組を始末するのに、ボクは〝ソロモン〟を持っていくベキ?
コレに答えてくれタラ、ボクはもう出ていくヨ」
そう言うトイフェルにスミレは少しだけ返答するのを躊躇うようにしたが、今までと何ら変わらず、淡々とした口調で、
「あなたが、後悔したくないのなら」
明確に答えを言わずに答えた。しかし、その言葉を聞いたトイフェルの顔は今まで浮かべた歪な笑顔をさらに歪ませて、
「アリガトウ、スミレちゃん♪」
そう言って部屋から消え去った。後には何も残さずに。元々この部屋にいなかったかのようなあっさりとした退場だった。
部屋に残されたのは物言わぬ死体とスミレだけ、スミレは相変わらず窓を見上げていたが、その目からは涙が流れていた。
「ごめんなさい……ゾフィーさん」
そう呟いた名はかつて自分の身の回りの世話をしていた女の名前。そして今、目の前にいる女の名前だった。
「ごめんなさい……ジャックおにいちゃん……おじいちゃん……」
再び涙を流すスミレはトイフェルに狙われてしまった三人の内の一人と自分の祖父の名前を口に出す。窓を見上げるスミレの目は遠く離れたカルト山を見ているように見えた……。
――――――――――――――――――――
「なんでやっ! なんでこれが発動しとんねんんんん!!!」
――無理無理無理無理! こんなん逃げられへんってぇえええ!! 誰やこんな大それたトラップ仕掛けたんはぁああああ!!!
「ワイでしたっ! うわぁぁぁあ!!!!!」
あわばばばばば!!!! 呑まれたぁっ! い、息が出来へん!! 泥水に流されるんって想像以上にきもちわるいっ!! 服ん中に砂が入ってくるわ、鼻にも砂があわわわわ。目も開けられへんし、平衡感覚もわからへんっ!! どっちが上でどっちが下や?
確かこう言うときは空気を吐いて、その泡の上がる方向が上になったハズ! よっしゃいくでぇ!!
「フブフゥ……ぶわぁぁああ!!!」
忘れてたぁあ!! ここ泥水やんっ!! 目が、目がぁああ!! ギリギリ見えた空気の泡はぐるぐる回ってて結局どっちが上か分からんかったし!!
ってか、どっちが上かって分かったからなんやねんっ!!! ワイはアホか!!
うわぁぁあ………流されるぅうう!!!
「ブハァッ!!!」
はぁ……はぁ……死ぬかと思った。やっと出れたで。こんな経験もう二度としたくない……。
「ったく……この洞窟で俺にどうしろっていうんだよ……」
横からカイルの声が聞こえる。どうしろってゆーか、魔具の存在で魔力探知で感じてトラップを食らわんようにしつつワイを見つけるのが試験やねんけどな。ってかカイル!!
ワイはお前に言いたいことがあるぞっ!!
「お前っ! なんで土石流発動させとんねん!! 」
「知るかよっ! お前が仕掛けたんだろ!?」
「あれは発動せえへん前提で仕掛けたんやっ!
その魔具を殴るくらいせえへんと発動せえへん仕組みになっとったハズやぞ!!」
「殴ったから発動したんじゃねえかっ!」
「なんで殴っとんねんんんん!」
おかしいやろっ!! なんでピンポイントで魔具の仕掛けてある場所殴っとんねん。こいつわざとやってんちゃうんか?
「ジャック、みーつけた!!」
え? なにそれ? みーつけた? あー、そういえばこれかくれんぼやったなぁ。すっかり忘れてたわ。ってことはワイは見つけられてんな。
いやー、流石カイル! ワイを見つけるなんて大したもんやっ。
って……
「しまったぁぁあ! 見つかってもうたぁぁあ!!」
やってもうた……。ワイの試験はクリア? されてもうた……。
取り敢えず早く砂を落としたいなぁ……――
こうしてかくれんぼはその後、カイルがゲンスイにやられて幕を下ろしたのだった……。