第百十三話ー変異(パンドラ)と呼ばれる者たち
「まず……そうだな。この世界には変異と呼ばれる奴らがいる。
お前らも、その名前は聞いたことがあるだろう?」
神影は手始めにそう切り出した。
ボサボサの髪の隙間から黒目を覗かせ、応答を求めて円卓の面々を見渡す。
「……確か、レヴィがそんなことを言ってたわね。
第二部隊長ジャンヌが自分たちのことを指して言ってたとか、どうとか」
「ジャンヌが言っていたのはわたしも聞きましたよ。
カイルさんが不死鳥に変化したとき、カイルさんが変異を制御した、とそんな風なことを言っていました」
「……俺も聞いたことはある」
神影がジャックとジュリアスを見ると、彼らも神影を見つめ、浅く頷いていた。
よし……と神影は小さな声で呟き、日本人特有の間を取り話を再開する。
「変異ってぇのは突然変異で強力すぎる力を手に入れた人間や、そいつが手に入れた固有の力を指す。
通常の者が到底至ることのできない、普通の生物の枠組みから外れたヤツや、チカラのことを指す。
さっきユナちゃんがカイルの例を出してくれたから、それに乗っかって補足するとだな……
カイルってぇのは変異って呼ばれる人間だ。
不死鳥に【形態変化】するっていう変異を持っている。
こんな風な使われ方をすんだよ。
これで分かる通り、変異っていうのは割とざっくりした使い方をするもんだ。
普通の人間の物差しで測れないモノを……変異と呼ぶ。
それが人や【能力】、闇属性だったり……使用方が迷走してんだよ」
神影はガシガシと頭を掻く。豪快にフケが白衣に積もっていくが、この場にそんなことを気にする人間はいない。
とその時、ユナが小さく手を挙げた。
「ん? どうしたユナちゃん質問か?」
「はい……あのですね」
ユナは陶磁器のように滑らかで白い手を脚の上に戻し、円卓の面々を時計回りに見ていく。
徐々に徐々に視線は移っていき、
「この中に……変異はどれくらいいるんですか?」
最後に……神影で止まった。
「イイ質問だな。変異ってぇのは滅多にお目にかかれるもんじゃねぇ。
そんなホイホイいたらこのグラエキア大陸は今までこの形を保っちゃいねぇだろうよ。
それを踏まえて言わせてもらうなら……」
一瞬の瞠目。
そして神影はほんの少しアゴを上げ、白衣のポケットに両手を突っ込み、
「ジュリアスとジャックを除く、全員だ」
悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべた。
「もっとも、俺とマリアの変異ってぇのは戦闘じゃまるで役に立たねぇんだ。
お前らが全力を出した時に放つような格の違う存在感みてぇなモンは俺らにゃ出せねぇ。
それと、ユナちゃんが変異っていうよりはユナちゃんの中の……闇属性のユリシアちゃんが変異って言うのが正しい」
その笑みをすぐに消し、神影は真面目な顔で変異に関する雑学を付け加え始める。
それから、この場の変異でない人間……ジュリアスを見る。
「ジュリアスは確かに変異級の実力を持っちゃいるが、それでもその力は吸血鬼族の特性に根差した正当な実力だ。
変異みてぇな理不尽な強さじゃねぇ。
ゲンスイさんと同じタイプの、超ツエーけど変異じゃないフツーの一般ピープルだ」
「おい待て。テメェジジイのこと知ってんのか?」
ゲンスイという言葉に過剰に反応を示すリュウセイ。
かつての同士であるジャックも、神影の口からゲンスイという単語が出たことで、驚きの視線を神影に向けていた。
「んー、あー、まー、そうだ。その辺の話は今関係ねぇから後でな。
先に変異についての話は終わらせてフィーナの話、ひいてはこれからの話を済ませておきたいからな」
しかし、神影はその視線を受け流す。
そして中々板につかない咳払いをして、脱線しかけた話題を元に戻す。
「余計なお世話だほっとけ。……ごほんっ。
さっき俺は言ったな? 変異は稀少だって。
ぶっちゃけると、帝国側じゃない変異はこの場の七人と、反乱軍総大将のスミレちゃん……それだけだ。
そんだけしか、いねぇ。
ちなみに帝国側は帝王、トイフェル、ジャンヌ、ヴァジュラ、そんで……最近【固定化】を手に入れたハクシャク。
この五人だけだ。
十三人。これが現在この大陸にいる変異の総数だ。
さて、ここで疑問が一つ生じる。
変異は突然変異の人間。
星の数ほどいる人間の内でほんの数人が偶然手にする異常な力。
十億余人もの人間がいるこの大陸で、たった十三人しか持つことのない、そんな稀少なチカラのはずなのに……
その内の四人がシュウの家族」
これってどう考えても『異常』だよな。
神影はそう問い掛けを発する。
その言葉で、リュウセイ、マリン、ジャック、ユナの四人は大きく目を見開かせた。
四人は単純に、カイルたちの家系がそういう風なものだと、種族的にそうなのだと、見当違いな納得をしていたのだ。
有翼族というのは帝国が真っ先に始末するような戦闘部族で、マリンとフィーナだけが突然変異。
二人で五属性を分け合うという奇妙な存在になっていたのだとそう思っていた。
しかし、今になって考えてみれば。
カイルやリュウセイは更なる【形態変化】の出来る通常の有翼族とは別なる存在であった。
そもそも、彼らの力が有翼族の平均値とするのなら、有翼族は帝国になど負けていなかった――!
「でも……だったらどうして?
どうしてあたしたちの家系は……こんなにも変異と呼ばれるチカラを持った人がいるの?
ただの偶然っていうワケじゃ……ないんでしょ?」
家族全員に共通するエメラルドのような緑眼で……マリンは神影や、シュウ、マリアに向かって問い掛ける。
神影はその問いに大仰な動きで頷いた。
「そう……偶然なんかじゃない。
お前らが全員変異なのにはちゃんとした理由がある。
必然だったんだよ。
変異を産み出す闇属性、【創造】の【チカラ】を持った女から……変異が産まれてきたのはな」
――――――――――――――――――――
「ここから先は、僕が説明を引き継ぐよ」
シュウが神影の横に立ち並び、その隻翼で神影をそれとなく後ろに追いやる。
それから、瞳に掛かっている前髪を軽く頭を振って後ろに流す。
カイルたちの母親である、ルオーラと同じ栗色の髪を。
「僕たちは―――僕の愛する母さんから産まれた僕たちは……全員が変異だ。
だけど、それは純粋な変異じゃないんだ。
確かに僕たちがそれぞれ持っている【チカラ】は間違いなく変異だ。
でもね、それは突然変異によって発現したモノじゃない。
純粋に突然変異で変異としての【チカラ】を手にしたのは……僕たちの中で母さんだけなんだ」
「ちょ、ちょっと待てよ兄貴!
母さんが……変異としての【チカラ】を持っていただと!?
ありえねぇだろ!?
だって、だって……母さんは……」
リュウセイが机を手のひらで叩いて立ち上がる。
――信じられない。
それがリュウセイやマリンの率直な感情であり、感想だった。
シュウは口ごもるリュウセイの側に歩み寄り、肩にそっと手を置いた。
「その気持ちは分かるよ。だって、僕の愛する母さんには……魔力が無かったんだから」
「魔力が……無かった……?」
リュウセイの隣にいたユナの口が自然と疑問を口にする。
この世界に生を受けた生命なら、大なり小なり必ず魔力を有している。必ず、だ。
たった一人の例外もなく、そうだ。
トラウマなどの後天的要因で魔力は持っているが、使えなくなってしまった。
そのような事態なら、確かに例がないことはない。
だが、その前提となる魔力がないというのは……噂話でさえ聞いたことがなかった。
「信じられないなら、神影を魔力探知してみるといいよ。彼も魔力を持たない人間だから」
その言葉にギョッとしたユナ、ジャックは神影に意識を集中させる。
あぁっ! 見られてる! 見透かされてるううう!
などとフザけている神影を意識の端に追いやり、魔力のみに神経を尖らせる。
魔力を探る。周囲の魔力を知覚していく。
ソナーで周囲を探るように、ゆっくりと確実に知覚範囲を広げていく。
範囲内にシュウという規格外の魔力反応が入る。
慣れ親しんだリュウセイやマリンの魔力を知覚する。
小さな魔力……これはきっとマリアという少女。
その隣が……
「う……そやろ……」
「どーんと……本当に……」
空白。
ユナたちの魔力探知をレーダーのような視覚的なものに置き換えて説明するなら、神影のいるその場所の空気中の魔力がぽっかりと人型の空白となっていたのだ。
空気中の魔力が神影によって押しのけられ、神影の形の魔力の空白地帯ができあがっている。
机や、壁などの魔力を持たない物質と同じように……魔力のない存在。
ジャックとユナはその存在を少しだけ不気味に思った。
どんな過大な魔力を見せ付けられるより、どんな人外のチカラを見せ付けられるより、よっぽど人間でないような気がした。
「まぁ、そう思っちまうのも仕方ねぇよ。
この世界の人間にとっちゃ俺は異端なんだからな。
理解できねぇモンを不気味に思うのは当たり前だ。
ましてそれが人型をしてるんだからな。
ビビって当然だ。
おいおい慣れりゃーいい。
そんで、シュウが何を言いたかったかっつーと……カイルたちの母親は、俺と同じ魔力の探知できない存在だったってことだ」
ユナとジャックは神影を不気味に思ったことを見透かされ、恥じる。
二人は所在なさそうに目を泳がせた。
「話を続けるよ」
空気が少し淀んだものになったとき、シュウが横槍を入れ、その空気を清涼化した。
銀縁の角いメガネをくいっ、と中指で押し上げる。
「僕の愛する母さんは、今の神影と同じ状態だった。
どれほど魔力を探っても、その魔力はほんの少したりとも感知することはできなかった。
でも、僕の愛する母さんは魔力を持っていなかったんじゃない。
その魔力が、一点に集約されていただけ。
ある一つの袋の中に、母さんの全ての魔力が収められていただけだったんだ」
シュウは元々立っていた位置に戻っていく。
上下一体の神父服を揺蕩わせ、緩慢とした足取りで。
「その袋は【創造】の作業を外部から邪魔されないように封化石の役割を果たしていた。
少しの魔力の阻害でも、重大な影響を出しかねない作業だからね。
完全に袋の中と外の魔力を遮断する必要があったんだ。
だから、僕らは僕の愛する母さんの魔力を探知できなかった」
人体の中の、ある袋。
【創造】を行うための、女性にしか存在しない器官。
ルオーラの――カイルたちの母の、闇属性の魔力を閉じ込めていた袋。
「その袋は……言葉を飾らずに言うなら子宮。
無菌室のような安全な、隔離された子宮内で、僕の愛する母さんは闇属性の【創造】を無意識下で発動し……僕らを産んだ。
変異を【創造】し、それを僕らに与えてくれたんだ」
シュウは元の位置に到着し、その緑の双眸で円卓に座すリュウセイたちを眺める。
「僕の愛する母さんは僕を産むとき、こう願った。
『私たちの産む初めての子供。
男の子でも、女の子でも、天使のように可愛い子供が産まれますように。
魔力のない私から産まれるこの子が、魔力のことで不自由しませんように』
その願いが僕の変異を形作り、僕が産まれた。
異常に魔力を有するこの僕が。
僕の愛する母さんは僕の愛する弟たちを産むとき、こう願った。
『この子たちが、どうか翼を持って産まれますように。
どんなことがあっても挫けずに立ち上がれる逞しさを持って産まれますように。
龍のように、強く育ちますように』
その願いが、どんなことがあっても挫けず立ち上がれる【チカラ】……【再生】と、龍の権能……【龍醒】を形作り、カイルとリュウセイにそれらは宿った」
シュウは序盤で眠ってしまったカイルと、鋭い目でこちらを見てくるリュウセイを見て、目を細める。
懐古の念が起き上がってきて、シュウは自然と口元を緩めた。
「今でも覚えてるよ……君たち二人は、僕の愛する母さんのお腹の中にいる時から喧嘩ばかりしていたんだ。
四六時中僕の愛する母さんのお腹を蹴っていたよ。
あんまり強くお腹を蹴るものだから……絶対に男の子で、絶対に双子だねって、僕の愛する母さんと、赤ん坊だったフィーナとマリンを抱いた僕の愛する父さんと僕で……笑いあっていたものだよ」
「あたし……なんとなくそのこと覚えてるかも。
弟たちが喧嘩ばっかりするから、あたしたちがしっかりしないとって思ったわ……」
「ハッ! それでコレかよ」
「コレってなによ、ブツわよ?」
「ってぇ! 殴ってから言うんじゃねぇよ!」
しばし流れる、和やかな時間。
何一つ違和感のない、普通の家族の会話。
心の底がじんわりと暖まっていくような優しいひととき。
この時間を、取り戻さなくてはならない。
この世界で失われてしまった温かさを、帝国が奪った優しさを取り戻さなくてはならない。
シュウは目を細めたまま、マリンの方を見る。
フィーナがいなくなって、文字通りの半身がいなくなっても、こうして笑えるようになった妹を見つめる。
「僕の愛するマリンとフィーナが産まれたとき……その時のことも僕は今でもハッキリと覚えてるよ」
シュウが呟くように口にした言葉が風に乗り、耳に届いた瞬間、じゃれあっていたリュウセイとマリンがシュウの方を見つめる。
察したのだ。
これからする話が、今までしてきた話の終着点だと。
フィーナの魔力がマリンに宿っている。
その話の核心……答えだと。
「僕の愛するマリンとフィーナは僕の愛するカイルとリュウセイと違っておとなしくてね。
僕の愛する母さんも双子だって分からなかったんだ。
だから……僕の愛する母さんは願った。
自分に宿る……一人のために。
『この子も、魔力のために苦労しませんように。
いっそのこと、全ての属性を扱える……そんな凄い才能を持って産まれますように』」
シュウはズレてきたメガネを再び押し上げる。
マリンの瞳が、メガネのガラス越しにシュウを見つめていた。
「そうして、全ての属性を持つという変異が、僕の愛する母さんの中で【創造】された。
でも、一つの変異に対して、お腹の中にいるのは二人。
僕の愛する母さんは、お腹の中にいる子供に対して変異を願った。
どちらか一人だけに変異が宿るなんて不平等は……たとえ無意識下であったとしても僕の愛する母さんは許容できなかった。
だから、【創造】された全ての魔力属性を持つという変異は等分され、それぞれに宿った。
僕の愛するフィーナには、地属性と雷属性……風属性の半分。
僕の愛するマリンには、水属性と火属性……風属性の半分。
単純な二属性保有者でもない、【スイッチ】と呼ばれる【能力】を持った中途半端な存在になってしまったんだ」
「……じゃあ、マリンさんとフィーナさんが二人で合成魔法を撃てたんは……」
「変異を分け合ったことで、二人の魔力の質は全く同じになったんだ。
そのお陰で、二人は二人で合成魔法を使うことができた、というワケだよ」
ジャックの疑問に答える形で、謎だった部分が解明されていく。
……マリンは自分の胸に、そっと左手を乗せた。
シュウの話を聞いて、彼女の中で腑に落ちる点があったのだ。
ジャックに対して無意識に放った風の魔法。
フィーナがいなければ切り替えることができなかったはずの自分の属性……。
フィーナが死んだ時、身体に入り込んできた茶と黄と風の光の粒。
あれはまさしくフィーナの魔力だったのだ。
いや、正しくは変異の片割れ。
半分に分けられてしまった変異だった。
フィーナが死んだことで、マリンの中の片割れがフィーナの中の片割れを呼び、マリンの中で一つになった。
あの時、フィーナが命を落とした瞬間、マリンの中で不完全だった変異が完成したのだ。
全ての属性を司る……マリンとフィーナ、二人の変異が。
「あたしとフィーナは二人で一人。
それは……フィーナが死んだって変わらないのね」
瞠目し、自身の体の中心に意識を集中させたマリンが静かに口を開く。
右手を左手に重ね、まるで祈るような姿勢。
この場に居る者たちは、その姿に魅入られる。
心の底が震わされるような、そんな異質な存在感を……今のマリンが放っているからだ。
それは……変異の証。
普遍の生命と隔てられた位階の者である証明。
「あたしの中に……フィーナはいる。
今なら分かる。ちゃんと……フィーナがここにいることを。
あたしとフィーナは一心同体。
だから……」
マリンの髪の色が……変化する。
旋毛から毛先にかけて美しいクラデーションに。
マリンブルー、ライムグリーン、レモンイエロー、ミルクティブラウン、クリムゾンレッドの五色。
五大属性の色のグラデーションになる。
そして、
「【不完全の万能】。
それが……あたしの変異の名前。
一人では不完全な、二人じゃないと完成しない……あたしたちの変異の名前」
マリンの身体から溢れ出る五色の魔力。
何の制約もなく、無制限に操れるようになった五大属性全ての魔力だ。
それぞれの魔力は再会を喜ぶかのように絡み合い、マリンを包んでいた。
――――――――――――――――――――
「なるほど、だから私に師事するように神影さんは言ったのですね」
マリンの五色の魔力を見て、ジュリアスがマリンから目を逸らし、神影に視線を向ける。
「ああそうだ。マリンはまだ二属性の合成しかやったことがねぇ。
せっかくの五大属性も、合成できなきゃ宝の持ち腐れだ。
買ったフィギュアを開封せずにしまっておくようなもんだぜ。
だから、ジュリアスに合成のノウハウをマリンに教えてやって欲しいんだ。
独学で四属性まで合成できたその経験を、マリンに伝えて欲しい」
「しかし、私も四属性の合成まで至るには三年の時間を要しました。
三属性の合成を完成させた上で、です。
今からたった一ヶ月で、五属性の合成を成せるとは到底思えないのですが……」
魔力の合成とは、たとえ二属性であっても超高等技術なのだ。
それが三属性、四属性となると……その習得難易度は計り知れない。
故にジュリアスの言葉は一片の疑いも挟む余地がなく正しい。
そう……それが、マリン以外なら。
「……三属性までなら、今すぐにでも可能よ」
マリンは水、地、風の三属性の魔力を合成させてみせる。
魔力を織り合わせ……三位合成魔法の前準備を成功させてみせた。
彼女はフィーナと息を合わせて合成魔法を行使するという離れ業をやってのけるほど、魔力コントロールに長けている。
その精度は、三位合成魔法さえ容易く実現してしまうほどだ。
「魔力の扱いには長けている自負があるわ。
今まで二属性の合成しかしたことがなかったのは……同時に他の属性を出せなかっただけ。
たった一ヶ月? 十分よ。
絶対に五属性の合成を成功させてみせるわ」
マリンはジュリアスに不敵な笑みを浮かべて見せる。
ジュリアスは両手を挙げて降参のポーズを取り、
「……分かりました。どうやらシュウさんたちの家系はとんでもない人たちの集まりのようです。
私の力の及ぶ限り、修練に付き合わせてもらいますよ」
マリンに稽古をつけることを了承した。
ふうっ、と神影が全てが上手くいったことで安堵の吐息を漏らして柏手を打ち、
「よし、じゃあこれでこの会議は解散だ。
一ヶ月後の決戦に向けて、各自修練に励んでくれ」
少々長びいた会議に、終止符を打つのだった。
――――――――――――――――――――
「んあ? ミカゲ……か?」
「おう、神影だ。やぁーっと起きたかコノヤロウ。
待ちくたびれたぜ」
各自がそれぞれの為すことをするため、部屋から出て行って数刻。
カイルは目覚めた。
既に部屋には誰も残っておらず、いるのは神影とカイルのみ。
「さてカイル、お前に提案がある。
成功すれば、めちゃんこ強くなること請け合いのスンゲー提案だ」
神影はカイルが理解できるよう、三行以内で言葉を区切る。
カイルがその言葉を理解しているのを確認してから、神影は続きを話す。
「お前はヤベェぜ。誰よりも強くなる。
お前の【再生】を利用した、誰にも真似できねぇ修行方でな」
神影はゆっくりとカイルに歩み寄っていき、カイルの肩を掴む。
「魔力量は下手すりゃシュウに届くかもしんねぇ……なぁ、カイル」
超回復って、知ってるか?
神影は、今日一番の笑みを浮かべた。
「いや、知らねーけど?」
「……だよなー」