第百十二話ー、一ヶ月後の終焉
カイルたちの話に戻ります。
「よぉし、全員揃ってんな! いいねぇ、テンション上がってきた! 野郎ども、聞けぃ! これより決起集会を開催する!」
「クカカカ、よくぞ集まったな主ら。
儂は気分がよいぞ。楽にするがよい!」
「……とりあえず座ってくれるかな、皆」
頭が痛くなる中年白衣のおっさん(神影)と真っ白幼女(マリア)の号令を、シュウが補足する。
シュウのその言葉とともにカイル、マリン、リュウセイ、ユナ、ジャック、ジュリアスは円卓の席に着いた。
ここは神影たちの家の一室。
物が溢れかえり散乱していたのを、会議を開くために全ての物を取り除いて円卓と椅子を置いただけの部屋だ。
時機はカイルがユナを奪還し、帰還したその日である。
「……zzz」
「……シュウさん。カイル君が席に着くなり寝てしまったのですが」
「寝かしておいてくれるかい。疲れているだろうし、そもそも僕の愛する弟のカイルじゃあこれからする話し合いについていけそうにないからね」
「お父さん、本当にそうなんです。
あの、仮に体力があり余っていても話が理解できなくて結局寝るので……そのままにしてあげてください」
シュウとユナに迂遠的にバカと言われるカイル。
全てその言葉の通りで、その悪口に見合うだけの前科を犯しているのでまぁ仕方ないと言えば仕方ないのだが。
それでもあんまりではないかと思うジュリアスだった。
「うっし、座ったな。話を聞く姿勢になったな?
じゃあ今回の話し合いについてだが、帝国との最終決戦の日取りについてだ。
今日から一ヶ月後、その日に全てのカタをつける」
神影は白衣のポケットに左手を突っ込み、右手の人差し指を立てて一を表し、全員に向ける。
唐突すぎる宣言、であるにも関わらず彼は全く臆した様子はない。
堂々と胸を張り、普段のおちゃらけた神影はナリを潜めている。
これが最終決定であり、決して変えることなどないと、そんな無言の圧力をマリンたちにかける。
「あぁ、そうだ。この決定は変えねぇ。
一ヶ月後。キッチリカッチリ一ヶ月後だ。
反乱軍カルミアと合流して……帝国を崩す」
「……随分と急ですね。
別にもう少し時間を置いてもいいのではないですか?」
神影の意見に、いの一番にもの申したのは最年長であるジュリアスだった。
瞠目して思索を巡らせた後、彼は吸血鬼族のまとめ役としての意見を述べる。
「別に反乱の決行そのものに異議を申し立てるつもりはありません。
反乱の際には我々吸血鬼族も全力を尽くして参加します。
しかし、その日取りは些か性急に過ぎるのではないでしょうか?
カイル君やリュウセイ君は新しい力を身につけたばかりだと言うではないですか。
その力を完全に身につけるまで……時期を見計らった方が良いと思うのですが」
「それじゃあ――」
「それでは間に合わないのじゃよ」
神影が喋ろうとしたその言葉を遮るようにしてマリアが口を挟む。
年分相応でない、鋭く白い眼光がジュリアスを見つめる。
そのままマリアが事情を説明しようとすると、シュウがその口をそっと抑えた。
説明は僕が、とマリアに目線だけで伝えたシュウは円卓に座る全員を見渡して、
「……帝国は、今から一ヶ月と少しで大規模な破壊作戦を実行するつもりなんだ。
街という街を破壊し、土地という土地を破壊し、人という人を殺し尽くす。
十一年前よりも凄惨なことを起こそうとしている。
作戦名“終焉”。
彼らはこの大陸の全てを破壊し尽くすつもりだ。
この作戦が決行されれば、もうこの大陸には何も残らない。
全ての生物は死に絶え、この大陸は活動を停止するだろう。
僕たちはその作戦が実行される前に、帝国を打倒しなければならないんだ」
“終焉”。
この大陸を根こそぎ破壊する狂気の作戦。
十一年前の比ではない殺戮が、繰り返される。
あの時は帝王に歯向かった者だけが、帝王の孤高の進軍を邪魔したものだけが殺された。
それだけでも、空前絶後の被害がでたのだ。
魔族、帝王。
魔王、帝王。
人ではない。人外の所業。
そう揶揄されるほどの被害。
“終焉”はその被害を軽々と塗りつぶすだろう。
歴史にさえ残らない。何も残さない。
そんな破壊を、彼らは起こそうとしているのだ。
「“終焉”で会おうって……そういうことかよ、トイ」
リュウセイはギリッ、と歯を食いしばる。
彼はその作戦名に心当たりがあったのだ。
トイフェルの故郷、悪魔族の隠れ里でトイフェルが吐き捨てていった言葉。
『“終焉”で会ウのを楽シミにしていルヨ。
今度は……ちゃんと決着をつけヨウ』
トイフェルは予見していたのだ。
自分たちの作戦が決行された日には、必ずリュウセイたちが止めに来ると。
自然と、リュウセイは刀に手を乗せる。
その手には、今までにない覚悟が握られていた。
トイフェルを討ち、トイを救う。
矛盾した信念を実行するために、リュウセイは刀を手に取るのだ。
「リュウセイは心当たりがあるみたいだね」
「……第一部隊長が、その作戦の名前を言ってたのは聞いた」
「つまり、その作戦はどーんと本当にあるって言うんですか……?
そんな馬鹿げた作戦を実行して、帝国になんの利益があると言うんですっ……!?」
ユナは拳を握りしめ、憤るというより困惑する。
王ならば、国益のことを考えて行動する。
それはユナの中のルミナスが受けた教育の中で、耳にタコができるほど言い聞かせられてきたことだ。
帝王がまともな王でないことくらい理解しているつもりだった。
しかし、これはあまりにも……
「種族選別は反乱勢力の排除や恐怖政治の助長。
闇集めは有能な人材の確保。
そう、無理矢理にでも自分を納得させることはできます。
でも、この作戦は……」
「主……ユナとか言ったかの。
そんな常識の枠内で帝王を捉えるでない。
そんな思考で通じるほど、帝王は人らしくない。
主も聞いたことがあるじゃろう?
種族選別は強い者を見つけ出すための法。
闇集めは自分の同族を見つけ出すための法。
帝国全てが帝王のオモチャ。
飽きた玩具は捨てるが道理じゃ。
帝王はこの世界に見切りを付けた。
“終焉”作戦は……その程度のものじゃろうて」
マリアの顔は酷く苦々しい。
帝王と浅からぬ因縁のある彼女は、思うところがあるのだろう。
彼女の表情からは嫌悪感しか伺うことしかできない。
その胸中を渦巻く感情を察したシュウが、そっとマリアの白髪を撫でる。
「理屈とか、理念とか……そういうのは深く考えない方がいいよ。
帝王はそんな括りに囚われない存在だ。
だからこそ、魔族なんて大仰な名前で呼ばれてる訳だし魔王だなんて呼ばれて恐れられているんだ。
重要なのは一ヶ月後、この大陸は終焉を迎えてしまうということだよ」
「そしてそんな馬鹿げたことを止める為に、俺らはこれからの一ヶ月をどう過ごすか考えなきゃならねぇ訳だ。
みっちりがっつり密度の濃い修行パートを乗り越えて、無双状態で帝国と戦って……掴んでやろうじゃねーか。
誰も泣かなくて済む、皆笑って幸せな未来ってやつをよ」
神影がシュウの言葉を引き継ぎ告げる。
顔の前で握られた拳は必要以上に力が込められ、小刻みに震えていた。
リュウセイたちは思う。
このミカゲという男や、マリアという謎の人物たちは確かに得体の知れない人物だ。
どこで知り合ったのか、どのような出自なのか、何のために行動しているのか。
何もわからない。
何となく軽薄な人物像が掴めるだけで、彼らの行動理念だとか、そういう内面に根差すようなことは何も分からないのだ。
しかし、それでも彼らは敵ではない。
帝国を倒して平和を求める気持ちは本物なのだと、自分たちと志を共にする仲間なのだと……そう思う。
「そこで、だ。
俺にそれぞれの修行方法とか過ごし方について案がある。聞いてくれるか?」
「案……ですって? どういうことよ。
なんであたしたちがあんたの――」
「僕の愛しい妹のマリン、神影の話を聞いてあげて欲しい」
シュウの言葉で、マリンの顔が露骨に歪む。
額には酷く皺が寄り、嫌悪感を顔いっぱいに押し出す。
「……あのねぇ……。あたしたちが幾らあんたのことを兄だって認めたからって、あたしたちのことを呼ぶ度に僕の愛しい〜って、枕詞みたいに言うの止めなさいよ。鬱陶しい」
「神影、これはツンデレというやつだよね。
なるほど、君の長ったらしいツンデレ講釈は聞き流していたけど……中々いい気分だね」
「だろ? やっぱツンデレは至高だよな。
でもな、今のはツンデレじゃなくてただ本当に混じり気なく鬱陶しがってるだけだしそれは今するような話題でもねぇから一回黙れお前」
「な、何なのよ……」
急に鼻息荒く興奮し始めた兄に対して、マリンはあからさまに引いていた。
そう、記憶の戻ったカイルやリュウセイのみならず、マリンもシュウのことを兄だと認めたのだ。
フィーナのことでシュウを責めていたが、それも止めた。
シュウの手を借りて記憶を完全に戻し、シュウに関する記憶も全て取り戻した。
それでも、シュウのことを昔のように『お兄ちゃん』と呼ばないのは彼女の最後のプライドなのかもしれない。
「マリン。俺は……あー、なんつったもんかな。
地の文が読めるっつったところで伝わんねーだろうし……。あー………」
話は戻り、神影はどうやってマリンを説得しようか悩んでいた。
神影とリュウセイたちの関係は未だ浅い。
そんな人物からいきなり修行方法の提案をされたところで何でお前が、という気持ちが先行するのは必至。
このままでは、せっかく日本で培ったアニメや漫画の修行知識もすべて無駄に「そんな知識じゃねぇよ。
俺が使うのはあくまで純粋な現代科学とか、解析で得た視点の利用だってんだよ」
と、地の文の言葉を小声で遮ったところで状況は何も変わらない。
神影はどうにかして、自分のことを相手に信用してもらい、修行方法を提案しなければならないのだ。
「こんなちんちくりんのことを信じろ、というのも少々酷な話じゃとは思う。
じゃがの、神影のチカラは本物じゃぞ。
こっちの世界に合わせて言うなら、神影は分析の変異じゃ。
その情報収集能力の高さは、主もよく知っておるのではないか?」
マリアは手のひらを上にし、人差し指でジュリアスを指差す。
ジュリアスはマリアの言葉に浅く頷いた。
「そうですね。確かに彼の集めてきた情報はどれも恐ろしいほどの精度を誇っていました。
帝国内部の者しか知り得ないはずの情報や、短期間で、それも一人で収集するには不可能な情報量を、私たちは受け取っていました。
一応、聞くだけ聞いてあげてみてください。
実行するかどうかは置いておいて、一考の価値はあると思います」
「ジュリアスさんがそう言うなら……」
「ハッ! まぁ、聞いてやるか」
「な、何だこの信頼の差は……っ!?」
「神影よ、それはそっくりそのまま普段の行いの差じゃ」
良識ある大人と、みょうちくりんでおちゃらけた科学者気取り。
どちらの言葉に説得力があるかなど天と地を見るより明らかである。
両手両膝を地面に付き、落ち込む神影にマリアは追い討ちをかける。
それを聞いて頭まで地面に落とす神影。
このままでは話が進まないので、シュウは神影の首根っこを掴み、無理やり立たせた。
「話を続けてくれるかい?」
「あ、ああ分かった。オーケーオーケー。
ここから挽回すればいいんだ、まだまだ好感度は上がる、大丈夫」
ごっほんっ、と大仰に咳払いして空気をリセットした神影。
あまり様になっていない上に不自然である。
「うるせえ。……ごほん。
まず、全員の魔具についてだ。
ユナの闇属性の魔具は改良のしようがないとして……カイル、リュウセイ、マリン、そんでユナの火属性の魔具は改良の余地がある。
これから帝国と戦うんだ。
最高の素材で魔具を仕立て直しておきたい」
神影がまず初めに切り出したのは魔具の話題だった。
必然、その視線は今までカイルたちの魔具の一切の面倒を見てきたジャックに向けられる。
「……せやな。その意見にはワイも賛成やわ。
カイルやリュウセイの魔具は作った時点で最高の物を作ったって確信はある。
やけど、あれ以上のものを作られへんかって言われるとそうやない。
魔力鉱石も、モンスターの素材も、二人に使ったモンより上等なモンはよーさんある。
ワイが作ってないマリンさんや、ユナちゃんの魔具に関しても……確かにそれは言えるやろうな。
でもそれやったらシュウとか、ジュリアスさんとかの魔具も仕立て直した方がええんとちゃうんか?」
ジャックは腕を組み、片目を開けて神影の様子を伺う。
その金の瞳に映る神影は両手を皿のように横にして、肩を竦めた。
「それについては心配ねぇーよ。
ジャック以上の職人に最高の素材で仕立てて貰った魔具だ。決戦でも十分使える」
「ワイ以上……やと? それは聞き捨てならへんなぁ……っ。
こちとら魔具作りにかけて右に出るものがおらんって自負しとる身ぃやで?
そんなん言われて黙っとられへんわ」
ジャックは小人族の里でも稀代の天才と言われ、歴代最高の魔具職人ドンドンの再来とまで言われた身だ。本人も、ドンドンという伝説の先祖を超えることを目標としている。そのプライドに掛けて、神影の話を聞き流すワケにはいかなかった。
「その辺は後で個人的に話してやるし、紹介もしてやる。とにかく、魔具の改良に関して異論はねーな」
神影が円卓の全員に確認をとる。
特に反論は出ずに、無言で肯定が示される。
ジャックだけはぶつくさと文句を言っていたが彼も魔具を改良することに反対なワケではないので、渋々頷く。
「そんで、その材料だが……リュウセイとシュウに集めてきてもらう。
はぁ? 何で俺が、っていう顔してんな、リュウセイ。
ちゃんと理由があるから、聞け。
お前、龍の姿に【形態変化】して、一回も完全な【龍醒】を使ったことねーだろ。
だから、この天然魔力タンクのシュウと一緒に行動して、その感覚を掴んで来い。
こいつなら、お前が完全な【龍醒】を発動できるだけの魔力を放出しつつ、お前と模擬戦も出来る。
そのついでにモンスターの素材を集めてくれりゃあいい。
お前らならどんなモンスターにだって負けねーだろ。
修行もできてかつ素材も集まる……一石二鳥ってワケだ」
次に矢面に挙げられたのはリュウセイだった。
神影の話を渋面で聞いていたリュウセイは、話が進むにつれて理解を示すようにアゴに手を当てて頷いていた。
「ハッ! ……わぁったよ。
どうやって調べたのかは知らねぇが、確かに俺は一回も完全に【龍醒】を使ったことはねぇ。
その修練のついでに、モンスターを狩ってくりゃいいんだろ?
パシられるのだけは納得いかねぇが、どうせ反論しても俺じゃねぇといけねぇ理屈を引っ張り出されそうだからな。
いいぜ、やってやる」
神影はほっとため息を吐き、ぼさぼさの黒髪を乱暴に掻く。
この中では見た目が一番見た目が怖いリュウセイの説得に成功したことへの安堵なのだろう。
少しリラックスした顔で、神影はシュウの方を向く。
「よし。で、シュウは――」
「勿論賛成するよ。
僕の愛する弟のリュウセイと二人旅。
むしろこっちから願い出たいくらいだね」
「キメェ」
リュウセイが急激にやる気を失いかけているが、これで魔具の材料調達の目処は立った。
これで、神影が指示を出していないのはマリアを除けばジュリアス、ユナ、マリン、カイルの四人だ。
「カイルに関しては目を覚ましてから俺が話す。
だから最後、ユナとマリンについてだ。
とりあえず、二人はジュリアスに師事してくれ。
どういう意味か、って質問は待て、今から話すから。
ユナ、お前は護身剛拳と護身柔拳……それから王剣を交えた護身王拳の三つを併用するっていう戦闘法を取ってるな? だよな? よし。
ユナの吸血鬼の状態になってからの戦闘の経験はまだまだ浅い。ほぼ皆無と言ってもいいだろう。
それに、急激にパワーアップした肉体で人族の時に編み出した護身王拳が上手く扱えるワケがねぇ。
必ずどこかでズレが出る。
そのズレを、元々お前たちに護身拳術を教えたジュリアスに直してもらえ。
その過程で、吸血鬼の身体での戦闘経験も積んでおけ」
「む、むう……どーんと正論ですね……」
どんなトンデモ修行法が出てくるかと身構えていたユナは、思っていた以上にマトモな意見に狼狽える。
そして、ユナ自身も理解していた。
この前の戦闘では、取り戻した吸血鬼としての圧倒的な力でハクシャクと渡り合ったけれど、技の精細さは人間の時に比べて遥かに劣っていると。
そして、【固定化】という古の怪物、悪夢の【チカラ】を手に入れたハクシャクを相手にするには、それでは不味いということも。
「分かりました。ミカゲさんの意見にどーんと従います。
お父さんも、これからお願いしていいですか?」
「ええ、私は一向に構いませんよ。
この一ヶ月でみっちりと鍛え直してあげます」
にこり、と均整のとれた笑みをユナに向けるジュリアス。
逆にユナの方はこれから迫る鬼のような指導を想像し、引きつった表情を浮かべていた。
「それで、あたしまでジュリアスさんに師事しろっていうのはどういうことなの?」
「おう、そんなせっつくなよマリン。ちゃんと話してやるから。
だけど、修行方法を話す前に一つ言っておくことがある」
「……何よ」
あまりにも真剣な表情で見てくる神影に、マリンは怪訝そうな表情をする。
神影は、大きく深呼吸をした。
それはこれから話す言葉がマリンにとって重大な事実であり、それを告げることへの緊張をほぐすためである。
長く、息を吐いた神影はマリンの瞳を真っ直ぐ見つめ、
「お前には、フィーナの魔力が宿ってる。
いや、宿っているというか……元のカタチに戻ったというべきなのか……。
フィーナの残滓が、お前の中に存在するんだ」
そう……告げた。
「……え?」
その事実に、マリンは戸惑いを隠せない。
いや、マリンだけではない。
シュウ、神影、マリア以外の全員が口を開け、呆然とした表情を浮かべている。
神影の話した言葉に、理解が追いつかないのだ。
フィーナの、死者の魔力が宿るとはどういうことなのか。
残滓とは、一体何なのか。
全員、詳しい説明を求めて神影の次の言葉を待つ。
「……どういう意味か、それを話すにゃちょっとばかし込み入った話が必要でな……あぁいや、大丈夫。
話さねーワケじゃねー。ちゃんと話してやるよ。
割と長い間話は逸れるけど、それは勘弁してくれよな……って聞くまでもねーか」
フィーナの、その名前を出した瞬間からマリンたちの纏う空気が変わった。
フィーナに関することを、一言も聞き漏らすまいとするかのような姿勢に、神影は嘆息する。
それは一種の愛の形だ。
全員がフィーナという故人が大好きであったから、ここまで真剣に聞こうとしている。
話が逸れるとか、そんな考えはもう彼らの頭の中に存在しない。
神影はチラリと横目でマリアとシュウを見て、二人が口を挟もうとしないことを確認してから、その口を開いた。
それは、この戦いにおける重大な中核とも呼べる内容の話。
変異と呼ばれる異常者たちの話――。